第五十九話 誠意とは言葉ではなく、偏愛(みかえり) 後編
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────新しい力を、新しい自分を見せる。
魔法少女シラハエルの配信に現れた偏愛の虚念ルクスリアが放った光は、コンジキのものとそっくりの狐耳を当のシラハエルに生やさせた。
直前の流れもあり、高まった期待を想像以上の形で具現化されたという事実に、コメントは当然大いに沸き立つ。
<え、これ本物のケモミミ?>
<生きてる。動いてる!>
<変身で似たような格好する魔法少女はいるけど、他人を変えれるのすげえなルクスリア>
<困惑ヅラしながら耳ぴこぴこ動かしてるのあざとすぎだろ メスギツネおじさんがよ>
<おかわわわわわわわわ>
<尻尾生えてるかどうかも大事じゃない?後ろも向くべきじゃない?>
<一生のお願いです狐7:人3の割合にしてくださいお願いしますお願いしますお願いします>
「え、ええぇぇこれはまた……不思議な感覚というか……慣れないのに自分の一部ってわかるような……へ、変じゃないですかね……?」
「ふっへっへー。おどろいた、シラハ? 変じゃないよーかわいいかわいい、もっと見せたげて」
<変になってるのはおれたちだけだよ>
<ありがとうございますルクスリア様のファンになります>
<これちゃんと元に戻るんですか……?>
これまでしてきた配信の中でも最大級の賛辞……虚念でない身でも感じ取れそうなほど集った偏愛に、顔を赤くするシラハエル。
その様とコメントの盛り上がりに満足そうに頷くと、ルクスリアは補足を口にした。
「大丈夫大丈夫、一時的に集まった虚念にカタチを与えているだけだから、ちょっと経てば元通りになるよ。
……あ、でーもー? 全員がこのままのほうがいいって意識で固まれば一生このままかもー? まあ、みんな喜ぶならそれもありだよね?」
「ちょ……!」
「やべーぞ尊厳破壊じゃ!」
<うおおおおおおおお>
<アリアリアリアリアリアリアリ>
<すまん、デメリットなくね?>
<パワーをくれぇぇえええ!>
「あははは……!」
揶揄うような言葉に対するリアクションに、ルクスリアが笑ったあたりでぽんっと音を立てて狐耳は消える。
ほっと息をつくような安堵と、もう少し見たかったという名残惜しさが同居する空気が一瞬流れる……が、虚念たる少女はすぐさま次の偏愛を募った。
「────じゃ、次はどうする? 見ての通り"わたしがいれば、シラハたちのいろんな姿が見れる"よ。みんなが思い描くいろんな色、わたしに見せてね」
「うぐ……こ、これで終わりじゃないんですね……というかコメントのテンションどうなってるんだっ……」
横のシラハエルが渋い顔を見せながらも、仕方ないとばかりに乗るのを見届けると。
少女は、まるで手品師かなにかのように楽しげに観客を煽るのだった。
「さあさあ、コメントだけでも念じるだけでもいいから、今見たい姿をいっぱい送ってきてっ。いい感じのがあったらわたしがカタチにしてあげるから、ね」
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そうして、突発雑談配信として異例と言っていいような、熱が渦巻く配信は続いた。
<王道を往く……猫耳ですかね>
<この性癖要塞にこれ以上増やす属性思い浮かばねえよ>
<初めて魔法少女になったときの姿で、初心に帰るというのはいかがでしょうか? ご検討のほどよろしくお願い申し上げます>
「『猫耳』……悪くないけどさっきの狐と被っちゃうかなー。
『もう十分癖の塊』……それはそう。でもまだイケるよねっ? あなたの偏愛。
『初めての姿』……? はだかってことじゃんえっちっ! また別の機会でねっ!」
「別の機会はありませんッッ!!」
冗談じゃないというシラハエルの叫びも流し、ルクスリアはさらに"偏愛"を選別していく。
<チャイナ服に一票 格闘系だし映えそう>
<ルクスリアが大人形態になるとかどう?>
<ツインテール見たい!! おそろい!!!! おねがい!!!!!!>
「『チャイナ服』いいねーわたしもみたーい。でも格好ぜんぶ変えるならもうちょっと偏愛いっぱいほしいかも、みんなで念じれる?
