25 にぎやかな夜
夜。
偽造書類を届けに来てくれたムシアラとレアハムを誘い、俺とパルマはヤシモクの食堂に行くことにした。
淑女との再会を果たすためだ。
「すげえな。いつもこうなのか?」
ヤシモクの店がある通りは人でごった返していて、進むのも大変だ。
「今日は特別だな。こんなことは、年に一度もない」
「アンナさんたちの活躍で、事態が好転したからでしょうね」
俺は特別なことはしてないが、パルマのゴーレムが効いたようだ。
「ぐははははは」
「いいぞ~。もっとやれ~」
みんな楽しそうな光景に、ほほが緩む。
「とはいえ、これじゃ無理か」
道が人で埋め尽くされていて、ヤシモクの店に行くのはむずかしそうだ。
行ったとしても、満席だろう。
「安心しろ。悪い。みんな、開けてくれ」
自信満々のムシアラが声をかけると、道ができた。
ギルドマスターの影響力に感服しながら、俺たちはヤシモクの店に入った。
「いらっしゃい。奥の席を空けてあるから、そこにどうぞ」
口約束にもかかわらず、ヤシモクは席を確保してくれていたようだ。
ありがたい。
「メニューです。注文が決まりましたら、お呼びください」
「淑女。とりあえず、しょうが焼きを単品でください」
「かしこまりました。紳士」
水の入ったグラスを配り、少女が踵を返す。
慣れた様子のお手伝いに見えるが、母親のハラハラした表情を見る限り、そうでもないのだろう。
「アンナ。こんなことは言いたくないけど、とりあえずしょうが焼きって、どうなんだ? 普通はビールだろ」
俺はかぶりを振った。
「下戸なのか?」
「いや、嗜む程度にはイケる」
「そっか。じゃあ、飲むよな?」
「みんなが飲むなら付き合うし、飲まないなら必要ない」
「おれとレアハムは飲むけど、パルマはどうする?」
「いただきます」
「すみません。生ビール四つ」
「はい、どうぞ」
母親が大ジョッキ四つを、一瞬で運んできた。
さすがの職人技だ。
『カンパーイ』
ムシアラとレアハムが、間髪入れずに飲み始めた。
のどを通過する勢いは、間違いなく酒豪のそれだ。
「おかわり!」
「はい、どうぞ」
「おかわり!」
駆けつけ三杯が、あっという間に胃袋に消えた。
恐ろしい光景だが、レアハムも同じペースでジョッキをあおっているから、この村では当たり前なのかもしれない。
「すみません。小グラスでください」
「わたしもそれでお願いします」
俺とパルマは口をつけていないジョッキを、ムシアラとレアハムに渡した。
「はい、どうぞ」
小グラスと一緒に、しょうが焼きも来た。
「うん。美味い」
酒の肴としても申し分ないが、白米のほうが合う。
「おっ!? 夜営業は品数も多いな」
メニューにはたくさんの品が記載されていた。
「本当ですね。こんなに多いと、目移りしてしまいます」
……
「お決まりですか?」
「俺は白米と、唐揚げと、焼き鳥盛り合わせ」
「わたしは刺身の盛り合わせと、極厚ステーキと、焼飯大盛でお願いします」
「清酒とつまみも適当に頼む」
「かしこまりました」
「お待たせしました」
オーダーが通る前から作られていたとしか思えない速度で、料理が提供された。
けど、文句はない。
周りからの苦情もなさそうだし、いただこう。
どれも美味しかった。
俺とパルマが満腹になったころ、ムシアラはベロベロに酔っていた。
「いやぁ~っ、本っ当にありがとうなぁ~」
この言葉も、五〇回以上聞かされている。
もはや感謝ではなく、嫌がらせに近い。
けど、心の底から沸きでる言葉だ。
それが伝わるから、俺は席を立たなかった。
『カンパーイ!』
目が合えばグラスを合わせ、
「うははははは」
「あははははは」
みんなで笑っている。
楽しそうでなによりだ。
この光景に一役買ったのだとしたら、俺も嬉しい。
けど、そろそろ眠い。
「ちょっとトイレに行ってくる」
席を立ち、会計にむかった。
「お代はいりませんよ」
「ムシアラからです。足りない分は、後日請求してくれ、と」
実際は俺の金だが、受け取ってもらうための方便に使わせてもらおう。
「ありがとうございます」
「ごちそうさまでした。淑女にもよろしくお伝えください」
早々に船を漕いでいた少女は、別室で夢の中だ。
「ご主人様。お帰りになられるのですか?」
店の外に出ると、すぐにパルマが追ってきた。
「眠いからな。パルマはいてもいいぞ」
「いえ、わたしも帰ります」
「そっか。んじゃ、帰ろう」
肩を並べて、俺たちは宿に戻った。
そして翌日、ポーラド村を後にした。




