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第六十五話 エゴーロケーション 中編


◆◆◆



「なに……を……っ」


 ────さっさと逃げちゃおう。今日は討伐は中止でお疲れ様ってことで。


 初となるコラボで、彼女たちの強みである音も霧も封じるという形で脅威を振るう、変質型虚獣を前にして。

 コラボ相手であるルナシルヴァが言い放った言葉に、クオリアエコーズがまず感じたのは、何を言っているのかという困惑。


「────ッ」


 そして、次に自覚出来たのは……理解が追いついたことで生まれた、失望にも似た憤激だった。

 ギリッ、と歯を軋らせた少女は、ルナシルヴァへの返答代わりと再び虚獣への近接戦を挑む。


 戦いやすかった、援護も的確だった、初めて会って褒めてくれた……この子ならもしかしたらって思ったのに。

 やっぱり最初に持っていた印象通りだ、配信ってものを全然なんとも思っていない。

 逃げる姿なんて見せて……リスナーに捨てられることの怖さを、全く考えていないんだ、と。


 身勝手な期待だと頭では理解していながら、それでも怒りに背を押されるままに、彼女は"自分が"この場で出来る最善を尽くそうとする。

 変質して振動への耐性を得た虚獣に、彼女が振るう刀の効果は極めて薄い。

 しかし、それでも注意を向けながら自身も被弾を避けられれば、対応されていない別魔法少女を呼ぶ勝ち筋も生まれる。

 その『当たり前』を押し通そうと彼女は、身体を掠める虚獣の殺意をかいくぐる、そんな紙一重の戦いをリスナーに見せていた。


(えっと、エコーズちゃん大丈夫っ? 今戦うの危ないってさっき言ってたし、やっぱり一旦離れない?)


 その時、彼女に飛んできたのはルナシルヴァの声……ではなく念話だ。

 魔法少女同士やマスコットは、戦闘中は口を動かすよりも負担が少なく、かつ視聴者に情報を秘匿出来る念話でやり取りすることも多い。

 故に、近接戦真っ只中のクオリアエコーズへのルナシルヴァの気遣いは正しい……ものだったが、その内容は彼女を逆撫でする。


(っ、危ないって分かってるならッ! いいからさっき言った通り助けを────)

(落ち着きなさいックオリアエコーズ! 相手の話はまだ終わってないはずよぉ!)


 が、それと同時に被せられたハイドルの念話に、ビクッと身体を跳ねさせる。

 マスコットたる彼女は、戦闘の盛り上げこそ積極的に行うが、念話でクオリアエコーズに口出しすることはめったに無い。

 ましてやこのような鋭い口調であることなど……と、異常と言える事態に、彼女の頭は幾分冷静さを取り戻した。


 ギンッ、と刀で虚獣の攻撃を受けた反動を使って、一度距離を取って息をつく。

 虚獣からしても、対応した直後に向かってこられるのが意外だったのか、さらなる対応をしようとしているのか。

 ともかく追撃は行わず、油断なくこちら側の動向を探っている──少なくとも、クオリアエコーズはそう感じた。


 落ち着け、いつも通り冷静に、着実に……と。

 意識してふぅーっ、と深呼吸をした少女は、探るように問いかける。


「……っ、それで、さっきの一旦逃げて配信を終えるって、どういう……何か私が理解しきれていない、戦術的な意味とか────」

「んー、意味はそのまま、キツイなって思ったなら逃げてもいいんじゃないかなって。別に死ぬまで戦えってマスコットたちに言われてるわけでもないんだし」

「それは……そうだけど、だって……そんな姿見せたら……っ」


 ルナシルヴァが返した通り、魔法少女という存在の成り立ち上、あくまで彼女たちの自主性に任せその選択は尊重されるべき……という前提は間違いなくある。

 だからこそ、少女が背負う選択の重さに憤ったシラハエルのような存在もあるのだが。

 ともかく、決死兵のような運用は少なくともクオリアエコーズが知る限り、表立っては確実に求められていない。


 しかし、だからと言って虚獣に立ち向かい、勝ち続けてもなおリスナーの離脱を恐れるクオリアエコーズからすれば。

 そもそも全てを投げ出して敵前逃亡など、考慮の内に入っているはずもなかった。


「そんな姿見せたら……どうなるの? それでみんな言うの? 『失望した』『死ぬまで戦ってほしかった』『やる気ないだろ』って?」

「────っっ」


 息を呑んだ。

 これまでのふわふわした────何より配信への向き合いが自分よりずっと浅いと見ていた少女の、やけに実感というリアリティがこもった言葉。

 それは、最初の挨拶以外ずっと虚獣だけ見ていたクオリアエコーズに、思わず振り返らせるだけの衝撃となって彼女を殴りつける。

 が、ルナシルヴァは少女のそんな驚愕に構うこと無く、少し大きく息を吸い込んだ。


「気になるなら、聞いちゃえばいいや。────ねぇ、エコーズちゃん見てるみんなー!

