第四十四話 花が、芽吹くまで⑤ 適度な負荷に立ち向かわせます
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「そう、防御を第一に考える時は、足を肩幅に開いて片足を引いて半身を基本とするの。
受ける面積を限定して、そこへの攻撃を弾いたり魔力を集中させたりすれば効率よく守れるってわけね」
「なるほどそんな意図が……なんか騎士っぽくてカッコイイってアレじゃなかったんですのねっ……ハンミ、ハンミ……」
<ガキが……真面目だな>
<先に構え染み付かせてから理論で補強するのね>
<配信的にはカッコ良さも強さではある>
「はい、今見せたみたいにゆ~~~っくり魔力弾を飛ばすから、あんたもゆ~~~っくり魔力を練って受け流す。
力任せに弾くんじゃなくて、ちゃんと魔力の流れを見極めて最適の量で流すこと。ゆっくりでも当たったら普通に痛いから最後まで集中っ!」
「ゆっくりなら余裕って思ったけどずっと魔力出し続けるのめちゃんこきついですわ~~! これなら早い方がマシですわ~~~!!」
<ゆっくり時間かけて型をやらされたの思い出した あれきっついんだよな>
<ふよふよ動く魔力弾かわいい、多分威力はかわいくない>
<なんか俺でもできそうなんだけど>
「防御はね、もちろん大事なんだけどそれだけだとあまり意味が無いものなの。
理想は防御行動でそのまま相手の体勢を崩したり、視界を遮ったりして次の反撃を当てる布石にすること。
というわけで、ここからはこれまでの攻撃パターンに対し、最適な反撃が出来るまで何度でもやるわよ」
「あの~~~?? 反撃に気を回したら、あんなに慣れたはずの防御の仕方も忘れたんですが何が起こってるんですの~~~!?」
<草>
<格ゲー中の俺か?>
<1…2の…ポカン! セレスティフローラはぼうぎょのしかたを きれいにわすれた!>
理屈立てた解説と言う名の座学、痛みも伴う攻撃への具体的な対処、より実戦的な反撃を見据えた指導……
フローヴェールの防御コーチングは日を追う事に順当に、妥協なく行われ続け。
そして、しばらくの時が経った。
「いい感じ……? でもまだまだ……っ、だってルクスリア様はシラハエル様と今頃、もっと……」
その日、コーチングの場へ着いた少女は、そう呟きながらチラリと目を向ける。
目線の先にあったのは、配信開始を今か今かと待つように揺れているルクスリアと、彼女のそばで固く真剣な表情をしているシラハエルの姿だ。
……以前見学してからも、チェックを欠かさずにおいたコーチング配信上のルクスリアは、大きく力こそ増したわけではないにせよ、その分使い方を安定させてきているように思えた。
周りの信頼も日増しに勝ち得ており、今はもはや彼女が虚念であることを懸念するコメントはほとんど見かけない。
その、何でも出来る器用さは持たないにしろ、圧倒的な強みを活かして立ち位置を確かなものにするルクスリアの姿。
それはまるで、少女が憧れた理想の男性……あるいはそれに並び立てると思った存在かのように見えて────
「────よりにもよって、あの姿で……? そんなの……っいえ、関係ないっ!」
心によぎった暗雲ごと振り払うようにぶんぶんっと頭を振った少女は、なんとか気を取り直そうと息をつく。
セレスティフローラの現状を見れば、与えられる課題の難易度も相応に上がっているがなんとか食らいついて行けている……間違いなく上手くなってきていると言っていい。
だが自身も、そしておそらく見ているリスナーもそんな風に思ってくれているはずという手応えと、やはりそれ以上に感じる何かに胸を焦がしていると。
「あ、フローヴェール様っ! 本日もご指導よろしくお願い……します、わっ……?」
「…………っ」
コーチングの場ですでに待っていたフローヴェールを見つけ、いつも通り挨拶を返そうとして……彼女の表情がいつになく緊張にこわばったものになっていることに気づいた。
「────今日は次の段階に移るわ。今回は失敗したら……本当に痛い目じゃ済まないかもしれないわ、気を引き締めなさい」
「ぅ……の、望むところですわ~!」
その表情の意味を、直後にかけられた脅すような言葉により理解させられたセレスティフローラは、背筋をぴんっと伸ばす。
特に観察眼に優れ、ギリギリを見極めて指導するフローヴェールという少女は、的確だけに厳しい存在として彼女たちもリスナーも認識していて。
そんな彼女が言うからには危険が伴うというのも、誇張表現ではないだろうと予想が出来たからだ。
(防御の練習で危険がある……ということはやはりこれまで以上の激しい打ち込み……魔力弾の破壊力を大きくあげるとか……?
