18 強大な力
初の週末に更新です!せっかくなので昼に
「おはよう、メアリ嬢」
「おはようございます殿下」
二度目の登校日。なんとなく早めに学園に来たのだが、殿下と同じタイミングになるとは思っていなかった。
「早いね」
「殿下こそ、お早いですね」
昨日の国境沿いの一件で緊張度は上がっているはずなのだが、殿下にはそういった様子が見受けられない。
「⋯⋯国境沿いは、大丈夫そうですか」
「⋯⋯!そう、だね。大丈夫だろう。君のお兄さん方が対応してくれている」
「そうですか」
フェル兄上とルレイ兄上だろう。あの二人ならまぁ⋯死ぬことはないだろう。
「君は昨日のあの魔力を感じたのかい?」
「まぁ⋯そうですね」
「そうかい⋯一応、他言無用で頼むよ」
「えぇ分かってます」
私たちが授業校舎に向かっていると、訓練場の方で大きな音が聞こえた。
こんな早くから模擬戦闘でもしているのか?
「気になるね。見に行ってみよう」
殿下がそういうので私も後に続いた。
ドォォン
「なかなか派手にやってるようだね」
確かに派手な音だ。高等部の人間だろうか。
初等部の人間であれだけの音を鳴らす出力は私かマーシャじゃないと無理だろう。
訓練場を覗いてみると、そこに居たのは意外な人物だった。
「まだ出力調整が甘い⋯それに耐久性も⋯⋯」
ミレイ・ハル・ザルード。一昨日、ちょっとしたヒントを渡したが、まさかもう形が出来ているとは⋯
「彼女のあれはなんだろうか。魔法が籠もっているのか?」
「そんなところだと思いますよ」
「物に攻撃魔法を込める⋯聞いたことがないな」
「あまり一般的ではないでしょうね」
無いわけではないようなのだが、現物は私も見たことがない。あくまで記録上に存在するだけだ。
「ミレイさん」
「ひゃぁ!?めめ、メアリさん!?」
「そんなに驚かれなくても⋯」
「す、すみません⋯集中してて⋯」
それは悪いことをしたな。
「お早いですね⋯」
「そちらこそ。私たちはたまたまですよ」
「たち⋯?」
「やぁ。おはようミレイ嬢」
「ででで、殿下!?すみませんこんな格好で!」
「構わないよ。学園に於いては私もいち生徒でしかないからね」
普通の貴族はそう言われても無理というものだ。
そんなことより
「それは⋯私があげたヒントから作られたんですか?」
「は、はい!教えてくださったように攻撃魔法を付与してみたんです!けれど⋯」
「けれど?」
「凄く威力が高くなってしまう上に一回しか使えなくて⋯」
確かにミレイの手にある魔道具はひび割れてしまってもう使えないだろう。だが、たった2日でここまで出来ているのなら上出来と言える。
もっとかかると思っていたが、やはりミレイには才能があるようだ。
自己肯定感の低さとコミュ障なのが玉に瑕だが。
そんなことを私が考えていると、ミレイはブツブツと考え込み始めた。
改良に向けて色々とアプローチを思案しているようだ。
スッと立ち上がって校舎に向かっていってしまった。
スーザ兄上も屋敷でそんな感じだったことがあったな。
研究者に共通するものなのだろう。
「ははは。まるで私たちが見えなくなったかのように行ってしまったな」
「そんなものだと思いますよ」
「私たちも教室に行くとしようか」
「えぇ」
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教室にはすでに何人かの生徒が来ていた。私たちが訓練場に行っている間にそれなりに来たようだ。
ミレイは自分の席で紙に色々と書き殴っている。
私はそれを覗き込んでみた。
書き殴っているように見えて意外にも綺麗にまとめられていた。
「根本からアプローチを変えてみるのも一つかもしれませんね?」
横からそう口出しをする。余計なお世話かもしれないが、ミレイには色々と開拓してもらいたい。魔道具は魔法の衰退につながることもあるが、文明の発展に貢献する。
あまり一般的ではない魔道具、そして地位の低い付与魔法。
そういった常識を打ち壊すきっかけにミレイはなれるかもしれない。
「おはようございますわ皆さん」
そんなことを思いながらミレイの紙を見ていたら、後ろからマーシャがやってきた。
「おはよう、マーシャ嬢」
「殿下もメアリさんも今日はお早いですわね」
マーシャは一昨日と同じ時間だ。きっちりしている。
「まぁなんとなく。特に理由はありませんよ」
