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第五十二話 花が、芽吹いたとき② 自身の強みでぶつかり合います



◆◆◆



 ────今日は、自分が五つの虚念(クィンク・ネブラ)に勝つことが出来る日。



「…………ッ!」



 この場で最も無力で危険のなかったはずの、眼の前の魔法少女が放った宣言。

 それを受けた五つの虚念、偏愛のカタチ『ルクスリア』は、露わした計算高さも併せ持つ本性のままに、まずは周りの状況に目を配った。


 シラハエルは当然として、少女が特に警戒したのは同じ五つの虚念の討伐経験もあるエターナルシーズだ。

 戦闘における直感に長け、実際真っ先に結界から出ることを狙っていた先程の彼女の行動は、自らが生み出した虚獣イドールムが消された今、“手段を選ばず”に止める必要性を感じざるを得なかった。

 そう思い首を回した先にあった彼女がまだ、結界から出ていないことを確認し────


「────さぁっ!」


 直後、先程の口上に続け、内に秘めた熱を放出するようにさらに口を開いた魔法少女、セレスティフローラ。

 思わずルクスリアが目を向けた、彼女が言葉を向けたのは虚念たる少女でも、コーチたちでも無かった。


「わたくしの五十年に一度レベルのくっっそカッコイイ口上は聞こえてましたわね、みなさまっ!

怒ったりとか怖がったりとか、いや~なお気持ちはここまでですっ!

見ての通り、本日はわたくし対ルクスリア様、アカデミー生同士のガチバトルッ! わたくしの頭がさっきのハンマーみたいな爆発を起こさない程度に、じゃんっじゃん魔力を送って勝たせてくださいませ~っ!!」



<うおおおおおお>

<いくぞおおおおお>

<LETS FxxKING GOOOOOOOO>

<セレスティフローラまじか、やれんのか>

<勝つぞおおおおおお>

<うーんこの直前との落差>

<配信間違えたかと思ったらちゃんとセレスティフローラだった>

<頭パーンなりますよ>

<さっきのカッコイイ子かえして>



「────ふはっ」


 セレスティフローラの言葉を聞き、思わず吹き出しながら、どかっとその場に座りこんだのはエターナルシーズ。

 これまで確実に結界から抜け出る機会を窺っていた少女は、そのプランの一切を捨て去り、周りの魔法少女たちにもその考えを伝えた。


扇動者(アジテーター)……って言うんやっけ。エッグいことなってるやろうコメント欄もアレされたら毒気抜けてまとまるわ。

……ウチは今から半端に配信つけて荒れた魔力分散させるより、あの子にいけるとこまで任せんのがええ思うけど、二人はどうや?」


 最も戦闘へのこだわりを持つ少女からされた提案に、他二人も同意の頷きを返し、その場にちょこんと座り込む。

 ここが戦場である以上、この場に留まる必要も座る必要も実のところ無かったが、その姿勢はセレスティフローラへの無言のメッセージとなった。


 ────手は出さない、頑張って、と。



「…………そう、他の子も、シラハも。本当にその子にたたかわせるんだね、わたしと。

……べつにいいよ、途中がちがっても、最後はかわらない」


 彼女たちの態度に、そうどこか諦観を漂わせる雰囲気でセレスティフローラに意識を集中させたルクスリア。

 少女はぐぐっと低い姿勢で構えて踏み出そうとし────


「────っ、ああそうだ。そういえばそうだったね」


 そういえば、と思い出した事実にわずか口を歪めると、まるで先程のセレスティフローラの意趣返しをするかのように、コメントに向けてとある事実を告げた。


「ねえっ! みんな知ってる!? 虚念のわたしが今の姿になったのはね、シラハが昔、一番大事にしてた人の記憶を読み取って真似したからなのっ!

シラハってば、わたしがこの姿だから虚念でも育てようってなってくれたのかもしれないねっ!

