15 王家の人間
「こうして君と戦いたかった!君と戦えて嬉しい!」
私はなぜか学園入学初日から殿下と戦う羽目になっていた。
殿下の発言があまりにも戦闘狂すぎるのだが、王室は一体どういう教育をしているんだ。
「私はこれでも近衛師団長よりも強いのだが、君は表情一つ変えないとは!」
「⋯⋯⋯」
確かに相当な実力だ。だが私はマーラカルト流を完全履修している。殿下には実戦経験が足りないがゆえに、その剣は流派に忠実な、変化のないものだ。
足の運び、重心の移動。それだけで次の動作が分かる。型にはまりきった工夫のない剣は私には通用しない。
「これならばどうだろうか!」
魔法の発動と同時に切り込んでくる。
消してやってもいいのだが、ここはあえて同じ魔法で相殺してやることにしよう。
殿下の魔法と私の魔法がぶつかり合い爆発する。
その爆発で生まれた土煙に乗じて殿下が斬り掛かってくる。
手合わせだと言うのに思いっきり急所に振ってくるのはどうかと思う。ちゃんと教育をしておけ顔も知らない近衛師団長。
本来であれば王族である殿下に花を持たせるべきなのだろうが、そんなことをすれば殿下も納得しないだろう。
ここは圧勝させてもらおうか。
殿下が振り抜こうとしている私の首筋に魔法陣が展開される。
「ッ!?」
殿下に一瞬の迷いが生まれた。こういう時に浮かび上がってくる魔法陣はトラップというのが相場だ。
だが甘い。一瞬で魔法陣を見分けられなければ、こういうブラフに引っかかる。私が首筋に展開したのは、ただ空気中の魔力を集めるだけの、魔道具によく使われる魔法だ。
攻撃魔法の区分ではないので、わざわざこの分野の魔法を学ばなければ知ることはない。
私は殿下に生まれた一瞬の迷いを突いて剣を弾く。
殿下の重心が崩れるように弾いたために、姿勢を崩す。
「私の勝ちですね。殿下」
姿勢を崩した殿下の首筋に剣をかざす。
呆気に取られたように尻もちを突いたまま動かない。
「ははは!私の完敗だね」
声高らかに笑う殿下。満足したならいいが⋯
「君と手合わせできてよかったよ」
「満足されたなら何よりですが⋯二度とごめんですね」
「ははは。二度は無いよ。ありがとう、メアリ」
初めて殿下から呼び捨てにされたな。むしろ今まで必ずメアリ嬢と呼ばれてたことのほうがおかしいのだが。
「二度は無い、とはどういうことですの?」
マーシャが聞いた。たしかに妙な言い回しではあったが、その理由は簡単だろう。私が圧勝してやったのもそれが理由だ。
「⋯マーシャ、私は王族だ。第二王子なのだ」
「そ、そうですわね」
「だからこそ、私がこの学園で求められるのは王族らしさなのだ。私ではない」
つまり本当の自分は出せないということだ。本当の殿下は好奇心旺盛なのだろう。ああやって戦うのが、色々知るのが好きなんだろう。
だがそれは王族らしくはない。私はそんな王族もいいと思うし、見てきたが、この国では許されないのだろう。
「だからメアリ。君と手合わせできて良かった。学園生活を前に、一旦の満足ができた。ありがとう」
「一瞬で終わらせて良いのであればいつでもお受けしますよ」
「ははは。遠慮しておこう」
まぁ満足したならいい。それで殿下が納得しているのならそれでいいだろう。この国の慣例に口を出すつもりはない。
「そろそろ帰るとしよう。学園初日から遅くなれば心配させてしまうだろう」
「そんな関心があるとは思えませんわ」
マーシャのぶっきらぼうな言葉に殿下も苦笑いしている。
マーシャの家庭環境は殿下も知っている。
だがマーシャが特訓をしたことは知らない。
ずっと待っていたらしい王家の馬車が校門に居たので、殿下とは別れ、同じ方向であるマーシャと帰路についた。
「殿下がメアリさんと戦いたいとおっしゃった時は肝が冷えましたわ⋯」
「そうですか?」
「えぇ⋯メアリさんが殿下をボコボコにしてしまわないか心配でしたわ」
「⋯⋯⋯」
私のことを何だと思っているのか。マーシャの時とはわけが違うのだ。常識ぐらいある。まるで非常識人のように言うものだ。
「でも確かに殿下は戦う機会はありませんものね⋯学園対抗戦でも出場は認められないでしょうし⋯」
だからこそ、今日が最初で最後。殿下が私を相手に選んだのは実力を見抜いたからなのか、はたまた⋯
「次の登校は明後日でしたわよね?」
「えぇ」
「明日、一緒にお買い物しませんか?」
明日か⋯特に予定は無いしいいだろう。
「構いませんよ」
「では明日、メアリさんの屋敷にお伺いしますわ。私は向こうですので、ではまた明日」
「はい、また明日」
マーシャと別れ、私は大通りから外れる。
「⋯殿下の剣は、ひたすらに愚直でしたね」
人気の少ない道を歩きながら私はそうつぶやく。
愚直で馬鹿正直な剣。殿下の剣を言葉にすればこうなるだろう。
王族として、第二王子として、教えられた剣なのだろう。
荒いところはまだある。が、年齢を考えれば非常に洗練されていたとも言える。
魔法も、発動が早い上に短縮詠唱だった。
好きなのだろう。剣も魔法も。それが見えた。
だが殿下は⋯ルークは王族だ。
王族には王族の使命がある。
この国は隣の帝国と長い間小競り合いが続いている。
領地が王国の南側であるネーデル家やミレーヌ家はあまり緊張感は無いが、東側の貴族は常に緊張状態にある。
第一王子は次期国王であるがゆえ大事にされるが、第二王子であるルークは前線に指揮官として立つ可能性が高い。
そのため戦う方向ではなく、指揮官としての教育がされるのだろう。
学園での在り方もそれが求められている。
剣と魔法、どちらもちゃんと出来ているのはそれに起因していると思われる。
しかし、幸か不幸か。ルークは剣と魔法が好きになってしまった。
極めたくなってしまったのだろう。学園に第二王子でありながら入学したのはそれが理由だろう。
⋯ルークのためを思うなら徹底的にやっても良かったかもしれない。
心を折るレベルでやってもよかったかもしれないな。
⋯⋯ルークなら大丈夫だろう。
私はそう結論づけて、屋敷の門をくぐった。




