2 家、破壊
幼少期は駆け足で終わらせる予定です。
異世界に召喚⋯というよりただの転生をしてから5年
絶賛両親に溺愛されている。
「すごいぞ!私達の娘は天才だ!」
この世界における基礎魔法にあたる火魔法を使っただけなのだが⋯
「お父様⋯過剰すぎませんか?基礎の火魔法なのですが⋯」
まだ5歳の体では少し舌っ足らずな発音になってしまう。
「そんなことないよメアリ。どんな魔法の天才でも初めて魔法を使えるようになったのは8歳とかなんだよ」
俺⋯もとい私にそう教えるのは五男のルレイ。
私には五人の兄がいる。
私が生まれるまでに子供を作り過ぎでは⋯
ルレイ兄上によると、お父様はずっと女の子が欲しかったらしいのだが男ばかり生まれたんだそうだ。
「そうだぞメアリ!おまえは稀代の天才だ!将来すごい魔法使いになるぞ!」
大興奮といった様子だ。社交界でも自慢しまくってるらしい。この間一番上のフェル兄上が愚痴っていた。
「メアリ、そろそろ魔法講座の時間ですよ。」
お母様がそういう。たしかにそろそろいい時間だ。
「はいお母様。」
私はそう言い家に戻る
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「──ことで魔法は発動します。」
私は今魔法の講座を受けている。内容は魔法の基本概念。
魔法が使えるのになぜこんな基礎を受けているのかと言うと、私が使う魔法は厳密にはこの世界の魔法ではなく、この世界の魔法に見せかけているだけだ。
だからこの世界の魔法を使うためにこの基礎中の基礎を受けている。さっき使ったのはこの世界の魔法だ。
今受けているのは水属性魔法の基礎講座。この世界には火、水、風、土、雷の基本的な五属性に加え、光と闇の二属性がある。光と闇は特に生まれ持った適性が必要なんだとか。
これらの属性以外にも属性はあるらしいが、大体が一代限りで、記録にしか残ってないそうだ。
「メアリ様はこの講座一回で使えるようになってしまいますから講師泣かせですね⋯」
私に魔法を教えてくれている講師が、一通り話し終えたあとそう言う。
「それでも教えていただけるのはありがたく思っています。何事も基礎が大事ですから。」
基礎は大事だ。実力の根底には基礎の積み重ねがある。
「そうですね。では早速使ってみましょう。基礎の水魔法であれば室内でも問題ありませんから。」
基礎の水魔法は飲み水に使える水を出すだけだ。殺傷能力は皆無なのだ。
教えられた基本概念で水魔法を発動するべく魔力を高める。
私の手の上に魔法陣が出てきた。じきに発動するだろう。
⋯⋯⋯⋯⋯明らかに異常なほど魔力を吸われている。
初期魔法にあるまじき魔力を持っていかれている。魔力量は有り余っているから問題はないのだが⋯
発動を止めようとしたのだが、魔法陣への魔力供給が止まらない。これはまずい。
「メ、メアリ様?そ、そんな魔力どこから⋯」
講師が呆然としている。魔力が見える人ならこうもなるだろう。とんでもない魔力が初期魔法の魔法陣にこもっている。
魔力供給を絶とうとあれこれしていたら、途端に魔力の吸い上げが止まった。⋯⋯⋯これは不味い!
「先生ッ!!」
魔法陣は完全に独立状態に入り制御から外れたためすぐさま講師のもとへ駆け寄る。
「伏せてください!!」
私がそう叫ぶと何がなんだかわかっていない様子の講師は身を伏せた。
「ッ!!」
魔法陣が発動した。魔力の量に耐えきれなくなった魔法陣が爆発する、いわゆる魔力爆発。私は咄嗟に結界魔法を発動した。
ついでに魔力爆発に指向性を持たせ、爆発の方向をできる限り逸らした。
ドガァァァァァァァン!!!!!!!
