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16 迷子の錬金術師と少女

 せっせと仕分けをし、ほとんどをマジックリュックに詰め込んだ。

 この時間なら、まだ食堂もやっている。


「パルマ、食事は宿でいいか?」

「はい。問題ありません」

「よし。んじゃ、帰りに弁当をもらってきてくれ」

「ご主人様はいかないのですか?」

「おれは食事の前に、ギルドで素材の買い取りをしてもらってくる」

「売ってしまうのですか?」

「本当は売りたくない。けど、さすがに量が多すぎるからな」


 パルマが首をかしげた。

 当然だ。

 マジックリュクがある以上、量は問題にならない。

 けど、その存在自体が問題なのだ。

 貴族でもない俺が大容量のマジックリュックを複数持っていると知られれば、盗賊やゴロツキを呼び寄せる。

 それは魔獣を相手にするより面倒だ。

 だから、一部をギルドに売却する。

 そうすれば、荷物が少なくなっていても怪しまれない。


「では、わたしもご一緒します」

「申し出はありがたいが、それは困る」

「なぜですか?」

「ちゃんとした飯が食いたいからだ」


 いまならまだ大丈夫だが、ギルドに行って諸々の手続きをした場合、営業時間が終わっている可能性が高い。

 そうなれば、食事は質素なモノにならざるをえない。

 旅の途中で仕方なく、ならあきらめられるが、きちんとしたモノが食べられる状況で、妥協はしたくない。


「ではわたしがギルドに行きますので、ご主人様が食堂を利用してください」

「できれば俺もそうしたいが、ダメだ。パルマじゃ風呂敷を上手く扱えないからな」


 風呂敷タイプのマジックリュックも、荷物を亜空間にしまうことに変わりはないのだが、解いたときにそこにあるように見せるには、多少のテクニックがいる。

 不慣れな者がやると、なにもない状態で開いてしまうのだ。


「そりゃ!」


 不満そうなので、実践してみた。

 完璧だ。

 風呂敷の上には素材がある。


「わたしもいいですか?」

「いいぞ」

「えいっ!」


 見事に失敗だ。

 風呂敷の上にはなにもない。


「では、マジックバックで運ばせてください」

「ダメだ。そっちには諸々大事なモノが詰まってるからな」


 命と同じくらいというのは大げさだが、それと同じぐらい価値がある。

 中身を入れ替えるのも大変だし、これ以上時間をかける意味もない。

 それに引き換え、風呂敷なら簡単だ。

 最悪、マジックバックとバレてもかまわない。

 狙われるぐらいなら、くれてやってもいいだろう。

 ただ、その判断はパルマにはできない。

 俺の損になることを、許容するはずがないからだ。


「たしかにそうですね……」


 理解はしたが、納得はしていないようだ。

 歯切れの悪さと渋々といった感じが、表情に出ている。


「んじゃ、いってくる」


 再度ゴネられる前に、おれは風呂敷を背負い部屋を出た。


「お待ちください。お弁当のリクエストはございますか?」

「間に合えば俺も食堂で食べるから、日持ちするモノを頼む」

「了解しました」


 あったかい食事にありつくため、俺はギルドにむかった。



(なんてこったい)


 道に迷った。

 さほど大きくない町だから油断したが、工事している場所が多く、迂回などをしているうちにわからなくなってしまった。

 このままでは、宿に帰ることすらできなくなりそうだ。


「おじさん迷子?」


 一〇歳前後の少女が声をかけてきた。

 もしかしたら、案内してくれるかもしれない。


「うん。迷子」

「あたしと一緒だ」


 ケラケラ笑う少女は、俺の打算を一蹴した。

 けど、この子が悪いわけじゃない。

 迷ったおれが悪いのだ。


「お嬢ちゃんはこの村の子だよね?」

「そうよ」

「んじゃ、明るいところまでおじさんと行こう」


 商店のある場所まで移動すれば、少女を知っている者もいるはずだ。


「いいわ。あたしがエスコートしてあげる」


 迷子に案内されるのは少し怖いが、心意気はありがい。


 …………


「ここどこ?」


 結果、さらに迷った。

 いつの間にか、人気のない森の近くに来ていた。


 グルルルルル


 獣の鳴き声が聞こえたので、少女を小脇に抱えて回れ右をした。



「ちょっとあんた! なにしてんだい!」


 俺を咎めるおばさんの目つきが鋭い。

 風呂敷を背負い少女を小脇に抱えている姿は、間違いなく人攫いに映っているはずだ。


「違います。俺たちは道に迷っただけです」

「噓言うんじゃないよ! この悪党が!」

「ウソじゃないよ。このおじさん迷子だよ」

「じゃあ、なんであんたは抱えられてるんだい?」

「森の近くに行っちゃった」


 少女はてへへと笑っているが、おばさんはのけ反るほど驚いている。


「ぶ、無事なのかい!?」

「うん。へんな鳴き声がしたけど、おじさんがすぐに逃げてくれた」

「そうかいそうかい。ありがとうね」


 誤解は解けたようだ。


「にしても、あんたって子は」

「おじさん、じゃあね」


 怒られそうな気配を敏感に察し、少女は俺の腕から逃れて走り去った。


「ったく、あの子は」


 嘆息しつつ、おばさんの目が俺にむく。 


「ありがとうね。この辺じゃ見ない顔だけど、冒険者かい?」

「旅の錬金術師です」

「そうかい。じゃあ、こんなところでなにしてるんだい?」

「ギルドに行きたいんですけど、迷ってしまって」

「ああ。いくつか道が塞がっちまってるからね。よしわかった。あの子を助けてくれたお礼に、あたしが案内してあげるよ」


 親切なおばさんに導かれ、俺はギルドにたどり着いた。


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