でもね、みんなが期待してるその子は、私が記憶を真似た人の“ホンモノ”の子どもで変身前はそっくりっ! シラハってば、どっちを本命にするつもりで戦わせてるんだろうねっ!」

「────っ!?」

「ちょおおおおぉっ!!?」


<ええええええぇぇ>

<なんて??>

<おいおいおいおいおいおいおい>

<え、ごめん情報量多すぎてわけわからん>

<このアカデミーどうなってんだ>

<実質過去の女を二人同時に育ててた……ってこと!?>

<虚念だし嘘言ってるだけじゃないのか?>

<このママ娘二人増やそうとしてたってマジ?>

<フローヴェール激怒中! フローヴェール激怒中!>

<おれが さきにシラハエルを すきだったのに>

<関係複雑骨折しすぎだろ>

<セレスティフローラのリアクション的にガチか……?>

<本命は記憶の子本人だったりしませんか?>

<詳しく……説明して下さい。今、僕は冷静さを欠こうとしています>


 唐突に情報を全開示(ブッパ)した少女に、初耳であるコメント欄は当然、さすがのシラハエルやセレスティフローラも度肝を抜かれる。



「ちょちょちょ、違いますわよ皆さまっ! っ、あ、いだだだっ!

別におじさ、シラハエル様が狙って光源氏計画キめたとかってわけではなくっ!! わたくしが隠して応募したのがたまたま────おわあぁぁっ!?」

「あっははっ! よそ見しちゃだめだよ、ホンモノさんっ!」


 いくら器が広がったとは言え、それでも膨大すぎる視聴者の魔力をなんとか統制していたところに、投げ込まれた巨石。

 再びかき乱された頭痛に苛まれながら、フォローしていた少女を襲いかかったのはルクスリアだ。

 小さな体躯ながら、先程倒されたイドールムとは比較にならない速度と勢いで振るわれた飛び蹴りを、セレスティフローラは染み付いた防御で捌きながらも野太めの悲鳴を上げる。


「…………やっぱうちもやったほうがええか……?」

「はやいよエターナルシーズさんっ! ちゃんと防げてはいるし、と、とりあえずはもうちょっと様子を……」

「ミリアさんも傾いてはいるのよね……にしても、あぁ~~……ママとあの子らの関係暴露されたの、後から反応見るの超怖い……どうなるんだろう……」


 どれだけ強くなっても、人間性がそういきなり変わるわけではないことを如実に伝えるような反応に、思ったより早く心配が勝ち始めたコーチ陣も置いて。

 ともかく、セレスティフローラとルクスリアの戦いは、本格的に始まったのだった。



------------



「────シラハエル殿ッ! 念話で状況は把握していたが皆は大丈夫かッ!」

「……コンジキ様。ええ、彼女が……セレスティフローラさんが頑張ってくださっています」


 少女たちの戦いが始まった頃、五つの虚念の奇襲に備えて各地に散っていたマスコットたちが、火急の事態にそれぞれの担当少女のもとへと駆けつける。

 その中の一体であるコンジキが戻ると同時シラハエルに伝えられたのは、コメントでも懸念されていた通り。

 他エリアの魔法少女による救援はすぐには期待が出来ないだろうという事実だった。


「最寄りの魔法少女でも時間がかかる上、そもそもあの結界に入らない距離から五つの虚念に有効打を与えるなど、それこそクラリティベル殿のような方でないと……

ていうかなんなんじゃあの、即時発動で配信遮断などというふざけた能力はっ! 初見殺し、魔法少女殺しにも程があるじゃろ、チートじゃチートっ!!

