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14 後始末

「ぎゃあああああ」


 馬車が揺れたと思ったら、叫び声まで聞こえてきた。

 ただごとじゃない。


「ナイトウルフだ! 注意しろ!」

「一、二、三……六頭以上いるぞ」

「大群の可能性もあるわよ」

「全員馬車を守ることに集中しろ!」


 護衛の冒険者たちの緊迫したやりとりで、外の状況がわかった。


「マズイな」


 個体としての強さはそれほどでもないが、黒い毛皮に全身を包んだナイトウルフは夜行性で、夜目の利く特性を活かし、闇に紛れて得物を襲う。


「リーダー危ない!」

「ぐあっ」

「大丈夫か!?」

「大……丈夫だ」


 乗客(おれ)たちを不安にさせないための言葉だが、やせ我慢をしているのは間違いない。

 ケガも負ったようだ。

 その証拠に、リーダーが負傷してから、馬車が揺れることが多くなった。

 ナイトウルフが体当たりをしているのだろう。


「クソッ! このままじゃ押し切られる」

「なんでこんなに数がいるのよ!?」

「あ、諦めるな」

「気持ちだけじゃ無理だ」

「援軍を要請しよう」

「それこそ間に合わないだろ」


 冒険者たちはプチパニックに陥っている。

 このままでは、事態は悪くなる一方だ。

 けど、戦闘はからっきしの俺では、どうすることもできない。


「ご主人様、わたしが参戦してもよろしいですか?」

「えっ!? 戦えるの?」

「わたし自身は素人に毛が生えた程度ですが、ゴーレムを作ることはできます」


 渡りに船だった。


「何体作れる?」

「大きさにもよりますが、四、五体はいけます」

「なら、冒険者を助ける人間サイズのモノを二体と、馬車を守る大型のモノを一体頼む」

「わかりました。はあああああ」


 パルマが魔力を練っている間に、俺はリュックを漁る。


「これも違う。あれも違う……あった!」

「ビルド!」


 俺が目的のモノを掴むのと、パルマがゴーレムを作るのが同時だった。

 土が固まっただけの、アイアンゴーレムだ。


「創造主パルマ・トーチスが命ずる。魔獣を駆逐し……」

「ちょっと待った!」


 すぐさま命令を与えようとするパルマを制し、俺は手にした玉をゴーレムの胸に押し当てた。


「ご主人様なにを……って、ええっ!?」


 土人形のようなフォルムが一変し、二体は敏捷性に優れた中量級の格闘家になり、大型の一体は腕力に全振りした超重量級のプロレスラーのようになった。


「こここ、これは一体」

「説明は後でするから、まずは命令を与えてくれ」

「わかりました。創造主パルマ・トーチスが命ずる。魔獣を駆逐し、馬車を守る抜け!」

『了解しました!』


 三体のゴーレムが参戦し、戦況は一変した。


「なんだ!?」

「と、とんでもねえのが現れたぞ!」

「くそっ! あんなのどうにもできねえよ」

「短い人生だったな」


 冒険者の中には混乱したり諦めたりする連中もいたが、それが味方であることに気づいてからが速かった。

 全員でナイトウルフを駆逐し、負傷した者はレスラーの陰に隠れている。



 ほどなくして、戦闘は無事終わった。

 俺たちの勝利だ。

 本来ならそのまま出発し、朝方に中継地の村に着く予定だったが、急遽変更してこのまま野宿することになった。

 護衛の冒険者が負傷したのもあるが、ナイトウルフの解体が手間だからだ。

 そのままにしておけば疫病が発生するかもしれないし、死骸を求めてより多くの魔獣が集まる危険性もある。

 それを防ぐためには、なるべく早く片付ける必要があった。

 ということで、俺もそれに加わっている。


「いよっ。それっ」


 ナイトウルフを手早く解体していく。


「すばらしい手つきですね。ご主人様」

「そうか? こんぐらい普通だろ」

「いえ、職人の手さばきのようです」


 パルマは驚いているが、錬金術師からすれば出来て当然だ。

 というのも、魔獣の解体は錬金術師の初歩だったりする。

 それはなぜか。

 魔獣が錬金術の素材になるからだ。

 ナイトウルフでいえば毛皮と爪はあればいいぐらいだが、人間の心臓に該する魔石はまあまあで、取引価格も高くない。

 けど、眼だけはべつだ。

 夜目の効力があるそれは、お宝と評していい。

 それらを調達依頼として冒険者ギルドに出すこともあるが、解体が下手で傷ついた状態で納品されることも多々あり、場合によっては素材として使えないモノも少なくない。

 それを防ぐためにナイトウルフを納品してもらい、自分たちで解体するのだ。

 そしてその仕事を任されるのが、一番下っ端の駆け出し錬金術師である。

 俺もそれを経験しているから、解体だけならこの場にいるだれよりも上手い。

 しかも自分で解体したモノに関しては、自分のモノにいしてもいいと言われている。

 それもこれも肉などの錬金術の素材にならない部分の報酬を放棄したからなのだが、それ以上の価値あるモノを手にできるのだから問題ない。



「ふいぃ~」

「やっと終わりましたね」


 数時間の解体作業を終え、おれとパルマは額の汗を拭った。

 冒険者たちの顔にも、疲労が色濃く出ている。

 俺も疲れてはいるが、満足感が高い仕事ということもあり、そこまでキツくなかった。

 というより、収穫が充分すぎてホクホクだ。

 ナイトウルフの毛皮と魔石が二三個で、爪多数。

 眼球も六一個と笑いが止まらない。

 ナイトウルフの眼は一体につきに二個しか取れないが、間違いじゃない。

 たしかに六一個ある。

 それはなぜかと問われれば、貰ったからだ。

 内訳はパルマが捌いた二体から取れた四個と、ゴーレムに命を救われた冒険者たちからお礼として譲られたのが一一個である。

 冒険者が奇数なのは、退治する際に片目を潰してしまったからだ。

 なんの問題もない。

 むしろ、こんなに貰っていいのかな、と思うくらいだ。


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