第七十一話 おとなのそうだん
お待たせいたしております
本編五章の書き溜め分を投下していきます
また、2026/10/20発売のまほおと二巻の表紙など発表されています
めぐるんるん成分マシマシです
一巻に続き今回も書き下ろし特別エピソード+各書店特典SSがあるようです
◆オーバーラップ公式
https://blog.over-lap.co.jp/tokuten_mahooto2/
「……と、こちらがコンジキ様の勧めで最近触れた作品でした。いや、繰り返しになりますが頑なだった彼が、最期に天に向かって満足げに吐き捨てるシーンは非常に趣深く────と。
話し出すとまた長くなってしまいますね。ということで本日のネタバレあり雑談は、この辺りにさせていただきたいと思います」
「────あとは、最後に軽い告知事項をさせてもらうぞ」
自分がいつものように雑談配信を締めようとするこのタイミングで、リスナーたちが目にするのは、いつもと少しだけ違う光景。
今日一日、その光景を作っていた小さなおキツネの身体が映ると、そのまま画面に向かって口を開いた。
「以前より『#シラハ絵ル』タグにて自主的にいただいておるファンアートについて、近いうちに配信の公式サムネイルとして採用、紹介させていただく企画を進めておる。
募集要項やガイドラインについては後ほど公式より告知させていただくぞ。もし興味があれば確認いただけると助かる」
「それでは、本日はいささか長丁場の配信となりましたが────」
「付き合ってくれたこと、感謝するぞ。ぬしらの視聴にいつも力をもらっておる。それではお疲れ様、じゃ!」
<終わろうとしてないか?>
<お疲れ様です>
<『様を見ろ』いいよね…>
<まって>
<早速全巻買いました>
<イラスト企画うおおおお>
<前々から言ってたやつか>
<どっちも長時間おつかれ>
<おもしろかったー>
<今度もコンジキ様参加頼むわ>
<今日はマスコットの好みとかも色々知れたな>
<ナマモノってことでイラスト化は気遣うからガイドラインたすかるわ>
<もうキツネの雑ミームねじ込みがなきゃ満足出来ねえ>
<またTS魔法少女おじさん欠乏の時間が始まる……>
頑強な魔法少女体でありながら、少しばかり口に倦怠感を覚えるほどに。
思わず熱が入ってしまった今回の雑談配信を締めたのは自分こと、魔法少女シラハエル。
そして、その共演者であるコンジキ様が、ふひゅーっと、大きな息をついてその場に倒れ込むのを慌てて支えると、自分は頭を下げる。
「お、お疲れ様です……長丁場な上、かなりの間喋り通しとなっていましたが大丈夫ですか……?」
「む、無論……もーまんたい、あいむおーけーじゃ……布教も出来たし、心地よさこそあれど疲労など微塵も感じぬよ……」
その声色は明らかに強がりを隠せていないものだったが、疲労以外の深刻さは幸いまだ見受けられない。
そう判断した自分は、余計な問答をさせるだけ負担になる、と判断しコクリとだけ頷いた。
(……これが、コンジキ様たちの納得に繋がるのなら……事実、視聴者ウケという点では普段の配信以上なのは間違いない、か)
------------
これまでと違う配信の形がスタートした経緯は、少し前に遡る。
以前、ルクスリアが自分とコラボ配信をし、様々な変身姿を見せることになったあとぐらいからだろうか。
今後の配信スケジュールや企画の打ち合わせの際に、コンジキ様が何か言いたいことがありげに考え込む頻度が増えていた。
自分がアカデミー立ち上げ時に似たような態度を取った時、パートナーがしてくれたように深入りせず様子見していると、やがて意を決したようにコンジキ様は口にする。
────我らマスコットも配信企画に顔を出し、積極的に魔力集めを手伝うべきかと考えている、と。
……もちろん、その狙いは自身も魔法少女のように目立ちたい、などという欲求から出るものではない。
元々マスコットは、魔法少女が視聴者に覚えてもらうこと、愛されるようにすることが第一とし、自身が表に出ることは避けている。
これは魔法少女を立たせてあげたい、という彼らの心情がもちろん大きいが、それだけではない。
器に注がれる魔力量がまだ足りていない多くの魔法少女ならなおさら、下手に魔力を分散させるのは逆効果、という考えがあるのだ。
