19 できることからコツコツと
「ご主人様はなにを悩んでいらっしゃるんですか?」
「俺が悩んでいるのは」
「申し訳ないが、ちょっと待ってくれ。具体的な話をする前に、まずは自己紹介をさせてもらいたい。おれはこの冒険者ギルドでギルドマスターを務めている、ムシアラ・バイルだ」
「私はムシアラ様の秘書兼受付嬢のレアハム・ドルトと申します」
二人に会釈され、俺自身自己紹介がまだなのに気づいた。
「アンナ・クロムハイツ。錬金術師だ」
「メイドのパルマ・トーチスです」
「二人のことはなんと呼べばいい?」
「呼び捨てでかまわない」
「なら、おれたちのことも呼び捨てにしてくれ。で、アンナはなにを悩んでいるんだ?」
相手が年上なので抵抗もあるが、胸襟を開くという意味も込めて対等で行こう。
「まずは金だ。ムシアラから支払われる額じゃ大した物は作れないし、作ったとしても一時しのぎにしかならない」
「おれたちとしては、一時しのぎでも助かる」
「王都から警備隊を派遣してもらうまでの時間稼ぎにもなりますからね」
「それの具体的な日程は決まってるのか?」
ムシアラがかぶりを振った。
「だとすると、ちゃんとした物を設置したほうがいい……けど、それを作るには、賃金が安すぎる」
「ご主人様。そこは人命救助と割り切ることはできないのですか?」
「俺個人としては問題ない。けど、後々のことを考えるとな」
「後々っていうと、メンテナンスだよな?」
「もちろんそれもある。けど、一番の懸念はそこじゃない。一番の問題は、意識のズレだ」
パルマたちの顔面に、特大の?マークが張り付いた。
「たとえば、俺が作った防御柵と同じ物をべつのだれかが作る際に、ムシアラたちは正当な給金を払えるか?」
「無理だな。冒険者あがりのおれに、その査定は荷が重い。けど、アンナが事前に適正価格を教えてくれれば、問題ないだろ」
「一〇〇〇ドンだ」
ムシアラとレアハムが大口を開けて呆けている。
当然だ。
自分たちが提示した報酬額の一〇倍を突きつけられれば、だれでもそうなる。
けど、ぼったくりではない。
正真正銘、それが適正価格なのだ。
いや、むしろ安いほうだと思う。
俺が言っているのは卸値であり、市場価格はもっと高い。
「……疑うわけじゃないが、本当か?」
それを訊く時点で疑っているのだが、それを指摘するほど子供ではない。
むしろ、きちんと確認する姿勢は、上に立つ者として評価できる。
「本当だ。けど、証明する手段がない」
「試作品を作っていただくことはできませんか?」
「できるけど、できない」
またも三人が首をかしげた。
「試作品を作ること自体は簡単だけど、それを鑑定するのはだれだ?」
「村の鑑定士に頼もう」
「ってことになるけど、俺にはその鑑定士が信用できる人物か判断する材料がない」
「いや、アンナが作った品を鑑定するんだから、結果に齟齬がなければ信用になるだろ」
「俺が損をしない、っていう意味ではな。けど、次に作る者にも同じ対応をするかはわからない」
「その点はギルドが責任を持つ」
「じゃあ、俺が数時間で作った品を、べつのだれかが数日かけて作った場合はどうする? 日給一〇〇〇ドンと週給一〇〇〇ドンじゃ釣り合わないだろ」
錬金術のやり方は一つじゃないし、失敗しない確率を上げる方法は各々にある。
効率が悪いからと、それを否定するのはよろしくない。
「依頼の出しかたを工夫すればいい。アンナの作ったモノと同等のモノを一〇〇〇ドンで作らせる。日数は要相談にすればいいんじゃないか」
「たしかにそれはアリだ。けど、その都度鑑定士が動くことになるぞ。その際の鑑定料はだれが支払うんだ?」
「ギルドが持つ……と言いたいところだが、財政難なんだよな」
「業績の急改善も見込めませんからね。厳しいです」
「だろ。当たり前のことだけど、携わる人数が増えれば出費はかさむし、問題も増える」
頭の痛い話だが、これらを解決しないことには先には進めない。
「ご主人様。問題が山積なのは理解しました。ならば商品の一部を作ってみてはいかがでしょう? 試作品が用途を満たしているかどうか、のチェックにもなると思います」
それはいい考えだ。
勝手に大丈夫と決めつけていたが、ダメな可能性もあるのだから。
「よし。そうと決まれば、ちょっと待っててくれ」
席を立ち、俺は宿に戻った。




