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第七十七話 ただ、"そうあれ"という盾 後編


◆◆◆


 シラハエルたちが、人造魔法少女にしてマスコットであるという異例の存在、アイギスケープのもとへ向かった先で見たもの。

 それは、魔法少女たちでなく、裏方であるマスコットたちが我先にと彼女の世話を焼くという、これまた異例の光景であった。


「むぅ……最近テンション低かった反動かもしれんけど、いっつもうちらに遠慮なく言いおるセキオウまで甘やかしとるのは、なんか釈然とせんとこあるな……」

「あらそう? 私からしたら妹ができたみたいで悪くないわ。いい子だし、何より目的も同じだしねアイギスさんは」

「うん……それにオブリビオンは配信で、天使様だけじゃなくマスコットのみんな……ハクシキのこともバカにしたんだもん。倒すって言い切ってくれて嬉しいし、みんな同じ気持ちだよね」


 その横で、パートナーの様子に驚きつつもそれぞれの反応を示すのは、ミリアモールを始めとした魔法少女たち三人。

 先日シラハエルの病室に行った時は知らなかったこと……つまり、マスコットにまでオブリビオンの侮蔑を向けられた事実に、今は友人たちと怒りを共にしているエターナルシーズも頷く。


 そんな様子を見ながらも、改めてマスコットたちの様子をうかがったシラハエルは、隣のコンジキに話しかけた。


「…………やはり、マスコットの方々の肩入れは強くなりますか」

「なる。ワシ一人が先行した想いの可能性もあったから、ここまで言葉にはせなんだが……あやつらの反応を見て改めて思うよ。

"アイギスケープ殿を生んだ最大の要因は、ワシらマスコットが感じていた、代わりに戦ってもやれないという無力感"じゃ、と。

きっとそこに、先日の苦戦による危機感と研究室の想い全てが"そうあれ"と複合して、オブリビオンを倒すという目的に最も合致した素体……A.E.G.I.Sに宿ったのじゃろう」

「なるほど……コンジキ様がここしばらく言葉を濁されていたのは、そうした予感があったからなのですね」


 シラハエルの問いかけに少しだけすっきりした面持ちでうむ、と答えたコンジキは、そのまま感慨深げに続けた。


「そんなわけじゃから、今現れた彼女はマスコットからすれば娘……いや、相方の魔法少女を娘と見るなら、初孫にすら近い感覚と言える。そりゃあみな、ああもなるわ」

「…………そうですね」


 人類の、そして魔法少女の盾として戦うと表明した彼女、アイギスケープに一番の希望を託しているのはマスコットたちなのかもしれない。

 そうシラハエルは頷くと、そろそろ囲まれている少女に挨拶をすべきと、口を挟むタイミングをうかがおうとし────


「あ……コンジキ様と……シラハエルさんですね、はじめまして、アイギスケープです。先日はオブリビオンとの戦い、おつかれさまでした」

「ご丁寧にありがとうございます、シラハエルです。配信も拝見いたしました。初配信で変質型虚獣を倒し啖呵を切る姿、大変驚かせていただいています」


 シラハエルたちに気づき、ペコリ、と頭を下げたアイギスケープと返したシラハエル。

 似た口調で健闘を称え合う二人に、空気が少し締まるのをその場にいた者たちが感じていると。

 一瞬照れたように笑いながらも、すぐに唇を引き結んだ真顔となったアイギスケープは、彼に答える。


「……ありがとうございます。あの結果は、私が"そうあれ"……つまり、オブリビオンや変質型虚獣を倒すという期待を受けて生まれたから、ということも大きいです。逆に以前みなさんが倒されたヴァニタスやルクスリア相手では、こうも行かなかったかもしれません」

「なるほど……ゲームで言う特効持ちってやつじゃな。変質型虚獣に属するような相手じゃと、そうあれという無意識の想いがブーストとなっておるわけか」

「ゲームは分かりませんが……多分そう、だと思います。それに、倒せた変質型虚獣はオブリビオンとは比べ物にもなりません。この身は戦いに特化したものですが、上手く動かすためにももっと配信で戦いながら備えないと。慌ただしくてすみませんが、このあともすぐ配信を始める予定なんです」

「ふむ……そういうことでしたら」


 長々と世間話で様子見をするのも良くないだろう、と考えたシラハエルは早速本題に入ることを選んだ。



「アイギスケープさんは今後の配信方針について予定などはありますか? よろしければ、ここにいる────」

「ごめんなさい。コラボ配信のことでしたら、私はしません、出来ません。……最初に一(・)機(・)で変質型虚獣と戦うところをお見せしたのも、それが言いたかったからでもあるんです」


