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第三十一話 今日は、四季が織り巡る日 後編


★★★



「────はっ……」

「うお、起きるの早すぎだろめぐる……って、身体起こそうとすんな、寝とけバカ!」


「おぉ……あれだけの激闘を終えてすぐ目を覚ますとは。

タフって言葉はエターナルシーズ嬢のためにあるのう」


 次にうちが目を覚ましたのは病院────とかではなく、まだ慌ただしく人が右往左往する、さっきまでの戦場。 

 どうやら時間としてはほとんど経っていないよう。

 と、言うことは当然、うちのダメージもまだまだそのままってことで。


「……言わ、れんでもさすがに起きれんわ……やー……負けた負けた……

最後の、エグかったなぁ……ふひ」

「ふひ? ……まあそれなら無理せず休んどけ、担架ももう来るから病院で検査な。

全くいくらお前でも無茶しすぎだ、限度とか自重ってものをだな……」


 マスコットにしては荒い口調のくせに、相変わらず常識的な説教をくどくどと始めたセキオウ。

 せっかくのええ気分に水を差されたくないうちは、これはまずいと話題を変える。


「とこ、ろで……インヴィディアの、やつは………?」


 そこで気になったのは、本来の敵やった過去最大の強敵、五つの虚念(クィンク・ネブラ)のインヴィディアのこと。

 うちから吐き出されてシラハエルさんにやられてたのは見たけど、やっぱり……そう思ったうちに対して、セキオウは少し気まずそうな顔をすると、横を指さした。



「………………きゅぅぅ……」


「────ありゃ。…………ふふ、そか、そか」


 そこにあったのは、どこからか用意されていた透明な瓶に詰められて、目を回しているヘドロっぽい本体の姿。

 倒されれば粒子となって消える虚獣やけど、完全に倒しきらなかったなら捕獲することも不可能じゃない。

 普通の虚獣やと意思疎通出来ないわそもそも力強くて危ないわで色々と無理があったが、考えてみればなるほど、無力化出来たなら捕まえて色々聞いた方がええに決まっとる。


「なんだ、『トドメ刺せや! ミキサー入れたれや! うちがやったるから出せぇ!』とか普段みたいなこと言わねえのか?」

「ド失敬、やなあ…………ええ、よ、別に、これで」

「…………? なんか、変わったか……?」


「────エターナルシーズさんっ!」


 と、そんな話をセキオウとしていると、関係者とのやり取りに追われていたっぽいシラハエルさんが、うちが起きたことに気づき走ってきた。

 また『さん』付けに戻っていることは一瞬だけ不満やったけど、“素”の本能むき出しのときだけ呼び捨てっていう特別感もそれはそれで……よしってことで引っ込める。


「おつかれ、さまですわ……シラハエルさん……いや、全部ぶつけて負けたんやから……『ご主人様』とか、呼んだほうがええ、ですか……?」


 うちの強がった軽口に勘弁してください、と返すシラハエルさん。

 彼の方もさすがに疲れはあるが、体調は問題なさそうやった。


 そして、シラハエルさんがうちに掛ける声は、普段通り……いや、それ以上に心配が色濃く出ていることにうちは気づき。


「それより、お身体は大丈夫ですか? どこか痛いところは? 自分は────」

「待った、シラハエル、さん……謝ったりは、絶対、無し、で」


 身体が動かず、喋りも怪しいながらに、できるだけピシャリっと止めるようにうちはそれを口にする。


「────────ええ、もちろん、もちろんです。

自分が言いたいのは……そうですね、エターナルシーズさん、本日は本当にありがとうございました。

今日というこの日、自分が得られた経験と学びは……言葉では言い表せないほど、大事なものでした」


 が、シラハエルさんはさすがやった。

 ……そう、この場で必要なのはやり過ぎじゃなかったかだとか、そんな心配やない。

 どう考えてもうちもシラハエルさんも、あの場で出来るベストを尽くせて、うちらはちゃんと勝利したんやから。