いえ、もしかしたらそれ以上、虚獣との実戦に乗り出す可能性すらありますわねっ……出来る、のでしょうか……わたくしに……っ)
そう、少女が想像しながら覚悟を固めていると、フローヴェールは少女の方────ではなく、シラハエルとルクスリアの方に向き直ると。
怪訝な顔をする生徒を置いて、声を張り上げた。
「シラハエルさん、いいですか!」
「はい、向かいます」
「んぅー?」
「え……え……?」
<なんだなんだ>
<コーチング前のミーティング? 配信しながら?>
<みんな顔がいいからずっと集まってていいよ>
すでに配信をつけている状況で発せられた、緊張感ある呼びかけにならうようにシラハエルは返事をし、そばに居たルクスリアとともに歩を進める。
そうして眼の前で向かい合った四人のうち、ルクスリアとセレスティフローラ……そしてコメント欄は事態についていけず困惑を覚えた。
が、そんな様子にも構わずフローヴェールは、一つの提案をする。
「シラハエルさん、そしてルクスリア……さん。今日はこの子、セレスティフローラの防御の技術を仕上げたいの。
……それには同期であり彼女がこの先戦う敵、虚獣に近い特性を持つルクスリアさんの攻撃が適任だと思うわ、手伝ってもらえるかしら」
「い…………っ!?」
「ふむ…………」
「……………………」
<えええええ>
<いやいやいやいや>
<クィンクネブラの攻撃防がせるマジ? 手加減するんだよね?>
<防御上手くなってるけどさーすがに?>
<死ぬ 死んでしまうぞセレスティフローラ 鬼になれ>
驚く、思案のポーズを見せる、内面の掴めない表情でただ聴く。
フローヴェールのセリフに三者三様が反応を見せたあと、最初に口を開いたのはシラハエルだった。
「それは……どうでしょう、ルクスリアさん。あなたはどう思いますか?」
「…………んん~…………」
(え…………?)
了承するでもなく、どちらかという困惑の色を滲ませながら傍の少女へと委ねたシラハエルの姿を見て、セレスティフローラは直前の衝撃とは別の困惑に支配される。
これまで見てきたシラハエル、そしてフローヴェールの思慮深さを思えば、当然コーチングの内容などはきっちりと決めていて……
今回のひと目で無茶とわかるような課題も、相応の準備や勝算があって行うものだろうと信頼……または安心しきっていたから。
(さ、さすがに……ですわよね……? いや、いけるって判断……? 五つの虚念の攻撃相手に……わたくしが……??)