ル、っ…………。
えっと、『ツインテール』……うわっ、最後の子の念つっよ……えーじゃあこれで。かわいくなーれ、びびびびびー」
「えちょ、ツインテールって、さすがにこの年で────」
ルクスリアが雑に手を差し向けると、さすがに覚えた危機感からの反論もそこそこに、シラハエルが光に包まれた。
そうして現れたのは、『一部』コメントの期待そのままに、普段の長髪を二つに分けてストンと落とした魔法少女。
体格や顔つきが変わったわけでもないのに、普段以上に幼く見えるようなそのツインテール姿は、リクエストをしていないリスナーも一気に引き込む沼となる。
<おいおいおいおいおいおい>
<キツくていいね♡>
<【反論】元々かわいいからかわいくなーれは正しくない>
<自分、ツインテールになります。始まった>
<ナイスルクスリア!! かわいい!!!!>
「う~ん、髪型だけなら大してつかれないし、これだけ変われば十分かーわいいねえ。普段からもうちょっと髪型変えたりしてもいいんじゃない、シラハ?」
「あの……! 自分、今の見た目はともかく実年齢はアレなので、この格好は本当に苦しいと思うのですが……! みなさんも空気に流される前に一旦落ち着いてですねっ……」
(…………ふむむ、ワシにも大体わかってきたぞ、シラハエル殿の判断の理由が)
と、視聴者を大いに巻き込みながら盛りたてる様子を自身も楽しみながらも。
コンジキはシラハエルがルクスリアの要望を受け、この配信に踏み切った理由を再考していた。
(まず、先程のルクスリア殿のセリフ……「わたしがいれば、シラハたちのいろんな姿が見れる」はまさしく、『自身の存在をメリットと思わせる』という狙いから来たもの。
シラハエル殿に有無を言わせぬのはともかく、強引に視聴者が望む流れにする引力は他の魔法少女には無いもの……と考えると確かに、彼の新たな魅力を引き出せる存在と言える)
この行動だけを見るなら、先程ルクスリアとの面談でコンジキが感じた通り、自分の存在を確立させることだけを考えているようにも思える。
当然、シラハエルもその点は懸念していただろう。
(ただ、思い返せば彼女の一見自分本位ともとれる交渉の中には、『リスナーにどう思われるか、彼らがどう思うか』と、確かに視聴者の存在があった。
ルクスリア殿からすれば現状は、シラハエル殿に叱られたことで、結果的に視聴者に生存が許されたカタチじゃ。
そんな視聴者に……おそらく無自覚ながら彼女なりの誠意を見せようとしていて。シラハエル殿はそれをなんとなく感づいたのかもしれぬな)
想像による補完も大きいが、アカデミーの初運営という大きな出来事も経たコンジキは、相方への見立てがそうズレたものでもないはず、と自信を持つ。
……さすがに自身が視聴者参加型の着せ替え人形になりかけている流れまでは予測出来なかったか、しっかりうろたえてはいたが。
ともあれ、事実としてルクスリアは虚念の身でありながら、初めての雑談配信とは思えない手際でこの場を回し、そこには確かに視聴者たちの喜びが渦巻いていた。
「『今よりもっと巨乳化』~? えーわたしはいいけどシラハの服とかだいじょうぶかな……あ、すごい顔でバツしてる、事務所NG出たので諦めてねー。
っ、…………。
『なんか安全圏って顔してるサブカル狐にもなんかして』、面白そうだけどまだ具体的なのきてないね。……なんかもうちょっと力あれば、コンジキちゃんにもすごいこと出来そうな気もするけど……」
「すごいこと……? と、ともかく民意なら仕方ないので引き続きシラハエル殿、ぬしに決めたッ」
「ぐぬぬ……」
「あ、チャイナ服いけそうかも。いいよいいよー中華屋さんの床みたいなギトギトの虚念感じるよー。というわけでおねがいねーシラハ」