「ひひ……そ、いえば……魔法少女としては、うちのが先輩、でしたわ……

まあ、後進のためなったるのも、先輩のつとめってやつ……ぅ、げほっ!」

「と、担架来たな。もう無理に喋るな、寝とけ。

コンジキにシラハエル、慌ただしくてわりぃが今日は……」


 セキオウのセリフに、コンジキさんやシラハエルさんも同じ気持ちとばかりに頷くと、うちは救急車に運ばれる。

 ほんまはもう一つここで言いたい話もあったけど……まあ、それは次でもええかと切り替えたあたりで、再び意識が暗くなっていくのを感じた。


 ……それならば、今。

 この場でうちはどうしても、ちゃんと確認しておきたいことがある、とシャットダウンされる前に一つの頼み事をした。


「セキ、オウ……ちょっと……うちのスマホ、操作して……見えるように、してくれる、か……?」

「スマホ? あ、ああ分かった、親と通話するか? それとも────」


 スマホを取り出し、寝転がるうちの前に持ってきたセキオウ。

 意図を図りかねたパートナーの問いに、うちはいや、と返事する。


「今日……の、配信……アーカイブ、出来てるやろ……それ、見せて……早送りで……」

「な……いやいや、負けた反省とかならあとでいいだろ!」


 これまでどんな戦いでも、勝ちにこだわっていたうちを知るセキオウも、さすがに今じゃないだろう、と当然のツッコミを入れるが。

 うちにとっては()()()()()()()ずっと大事なことがあった。


「ええ、から……そう、早回しして……そう、そのへん……そこで、止めて」


 うちが、今この場で見たかったものは。

 

『けほっ、ん、な────がっはあぁッ!!?』


 うちが、獣のようなシラハエルさんに荒々しく踏み潰されて苦悶をあげている……

 普通の人間ならまず目を背けるような、そんな暴力的な一幕やった。


(ふへ……やっぱ……夢やなかった……────)


「お、おい、これでいいのか、本当に?

おいなんだその顔、どういう感情なんだ、おい! やっぱり頭でも打ったんじゃ────」


 さっぱりわかんないというセキオウの声を聞きながら。

 安心したうちの意識は、今度こそブラックアウトしていった。



------------



「あ、誘ってくれたアカデミー的なやつの話ですけど、うちやりますわ」


「────っ」


 後日、自覚できる範囲ではとっくに完治してはいるが、虚獣が乗り移ってたり色々あったんで一応ってことで入院していたうち。

 そんな所に、わざわざお見舞いに来てくれたのはシラハエルさん……もとい元の姿の高司 白羽(たかつか しらは)さんや。

 彼に対し、挨拶もそこそこにうちが放ったこのセリフに、真面目そうな大人の男性は目を丸くしながら閉口した。


 出会ってから度肝抜かれてばっかやったけど、ようやく不意打ちのお返しできた、と少しだけ満足げなうちに、セキオウと白羽さんは問いかける。


「めぐる……お前」

「それは……よろしいのですか、エターナルシーズさん、あなたは……」


 『みんなで強くなって虚獣退治なんかしてほしくない、このままずっと虚獣に自分をぶつける日だけが永遠に変わらなければいい』

 そう考えていて、実際口に出していたうちの心変わりに心配の声が掛けられたけど、うちはええんです、と返した。


「虚獣に対して……甘く考えてたのはうちの方でしたわ。

五つの虚念……あんな脅威おるって理解(わか)って、なんもせんままっていうのも悪いしな……ただ」


 ただ……その上で。

 戦闘モードが終わった、元の四季織巡の……少しだけ、弱いところが顔を覗かせる。


「ただ、いきなり……知らない魔法少女見るのは……まだ無理です、すんません」


 うちは今回シラハエルさんに救いに救われて、色んなことを知れたけど。

 それでも、これまで見てきた他の魔法少女への不信感が、完全に拭えたわけではない。


「だからえっと、シラハエルさんはうち以外にも講師にしようって思ってるちゃんとした人、いますよね?