だが、今初めて聞いたという反応とともにルクスリアに意見を問うシラハエル、そして提案したフローヴェール双方から感じるのは、これまでとは違うアドリブの空気。
その様に、直前にフローヴェールが言い放った『本当に痛い目じゃ済まない』という言葉が警鐘とともにガンガンと少女の頭を駆け巡る。
「さて、どうじゃ……? ルクスリアはどう返す……?」
遠巻きにその様子を見守るマスコット、コンジキがぼそりと呟いたセリフが、緊張に顔を歪める少女に届くことは、なかった。
────当然。
教師役たる二人は、彼女が心配しているようなその場の思いつきでこの案を出したわけではない。
防御指導が順調であることを見越し、少しでも実戦的かつ緊張感のあるシチュエーションでセレスティフローラに課題を与える……
いずれ訪れる虚獣との命賭けの戦いに向け、この課題の意義は非常に大きいと彼らの見解は一致していた。
ただ、それと同じくらいこの課題で重要なのは、現在シラハエルとコメント欄に興味が偏りすぎているきらいがある虚念の少女、ルクスリア。
これまでシラハエルが付きっきりでコーチングしていたことで、力を制御できるよう促していた少女だが、なんとか他のものへと目を向けられる機会も作っていきたいと考えていた。
その一歩として、あえてフローヴェールが思いついたという体の課題をシラハエルに否定も肯定もさせず、ルクスリアに判断させるというステップを踏んだ……
つまり、同時に二人の生徒に別方面での負荷を与える選択をしたのだ。
そういった経緯もあり、彼らとの話し合いに参加し流れを知るコンジキ、シラハエル、フローヴェール……彼らは皆、半ば祈るような想いでルクスリアの答えを待ち続けていた。
「……………………」
彼らの思いなど知るよしもなく、突如湧いてきた混乱と緊張の極地にあったセレスティフローラ。
そんな少女をほんの僅か一瞥すると、ルクスリアは今度は真っ直ぐシラハエルと目を合わせて無表情で佇む。
どうするんだ、いけるのか、と当然の心配を見せていたコメント欄も、彼女の長い沈黙に焦れ始めたあたりで……ようやく、虚念の少女は口を開いた。
「────うんっもちろんいいよっ! わたし、役にたてるようにがんばるから、見ててねっ!」
「…………っ、承知しました、ありがとうございますルクスリアさん。それでは、攻撃方法についてですが────」
……まるで、そうすることが正解だと知っているかのような、恐ろしいほどにこやかで好意的で真っ直ぐな返答。
それに一拍、何かをこらえるような間を置いて返したシラハエルが話を進めようとした、その直後。
「それなら、見てみてシラハ、みんなっ! わたしね、こういうことも出来ちゃうよ!」
どろり、と。
影がまるで形を持ったかのように、彼女の両足から圧力を伴い、黒い魔力の塊が這い出す。
白羽と出会い、今の少女の姿となる前の泥にもよく似たそれは、這い上がりながら形をどんどんと整えると、出会いの当日、白羽に対し襲いかかってきた虚獣のうちの一体と同じ形となって現れた。
「ぁ、う……!」
「こんな、ことまで……これが虚念ってこと……!」
突如湧いて出た異物に覚悟を決めようとしながらも気圧される生徒、想定と異なる流れに万が一に備えた構えを見せる騎士の少女。
「ちゃんとてかげんしてあげてるから、みんな心配しなくてもたぶん大丈夫だよっ。じゃあ、この子に攻撃させるから見ててね、シラハ────
…………むぅ、“そっち”から見るの?」
そして、そんな二人の間に平静な態度を崩さずに入ったのは、これまでルクスリアの傍から離れていなかったシラハエルだった。
偏愛対象の態度に当てが外れたとばかりの表情を見せるルクスリアに、あくまで平常通りに彼は返す。
「ええ、これまであなたの技を見る時はすぐ横や後ろで教えていましたからね。今回は受ける側としてもしっかり見させていただきますよ」
「…………まあ、いいけどー」
(……上手いのう)
シラハエルの言葉に返すルクスリアの反応を見て、外から見守るコンジキは一人、内心で呟いた。
(フローヴェール殿と相談し、ルクスリアの情緒形成も兼ねるこの課題を思いついたときから、白羽殿が攻撃指導をする際はルクスリアの傍で行うことを徹底していた。
それは不安定な彼女を近くで見守ることはもちろん、このタイミングでセレスティフローラ殿の方に回ることに不平不満を感じさせない理由付けも兼ねておる。