────自身に流れが及びかけたことにビクリと耳を震わせながらも、その後もコンジキが見てる前で配信は続く。
途中、強いて一つコンジキが気になったとするなら、コメントの抜粋時にルクスリアが時折、言葉を詰まらせたように迷う素振りが見られたことだが。
それも、配信の空気を壊しかねないリクエストを彼女なりに選別していたのかもしれない、と小さな頭を頷かせた。
「……ふぅ、結構色々やったね。楽しいからずっとしてたいけど、この能力かんたんな変身でも結構つかれちゃう。だから、次あたり最後かなって思うんだけど────」
しばらく配信が続いたあと、額に汗を少し滲ませたルクスリアが息を吐きながら告げる。
多数の偏愛を糧に出来、配信前よりも存在感は強まっているが疲労は別にあるのだろう、とコンジキはねぎらいの言葉を考え始めた。
そうして、最後ということで一層コメント欄はその勢いを増す。
<ルクスリアもなんか変身しよう>
<メガネシラハエルに合う女教師服とか見たい>
<シラハエルばっかだけどルクスリアは出来ないの?>
<それより前の戦闘で一瞬見せた竜みたいなやつもう出来ない?>
「っ……あー、えーっと、じゃあシラハの先生姿とか、わたしも見たいし……あ、でも虚念まだ……」
<あーあったね竜>
<動き早いし魔力で光ってたしであんまり見えなかったなそういえば>
<たしかにちゃんと見たいかも竜モード>
「…………ぇ……、っと……」
「…………」
「む……?」
が、とあるコメントを皮切りに流れが一つの方向────すなわち、ルクスリアが一度見せた形態の再現を望み始めると、少女は露骨に反応を鈍らせた。
その様をシラハエルは無言で目を細めて見て、コンジキは引っ掛かりを覚える。
同じく様子がおかしいと訝しげな反応をし始めたコメント欄に、ルクスリアは軽く首を振ると乾いた笑顔で口にした。
「その……ほら、わたしの変身とかは前見たし、いまさらべつにって感じじゃない? わたしが喋ってるけどシラハの配信なんだから、みんなだいすきな"シラハも変身出来るってところ"たくさん見ようよ」
<それはそうかもしれないけど、ルクスリアも頑張ってるし>
<せっかくのコラボだしなあ>
<シラハエルだけじゃなくていいでしょ、ルクスリアももうちゃんと生徒なんだから>
「────っ! それにっ……!」
少女の言葉に対しても流れた期待の言葉。
変身に必要な願いの力は、十分に集まっていることを少女自身も感じているからこそ。
これまでの笑顔とは違う、歪めた顔とともにどこか反発するような声色で呟いた。
「…………それに……わたしのあの姿、ちゃんと見たら気持ち悪いし、虚念っぽいし。
…………今、嫌いになってない人も、思い出して嫌いになるかも……しれないじゃん……"所詮は虚念"って」
「────っ」
(そういう、ことか……っ)
絞り出した言葉を受けて、コンジキは偏愛の虚念たる少女がこの配信に踏み切ったもう一つの……そしておそらくは、一番の理由に思い当たる。
彼女は、途中でコンジキが見立てた通り、確かに視聴者のことを考えていた。
……それは、コンジキが考えていたよりもずっと、強く。
(ルクスリア殿は……あの大人数が集まった配信で、虚念で在ることを選んだ結果、期待を束ねたセレスティフローラ殿に敗れた。
その際、視聴者から集まった念は、セレスティフローラ殿を後押しする応援とともに……敵対者たる虚念への、剥き出しの敵意に満ちたものとなった)
所詮虚念、所詮偏愛、許せない、応援してたのにふざけるな、ニセモノ。
まだ偏愛として意識が目覚めたばかりの、情緒の形成途中で叩き込まれた悪意の数々は、救われたあとの彼女に根深く残っていてもおかしくない。
