第7話:王都から来たのは“ヒロイン”でした
ある朝、ギルドの扉が静かに、しかし確実に開いた。
そこに立っていたのは――
「リリア・エルミナさんですね? 私、レイラ・ヴァルガルドと申します」
透き通るような金髪、温かな笑顔。
まさに乙女ゲームの“本命ヒロイン”であり、第二王子ユリウスの婚約者だ。
ギルド中の空気が一瞬で変わった。
「――レイラ様!?」
受付の周囲がざわつく中、リリアは瞬時に目を逸らした。
(やばい……ゲームと同じ状況が、現実になった……!)
「王都魔術省より、正式にリリアさんの保護と監視、そして――調査のために派遣されました」
レイラは凛とした口調で言った。
「それと……あなたのチートスキルについても、詳しく知りたいと思っています」
(チートスキル!? そんなこと王子にしか言ってないのに……!)
「リリアさん、これからは私と一緒に、王都に来てもらいます」
そう言ってレイラはリリアに手を差し伸べた。
その瞬間、リリアの心は乱れた。
(どうして……彼らは私を英雄扱いするの? 私はただのモブで、静かに暮らしたいだけなのに……!)
「そんな……いやです……!」
リリアは筆談用の黒板を持ち、慌てて書き始めた。
『私はただの受付嬢です。騒がないでください』
しかし、その文字はレイラには“強い決意の言葉”として映った。
「わかりました。あなたの意思を尊重します」
しかし、その背後で、ギルドの冒険者たちが興奮気味に囁いていた。
「これで本物のヒロインも来た! 伝説はこれから本格化するな!」
「沈黙の守護者リリアと、王都のヒロインレイラ――なんだか胸熱だ!」
リリアは思わずため息をついた。
(普通の生活、遠いな……)