第8話:王子とヒロインの間で揺れる受付嬢
朝日がギルドの窓から差し込むころ、受付カウンターの中でリリアは静かに頭を抱えていた。
「はぁ……また、どうしてこんなことに……」
数日前、ユリウス王子が突如として現れ、リリアに近づいた事件。
続いて、王都から派遣されたヒロイン・レイラがやってきて、彼女の生活は一変してしまった。
(あの二人、私を巡って何かやってるけど、私、ただの受付嬢なのに……)
そのとき、ギルドの扉が開き、重厚な足音が響いた。
「リリア、同行の準備はできているか?」
現れたのは、王都魔術省の長官を名乗る中年男性だった。
鋭い目つきと威厳のある声で、リリアを正式に王都へ連行する旨を伝えに来た。
「えっ、そんなに急に……?」
リリアは黒板に必死で書く。
『私は普通の生活がしたいだけです』
しかし、長官は冷静に首を振った。
「君は伝説の守護者だ。我々の期待は大きい」
その瞬間、ギルドに再び騒動が起きる。
「やはり、リリア様は特別な存在だ!」
「王都に行くなんて、伝説がもっと広まるぞ!」
(やだやだやだやだ!!)
リリアは慌ててしろまるを抱き寄せた。
その夜、リリアは王都への旅支度をしながら心の中で決意した。
(どんなに誤解されても、私は私のままでいたい)
しろまるが優しく膝をなでる。
「にゃあ」
彼女は小さく笑って、黒板に書いた。
『ありがとう、しろまる。あなたがいてくれてよかった』