今回積極的に新しい能力をアピールし、シラハエルの様々な姿を見せたのも、そんな幼い心のあらわれ。
無意識は、心はずっと叫んでいた。
虚念によって姿を変えられるのは自分だけじゃない、自分だけがおかしいんじゃない、と。
だから、彼女は選べない。
シラハエルではなく、自分を変えようとするリクエストを。
ましてや偏愛の虚念としての歪みの象徴たる、あの忌まわしい竜の姿なんて────
(……配信はここまでにするべきじゃな)
少女は十分に頑張った、多少微妙な空気になろうとも理由をつけて切り上げるのが彼女のため。
すでに、配信前には僅かに残っていたルクスリアへの疑念も霧散したコンジキは、守るべき魔法少女と同じ存在としてフォローを挟もうとして────
<いやなら無理にとは言えんけど>
<そんな気持ち悪かったかなあ>
<ていうか、味方になったんだし姿も変わったりするんじゃない? 漂白されるとか王道じゃん>
「ぁ……そ、そうかも……そう、だよね……違うわたしになってるなら……だいじょうぶ……なの、かな……?」
消沈した身に投げかけられるコメントの一つを拾い、少しだけ希望を滲ませたルクスリアを見た。
「じゃ、じゃあ……やってみよう、かな……期待、今度は応えないとだし……今度はちゃんと、ちゃんとっ……」
やってみる、というセリフにコメントの大多数が盛り上がりを見せ、何より本人がやる気になっている以上ここから配信をぶつ切りにするのはコンジキも難しい。
思案の間にもルクスリアは両手を広げ、視聴者の偏愛の心を一身に受け止めようと目を閉じる。
「……大丈夫、もう違うってところを見せるだけ……虚念の黒じゃなくて……白い竜とか……正しい、ちゃんとした"愛される"姿に……っ」
その時、配信に載らないほどにか細い言葉で呟かれたのは、自分に言い聞かせるようなルクスリアの震え声。
彼女は自身に寄せられる様々な期待の中から、なんとか言葉通りの変異が出来そうな偏愛を必死にかき集めようとして。
すっ、と肩に手を置かれた感触に振り返り。
そこにあった、微笑を浮かべたシラハエルの姿に、固く笑いかけながら問いかけた。
「あ……えっとなに、シラハ? 止めなくても大丈夫だよ、ちゃんと最後まで見せてあげないと────」
「ええ、そうですね」
止めないでいい、という言葉にもどこか含ませるような期待を滲ませた、複雑な感情からなる言葉に返したシラハエル。
その様に少し意表をつかれた少女に、ただし、と彼は続ける。
「ただし、です。ここまで、自分は様々なリクエストを聞いて……控えめに言っておもちゃ扱いでつとめを果たしたと言えるはずです。ならばそろそろ、自分からリクエストをしても許されると思うのですが……よろしいでしょうか?」
「え……り、リクエスト……? それは……もちろんいいけどっ……」
<なんだなんだ>
<こういう我出すの珍しいな>
<おもちゃとして────>
一貫して流されるままルクスリアの能力の受け手となっていた、大人の魔法少女からの提案。
それにルクスリアとコメントが困惑を見せると、彼は力強く提案した。
「ルクスリアさんが竜となるなら、せっかくなので一緒に自分も同じようにしてもらえませんか? 皆さんもいかがでしょう、その方が最後にふさわしく画面も映えると思いますが」
「ぇ、あ……っ」
<アリアリアリアリアリアリアリアリ>
<みたいみたいみたいみたいみたい>
<シラハエル外伝 龍を継ぐもの……ってこと!?>
瞬間、ぶわっとルクスリアに叩きつけられる統制された期待の念。
その力は、自身とシラハエルの二人の姿を変えるに足るほどのものとなっていたが、だからこそ少女は強い引け目を覚えてしまう。
