20 塗料はすごい
「ええっと、あれはどこかなぁ」
ゴソゴソとマジックリュックを漁る。
けど、なかなか目当ての物が出てこない。
「おかしいな。入れたはずだけど……」
と、言いながら思い出した。
マジックリュックに素材を放り込んだのは、俺じゃない。
パルマだ。
「あるといいなぁ~」
なくても、咎めたりはしない。
あの惨憺たる部屋から、目当てのモノを手に取るほうがむずかしい。
「んん!?」
なんとなく、コレのような気がする。
期待を込めて引っ張り出した物は、目当てのモノじゃなかった。
けど、それより良い物だ。
「ナイス! 超ファインプレーだ!」
大きい壺を片手に、パルマと握手した。
「はあ、ありがとうございます」
困惑した表情からして、ピンときていないようだ。
それも仕方がない。
これがなにか知らないのだから。
キュポン
コルク栓を外し、中身を確認した。
「塗料ですか?」
一緒に覗くパルマに、俺はうなずいた。
「よし。戻るぞ」
「えっ!? 防壁の一部を作成しなくてよろしいのですか?」
「その必要はなくなった。これがあるなら、全部解決だ」
壺に栓をし、落とさないようギルドにむかう。
「ずいぶん早いな」
「ええ。まだ三〇分も経過していません」
「パルマのおかげで、問題は解決した」
「いえ、わたしはなにもしていません」
「いや、これをリュックに入れてくれたのは、間違いなくパルマだからな」
テーブルに壺を置いた。
「これは?」
「俺が作った強化塗料だ。いまある防御柵に塗るだけで、ある程度の攻撃なら耐えられる」
「ある程度って、具体的には?」
「スパークベアぐらいならイケる」
!!!!
パルマ、ムシアラ、レアハムが目をひん剥いた。
驚くのもよくわかる。
スパークベアといえば、ぶつかった瞬間に火花が散るほど強烈な突進をかます、凶悪なモンスターだ。
その脅威はなかなかのモノで、中級レベルの冒険者パーティー以上でないと、対処はむずかしい。
それを塗料を塗るだけで防げると言われれば、眉唾モノだろう。
「ふっふっふ。では、実践してみせようじゃないか」
俺はキュポンと栓を開けた。
「普通だな」
「ええ。白のペンキですね」
ムシアラとレアハムが肩を落としている。
塗料はみんなこんな感じだと思うが、輝いているとでも思ったのだろうか。
「このテーブルの脚に塗ってもいいか?」
「いいぞ」
「んじゃ、遠慮なく」
持ってきた刷毛を使い、ささっと一面だけ塗った。
完成だ。
「さあ、一撃見舞ってくれ」
「脚にか?」
「ああ。本気のやつを頼む。ただし、塗料を塗った側面だけにしてくれ」
「わかった。少し離れてろ」
ガンッ!
ムシアラが振るった剣は、脚を切断することはできなかった。
というか、傷一つ付いていない。
「もう一度いいか?」
「何度でもやってくれ」
キンキンキン!
音からして三連撃なのだろうが、俺には見えなかった。
けど、脚が無事だから問題ない。
「凄いな!」
「ええ。ムシアラ様の三獄斬りを弾くなんて、信じられません。もしかして、手加減なされたのですか?」
「バカ言うな! 全力だ」
レアハムを強くたしなめるのは、俺に対する気遣いだろう。
もしくは、機嫌を損ねないためか。
どちらにせよ、俺は気にしない。
製品が劣化していないことがわかり、満足だ。
「んじゃ、今度は塗ってない面を軽く斬ってくれ」
「軽くでいいのか?」
「ああ。存分に手を抜いてくれ」
ムシアラが手首を返すだけの力ない斬撃を放った。
スパッ、と脚に切れ込みが入った。
けど、切断にはいたっていない。
塗料がそれを阻止しているからだ。
「ふっふっふ。すごいだろ。塗った個所だけ、強度を増すんだ」
「いや、凄いなんて言葉で片づかねえよ」
「ええ。こんな塗料、見たことも聞いたこともありません」
自分の作った物が褒められるのは、実に気持ちがいい。
けど、そこに浸っている時間はない。
きちんと、するべき話をしよう。