 そして彼がその提案を口にする前に、これまでのゆるくふわふわとした印象から一転、頭を下げながらもピシャリとアイギスケープは言い放つ。


 その様子に、以前エターナルシーズにアカデミーの話を持ちかけ断られた時を思い出しながらも。

 当時の彼女以上に未練を感じさせない、まるで強固な盾で覆われた姿勢を見せているようにシラハエルは感じた。


「……理由を、お聞きしても?」

「私はみなさんの代わりに、変質型虚獣やオブリビオンと戦うための……そうあれとして生まれた盾です。なので、他のみなさんのように複数人で戦う姿を見せるのは、私自身の力を削ぐことに繋がるかもしれません。

それに何より、そんな私がみなさんと絡む姿を見せたらきっと……いえ、必(・)ず(・)ご(・)迷(・)惑(・)に(・)な(・)る(・)こ(・)と(・)が(・)わ(・)か(・)っ(・)て(・)い(・)ま(・)す(・)。

だから私は、マスコットをつけるようご提案もいただきましたがそれもお断りしています。マスコットとしての働きは元々出来ますし、なおさら、です」

「迷惑などと……! ……っ、意見は分かったが、すでに実績を持つ魔法少女たちと協力体制にあるという印象を与えるのも、オブリビオン打倒のためそう悪い話で無いかもしれぬぞ。そうでなくとも、さすがに相方のマスコットもつけず一人では……」


 アイギスケープの、用意していたような淀みのない強い回答に、特に難しい顔を見せるマスコットたち。

 そんな彼らを代表してコンジキが食い下がろうとすると、シラハエルがやんわり引き止めた。


「ご回答ありがとうございます、配信スタイルに関してこちらから強要出来るものでもありませんね。ただ、コンジキ様が仰ったような側面もあるとは思いますので、状況やご気分が変わりましたらいつでも声をかけていただければ、と思います」

「ありがとうございます。ごめんなさい、ワガママを言ってしまって……」


 そうしてペコリ、と再度頭を下げた彼女。

 コンジキたちも仕方ないのか、これで良かったのかと考えながらその様子を見ていると、シラハエルが固い雰囲気を変えるように口にする。


「では、そちらの件は一旦置いて。このあとなさるという配信についてはまた討伐か、あるいは雑談となるでしょうか? 個人的には、雑談をおすすめしたいところですが……この辺りはフローヴェールさんが詳しいでしょうか?」

「え、私? そ、そうね。マスコットなら知識としてもう持ってるかもしれないけど、戦闘だけだと応援の目的が勝敗だけに寄ったりして、逆に不安定になっちゃうの。『パッと見勝てそうな相手だし今日は観なくていいや』……なんて風にね。だからデビューしたら、早めにちゃんとした自己紹介配信をして、個人として推しやすくしてもらうのがいいと思うわ」

「………………そう、ですね。不安定……はい、おっしゃる通りだと思います。……わかりました、討伐の予定でしたが、一度視聴者のみなさんに私を知ってもらおうと思います」


 自分たちの力など必要としないのだろうか、彼女は今後ずっと一人でやっていくことになるのだろうか。

 マスコットたちの心配をよそに、アイギスケープは落ち着いた表情で粛々とその配信準備を始め────



------------



「先日はたくさんの応援ありがとうございます、アイギスケープです。今日もたくさん観てくれて、うれしいです。……えーっと、今日は改めての自己紹介をしたいと思いますっ」


「…………この身体についてですね。……見ていただいた通り頑丈です。え、詳細ですか? ごめんなさい詳しいことは言えません。……えっと、後は……一部が外れたりしても直せますので、戦いでびっくりしないでいただけると……」


「………………配信者としてやりたいことですか? 虚獣を倒してみなさんの笑顔を守ることです。趣味ですか? 虚獣の討伐……になるのでしょうか。他は何もないです。好きな食べ物は………えっと、まだそういうのは楽しんだことがなくて」


「…………………………あ、オブリビオンにどうやって勝つか、ですか? ごめんなさい秘匿事項です。私の身体のこともそうですが、配信で出た情報で対応されるかもしれないので…………えっと、他に何か無いですか? あの、何か…………」



------------



「…………同接が3200人減りました……」

「緊急会議じゃーーッッ!!」



 初雑談を終えた新人配信者(アイギスケープ)の、おずおずとした報告と同時。

 その場で視聴したメンバーに共通する危機感が、代表してコンジキの口から溢れ出たのだった。



◆◆◆


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