「ゃ、でもっ……竜だよ……!? 今までみたいなカワイイのにならないと思う……ていうか、ちゃんと変身出来るかもわからないよ……? せっかくみんな喜んでたのに、シラハが無理してまた変なことになったらっ……!」
「無理っていう意味ならさっきのツインテールの方がよっぽど……ごほん、ともかくその心配は、今回の変身に関しては無用のものと言っていいですね」
途中、咳払いを挟みながらも楽観的な姿勢を見せた大人の姿に、ルクスリアも経緯を見守っていたコンジキも、そして視聴者にも同じ言葉が浮かぶ。
その言葉、『なぜ』と彼女たちが返す前に。
天使たる様相の大人の魔法少女は、メガネを押し上げるような動作とともに、言い放った。
「────問題は全くありません。なぜなら自分は家庭科の裁縫箱でも、迷わずドラゴン柄を選んでいたクチです」
「…………なに、それ……っ」
以前コンジキが一度見たような、目を瞑りながらも眉と口角が隠しきれない自負にせり上がったドヤ顔で。
彼が口にした言葉が、どこかズレた応援だったのか、それとも配信で見せた彼なりのボケだったのか判断しきれずに、その場を一拍の沈黙が支配し。
<草>
<そうはならんやろ>
<そりゃドラゴン選ぶよなあ!?>
<改めてTS魔法少女ってこと思い出した>
<かつてない親近感>
<裁縫箱ドラゴンってまだあるの……?>
<シラハエルこんな顔するんだ……あかん脳灼ける>
<今のドヤ顔がどの変身よりも今日イチ可愛いの世界のバグだろ>
「────ふ、あは、あはははははっ! なに、それっ……!」
瞬間、濁流のような反応の嵐と、耐えきれないと笑ったルクスリアの声をバックに、少女たちは今日最後の光に包まれた。
そうして光がやんだあと、まず視聴者が目にしたのは竜の要素を取り入れた白い魔法少女の姿。
これまでの白手袋や緑がかった白タイツの先は、鱗のように固い材質となり。
能力として生やされた羽は、天使のようなふわりとした羽から強い存在感を携えた翼となり……そして目の覚めるような金髪はそのままに、天使の輪のようだった青紫の瞳は爬虫類のそれに近い瞳孔が現れ、額にはまるで一角獣を思わせる角がピンっと存在感を示していた。
そんなシラハエルの姿が現れるとほぼ同時、ルクスリアの変身の光も消える。
その場に立っていたのは、以前のセレスティフローラ戦の姿と同じもの。
華奢だった両の腕は竜の顎のような禍々しくも力強いものとなり、顔の両側面からはねじれた黒い角があらわれ。
そのくせ、翼や尻尾という形では変質が見られない、彼女からして不完全で醜かったその変身は。
「……がおー」
「ぎゃおーっ! ……ふふっ!」
<うおおおおおおおおおおおおお>
<白黒対比いいぞおおおおお>
<やっぱカワイイじゃん! やっぱカワイイじゃん!!>
<ほんとうに頼むから角を磨かせてくれ>
<ルクスリアもカワカッコいいぞー味方と考えると頼もしいわ>
<たーべちゃうぞー>
<照れたような竜シラハエルの声良すぎか>
<最高の配信だったありがとうありがとう>
<その姿でファンミしませんか? その姿でファンミしませんか?>
<竜7:人3竜7:人3竜7:人3竜7:人3竜7:人3竜7:人3おねがいしますおねがいしますおねがいします>
彼女が今日という一日で、彼らに対し築いた好意と……何よりもこれまで応援してきた、シラハエル自身が対比となった安心感がひたすら後押しとなり。
もはや言うまでもなく、この日一番の盛り上がりとなった賛辞で、応えられたのだった。
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「…………ふぅ~。途中少し心配な場面もあったが、結果的には雑談枠として類を見ない盛り上がりのままに終了したな。お疲れ様じゃ、二人とも」