しかし、すでにコンジキ様から見ても『魔法少女シラハエル』には十分な知名度と安定した魔力供給があり。
何よりルクスリアとの配信などを経て、キャラクター性が認知された今は、自身もニーズ次第で顔を出すメリットが増えてきた。
ミリアモールやフローヴェール、エターナルシーズあたりの有力魔法少女も似たような状況らしく、彼女たちのマスコット間で検討が進んでいる段階……とのことだ。
「それは……一理はあるかもしれません。しかし、側で見られていたマスコット方には釈迦に説法ですが、常に人の目とともにある配信はリスクも負荷も大きいものです。
ただでさえ様々な業務を担っていただいているところに、これ以上の役割を願うのはさすがに……」
「わはは、配信が簡単でないのはもちろん百も承知じゃが、そこまでぬしが深刻に捉えるようなことでもなかろう。
いきなりずっとワシが出ずっぱりになって、視聴者を空気の違いに戸惑わせたりするつもりもなし、まずはちょっとした味変企画として参加し、様子見しながら手伝っていきたいのじゃ。
……それに、ワシらの"成り立ち"的にも人間ほどの体力、精神的消耗を気にする必要は無いかもしれぬしな」
「…………成り立ち」
さらり、と口にされた言葉をそのままつぶやくと、おうともとコンジキ様は続ける。
「いつの間にか自我が芽生えて側におったワシらマスコット……それはルクスリアの成り立ちを聞くに、おそらく彼女ら虚念と似たような存在、になるのじゃろう。
虚念という理不尽な存在に対し、人々の助けになるべき、魔法少女と共にあるべき……と。"そうあれ"という人々の思念から、きっとワシらはここに在るんじゃろうな」
自身のアイデンティティに関わる話を、からからと事もなげに口にするパートナー。
『どうか深刻に捉えないで欲しい』という言外のニュアンスを受け取ると、深く言及せずに改めて配信参加について検討し────
「……この程度じゃ足りん、ワシ"ら"は全然足りんのじゃ。……ぬしもここ最近の虚獣災害については承知のことじゃろう」
「変質型虚獣に代表される強力な個体の増加、ですね。
つい先日、マスコット越しに相談を受けていた件の魔法少女、クオリアエコーズさんとルナシルヴァさんが完全撃退の快挙を成し遂げました、が────」
コンジキ様が、苦みを噛みしめるように問いかけてきたことで、自分も改めて姿勢を正し答える。
ゆっくりと頷いたパートナーは、そのまま続けた。
「ワシもアーカイブを見たが、あれは本当に素晴らしい活躍じゃった。が、二人での撃退が快挙と話題に上がるほどの虚獣、という存在は厄介の種以外の何者でもない。
巡り合わせに恵まれ、アカデミーが大成功を収め魔法少女同士の互助が始まった……その上で、これじゃ。
もし、アカデミー企画が無いままこの状況を迎えていたらと思うと……正直、恐ろしいよ」
「そう…………かもしれませんね。土台は出来たということで、あとは逆転には何かもう一手……といったところでしょうか……ふむ」
ここしばらく、特に難しい顔を見せることが多かったコンジキ様だが、その懸念は正しいものだろう。
生徒たちはもちろん、関係者の尽力のおかげで一つの流れこそ作れはしたが、まだまだ完全解決というには抱えた問題は、大きい。
「と、すまぬな、支えるものにあるまじき弱気じゃ。進む方向は決して間違っておらぬゆえ、ぬしはこのまま……と、言われるまでもなさそうじゃな。……あれ、またメンタルつよなった?」
「そうでしょうか? 虚獣に対する無力感は魔法少女になる前からのものなのと……あとは、アカデミーで散々悩んだので今さら、と言えばそうなのかもしれませんね」
もちろん真剣に考えていたが、コンジキ様から見た自分は想定以上に平常運転だったのだろうか。
意外なものを見るかのような目で見られた自分は、少しだけ気恥ずかしさを覚えながらも返した。
「ともかく、じゃ。魔法少女にこれだけの苦労を背負わせておる状況で、自身の力不足はマスコットみなが感じているじゃろう。
その上で魔法少女たちのため、我が身を惜しむマスコットなども、ワシが知る限り存在はせん。
……こちらにも、少しは背負わせてくれ」
最後は気を取り直したコンジキ様の、ひときわ重さが込められた懇願に。
