21 シャバシャバはよろしくない
「これは俺が作った特殊な塗料で、市販はされていない。もちろん、製造工程も秘密だ」
「当然だな。こんなもんがあると知れ渡ったら、戦争の引き金になるぞ」
「それは言い過ぎ……でもないが、ここにいる人間が外に漏らさなければ大丈夫だ」
「いや、設置した段階でバレるだろ」
それは的を射た指摘だが、的外れでもある。
「実はこれな……薄めると強度も落ちるんだ」
「えっ!? じゃあ、駄目じゃないか」
「そんなことはない。王都からの警備隊が着くまでの時間稼ぎなら、充分できる」
雨風で劣化するとしても、半年は維持できる。
「でも」
「不安なのは理解できるが、壺しか現物はねえんだ。村を囲う防御策を塗るとしたら、薄めて使うしかねえだろ」
「作れないのか?」
「作れるけど、簡単じゃない」
「そりゃそうだよな。こんな凄い物が、右から左につくれるわけがないもんな」
ムシアラは納得しているが、実はそうでもない。
素材と時間さえあれば、割と簡単に作れる。
けど、それを言うとややこしくなるので、黙っていよう。
「アンナ様。実際問題として、塗料はどれほど薄めて使用すればよろしいのですか?」
ムシアラに代わり、レアハムがそう訊いてきた。
「ナイトウルフ相手なら、極薄で大丈夫だ」
大事なのは、確実に塗ること。
それさえ怠らなければ、問題は起きない。
というのも、先日の錬金術の失敗で家が倒壊しなかったのも、これを壁に塗っていたからだ。
あの爆発に耐えたのだから、ナイトウルフなど脅威ではない。
「試してもいいか?」
「もちろんだ」
「レアハム。皿と水を用意してくれ」
「了解しました」
それらはすぐに用意され、刷毛に残った塗料が薄められた。
シャバシャバだ。
あまりの薄さに、乳飲料を想起してしまう。
(大丈夫か? これ)
「大丈夫か? これ」
俺は心中で、ムシアラは声に出して、同じ心配をしていた。
その違いは、製作者としてのプライドだ。
声に出さないぐらいの、信頼と自信は持ち合わせている。
「じゃあ、やるぞ」
さっきとはべつの脚に塗り、ムシアラが剣をかまえた。
「いいぞ。やってくれ」
「はっ!」
ガンッ!
さっきより多少いい音がしたが、切断はしていなかった。
「よし!」
思わずガッツポーズをしてしまった。
けど、よく見ると刃が入ってる。
「ん~、悪いけど、さっき三獄斬りってやつを試してもらっていいか?」
「いいぞ」
ガンガンスパッ!
二撃には耐えたが、三撃目で脚は切断された。
「ダメか。ちなみに、いまの技ってどれぐらいの威力?」
「三獄斬りは三連撃を磨き上げただけだからな。威力は上級冒険者の三連撃と同じぐらいだな」
「なら、もうちょっと濃くしたほうがいいかもな」
「具体的には?」
「う~ん」
ある程度濃くはしたいが、残量を考えたら慎重にならざるをえない。
「ご主人様、総量から考えるのがベストだと思います」
「うん? どういうこと?」
「例えば村を囲む防御策が五〇個必要なのだとしたら、予備も含めて八〇~一〇〇は用意すべきです、なら、塗料の濃さはそれらを余すことなく濡れる程度、と考えるのがベストではないでしょうか」
なるほど。
間違いなくその通りだ。
「なら、後はムシアラたちで判断してくれ」
「おいおい!? そんな無責任でいいのか?」
「悪いとは思うが、俺たちは二日後にはポーラドを離れるからな。作業を含めた諸々はムシアラたちに任せるしかねえんだ」
「そう……だな。でも出発までの間、手を貸してほしい」
「それは約束する」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
ムシアラとレアハムが深く頭を下げた。