「私もまぁ、そんなところだね」
緊張が広がる王城から逃げてきただけだろう。
「ミレイさんは⋯凄い集中ですわね⋯」
「自分の将来にもつながる研究ですからね。没頭もするでしょう」
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「はーい!じゃ、朝の連絡を始めるよ!」
ミレイからの質問に答えたり、マーシャたちと談笑をしていたらそんな時間になった。
ニーシャ兄上は声に少し魔力を込めているらしく、あんなに集中していたミレイでさえ前を向いた。
教師としてはすごく便利な手法だな。やってることは催眠音声と変わらんが。
ニーシャ兄上の二十歳とは思えない童声を聞きながら私は窓の外を見ていた。
⋯⋯⋯⋯⋯⋯なにか飛んで───
「ッ!?伏せて!」
「え?」
私がいきなり叫んだことに驚いたマーシャが素っ頓狂な声を出す。
そんなマーシャの襟を掴んで後ろに引っ張った刹那
窓側の壁が吹き飛んだ。
殆どの生徒が私の言葉に反応出来ていない───いや、一人を除いてか。
「『サンクチュアリ』!!」
光属性上級の防御魔法。生徒だけに限定して展開する。
押しつぶされる前に展開は間に合ったが、どうやら割れた破片が直撃した奴が何人かいるようだ。
「一体何が起きていますの!?」
「⋯⋯⋯⋯」
この魔力、間違いない。だがなぜここに居る。ありえない。
「このおぞましい魔力⋯どうやら前線は破られたと見るのがいいか」
「⋯⋯ここに一直線に飛んできたようです」
国境沿いまで魔力探知をしたが、どうやら王国軍は健在のようだ。
「⋯殿下。マーシャさんとミレイさんのことは頼めますか」
「あぁ。もちろんだとも。だが君は⋯」
「ここであれを止めないと、王都は滅びますよ」
この世界に来て一番低い声を出している気がする。加えて少し威圧もしている。
「⋯分かった。二人は引き受けよう」
「メアリさん!?何をするつもりですの!?まさか戦う気じゃ──」
「そのまさかですよ。他に誰が戦えると言うんですか」
「⋯ッ」
そう。この国の最高戦力は今、国境沿いに居る。この場でこいつと戦えるのは私と⋯
「僕を忘れないでほしいな!妹が戦うというのに黙って見ているわけがないだろう!」
「ニーシャ兄上」
「メアリ、僕は剣が出来ない。どうやらあれは剣を持っているようだから前衛は任せることになる⋯けど⋯」
「⋯大丈夫だと思いますよ。ただ⋯」
「ただ?」
「ここじゃ場所が悪いので無理にでも王都の外に出してやろうかと思ってます。なので付いてきてもらわないと困りますね」
「あはは!それぐらいお安い御用だね」
本当は私に戦ってほしくないだろう。だが相手は⋯ミレーヌ家の神器だ。剣相手に魔法師一人は厳しいものがある。
「絶対に無理はしないこと。それは守って」
「⋯分かりました」
神器に飲まれた人間なのだろうか。人の姿はしているが、放出される魔力が人の魔力とは言い難い。
禍々しいヘドロのような、黒い魔力。
この場をあまりにも雑に、支配してしまっている。
「⋯そういう場の支配のしかたは⋯気に入りませんね」
私も支配領域の展開を行う。同時に剣を抜き構える。気絶していた生徒から拝借した。
「行きますよ」
私は身体強化魔法を自分に掛け、一気に踏み込む。
奴は瞬時に反応し、受け止められる。
必要な箇所だけ身体強化魔法は強く掛けている。だが力負けしそうだ。支配領域の争いも少し負け気味だ。
「ッ」
奴に無理矢理弾かれる前に飛び退く。
その瞬間後方から魔法が飛んできた。
「僕も居るのを忘れないでねメアリ!」
ニーシャ兄上の魔法だった。だが⋯⋯
「⋯⋯⋯」
「うそぉ〜」
全く効いていない。というか位階の違う存在である神器に魔法が効くのか?わからないことが多い。が、そんなことは関係ない。
「何がどうであれ、私はあなたを倒す。それ以外の答えはありません」
ここで倒さなければならない。この存在はあまりにも危険すぎる。
ドス黒い魔力で姿はあやふやではあるが、神器が剣である以上、持っているのは人だろう。
⋯⋯支配領域の争いは劣勢か。
「⋯⋯⋯」
「⋯⋯⋯」
見合ったまま動かない。私が切り込むわけにはいかない。力負けしている以上、こちらから仕掛けるのは悪手だ。
だがこのまま見ていても埒が明かない。
私は決心し、踏み込もうとしたその瞬間、奴が目の前から消えた。
ドガァァァァン!!!!!!