あたし、このまま戦うのもいいけど、一緒に一旦下がっちゃうのもありかなって思うんだけど、どうー!?」


 待って、と口に出すよりも前に投げつけられた問いかけは、当然リスナーにも届く。

 びくりと肩を縮こまらせた少女の脳裏に……その"反響"は、すぐさま鳴り響いた。



<いいよ>

<当たり前すぎるわ>

<どんだけ今まで戦って守ってきたと思ってるんだ>

<え? 逃げたらダメとか思ってたの?>

<普通に死なれた方が困りまくるけど>

<今の戦いの間も避難進んでるし被害だいぶ抑えられるでしょ>

<って前来てる気をつけて!!>


「────ッッ!」


 彼女に届けられたのは、コメントと……そして、なんとかこの場から逃げてほしい、助かってほしいという芯からの期待がこもった、温かい魔力の数々。

 これまで承認欲求と嫉妬で頭をかきむしりそうになりながら、それでも一人戦い続けたクオリアエコーズへの、一つの回答。


 ……正直な所、こういう反応が返ってくることへの予測が、期待が彼女に無かったわけではない。

 相方であるハイドルが『本当に七面倒くさい』と言い切った彼女は、いつものファンがこういう時に許してくれるかもしれない、と。

 そんな風に正確に、計算高く考えた上で……それでもなお、潜在的な喪失をこそ恐れていたから。


 だから、膠着した状況に焦れたように虚獣が振るった剛腕を避けながらも、引き続き冷徹に戦うための算段をつけられるはずで。



「…………ずずっ」


 実際にかけられたコメントに自分が今、戦闘中にもかかわらず涙ぐんでしまうことなんて……全く考えていたはずもなかった。


 予想出来た答えなはずなのに。

 わざわざ戦闘中にモチベを下げるようなことはそうされないって、冷静に考えればわかるのに。

 才能とかじゃなくて、頑張りを見られている今まで通りのコメントなのに。


 追い詰められた今、届けられた言葉が、自分でも訳が分からなくなるほどに……うれしい。


「みんなさーころもちゃ……フローヴェールちゃんとかもそうだけど。リスナーのこと、そんなに怖がらなくても大丈夫って思うんだよね。

ちょっと人気が下がることがあっても、そのあとちゃんとしてたら……みんな、ちゃんと味方だよ」

「……うんっ……」


 クオリアエコーズの感傷を後押しするように、霧と砲弾で援護しながらもルナシルヴァは語る。

 変わらず見せられる虚獣への手応えの無さは、ルナシルヴァの言葉もあって、彼女に今までにない判断を選び取らせようとしていた。


 彼らの言う通り、逃げてもいい。

 彼らの言う通り、大丈夫、ファンは見捨てない。

 彼らの言う通り、被害だって……"抑えられる"。


(────ッッ!!)


 そう、言葉がよぎった瞬間クオリアエコーズはハッ、と目を見開いた。

 そして、ひときわ力任せに刀を叩きつけた魔法少女の勢いに、ダメージは無いながらも虚獣が僅か後ずさる。

 当然、ルナシルヴァもハイドルも視聴者たちも内心息をつきながら、この隙をついて退くのだろうと動向を見守った。


「ん……?」


 ……が。

 ざりっ、と足で地面を掴むように地面を踏みしめた少女は、そのまま刀を構えて深呼吸をする。

 そのまま、虚獣を見据えたまま語りかける声色は……これまでよりも静かで、だけどそれ以上に強い覚悟が秘められたものだった。


「────ごめん、せっかく逃げてもいいって言ってくれたのに……でも、やっぱりだめ。この虚獣は、ここで倒したい……倒さなきゃ、ダメ」


 どうして、と誰かが問いかける前に、少女はすでに決まっている想いを叫ぶ。


「だって……だってこの虚獣、今まで見た中で一番怖い、危ないっ……! みんなは逃げていいって言ってくれてるけど、そしたら絶対どこかで被害が出るっ!

それが……もしリスナーのみんなだったり、これから見てくれるかも知れない人だったりしたら……私は、許せないっ! 逃げて良くても、私が良くない! 私が戦いたいのッッ!」


 ────だから。


「だから、ごめんルナシルヴァッ! 逃げたいかも知れないけど、一緒に戦ってッ! さっき『全然いけると思う』って言ってくれたなら、そっちを信じたいッ……! お願い、お願い────ッ!」


 紡がれたのは、彼女が初めて配信で見せた弱み、がむしゃらな願い。

 自分で勝ち筋も分かっていない戦いに、初コラボ相手を巻き込もうなどという、リスナーの顔色を窺うだけでは決して出せない強い要望。

 そんな言葉を聞いたルナシルヴァは……驚くでも拒否するでもなく、ただ納得したように頷いていた。

 

「ああ、そっか……エコーズちゃんは……自分が見られたいとかそういうのよりずっと……リスナーさんが本当にだいすきなんだね。……うん、うん分かった……それなら────」


 それなら、と一旦切られた言葉の続きを待つクオリアエコーズは、気づく。

 援護のために張られており、自分の周りにも漂っていたはずの魔力の霧が、消え始めていることに。

 そして、またも虚獣に消されたのか、と思った直後、その霧はただ消えるのではなく……自身の背後へと明らかな指向性を持って集っていったことを。


「それなら、やることは決まったね────ごめんねエコーズちゃん、エコーズちゃんが本音全部を言ってなかったみたいに……あたしも言ってなかったことあったの、忘れちゃってた。

……うん、やっぱ倒しちゃおう。エコーズちゃん、ここからは"援護"、お願いできる?」



◆◆◆


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