24 紳士と書いてジェントルマンと読む
球を組み込んだゴーレムが、格闘家風のフォルムに生まれ変わった。
「うん。完成だ。後はパルマに命令してもらうだけだな」
「どのような指示を与えますか?」
「村を周って、警備と防御柵の設営を手伝ってくれ」
「創造主パルマ・トーチスが命ずる。ポーラド村の治安維持に尽力せよ」
「了解しました!」
三体が走り去り、一体が残った。
「おい、おい、おい!? あんなの作っていいのか?」
「未来永劫動くわけじゃねえし、一時の保険と考えれば問題ないだろ」
ヤシモクの困惑を一蹴したが、周りを見たら村人も唖然としている。
問題かもしれない。
「パルマはどう思う?」
無言でうなずいている……けど、若干渋い表情なのが気にかかる。
マズかったのかもしれない。
けど、いまさら無かったことにするのも、どうかと思う。
「せりゃー!」
ゴーレムが新たに飛び込んできたナイトウルフを蹴り飛ばす様を目の当たりにすると、余計に言いづらい。
どうしたものか。
「ありがとう。おじさん」
少女の満面の笑みが、俺の悩みを吹き飛ばした。
子供が健やかに育てる環境を守ったのだから、なんの問題もない。
それを咎める者がいるとしたら、そいつらのほうがおかしいのだ。
「ふっふっふ。紳士が淑女のために働くのは当然さ」
「嬉しいお言葉だわ。なにかお礼をさせてくださいな」
「おい!? うちの娘はどうしたんだ?」
紳士、淑女遊びを始めた俺たちに困惑するヤシモクを、パルマが引き寄せ耳打ちした。
「なるほど」
納得したようなので、このまま続けよう。
「では一つだけ。朝食をいただける店を、ご紹介してくださいませんか?」
「わかりました。では、ご一緒しましょう」
少女がヤシモクにウインクした。
「おお!? 家か。わかった。すぐに開けよう。悪いがみんな、今日はこれで失礼させてもらう」
「おお。恩人を充分もてなしてこい」
快く送り出してくれるあたり、みなイイ人なのだろう。
「では、いきまょうか」
優雅な微笑みを浮かべる少女に手を引かれ、俺たちはその場を後にした。
「注文はなんにする? って言いたいところだけど、この三つから選んでくれるかな」
申し訳なさそうに渡されたメニュー表には、おにぎりセット、魚定食、しょうが焼きの三品が記されていた。
問題ない。
いや、完璧と評せるラインナップだ。
「しょうが焼きをください」
「わたしはおにぎりセットと、しょうが焼きを三人前ずつお願いします」
俺同様、パルマにも迷いはなかった。
「あいよ……って、三人前!?」
「はい。お願いします」
「……わかった。すぐに用意する」
「ちょっと待った!」
ヤシモクが肉を切った瞬間、俺は声を張り上げた。
「どうした!?」
「ご主人、勘違いしているぞ。パルマは三人前頼んだが、俺は一人前だ」
しょうが焼きにしては、分厚すぎるカットだ。
間違いなくそれは、四人前以上ある。
「えっ!? そうなのか……まあ、いいか」
「よくない!」
「ご主人様、ご安心ください。わたしがいただきます」
「だよな」
ヤシモクとパルマだけが納得し、調理は進んでいく。
「おまたせ!」
提供されたのは、王道のしょうが焼きだった。
まあ、パルマのはトンテキと表したほうがしっくりくるが、問題は味だ。
「うん。美味いな」
「ええ、絶品です」
舌鼓がとまらない。
量もバッチリだ。
『ごちそうさまでした』
「紳士、また来てね」
「淑女の頼みなら断れないな。はっはっは」
再会の約束をし、俺たちは店を後にした。




