13 行き先はイスペン
人目につかない路地裏で風呂敷を解き、広げた。
ポンッ、とパルマが姿を現した。
「大丈夫か?」
「は、はい。大丈夫です」
安全性は確認済みだが、初体験のパルマに異常がないのは僥倖だ。
「んじゃ、行くとするか」
俺たちは乗合馬車の駅にむかった。
時間が時間だけに、閑散としている。
「パルマは旅をしていたんだよな?」
「はい」
「目的なんかはあったのか?」
「ありません。強いていうなら、世界を観てみたかったということですね」
「そっか。なら、この先どうする?」
「どうする、とはどういうことでしょう?」
「そのまんまの意味で、この先の身の振り方を訊いてる」
「わたしはご主人様の奴隷ですので、ご一緒します」
「その契約なんだけど、破棄してもいいぞ。あれはいまの生活があってこそ成り立つモノだったからな」
住所不定無職にクラスチェンジした俺のそばにいる必要はない。
「お気遣いはありがたいですが、わたしの意思は変わりません」
「そうか。でも、これから向かうのはイスペンだぞ」
「イスペンとは……あのイスペンですか!?」
「あのかどうかは知らねえけど、魔族領近くのイスペンだ」
…………
「ご一緒します!」
決意は固そうだ。
なら、俺に異論はない。
「よし、わかった。ん~っと……あった!」
イスペンに向かう馬車は、まだあるようだ。
「二人乗れる?」
「大丈夫ですよ」
「いくら?」
「深夜の割り増しも含め、お一人様一五〇ドンです」
「んじゃ、よろしく」
三〇〇ドンを支払い、俺たちは馬車に乗った。
四、五〇人は乗れる大きさに対し、乗客は俺たちを含めて五人だけだ。
ただ、広々使えてラッキー、とはならない。
客の代わりに、荷物が満杯だ。
「予定より少し早いですが、これより出発いたします」
馬車がゆっくりと動き出した。
………………
やがて門を抜け、王都の外に出た。
(よかった)
内心で胸を撫でおろした。
あのデブ貴族たちの目的は十中八九パルマであり、今頃俺の家を引っ搔き回しているはずだ。
部屋数も多いし、地下室などもあるため、時間稼ぎはできると踏んでいたが、即断即決で後を追われていたら、馬車に乗り込むことすらできなかっただろう。
あらためて、俺は横に座るパルマを見た。
髪はボサボサだが、目鼻立ちははっきりしている。
スタイルも悪くなさそうだ。
ヒザを合わせて座る姿は、おしとやかと表していいだろう。
「ご主人様? どうされたのですか?」
首をひねる仕草も可愛らしい……が、納得いかなかった。
「なんであのデブは、パルマにこだわったんだろうな?」
俺に交渉を持ちかけてきた際、言い値で買うと言っていた。
それはつまり、一〇〇〇万ドン以上の価値があるということだ。
けど、性奴隷にその価値は考えられない。
よほど外見が好みなんだとしても、同じ額を使えば複数人買えるし、中には似たような娘もいるだろう。
「妻にすることはできねえだろうしな」
「ええ。メンツを重んじる貴族が、そんなことをするわけがありません」
パルマの人間性に問題がある、とかではなく、オークションに掛けられていたことが問題なのだ。
足の引っ張り合いが当たり前の連中からすれば、それは格好の餌になる。
「特技はある?」
「胸を張って言えるものはありません」
俺だけでなく、本人にも思い当たることはないようだ。
ますます謎は深まるばかりだが、これ以上は考えても無駄だ。
とりあえず放置でいいだろう。
ゴトンッ
そんなことを思っていたら、馬車が揺れた。
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