表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/55

2 錬金術師は引っ越したい

 危なかった。

 もしものときに備えて置いといた盾がなかったら、死んでいたかもしれない。

 手の届く範囲に在ったのも、幸運だ。

 掃除と整理整頓が行き届いていたら、こうはならなかったかもしれない。


「やっぱアレだな。大事なモノは身近に置いておかねえとな」


 べつの未来を想像したら、ゾクッと背中が震えた。

 視界も暗い……のは煙が立ち込めているからだ。

 窓を開け、煙を逃がした。


「いや~ぁ、マジで危なかったな」


 眼下の日常に変化はない。

 皆なにごともなかったように健やかだ。

 いいことだ。

 けど、ほかのだれかなら、もっと大事になっていた。

 これぐらいで済んだのは、俺が優秀な錬金術師だからだ。


「失敗したやつが偉そうに言うな!」


 なんて声が聞こえてきそうだが……

 大丈夫!

 なんの問題もない。

 家は爆発に耐えうる強化素材でリフォーム済みだから、傷一つついていない。

 近隣は多少揺れを感じたかもしれないが、この爆発が原因だと気づいた者はいないだろう。

 なんてことを自慢しても、意味がない。

 むしろ、だれにも気づかれなかったせいで、片付けも全部自分でするしかないのはマイナスだ。


「…………面倒くせぇな」


 棚は吹き飛び、そこに置かれていた材料もそこかしこに散らばっている。

 中でも最悪なのが、飛び散った液体が付いた壁だ。

 粘着性の高いモノも含まれていて、剥すだけでも苦労する。


「んにゃ!」


 引っ張ったが、びくともしなかった。


「んんにゃぁ!」


 ダメだ。

 うんでもなければ、すんでもない。


「マジか」


 貴重な材料なので回収したいが、無理そうだ。


「あ~もうやだ! 寝る!」


 こうなれば、ふて寝するしかない。

 愛用のソファー……は爆発に巻き込まれご臨終していた。

 しかたがいないので、寝室のベッドに横になった。


「げふげふ」


 舞い上がったホコリを吸い込み、むせた。

 ダメだ。

 ここは人が寝ていい場所じゃない。


「んん!?」


 体が痒い。

 もしかしたら……いや、もしかしなくても、ダニやノミがいる。



「ここも(きた)ねえな」


 バスルームもひどいありさまだ。

 昨日までは気にならなかったのに、気にした途端、現実が押し寄せてきた。


「どうにかしねえとな」


 服を脱ぎ、シャワーを浴びながら考えよう。


 シャアアアアアアアア


 不思議なことだが、汚れと一緒に悩みも流れていった。


「べつに死ぬわけじゃねえし、だれも来ねえしな」


 来客があったのも数か月……いや、数年前かもしれない。

 まあなんにしろ、思い出せないぐらい前なのだから、家の中が汚くとも大した問題じゃない。


「うん。そうだな。このままでいいな」


 清々しい気持ちで、新しい服に着替えた。


 ピンポーン


「宅配便で~す」

「いま行きま~す」


 玄関を開けた瞬間、


「うわ、汚い」


 配達のお姉ちゃんがそうつぶやいた。


「ご、ごめんなさい」


 無意識だったのだろう。

 何度も頭を下げている。


「ははっ、その通りだから気にしないで。それより、荷物って?」

「これです」


 差し出された段ボールは、たしかに俺宛てだった。


「サインお願いします」


 受け取り証書に、ペンを走らせた。


「では、失礼します」


 配達が残っているからだと思うが、逃げるように踵を返されるのは、さすがに堪える。


「やっぱ、このままじゃダメだな」


 どうにかしなければならない。

 あらためて、そう思った。

 とはいえ、どこから手を付けるべきかもわからない。


「いっそ引っ越すか」


 ちまちま掃除するより、そのほうが早い気がする。

 けど、それはできない相談だ。

 それはなぜか。

 ここに住むことが、おれの職務でもあるからだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