この立ち位置ならもし攻撃を防げないと判断したなら、フローヴェール殿とともに容易にフォローすることが出来るじゃろう)
難しい負荷を与えながらも、可能な限りリスクを抑える立ち回り。
それが予定通り推移していることに胸をなでおろしながら、コンジキはルクスリアに視線を向ける。
「もういいよね? じゃあいくよ。やっちゃいなぁ~っ」
「…………」
そして虚念たる少女のどこか気の抜けたような声が響いたと同時、けしかけられた生成虚獣がぐぐぐっと自身の胸の前に両手のひらを移動させた。
そのまま、まるで大きな粘土をこねているかのような動きをするとともに、練られた魔力が急速に膨らみ、強烈な破壊圧を周りに撒き散らし始める。
……その間、ルクスリア本人が見ていたのはこれからその攻撃を向けるセレスティフローラ……ではなく、未だシラハエルの方だったことに気がつき眉根を寄せたのは、この場では見られた本人だけだ。
「────っ!」
ともあれ、片手間のように振りかざされたものとはとても思えない、強烈なエネルギーの塊。
それは、実戦経験のない少女に『今すぐその場から逃げ出したい』という原始的な欲求を抱かせるには十分すぎるものだった。
「……大丈夫です、セレスティフローラさん。
直接自分から指導出来たことは少なく、不安を覚えているかも知れませんが、あなたがちゃんと強い魔法少女へと至れていることを、自分はちゃんと見ています。
自信をもって、これまでを思い返して立ち向かってみましょう。仮に失敗しても守ります、大丈夫です」
「で、でもっ…………ぅぅ…………! い、いえっそう、ですわね……は、はいっやります。やって……みますっ!」
が、後ろからそっと支えるように伝えられた力強い言葉に背を押され、彼女はその本能に抗おうと地面を踏みしめる。
この短い受け答えの中で、彼女の中でどれほどの葛藤があったのか、ぎりっと歯を軋らせ覚悟を決めた少女は半身の構えを取る。
フローヴェールに叩き込まれたそれは、コーチング開始前からは想像も出来ないほど無駄なく、堂に入った構え。
<おお>
<怖い怖い怖い>
<いけるのかセレスティフローラ>
<落ち着いて やれるぞ>
<構えちゃんと出来てる>
<がんばれえええええ>
(そう、そうだっ……!)
脳裏に流れているコメントのように、“こんな自分”に期待してくれている人たちは今、確かにいる。
────ああ、任せとけ。…………一緒につよなるで、あんたも、うちもな。
────期待してるんだから、しっかりやんなさいな。
────自信をもって、これまでを思い返して立ち向かってみましょう。
コメントだけじゃない、これまで導いてくれた尊敬する人たちの言葉。
それが“こんな自分”でも出来る、と言ってくれている……支えてくれている。
だから、今自分がやることはたった一つ、みんなを信じて出来ることをいつも通り、限界以上に頑張ってやるだけ。
そう心で強く念じた少女は、眼の前の壁に立ち向かおうと魔力を練って自身の武器を生成する。
アカデミーで師事する前はまだ形になっていなかった彼女の“今の武器”は、魔力の花で形作った、フローヴェールを彷彿とさせるレイピア。
素直な彼女は、直前で師事し影響を受けた相手にあわせた武器生成という技術を、これまでのコーチングで身につけていたのだった。
(大丈夫、だいじょうぶっ……! こんなことも出来るようになったわたくしは、すごい人たちに期待されている……っだから、やれるっ……!
やれなきゃおかしい……!)
そうして、彼女はこれまでの自分を形作った全てを込めて、ぎゅっと握ったレイピアを突きつけ────
────芽吹さんってさぁ……『口ばっかり』だよね。
「っ、ぅ、ぁあああアアアァッッッ!!」
「……っ!!」
「ッ!?」
心に巣食う言葉がよぎったと同時、少女の内部からこれまでのコーチングで見せていたものとは段違いの、多量の魔力が放出される。
多数のリスナーの魂という後押しも受けたそれは、目前に迫る攻撃にも近しいほどの密度を誇っていた。
<うおおおお>
<いいぞおおおおお>
<いけえええええ>
<こんな魔力出せたんだ>
(────違うっ! 明らかに魔力を出しすぎている……! こんな量じゃなくても防げるようになってたのに、なんで急に……?)