なら、その子らにうちの戦い方教える……講師の講師になら、なれます。

”シラハエルさんが信じた子”なら、うちも……きっと信じられます」


「…………! はい、承知いたしました。

……本当に、ありがとうございます」


 そう、これがうちが……今の四季織巡が絞り出せる、精一杯の勇気。

 うちがやっと返せた受諾の言葉に何度も頭を下げた白羽さんをなだめて、少し世間話をした。


 そうして、今。


 多忙ってことで名残惜しいながらに彼に帰ってもらった今、病室にいるのはうちとセキオウの二人。

 うちがふぅー……と落ち着きながら息をつくと、セキオウは安心したような声をかける。


「よう、今度は変な感じで終わらずに済んだじゃねえか。

そうか……あの戦い、最後は負けはしちまったが。

全部をぶつけるような戦いって望みは叶ったから、ようやく満足できたってこったな」


 うちの態度にうんうん、と腕を組み頷くマスコット。

 これまでうちが抱えていた、一人で永遠に戦い続けていたいという呪いにも似た願いから、ようやく前が向けたのかと喜んでいるようだった。


 ……そんなセキオウに対し、うちは無言で微笑みかける。


「────────」

「…………な、なんだ、なんだよその妙な笑みは」


 これまで見たことがないかもしれん笑みを見せるうちに、またもどういう感情なのか分からない、と困惑を見せるセキオウ。

 ……うちは、ゆっくり溜めてから口を開いた。


「……そうやな、セキオウの言う通りうちの望みは叶った……いや。

もっと正確に言うと、本当の望みに気づいた、というべきやろうか」

「ほ、本当の望み……? な、なんだよそれは……」


 すでに嫌な予感を覚えているのか、つまらせながら返すセキオウを置いて、うちはスマホを操作した。

 立ち上げたのは、動画再生アプリ。

 アプリで開いたのは、目が覚めてから即、保存した前回の試合のアーカイブと、その一幕のクリップだ。


『けほっ、ん、な────がっはあぁッ!!?』


「気絶する前にも確認してた、お前がやられてるときのクリップ……な、なんでそんなものを……」

「うちね、理解(わか)ってん。理解(わか)っちゃってん」


 いよいよ困惑に支配されている相方に、うちは静かに。

 ……たどり着いてしまった、悟ってしまった境地を教えることにした。


「生まれたときからいろんなもん持ってて。

どんなに努力して手に入れたつもりのもんでも、『金持ちだから』とか『才能あるから』だとか言われてずっと、ずっと浮いてた四季織巡。

そんな子が本当の本当に求めてたものは……全部ぶつけた先にある、“これ”やったんや」

「これ…………?」


「こうやって信頼できる人に全部ぶつけて、その上で言い訳しようもないぐらい負けて……いや、めちゃくちゃに殴られて足蹴にされてボコられて。

『お前なんぞ大した事ない、どこにでもおるしょうもないガキ一匹や』って、理解(わか)らせられること。

天使みたいなシラハエルさんのちっちゃい脚で、内臓潰れるんちゃうかってぐらい踏みにじられて……うちは、初めて気づいたんや…………」


 うちが、多分恍惚とした表情で言ったセリフ。

 そしてその後、「はぁ……ご主人様…………」なんて呟いた声を聞くと。

 セキオウは「ま、まずい!」と口に出して食って掛かる。


「い、いけねえ、めぐる! そっちはダメだ、修羅の道だ、帰ってこいっ!!

そ、それに……ほら、シラハエルたちだって困るだろう、そういうの!

シラハエルには他の仲良い魔法少女だっているんだし、あまりこだわりすぎずだな……」


 普段の戦いぶりから『修羅』なんてすでに呼ばれてることもあるうちに、修羅の道はダメだ、帰ってこいと。

 シラハエルにとってうちは助けた魔法少女の一人であり、強いこだわりを持ちすぎるな、と必死に説く保護者。

 

