15 マジックリュックが高い理由
翌日の昼過ぎ。
俺たちは無事、中継地であるポーラド村に到着した。
本来なら補給や小休止を挟んですぐに再出発するのだが、今回は護衛に負傷者が出たこともあり、二日休むことになった。
旅路を急ぐ者はべつの馬車に乗り換えることも可能だが、それを希望する者は現れなかった。
荷物を詰め替えるのが面倒なのもあるが、食事と宿代を運航者側が支払うことも大きいだろう。
かくいう俺たちも、ベッドで寝たほうが疲れもとれると賛成した。
ただ、問題もある。
俺とパルマで、宿が一室しか用意されなかったことだ。
「メイドと雇用主が同部屋だとして、勘ぐる者はいないと思います」
「見栄えとして、よろしくないだろ」
「お心遣い感謝しますが、わたしは気にしません」
凛とした立ち姿だ。
パルマの腹が決まっているなら、俺があれこれ言うのは野暮だ。
「んじゃ、一休みさせてもらうな」
ベッドに横になると、すぐに睡魔に襲われた。
どれぐらい寝たかはわからないが、夕陽が差し込んでいるので、そこそこの時間が経過している。
「お目覚めですね。ご主人様」
「これなに?」
部屋に大きな木箱が二つある。
俺が眠る前には、なかった代物だ。
「ナイトウルフの素材が入っているそうです」
「それがなんでここにあるんだ?」
「馬車に護衛を配する余裕がないので、荷物はそれぞれが管理してほしいそうです。出発前の積み込み作業は必要ありません」
ならこのまま放置してもいいが、素材の質を保持するためには整理したほうがいい。
「手伝ってもらってもいいか?」
「もちろんです」
「ありがとう。んじゃ、仕分けしよう」
見た感じ、毛皮も爪も眼も一緒くたに詰め込まれている。
これでは素材が痛んでしまうし、せっかく上質なモノを手に入れた意味もなくなってしまう。
「よっ、はっ、ほっ」
まずは一つ一つ箱から出していく。
早々に足の踏み場もなくなりそうだが、俺にはマジックリュックがあるから問題ない。
容量に余裕もあり、傷もつきにくい。
欠点があるとすれば、取り出したい物を選んで取り出せないことだ。
「これも、もっと改良したいんだけどな」
「これって……マジックリュックのことですか?」
俺がうなずくと、パルマが両目を見開いた。
「そんな驚くことないだろ」
「失礼を承知で訊きますが、ご主人様はコレの価値をご存じなのですか?」
「もちろんだ。これは貴族の必需品だからな」
買い物が趣味の貴族からすれば、これほど便利なモノはないだろう。
俺が卸していたのはドワルムント王家だけだが、それが飛ぶように売れていたのは知っている。
月に数個作るだけで数か月遊んで暮らせる収入があったから、価格も高騰していたのだろう。
ただ、これにはカラクリがある。
王家が生産調整をしているのだ。
価値ある物により高い価値をつけるため……ではなく、単純に作り手がいないからだ。
マジックリュックはクロムハイツ家にしか作れない品であり、どうしても数に限りが出てしまう。
一族総出で作業すればそれなりの数は用意できるが、裏を返せばマジックリュックしか生産できなくなる。
となれば、消費量の多い薬関係の生産が落ちてしまう。
莫大な利益を生むマジックリュックと、人命にかかわる薬。
どちらも大事ではあるが、天秤にかければ薬にかたむく。
もう一歩踏み込めば、父ちゃん母ちゃんには宮廷錬金術師としての仕事があり、マジックバックの生産にかかりきりになることは不可能なのだ。
結果、王家が生産調整を図っている。
というようなことを、パルマに説明した。
「凄まじい話ですね」
褒めてもらえるのはありがたいが、パルマの表情が呆れているような気がするのは勘違いだろうか。
「あれにそんな裏があったなんて」
陰謀論を匂わせるような発言までしだした。
けど、そんなものはない。
ただ単に、人手不足なだけだ。
「さあさあさあ、おしゃべりはここまでにして、さっさと始末するぞ。早くしないと、店が閉まっちまうからな」
食事は宿で二十四時間用意してくれるらしいが、細かいオーダーができるのは料理人がいるときだけだ。
料理人が帰った後は、硬くなったパンと干し肉と出来合いのスープしか提供されなくなってしまう。
外食をするにしても、閉店時間は王都より早いらしい。
どちらにするにせよ、時間との勝負であることに変わりはない。
「食いっぱぐれるのはごめんだからな。さっさと片付けて、美味しいモノを食べにいこう」
でないと、枕を高くして眠れない。