自分は、パートナーの覚悟を尊重せざるを得なくなったのだった。
(無力感から来る想い……自分が否定する資格は無い、な)
------------
「と、いうわけで、じゃ。無事雑談配信も終えたところでちと話がある」
「む。といいますと?」
配信を終え数分休んだあと、ケロリとした表情で話し始めたコンジキ様。
前言通り人間と構造が違うから平気……というだけではなく、おそらく心配をかけまいと交えているだろう空元気に、軽く苦笑しながら返す。
「うむ、以前いらぬ苦労をかけたくない、と言ったばかりでの頼みとはなるのじゃが。
実は『虚念』の件に関し進展があってな。ぬしと……出来ればもう一人にも顔を出してほしいところが────」
伝えられたのはパートナーとしての頼みでありながら、魔法少女活動としても重要度が高そうな要件。
もちろん、断る理由も思い浮かばない自分は、その場で快諾したのだった。
------------
「……ここですね」
うららかな春、と呼ぶにはそろそろ激しさを感じる日も増えてきた、照りつける日差しに苦さを覚えながら歩く。
早い足取りで置き去りにしていないか、と斜め後ろを歩く少女を振り返ると、素直な彼女も襟元をパタパタと仰いでいた。
と、そうしていると自分たちは真新しい清潔さを感じる、とある白い施設の前にたどり着く。
「……着いたな、お疲れ様じゃ。わざわざ足労をかけてすまぬな」
「いえいえ、自分からしても気になる話なのは間違いありませんし。今は魔法少女体ということもあるので、身体的な疲れも全く……と、出迎えがある、とのことでしたが────」
先導する形で共に来たコンジキ様の声色は、足を運んだ自分の立場とは違う……出迎える側のそれ。
それもそのはずで、今自分たちの眼の前にある施設は、魔法少女協会の本部、その中央管理棟に当たるもの。
つまり、コンジキ様を始めとするマスコットたちが帰属する組織にお呼ばれした、という形だ。
そして、そんな施設の自動ドアから現れた、すでに魔法少女体に変身している自分たちに対する出迎え。
それは、お役所柄なスーツに身を固めた一般職員でも、協会施設に精通したマスコットの一体……でもなく。
「あ、いらっしゃいシラハっ! 待ってたよー」
「はい、しばらくぶりですね、ルクスリアさん。お元気そうで何よりです……ルクスリアさんお一人ですか?」
無邪気な声色の中に、それだけじゃない計算高さも含ませていることをすでに自分たちも承知の少女、偏愛のカタチ『ルクスリア』。
事前の話から多少予想はしていたが、出迎えが彼女だけであることに言及すると、彼女は悪びれもせず笑う。
「ふふん、施設のことならわたしも知ってるからねー。わたしが話せて迷ったりもしないのに、他の職員さんは別にいらないでしょ? みんな忙しいんだから無駄は無くさないと、ね」
……実際のところは、協会から呼ばれたという形である以上、向こうからも誰かしら付き添おうとしたところを、ルクスリアが否、と答えたのだろう。
アカデミーに関わった魔法少女はともかく、まだ施設の職員にまで信頼を寄せられるところまでは行かない、というのは彼女の成り立ちを考えると当然と言えた。
以前自分とコラボ雑談に出たりと、すでに自分と関わる場面である程度の自由は許されている以上、現状は良しとするべきだろう。
協会側として、マスコットもこちらに付いているならなおさら問題はない。
……だからといって、協会側も何も考えずルクスリアの意見を鵜呑みにしたわけではない。
機嫌良さそうに現れたものの、その"対策"を目の当たりにしたルクスリアは、途端に苦い顔を見せて吐き捨てた。
「……で、わたしからしても、来てくれるのはシラハ一人と、コンジキちゃんだけで良かったんだけど────なんでいるの? 呼んでないけど」
「言われると思いましたわぁ…………」
吐き捨てられたのは、自分とともにここまでやってきたもう一人の魔法少女、セレスティフローラ。
ルクスリアという少女が、『好き』と『どうでもいい』以外の感情を滲ませるおそらく唯一の存在が、気の抜けたセリフを返し。
「ま、いいや。"ワタシがおもい出した大事なこと"、ききに来てくれたんだよね? とりあえず入ってよ」
今度は、素の表情に近い微笑に戻った虚念の少女が、自分たちを招き入れたのだった。