アカデミーが邪魔だと虚念が襲いかかるという話で、その虚念がルクスリア本人というのは当然わしらも想定していた事態の一つじゃが、まさかあんなもん引っ提げてくるとは……」


 来て早々目にした光景に、声を荒げたコンジキがはあ、はあと深呼吸をするところに、シラハエルは無言で頷き返す。

 その姿にコンジキは、今度は少し落ち着いた声色で言い含めるように彼に伝えた。


「……シラハエル殿。ぬしなら言うまでも無いとは思うが、この事態の責任はわしは当然、同意のもと動いてくれたアカデミーに関わる全体のものじゃぞ」

「……ええ、ありがとうございます。その上でこの後自分がやるべきことも……ここでしっかり見極めたいと思います。……今、アカデミーを背負って戦ってくださっているセレスティフローラさんのためにも」

「うむ……それで実際どうじゃ、彼女らの戦いの様子は」


 もはや多くを語る必要もないと、短く考えの共有を果たしたパートナーは、議題をこの場の主役たる少女たちに移す。

 その質問に対し、戦いを最も近くで観測していたシラハエルは少女たちに視線を戻すと、端的に返した。


「────現状、セレスティフローラさんがほんの僅か有利なまま膠着している、という状況に見えます。

自らの強みを、完全に活かして戦えているのが理由でしょうか……彼女は、目がいい」



 そのシラハエルの言葉に応えるかのように、ルクスリアの行動の“起こり”に合わせて逆に前に出たセレスティフローラが、振るわれかけた剛腕を流す。

 膂力で大きく勝る虚念の少女に、その力を十全に振るわせないために距離感を調節する、的確かつ巧みな防御術を見せていた。


「っ、こっの、たまに前に出たと思ったら結局守ってばっかりっ……!」

「そりゃ守りますわ~! あなた相手に迂闊に手出して、でかいのもらったら普通におっ()ぬって、見学したときから散っ々わからされてますわ~~!!」


<いいぞルクスリア苛ついてるこのまま勝ってくれ>

<マジで防御上手くなってるな>

<防げてるけど敵の勢いやっぱ怖いな>

<フローヴェール見てるみたい、ようやっとる>

<虚念マジで許せない、倒してくれよ>

<バカ力の相手正面からすんな…>


 焦れたように言葉を吐くルクスリアに対し、返したセレスティフローラの言葉通り。

 彼女たちの戦いは概ね虚念のフィジカルにあかせた激しい攻撃に、セレスティフローラが的確に防御し、細かい反撃を刻むという流れが続いている。

 先ほどカウンターから一気に撃退出来たイドールムのような、大きな隙を晒さないルクスリアに対してのそれは決定打には程遠いものだが、それでも少女がストレスを感じるには十分なものだった。

 戦況を改めて分析したシラハエルは、隣のコンジキに伝えるため口を開く。


「コーチングを開始した早期から感じていたことですが……セレスティフローラさんは、相手の表情や強みを測る観察眼というべきものを持っています。

その長所は、魔法少女となる前は自身への視線も敏感に感じ取り、萎縮させる要因となっていたかもしれませんが……

自他ともに力量を正確に読み取る力は、ルクスリアさんという強敵を相手に、堅実かつ慎重に立ち回れる理由の一つとなっているようです」

「うむ……最初を考えると本当によく頑張ってくれておる……ちょっと泣きそう。……しかし、あそこまで善戦出来ておる理由はそれだけではなさそうじゃが」


 すでに若干感極まりながらも冷静に指摘したコンジキにええ、と頷くとシラハエルは今度は別の観点から分析を続けた。


「もう一つ……コンジキ様がおっしゃったように、彼女が放ったこの結界は反則レベルの代物です。

が、さすがに彼女もこの権能を維持し続けるために、かなり多く力を使っているように見えます。

先程倒された虚獣も彼女が生み出したもののようですし、それらに力を使った代償と、セレスティフローラさんに注がれる過剰魔力。双方相まってこの膠着状態となっているのでしょう」