とてつもない音ともに膨れ上がった魔力が爆発した。
逸らしたとはいえ完全にはできていない。逸らしきれなかった衝撃が結界に伝わる。
身体強化で講師が吹っ飛ばないように抱え、結界魔法も維持し続ける。床が崩れ落ち一階へ転落する。
「先生、大丈夫ですか。」
崩壊も収まったため講師の安否確認をする。
「だ、大丈夫です。ありがとうございますメアリ様。」
パッと見怪我は無いように見えるし大丈夫だろう。
にしてもとんでもないことになった⋯
「メアリ!!大丈夫か!!大丈夫なら返事をしてくれ!!」
ルレイ兄上が瓦礫の向こうに居るようだ。しかし結界魔法があるおかげで生き埋めになっていないだけで、結界の外は瓦礫で埋まっている。
「どうしましょうか、先生」
講師に聞いてみる。
「どうすることもできませんね⋯メアリ様の結界魔法が無ければどうなっていたことか⋯」
「結界魔法、驚かれないんですね。」
結界魔法が使えることなど誰にも言っていない。余計な混乱を生むだけだからだ。
「メアリ様ですから⋯何となくこれぐらいはできてしまっても驚かないといいますか⋯」
「そうですか。けれど私にもできないことぐらいはありますよ。」
水魔法の魔力制御とかな
「とりあえず脱出しましょうか。」
腰が抜けているらしい講師に身体強化を付与して補助してやる。
「メアリーーー!!!無事かーーー!!!」
今にも泣きそうなお父様の声が聞こえてきた。
「お父様!!私も先生も無事です!!今脱出しますから少し離れていて頂けませんか!!」
「メアリ!!無事で良かった!!分かった!!離れておこう!!」
お父様の魔力反応が遠くなったから下がってくれたのだろう。
「さ、脱出しますよ。先生。」
「は、はい。」
重力魔法で瓦礫をどかし、お父様のいる方向へ進む。
この世界の術式ではない重力魔法に講師は興味津々で見ていた。今しがた死にかけたというのに⋯
瓦礫の隙間から光が差し込んできた。最後は大げさに邪魔な瓦礫を全て同時に浮かせてやった。
「メ、メアリ!!」
私の姿を見るなりお父様が駆け寄ってきた。
ゴチンッ
鈍い音を鳴らし結界にぶつかった。
「イテテ⋯これは結界か?」
「すみませんお父様。解除が間に合いませんでした。」
「大丈夫だよメアリ。それよりも怪我は無いか?」
鼻血が出ているのに大丈夫と言えるのだろうか。
「私も先生も怪我はありませんよ。」
「そうか⋯よかった⋯」
心底安心したようだ。
「メアリ!よかった無事で!」
真っ先に駆けつけていたルレイ兄上がやってきた。反対側にいたようだ。
「はい。無事です、ルレイ兄上。」
家の人間がぞろぞろと集まってきた。あれほどの音だ。離れの人間もやってきた。
「すみませんお父様、家が⋯」
「おまえが無事ならそれでいい。だが一体何があったのだ?」
これだけの規模で家を破壊して怒らないというのはどうかと思うが⋯まぁ怒られないのならいいか。
「水属性の基礎魔法を使おうとしたのですが、魔力供給が止まらなくなり暴走して爆発しました。爆発の方向を辛うじてある程度上に逃がすことはできましたが⋯」
「そうか⋯だが被害を減らす努力をしたのは偉いぞ。よくやった。」
どうして家を吹っ飛ばしたのに褒められて撫でられているのかは理解できない。
「家のことは気にするな。貴族ともあろうものがこの程度のことでは怒らんよ。だが水属性魔法は封印かもしれんな」
そう言いお父様は笑った。
水魔法は他世界の魔法で誤魔化すことにしよう。
メアリの口調について、話し口調は丁寧に、心の中については転移前と変わりません。一人称は基本どちらにおいても「私」となります。