表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/10

第3話:沈黙の守護者(サイレント・ウォッチャー)と呼ばれはじめました

朝、ギルドの扉が開くと、冒険者たちがなぜか一斉に立ち上がった。


「リリア様、今日もよろしくお願いします!」


「おはようございます! ご機嫌いかがでしょうか!」


「……ははっ、今日も沈黙だ。ありがてぇ……」


(……なんで!? なんで正面から出勤しただけで起立されてるの!?)


リリアは受付カウンターへ向かう足を、無意識に速めながら首をすくめる。


彼女の内心では不安が渦巻いていた。

ギルド内の誰もが妙によそよそしく、敬語が過剰になり、距離も遠い。


(これ……確実に……「怖がられてる」やつ……!!)


違う。

少なくとも彼らの認識は、“畏怖”ではあるが“恐怖”ではない。


むしろそれは、信仰に近い尊敬である。


昼前。


依頼掲示板の前に集まる冒険者たちが、何やらざわついていた。


「見たか? この依頼、A級モンスターの追跡依頼だ」


「昨日、リリア様がこの依頼に一瞬だけ目を向けてたんだ。……これってつまり、選ばれたってことじゃねぇか?」


「沈黙の目線が与えられた……つまり、我らが行くべきはそこ!」


(あのとき……掲示板の端に貼り直された紙が斜めになってたから、直そうと思って見ただけ……)


当然そんなこと、誰にも伝わらない。


だが、彼らは確信していた。


「沈黙で導く……まさに“沈黙の守護者”だな」


「“サイレント・ウォッチャー”って異名、王都の兵士が言い出したんだってよ」


「いいじゃねぇか、かっけえし」


(やだ……ついに異名ついた……!? 公式化された!?)


リリアは黒板に、


『そのような呼び名はお控えください』


と書いて控えめに示したが――


「この文言は……“謙遜”!?」「やはりリリア様は高みにいる……!」


→ 通じなかった。


その日の午後、ひとりの中年冒険者が受付にやってきた。

手には小さな木製の箱を抱えている。


「こ、これは……僕たちの“信仰”の印でして……あの、受け取っていただけないかと……!」


差し出されたのは、リリアの姿を彫った――木彫りの像だった。


(!?!?)


つぶらな目と小さな黒板を掲げたポーズ。

リリアが普段している仕草そのままの“御姿”だ。


「これ、ギルドの隅に置いて、朝晩拝んでるんです。依頼に行く前に見ると、何かこう……勇気が湧いて……」


(怖ッッ!? なにそれ信仰!?)


「リリア様……いえ、守護者さま。これからも、どうか我々を見守っていてください……」


そう言って、深く頭を下げられた。


リリアは、無意識に黒板を取り出してこう書いた。


『……無理のない範囲で、頑張ってください』


すると――


「ありがてぇ……」「これは祈りの言葉だ」「明日からも頑張れる……!」


その場の冒険者たちが次々に涙ぐみ、彼女の“言葉”を写し取っていった。


夕方。ギルドマスターのタッグスが事務所から顔を出した。


「リリア。今日も混乱、よくおさめてくれたな。さすがだ」


(えっ、私、混乱起こしてる側じゃないの……!?)


「やはり、お前が受付に座っているだけで、皆が安心するんだよ。……このまま伝説になってくれていいぞ」


(いいの!? 伝説になっちゃっていいの!?)


リリアは真っ青になりながら、内心でひたすら願った。


(頼むから……普通に生きさせてぇ……!!!)


だが、この日を境に“沈黙の守護者”という異名は、ギルド全体に、そして街の外へと――確かに広がり始めていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