「なるほどのう……とはいえ、じゃ」


「────っ」


 納得を見せたコンジキがそれでも、と言葉に危惧を乗せて一度切ると。

 それに呼応したように、一段と醒めた表情になったルクスリアが、ゆっくり深く息をつく。


「…………ごめんね、シラハ。本当は自分だけの力でやろうとしたけど……“やっぱりゆるせない”から、わたしもつかう」

「……??」


 そして、自身に言い聞かせるようにか細く呟いた言葉に、セレスティフローラが疑問符を浮かべるのを見ながらルクスリアは、低い姿勢で顔を伏せると。


「五つの虚念……いや、ルクスリアがこのままで終わるとは思えん」


 コンジキの呟きが後押ししたように、ブオンッとその場からかき消えた。



「はっやっ……! でも、わたくしもっ……!」


 エターナルシーズや、獣の本性を発揮したシラハエルの動きにも通じるような少女の動き。

 さらに速度を増し、弾丸のごとく突貫する少女にも、セレスティフローラは冷静に対処しようとカウンターの構えを取る。


「『筋力まかせじゃなく、うごきを見て力をつかいわける』、『脚をそろえず体勢ちゃんとする』っ!」

「いっ……!?」


 が、虚念が自身に言い聞かせた言葉の通り、速さ以上に巧く、そして無駄なく切り返した小柄な身体は、セレスティフローラのレイピアに一瞬行き場を失わせ────


「く、らえぇっ!!」

「うぼぇぇぇっ!!?」


 滑り込ませた身体の勢いのままにセレスティフローラの胸元にラリアットをぶち込んだ。

 技術と速度、そしてセレスティフローラに無い荒々しさを備えたルクスリアならではの一撃。

 それは、装った口調にあるまじき踏まれたカエルのような叫び声を相手にあげさせ、地面にクレーターを作る勢いで仰向けに叩きつける。


<うわあああああああ>

<大丈夫!?>

<お嬢様キャラが出しちゃいけない声したけど>


「っ、どう! わたしだって────ッ!?」


 これまで防がれ続けた鬱憤を晴らすかのような、会心の手応えに吠えようとしたルクスリア。

 しかし、その少女の視界に次の瞬間飛び込んできたものが、ばちばちと白い魔力光を放つ“レイピアだったもの”であることを認識する、と。

 ドォォォンッと、イドールム撃退時に近しい爆発が、容赦なく虚念を襲った。


「いったぁっ……! ぐっ……こ、のぉっ…………!!」

「げほっげっほぉっ! ふ、ふふふっ! “転んだときこそタダじゃおかない”っ! エターナルシーズ様流の泥臭カウンターですわ~っ!!」


 ラリアットを受けると同時、武器に魔力を注ぎ込んで手放していた少女が、爆風にまみれてごろごろと転がり出ると、起き上がって笑う。

 吹き上がるような異常な魔力量で抑えられていても、当然無視できない程度のダメージは少女に入っている。

 が、それをおくびにも出さず強がる様には、一瞬心配に傾きかけたコメント欄も再び盛り上がりを見せた。



「……途中、迷ったり悩んだりすることはあれど面接時からブレないああいうところ、やっぱり心が強ぇ魔法少女って見立てはあっていたのう……

しかし、ルクスリアがアカデミーの教えもちゃんと活かした戦いをするとなると、想像以上に簡単にはいかぬかもしれぬ。

リスナーからすれば、アカデミーが敵に施しを与えたような意見が出る可能性もあるがシラハエル殿、それはあくまで結果────」


 そう、コンジキが示した懸念。

 もしかしたらルクスリアの戦いぶりに、相方が改めて責任感……あるいはそれ以上の絶望を覚えているかもしれないと考え。

 フォローの言葉を吐こうとした口を、思わず途中で閉じる。



「…………いいえ、ありがとうございますコンジキ様。

……彼女たちを見て、アカデミーを興したものとして自分が、この後すべきことが……分かってきたような気がします」



 顔を向けた先にあった魔法少女シラハエルは、真剣な表情で見守りながらも……不思議とどこかほっとしたような救われたような。

 そして何より、ある種の覚悟を決めた力強い眼差しをしているように、コンジキには思えたのだった。



◆◆◆



明日も投稿予定ですわ~~

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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 教えられたことはきちんと活かしつつ、泥臭いことも厭わない……あれ?今のフローラちゃんってガチで伸び代しかない状態? 無論バフありきの奮闘では有るんですが、それを抜いてもアカデミー…
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