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23 淑女と書いてレディーと読む

「ご主人様、この後はどうされますか?」

「特に予定はねえけど、まずは朝飯だな」


 動き出している職人たちもいるようなので、開いている店もあるだろう。


 …………


 しばらく歩いてみたが、やっている気配はなかった。


「よし。宿に戻って、昨日作ってもらった弁当を食べよう」

「あっ!? 申し訳ございません」


 パルマが頭を下げた。

 弁当の発注を忘れたのか、受け取りを忘れたのだろう。


「大丈夫。気にするな。宿に戻れば、パンとスープがある」


 生き死にがかかった場面なら許されないが、今回は大した問題じゃない。

 出前を手伝ったりしたイレギュラーもあったのだから、忘れても仕方がない。


「ですが……」

「おじさん、女の子には優しくしなきゃダメよ」


 落ち込むパルマにどう声をかけようか悩む俺に声をかけてきたのは、昨夜出会った迷子の少女だった。


「イジメてるように見えた?」

「見えないけど、事件を未然に防ぐのは、淑女(レディー)のたしなみだもの」

「そっか。んじゃ、その淑女(レディー)に助けを乞うてもよろしいか?」


 少女が無言でうなずいた。

 スカートの裾を両手で掴む仕草も、淑女(それ)っぽい。


淑女(レディー)、この村に朝食をいただける食堂はありますか?」

「ございましてよ」


 なぜか口調が変わったが、気にしたら負けだ。


「案内していただくことは可能ですか?」

「よろしくてよ……と言いたいところですが、あいにく所用がございまして。わたしく、これを父に届ける途中ですの」


 少女が右手を持った小さな風呂敷を持ち上げた。

 大きさからして、弁当だと思う。

 なら、時間はかからないだろう。


「ご一緒してもよろしいですか?」

「かまわなくてよ」


 俺たちは連れ立って歩き出した。


「えっ!? えっ!? ええっ!?」


 困惑しながらも後ろをついてくるパルマは、やはり優秀だ。


「わたくしの父は働き者でしてよ」


 聞けば、少女の父親は料理人らしい。

 普段なら仕込みをしている時間だが、最近は村の防御柵を補修する作業を手伝っているそうだ。


「それはすばらしいですな」

「でしょ!」


 我がことのように胸を張る少女からは、自慢の父であることが伝わる。


「あっ、いた! 父ちゃん。忘れもん届けに来たよ」

「おう。あんがとな」


 淑女から村娘に早変わりした少女を、父親が抱きしめた。


「グルルルルル」


 幸せな光景を引き裂くように、一頭のナイトウルフが村に飛び込んできた。


「きゃああああ」


 悲鳴をあげる少女を、父親がギュッと抱きしめる。


「ビルド!」


 親子が襲われる寸前、パルマが創造したゴーレムが盾となった。

 さすがの判断と行動力だが、まだ安心はできない。


「グルルルルル」


 ナイトウルフはやる気満々だ。


「てめえ!」

「馬鹿野郎!」

「この野郎!」


 近くにいた冒険者やガタイのいい村人が、ナイトウルフをボコボコにした。

 仲間が襲われた怒りも相まって、それはもう苛烈だった。

 これを少女に見せてはいけない。

 パルマもそう思ったのか、ゴーレムに命じて隠している。


「おい!? なにがあった!? 大丈夫か?」


 冒険者風の服を着たムシアラの参上だ。


「ナイトウルフが侵入した」

「マジか!?」

「ああ。危なかったが大事にはならなかった」

「けど、急がないと駄目だな」


 村人たちからは焦りの色が濃く出ている。


「よし。じゃあ、早速作業に取り掛かろう……って、なんでアンナがこんなとこにいるんだ?」

「あの子と一緒に来た」

「ああ。ヤシモクの娘か。って、あれはなんだ?」

「パルマが作ったゴーレムだ」

「なるほど。じゃあ、安全だな」


 ほっと一息つく感じからして、切羽詰まっているのかもしれない。


「なあ、もしかして、思った以上に緊迫してるのか?」

「ああ。多くはないが、魔獣の侵入を許す場面が増えてる」

「そっか。んじゃ、ちょっと待っててくれ。悪いけど、パルマはここに残って、後三体ゴーレムを作ってくれ」

「わかりました」



 宿に戻った俺はマジックリュックから四つの玉を取り出し、現場に戻った。

 注文通り、四体のゴーレムが完成している。


「これってどんぐらいで壊れるんだ?」

「過度の損傷がなければ、数か月は保てます。けど、適宜魔力の補充をしていただくのが条件です」

「できる?」

「問題ない」


 ムシアラは自信満々に胸を張っている。


「んじゃ、これを足すか」


 俺は持ってきた玉をゴーレムに与えた。


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