 その様子にも少し可笑しさを感じながら……うちは、笑いかけた。


「確かに、シラハエルさんに強い想いある魔法少女はいるやろうし、これからも増えていくやろうな。

でもな、考えてみてやセキオウ。

この先、シラハエルさんと仲良うなったら、例えば抱きしめてもらったり……その、胸とか……ごにょごにょする機会は……あるかもしれんやん」

「そこはまだ純情なんだな……」


 呆れが混ざった声を流しつつも、うちは続ける。


「ただ、この先どんなに仲良うなっても……いや、仲良うなればなるほど。

あの人に本気で死ぬんちゃうかってぐらい殴られ蹴られされる魔法少女は、後にも先にもうちだけや。

もはや恋人とかそういうのすら超えた仲……これが特別でなくて何やっていうんや?」

「ぅ……それはそうだが、ただあれは例外中の例外であって、この先似たようなことが起こるとは思えねえし……

お前もあのことは忘れて、普通の人間として生きたほうが……」



「────死ぬほど可愛くてちっちゃくて、元は大人の男性で原初の憧れの人って救いの天使に。

ステゴロでボコられて嬉しいなんて”(へき)”をこの年で植え付けられたガキが。

この先普通(カタギ)に戻れると思うか?」



「……………………………………………………無理だな!! がはは!!!」


「無理やろ!! わはは!!!」



 うちがこれ以上無いぐらい澄んだ真っ直ぐな想いで問いかけた言葉に、もうどうにでもなーれとばかりに笑ったセキオウ。

 そんな彼と一緒にひとしきり笑うと、うちはまあ、と続けた。


「言うて、彼の邪魔したりはせえへんし、ましてやまたボコってくれみたいなアホなお願いで困らせたりはせん。

そんなんしてもあの人が遠くに離れてくだけやからな。

────ただ、今回のアカデミー講師やら、それ以外の活動。

うちが持つ力、人脈、金……あるもん全部、全部使って、大人の彼にとってのメリットであり続けたる。

そうして、最終的に彼のそばに『四季織巡がいない理由が無い』って状況にしたい……いや、することは確定しとる、そうやろ?」



 当然、そのためにはこれまで通り魔法少女として鍛え、虚獣を倒すのはもちろん。

 講師として手放せない存在になるための勉強もしたいし、諸々の法律だとか心構えだとか、これまで意識していなかった学びは山ほどある。


 セキオウの「すまねえシラハエル、コンジキ……俺にはもう、このブラックホールは止められねえ……」なんて失礼なセリフが耳に入りつつも、我関せず。


「はぁ~どうしよ、どっから手つけよっかな。

やっぱり直近で要るやろう講師をちゃんとやり切るのが、遠回りのようで一番の近道な気ぃするなあ。

急に詰めすぎんよう注意払って、好感度は確実に稼いで……おお、これはこれで戦闘の間合い取りみたいで面白────」


 うちはキラキラした未来に、無限の想いを馳せ続ける。



「………………まあ、いいか。

例え暴走気味でも、失恋することになっても、この先心変わりがあっても……それでも、前は向けるようになったんだからな。

────うちの、最強の弱虫兎を引っ張ってくれてありがとうよ、シラハエル」



 最後の最後、ぼそぼそと小さく呟いたマスコットのセリフは聞こえなかったけど。


 うちの頭はもう、これからの自分が何が出来るのか、でいっぱいやった。



 …………ああ。



「────────はやく、明日にならへんかなあ」



★★★


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― 新着の感想 ―
女傑族みたいな生態してるエターナルシーズに目が行きがちですが、その実1番解らされてるインヴィディア。 まぁ敵対存在なので当然ですが。 あんなに自信満々だったのに…取り憑いた肉体の持ち主に主導権を握られ…
エターナル理解らせられシーズさん内臓逝ってしまうのではと思うほど踏み潰された挙句、恍惚に至った上で、意識を手放しちゃったのか……? 配信的に…大丈夫っスかねぇ… その手の水音にはたいそう厳しいと聞い…
更新お疲れ様です。 公式から「あれで生きてたら変態です」と言われてちゃっかり生きてた→しかもその後ガンダ○マイスターになった変態(cv:中村○一)の一期時代の台詞を借りるなら、「この気持ち、まさしく…
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