閑話 パルマの隠し事
ご主人様に買われたわたしは、幸運だと思う。
…………
まあ、旅の途中で賊に襲われ、奴隷オークションにかけられた時点で不幸とも言えるが、深く追求しなければ問題ない。
うん。問題ない。
どうせ遅かれ早かれ、そうなっていたはずだ。
……わたしって、不幸なのかしら。
まあなんにしろ、絶望しかなかった未来に光明が差した。
そして、その光を当ててくれたご主人様に、精一杯仕えよう。
と思っていたら、ご主人様の友人であるマシュー様のもとに連れていかれた。
そして、わたしが望むなら、元の生活に戻ることも可能だと言われた。
(えっ!? マジですか?)
口から出そうになった言葉を呑み込み、ご主人様を見る。
ウソは言ってなさそうだ。
旅人に戻るという選択肢もあるが、わたしはそれを拒否した。
もし仮にそうなるのだとしても、ご主人様に恩を返してからだ。
「うし。んじゃ、手続きをするか」
雇用契約書にサインし、わたしは正式にご主人様のメイドになった。
帰り道に立ち寄ったレストランでの食事はむずかしかった。
ご主人様は遠慮なく好きな物を注文しろと言ってくれたが、いいのだろうか?
今のわたしは、とある理由でものすごく食べる。
下手をしたら、レストランの食材がなくなるかもしれない。
「店の食糧庫を空にしてもいい」
ご主人様から許可が下りた。
なら、遠慮はしない。
「シーフードサラダと、メニューに載ってる肉料理をすべてお願いします」
次々に出てくる料理は、どれも絶品だった。
量も多くて幸せだ。
しかも、わたしが満腹になったのと同タイミングで給仕が終わった。
最高! としか表現できない。
ただ、それも長くは続かなかった。
ご主人様のお家はゴミ屋敷で、掃除を頼まれたからだ。
食事前なら問題なかったが、力が有り余っている今は加減が上手くできない。
掃除をするはずなのに、家具を壊してしまう始末だ。
「すみません」
頭を下げるわたしを責めることなく、ご主人様は来客の対応に出られた。
…………
戻ってきたご主人様は、わたしの手を引き別室に入った。
「これに詰めるだけ詰めてくれ」
言われた通り渡されたリュックサックにいそいそと詰め始めたが、すぐに手が止まった。
どう見ても小ぶりのリュックサックなのに、驚くほど入る。
「ご主人様! これは一体どうなっているのですか!?」
「それは俺が作ったマジックリュックだ。詳しい説明は後でするから、いまは作業を続けてくれ。それと、おれは隣りの書斎に行ってくる」
「わ、わかりました」
訊きたいことは山ほどあるが、まずは作業を進めよう。
……
信じられない。
部屋にあった物が、すべてリュックサックに収納された。
相当な重量であるのは間違いない。
けど、簡単に背負えてしまう。
重さをまるで感じない。
ぞくっ
背筋が震えるほどの逸品だ。
その価値を想像したら怖くなり、わたしはリュックを降ろした。
「ただいま」
世界を一変させる代物を作り出した天才が戻ってきて、風呂敷を床に広げた。
これが普通の風呂敷であるはずがない。
「んじゃ、リュックを背負ってこの上に乗ってくれ」
「こ、これでよろしいですか?」
死ぬ覚悟をもって、わたしは正座した。
「うそでしょ!?」
風呂敷の中は異空間だった。
ぷかぷかと浮いているような感覚があり、息も吸える。
まるで母の胎内にいるような心地よさだ。
なのに、背中が震えた。
未知の体験に恐怖したのもあるが、稀代の天才と知り合えた幸運に震えている。
この出会いがわたしの人生を一変させるのは、疑いようがなかった。




