17 安売りはできない
営業時間内に着けたのはいいが、職員と思しき女性が片づけをしている。
「すみません。まだ買取をお願いすることはできますか?」
「大丈夫ですけど、冒険者カードはお持ちですか?」
「職業カードならあります」
「ご提示をお願いします……えっ!? 王都所属の錬金術師!?」
俺の職業カードを見た女性が驚いている。
珍しい職業ではないから、王都所属が珍しいのだろう。
(これも今度更新しないとな)
「しょ、少々お待ちください! マスター」
女性が奥の部屋に駆け込んでいった。
……
「あんたが王都所属の錬金術師だって?」
目つきの鋭い男が現れた。
胸板が厚く肩で風を切る様子からして、冒険者あがりで間違いない。
無遠慮にこちらを値踏みするような感じも、それっぽい。
(関わらないほうが得策だな)
無理難題を言ってくるに違いない。
「頼む! 町を助けてくれ!」
平身低頭どころの騒ぎではなく、五体投地している。
ほかの冒険者がいないからいいが、立場ある者がすることじゃない。
まあ、それぐらい切羽詰まっているのだろう。
「なにがあったんですか?」
ここまでされては、無視をするのも忍びない。
「実はここ数か月の間、魔獣の襲撃を頻繁に受けているんだ」
警備隊や冒険者たちの活躍で人的被害はまだないが、村の外壁などに損傷が目立つようになり、危険度は上昇の一途をたどっている。
補修作業をしてはいるが、やってもやっても間に合わないらしい。
休む時間も充分に確保できない状況に疲弊が蓄積され、村を離れる冒険者も少なくない。
このままでは、近いうちに魔獣の侵入を許してしまうそうだ。
「魔獣の攻撃に耐えられる防壁を作ってくれ! 頼む! この通りだ!」
額をぐりぐり床にこすりつける様子からして、本当に後がないのだろう。
(う~ん)
助けたい気持ちはあるが、俺は二日後に旅立つ。
となると、さすがに時間がない。
ぐうぅぅぅぅぅ
腹が鳴った。
空腹も待ったなしだ。
「飯食ってないのか?」
「ここで素材を売ってから食う予定なんだけど……すぐには無理そうだな」
「素材って?」
「これだ」
俺は床に置いた風呂敷を広げた。
「ナイトウルフか。しかも、凄い量だな」
一目でそれとわかるのだから、ギルドマスターは優秀な冒険者なのだろう。
「品質も申し分ありませんね」
受付の女性も経験豊富らしい。
『ただ……これを買い取るのは……』
可否は言われていないが、二人の渋面が答えだ。
「むずかしいのは、出費が多いからだよな?」
二人が揃ってうなずいた。
思った通りだ。
人が動く以上、そこには対価が発生する。
冒険者を雇うこともそうだし、防壁を直す職人にしても同様だ。
村が金銭的支援をするにしても、そう多くはできないだろう。
なぜなら、警備隊を維持しなくてはいけないのだから。
(う~ん)
正直な話、堅牢な防壁を作ってやることはできる。
けど、それに見合う対価は期待できない。
人命救助といった側面で考えれば問題ないが、錬金術師としては問題だ。
技術に見合った報酬を受け取らないと、後の人間が苦労する。
「これをやった人間は低賃金しか受け取らなかったのに、お前は業突くだ!」
最悪、そういった批難や蔑みをぶつけられる可能性もある。
同じ職人として、そんな経験はさせたくない。
考えれば考えるほど、俺の出る幕じゃない気がする。
ぐううううううううううう
腹の虫も盛大に騒ぎ出したし、お暇しよう。
「出前を取るか」
「ええ。そうしましょう」
「なにか食いたい物はあるか?」
まるで俺の足を止めるように、メニューを見せられた。
(オウ! なんてこったい!)
しょうが焼きがあるではないか。
…………
ダメだ。
見たら食べたくなってきた。
よだれもじゅるじゅるだ。
帰っても食べられるかわからないし、このチャンスを逃す手はない。
「しょうが焼きを頼む!」
誘惑に負けた俺は、面倒を抱えることになるだろう。