「ええ、お疲れ様です……で、ルクスリアさんはそろそろ離れませんか」
「んんー、もうちょっとー」
配信を終え、肩の力を抜いたコンジキが元の姿に戻った二人に労いの声をかける。
困ったように苦笑するシラハエルの側には、虚念の少女がピッタリと寄り添い、頭をグリグリと横腹に押し付けていた。
「まるでアカデミーに入った最初の頃のようじゃのう……それほど今日の配信がぬしにとっても嬉しかったのじゃろうか」
「んー、最初の頃とはちょっとちがうかな。あのときの『シラハを愛さなきゃ』って気持ちはそうあれって思われたからが大体で……今はたぶんちがう。こうしたいから、こうしてるの」
「な、なるほど……?」
納得半分という言葉で返したシラハエルに対し、でも、と一呼吸置くと、ルクスリアは顔を上げて柔らかく微笑む。
「でも、嬉しかったのは本当だよ、配信させてくれてありがとね、二人とも。
……シラハってばこうやってみんなの頭に火をつけて回ってきたんだ。わっるいねーシラハは。虚念よりこわーいねー」
「ちょっと何を言っているのか……」
からかうようなルクスリアの言葉に力なく返すと、シラハエルは優しく彼女を引き離した。
口ではむくれながらも素直に言うことを聞く少女の様に、コンジキは良かった、と。
彼女のこの様子ならもはや何も気にすることなく接する事ができるだろう、と今日一日を振り返って肩の荷をおろす。
「おほん、こちらこそ配信で頑張ってくださりありがとうございます。おかげであなたやリスナー、そして自分の今まで分からなかった様々なものと向き合うことが出来ました。
……ところで、分からなかったもの繋がりで、一つだけ配信で気になったことをうかがってもよろしいでしょうか?」
「ん? なーにー?」
「ふむ?」
が、ここでシラハエルの少々無粋かもしれませんが、という前置きに少女が首を傾げると。
シラハエルは、内緒話をするかのように声をひそめて問いかけた。
「…………リスナーが心配していた以前のサクラリウムメウムなる結界について、『心配しなくていい』『いらなくなった』『違うことが出来るようになった』とだけ言われていましたが、実のところどうでしょう。……まだ、使えたりしませんか?」
「────…………んふふー」
「…………あ」
相方の言葉にそういえば、と遅れてコンジキがルクスリアの言葉を振り返る。
確かにリスナーに少女が伝えたのは今のセリフだけであり、問題の結界自体が使えなくなったと明言するものでは決して無かったことを思い出す。
いやまさか、さすがにと唸ったコンジキと、興味深げに様子を見るシラハエルの前で、くるりとルクスリアは踊るように一回転。
まるでイタズラがバレたかのような表情で口角を上げると、少女は彼らに答えた。
「────それは、まだひみつ。負けてからひとりでも色々調べたけど、わたしみたいなのって、全部教え切らないほうが愛せるでしょ?
……知りたいなら、これから時間をかけてもっとわたしのことを知ってほしいの。……だから、これからもよろしくね、"みんな"」
歪んで、間違って、救われて、受け入れられて、それでもやっぱり計算高くて少しだけずるい虚念の少女、ルクスリア。
彼女との付き合いはまだまだ長くなりそうだと、保護者たる彼らは力なく笑ったのだった。
◆◆◆
性癖回の名を借りた四章やり残し回でした
この先も間章としていい感じのを思いついたら短めの話を置いていきます
また、書籍の予約が始まっているようです
興味がおありでしたら良すぎる絵だけでも見てやってください
https://x.com/MB_novel/status/1991426459739848959