普段からかけ離れた精神状態を感じ取り、盛り上がるコメントと正反対の冷たい汗が流れたフローヴェールは動こうとする……が。
同じく険しい顔で後ろから見るシラハエルが、いつでも動ける姿勢ながらまだ止めるには至っていなかったことから、なんとかその足を踏み留める。
魔力が足りないわけではなく、多すぎるというだけなら防ぐことへの危険は少なく……何より、ここで少女が虚念の攻撃を防ぐという成功体験は、なんとしても積ませたいという判断からだ。
「あぁぁぁあぁあッッ!!」
「────っ!」
そうして、多量の魔力を帯びたレイピアが魔力光と衝突し……それでも、素直な彼女はこれまでに染み付いた動きをかろうじて忘れず、教え通りに受け流す。
少女本人は当然、近くのフローヴェールとシラハエルも巻き込まない形で後ろへと流された魔力は、そのまま霧散し消えていった。
これにはシラハエルだけを見ていたルクスリアも、ぴくっと身体を跳ねさせて意外そうな目をセレスティフローラに向ける。
(やったっ、えらいっえらすぎっ……! 魔力は殆ど使っちゃったけどちゃんと防げたっ……! これなら彼女もきっと────)
目にした生徒たる少女の成長にガッツポーズを取ったのはフローヴェール。
もはや変身を維持する魔力すらぎりぎりというぐらいに使ってしまった、という課題こそ残ったが、なんとかなったと横のシラハエルに視線を向け。
シラハエルもそんな彼女と目を合わせると、小さくこくり、と安堵を隠さず頷いた。
その、直後。
「ぼ、防御、したらは、はん、げきっ……!」
「あっちょっ」
────防御はね、もちろん大事なんだけどそれだけだとあまり意味が無いものなの。
素直な……どこまでも愚直な少女は、フローヴェールの教えを忠実に守り、さらに残った全ての魔力を練り上げる。
止める間もなくレイピアの先から打ち出されたのは、搾りカスがごとき魔力弾。
それはへろへろと宙を泳いで、眼の前の生成虚獣の胸に当たるとぽんっと消えた。
「……………………っ」
そんな一連の流れを見ていたルクスリアは、面白く無さそうな仏頂面でパチンッと指を鳴らし……瞬間、役目を終えた虚獣は弾けるように派手に消散したのだった。
<うおおおおお>
<がんばったあああああ>
<セレスティフローラはワシが育てた>
<普通の虚獣と比べてもかなりの攻撃だったよな……?>
<最初あんなだった子がこれ防ぐのか、コーチングすげーな>
<ルクスリアちゃんもありがとー>
「…………ぐきゅぅぅぅ~……っ」
ルクスリアによる演出の後押しもあって、見た目にも分かりやすい派手な成功に沸くコメント。
それらにも構う間も無くシラハエルたちはパタンっと、うつ伏せになりながら寝転がった少女の様子を気遣おうとする。
そして、間の抜けた声がセレスティフローラからあがると同時、彼女の魔法少女体が淡い光に包まれた。
「……ぁっ…………!」
「────っ、配信を切って!」
「あ、あ、そうか、切るわっ!」
それを見て即座に配信システムをオフにしたシラハエルから声がかかり、遅れてそれにならうフローヴェール。
この攻防で完全に魔力を失い、こちらは自動で配信が切られたセレスティフローラから、光が消えだしたのはすぐのことだった。
……魔法少女シラハエルの元の姿が知れ渡っているように、元の姿やプロフィールなどは開示可能な情報となっている。
が、だからといってこの大人数の前でいきなり元の姿を晒すことにリスクが無いわけはない。
ましてや今回の変身をする前を見ているわけではない以上、元のどんな格好が映ったりするか分からない、とシラハエルたちは視聴者の不満を覚悟の上で閉じざるを得なかったのだ。
「…………っ」
そうして、なんとか完全に無防備となって横たわる様を、衆目から守ることが出来たフローヴェール、シラハエル……そして、その横から覗くルクスリアが見守る中。
セレスティフローラはシラハエルも把握していない、変身前の姿を彼らの前に晒すことになり…………。
「………………な、な……ち、千景ッ……!? い、いや、違う……ッ!?」
「…………は……? なんで……?」
ルクスリアが現れたときと違い、配信外ということもあり今度こそ抑えきれなかった彼の言葉と……そして偏愛の本気の困惑が表す通りの。
「────あ、あはは……バレ、ちゃいました…………」
白い髪、涼しくも少し眠たげな目元、白い肌を清楚な服装で包んだ、彼の思い出の中の少女……
そしてルクスリア自身にも瓜二つな、そんな姿が小さな身体を起こし力なく……どこか恥ずかしそうに笑ったのだった。
「……といっても、本気で隠していたわけじゃないのですけど……えっと、はじめまして、おじさま。
わたくしは、新雪 芽吹。……おじさまの知る、新雪 千景は……わたしの母、ですの」
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