「か、はっ」
私は教室の壁を突き破り、廊下の壁に叩きつけられた。
「メアリ!」
ニーシャ兄上が叫ぶ。だがそれは隙だ。
「ぐうぅ!?」
ニーシャ兄上が上に殴り飛ばされた。生きてはいるが、戦うのは無理だろう。
私の方は⋯手足は動く。多分。
意識は少し朦朧としているが大きな問題ではないだろう。
顔が濡れている感じがする。血が出ているのだろう。
奴がニーシャ兄上にトドメを刺そうとしている。
動こうと思ったが思うように身体が動かない。
思ったよりこの身体へのダメージが大きかったらしい。
「『ウィンドランス』!」
奴の顔に魔法が当たった。
「私はマーラカルト王国第二王子!ルーク・ハル・マーラカルトだ!私が相手をしてやる!」
ルークはわざわざ戻ってきたらしい。
足が震えている。それもそのはず。
本物の殺意を正面から受けるのは初めてだろう。
腰が抜けていないだけ上出来だろう。
私が行かなければ。行かなければ⋯ニーシャ兄上も⋯⋯殿下も⋯⋯
誰も助からない。
制限なんか⋯必要ない。
私から⋯奪うことは⋯許さない。
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《ルークside》
戻ってきてしまった。マーシャやミレイの静止を無視して戻ってきてしまった。
私ではあれとは戦えないだろう。
彼女が反応出来ないほど早い相手に⋯この国で五本の指に入る魔法師が為すすべもなかった相手に⋯
何ができる?
何もできない。だが⋯彼女はまだ、戦う意志を見せている。
ならば私も⋯王族として、そして⋯友人として。
相対せねばならないだろう。
彼女や副学長への意識を私に逸らせば良いのだ。隙を作ればそれでいい。簡単だ。誰だってできる。
あの瞬間、彼女は我々全員を守ったのだ。あの『サンクチュアリ』は彼女の魔法だった。
今度は私が守らなければ。
「『ウィンドランス』!」
当たった。奴の意識が私に向く。
瞬間、身体が芯から震え上がる感覚がした。
目眩がするほどの、強烈な殺意。
経験の無い敵意が私に降りかかる。
だが退いてはいけない。
「私はマーラカルト王国第二王子!ルーク・ハル・マーラカルトだ!私が相手をしてやる!」
啖呵を切る。生まれてこのかた喧嘩などしたことがない。
初めての啖呵だ。
ゆっくり、奴がこちらに歩み寄ってくる。
魔力が安定しない。心が乱れている。
これでは魔法なんて───
その刹那、目の前を紫色の稲妻が走った。
方向的に、彼女だろう。だが本能が叫ぶ
決して見るな、と。
私に近づいていた奴は、彼女の方を見た。
奴は彼女を見た瞬間狼狽えたように見えた。
一体彼女はどうなっている?無事ではないはずだ。副学長よりも重傷のはずだ。
「よくも⋯まぁ好き勝手にやってくれましたね」
先程の声よりも、より数段、冷めた声が聞こえた。
私に向けられた声で無いにも関わらず、息が詰まる感覚がした。
「⋯無事ですか、殿下」
「あ、あぁ⋯ぶ、無事だ⋯」
声が震える。
「⋯ニーシャ兄上のこと、お願いしてもいいですか」
「⋯⋯分かった。任せてくれ」
奴は彼女に釘付けになっている。私はもう意識の外だ。
⋯⋯ニーシャはどうやら生きてはいるようだ。ダメージは大きいが死ぬことは無いだろう。
