閑話 パルマの提案前編
わたし、パルマ・トーチスには秘密がある。
宿の個室でそれを打ち明けようと思ったが、ご主人様は着いて早々、眠ってしまった。
いろいろあって、疲れていたのだろう。
安らかな寝息を立てるご主人様を、自分の都合で起こすのは忍びない。
「はあああ」
無意識にため息がもれた。
言い訳は思いつくのに、話すべきことを口にしない自分に、あきれてしまう。
(きちんと話そう)
ご主人様に対しては、誠実であるべきだ。
ドンドンガタガタ
部屋の外から騒音がする。
コンコン
「すんません! アンナ・クロムハイツさんは、いらっしゃいますか!」
ノックで充分なのに、大きい声で呼ばれた。
「んにゅにゅにゅにゅ」
ご主人様は起きてはいないが、不快そうだ。
「どちら様ですか?」
「配達です!!」
その声も大きい。
「んにゅにゅにゅにゅ!」
「サイレントウォール」
ご主人様の眉間にシワが寄り始めたので、音を遮断する魔法をベッドに張り巡らせた。
「馬車に積んで置いたままの荷物なんですが、点検整備している間の保管と護衛は各自にお願いするそうです! これ、どちらに置きますか!?」
「奥にお願いします」
廊下に放置するわけにもいかないので、中に入れてもらった。
「ありあっしたぁ~!」
最後まで元気のいい配達員だった。
「これなに?」
目覚めたご主人様に木箱の中身を告げると、すぐに仕分けを始めた。
話をするのは、これを手伝ってからにしよう。
作業を終えて話を……と思ったが、食堂が閉まる時間もあるので、先に夕食をとることになった。
といっても、ご主人様はナイトウルフの素材をギルドに売りに行くので、別行動だ。
「このクソ忙しいときに出前だぁ」
「しょうが焼き定食、味噌ラーメン大盛、カタヤキソバ、餃子二皿、紹興酒二本です」
このタイミングでしょうが焼きを頼むということは、ご主人様がむかったギルドからの注文である可能性が高い。
「手が足んねえから無理だ! 一っ走りして、断ってこい!」
わたしが来てから、厨房はてんやわんやだ。
だから、出前を断るのもわかる。
けど、ご主人様が関わっている以上、そうはさせない。
「わたしが出前を届けます!」
「はあ!?」
「わたしはその出前を注文された方のもとで働いている者です。ですので、注文を断られると困ります」
「いや、こっちはあんたの料理を作るので、手一杯なんだよ」
「では、今作ってくださっているモノだけで大丈夫です。それを含めて届けます」
「……よくわからねえが、これ以上鍋を振らなくていいならありがてえ。んじゃ、いっちょ届けてくれや!」
悲壮感漂う表情から精気が溢れ出し、中華鍋を振る腕が速くなった。
「どうりゃああああああああ」
神業のような調理を終え、燃え尽き倒れそうな店主から、オランゲと書かれたエプロンを託された。
「いってきます」
エプロンを腰に巻き、わたしは特大のおかもちを両手に走った。
思った通り、出前先にはご主人様の姿があった。
「お待たせしました。ご注文の味噌ラーメン大盛、カタヤキソバ、しょうが焼き定食、チャーハン、餃子二皿、油淋鶏、シュウマイ五個、春巻き四本、唐揚げ六個、チンジャオロース、レバニラ炒め、杏仁豆腐、マンゴープリン、月餅、紹興酒二本です」
「こんなに頼んでいませんが」
「ご安心ください。ほとんどが当店からのサービスです」
実際は違うのだが、料金がかからないという意味では一緒だ。
「そうですか。では、ありがたく頂戴します」
「マジか!? いくらなんでも多すぎだし、パルマが運んでくる意味もわかんねえぞ」
ご主人様は納得できないようだが、説明したら納得してくれた。
理解が速くて助かる。
しょうが焼きも口に合ったようだ。
「う~ん」
食事を終えたご主人様が、腕を組んでうなっている。
ムシアラ様からの依頼で村の防御柵を作ることになったそうだが、その対価が見合わないそうだ。
人命救助と割り切ることは簡単だが、後任者の待遇などを考えるとよろしくない。
もっともな話ではあるが、そんなことを考える必要はない。
ご主人様が作る以上、それは最高クラスの逸品であり、作れる職人など世界中を見渡しても片手で足りる。
そんな人材を確保できるとしたら、国かそれに匹敵する経済圏を持つ大都市だけだ。
ただ、それを説明しても納得しないだろう。
「試作品を作っていただくことはできませんか?」
実際の品を見れば、それがとんでもない逸品だとわかるはずだ。
少なくとも、ムシアラ様とレアハム様は理解できる。
絶対に!