「⋯⋯情けないな」
ニーシャの側についた途端、腰が抜けてしまった。この場所が安全な保証は無いが⋯動けなくなってしまった。
─────────────────────────────────
奴が殿下に近づく前にこっちに意識が向くようにしてやる。
ただの魔力放射だ。私の魔力色である紫色の稲妻が走る。
「よくも⋯まぁ好き勝手にやってくれましたね」
この世界に来て初めての感情だ。
怒り。どうも自分が思っている以上に家族のことが大事みたいだ。
「⋯無事ですか、殿下」
殿下が怪我なんてしたら大問題だ。ましてや私がさせたらもっとだ。
無事だと返事が返ってきた。
「⋯ニーシャ兄上のこと、お願いしてもいいですか」
奴はこちらを見ている。殿下やニーシャ兄上のことなどもう忘れていそうだが、一応声をかけておく。
さっきの魔力放射で奴は私を無視できないはずだ。目を外すわけにはいかなくなったはずだ。
なぜならこの世界の人間にあのような芸当はほぼ不可能だからだ。
ひたすらに濃縮するとあのような芸当ができる⋯が、この世界ではそんな魔力運用はしない。
おそらく奴は神器そのもの。人間が神器に飲まれたのかは知らないが、今は神器そのものといえる状態だ。
なぜ神器が国境沿いから一直線にここまで来たのかは知らないが⋯
私に仇をなすというのなら⋯
「⋯覚悟してくださいね」
圧縮した魔力による支配領域の展開。奴も少なからず対抗してきたが無意味だ。
奴の魔力にまで干渉する。奴の纏う魔力が大きく揺れる。
それに反応したのか、奴が飛びかかってきた。
「魔力濃度が高いと⋯この魔法も恐ろしいほどの性能になるんですよ」
神器を受け止めたのは魔法剣。本来なら神器を受け止めるような性能は無い。
魔法剣に受け止められたことが気に食わないのか、がむしゃらに剣が振られる。
私はそれを難なくいなす。
「神器ともあろうものが、無茶苦茶な剣をしますね」
私の言葉に神器は明らかな怒りを見せる。魔力が高まるのを感じた。
「時間をかけるのも面倒ですね。終わりにしましょうか」
私は魔法剣を解除し、異空間収納から一振りの刀を取り出す。
見た目はなんの変哲もない刀だ。魔力を帯びているわけでもない。
そんな刀を取り出した私を見て、神器は勝利を確信したようだ。
とてつもない魔力とともに奴が突っ込んでくる。
私は直立のまま見据える。左手で鍔を押し、鯉口を切る。
⋯⋯あの神器はミレーヌ家の家宝だったか。今持っている奴もおそらく人間だろうが⋯⋯
⋯⋯よし。生かすか。
奴と交錯する刹那、刀を抜き奴の纏う魔力、そして理性を失わせている原因のみを斬る。
「⋯これは特別でしてね」
総てを斬る刃。制御することで相手の肉体を斬らないということもできる。⋯あまり使う気は無い。強すぎて実力が鈍るからだ。
あと純粋につまらん。
魔力が収まった神器と持っていた人間を見る。
⋯⋯⋯⋯
「は?」
神器を持っていたのは、まだ子供の女の子だった。
私より年下だ。
わからないことが増えた。問題が山積みだ。
考えると目眩が⋯⋯
いや⋯気が緩んで辛うじて保っていた意識が⋯
「メアリ嬢!」
ルークの声が遠のく───




