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第十六話 おとなのげんじょう


◆◆◆


「ジュースやお菓子は口にせんよ。()()()()()

嫌いなわけやない、実際ちょっとくらい食べたかて勝つときは勝つし、負けるときは負けるってわかっとるよ?

でもね、嫌やねん。負けたあとにほんの僅かでも"あのときお菓子食べたから?"なんてよぎる可能性あんのが」


 魔法少女エターナルシーズ、本名:四季織 巡(しきおり めぐる)

 クリップタイトル『修羅』より抜粋

 クリップ元配信タイトル『3狩り→チル雑談(予定)』


◆◆◆



「────こちらから宙に飛ばします! お二人とも、あとは任せます!」

「ぅ、ぁ、あ、はひっ、はいっ……!」

「大丈夫、私も合わせるから、目いっぱい行こう! お願いします、"天使様"っ!」


<トドメの時間だああああ>

<いけいけいけいけいけ>

<祈りは済んだか?>

<一人いっぱいいっぱいでかわいいね♡その覚悟誉れ高い>


 今回が初コラボとなる魔法少女『マギシズク』と、信頼できる協力者……魔法少女ミリアモール。

 そして、いつも通りなリスナーたちの声を背中に受け。

 自分は地面すれすれを飛ぶような低い姿勢を維持し、荒れ狂う一体の虚獣に突貫する。


 虚獣のシルエットは、これまで見たような曖昧さが先立つものに比べ、実際の動物……その中でもクマに非常によく似たそれをしていた。

 ここ最近、このタイプの虚獣と戦うことが増えてきたように思える。

 分裂や洗脳といった特殊な能力こそ確認されていないが、単純なフィジカルに秀でたクマ型虚獣は、戦闘慣れしていない魔法少女には荷が重い相手だ。


「はあぁっっ!!」

「ゴガァァァゥッッッ!?」


 自分に向かって突き出された、鋭い爪を形作った右腕をくるりと避けると、肘と膝で勢いよく挟み潰す。

 苦悶の混じった叫び声をあげる虚獣に、すかさず飛び上がりながら縦回転。

 回転の勢いをつけたかかと落としを直撃させ、今度は左肘にあたる部分を破壊した。


<浮世くるぞ>

<浮世いけいけ>

<ちゃんと合わせられるかな? たのしみ>


「ラァッッ!!!!」


 彼ら(リスナー)のリクエストに答えたわけではないが、気合の声を上げながら繰り出した後ろ回し蹴りで、クマ型虚獣を上空に跳ね上げる。


 最初に魔法少女ミリアモールの前で見せてから、これまで重ねてきた複数の戦い。

 その中で、いつしかこの一撃……リスナーの希望もあり名付けた技、『浮世回り持ち』。

 これが、いわゆるトドメ前のお決まりの流れとなった。


 事実、締めの大技に繋げる予備動作として、虚獣を上空に浮かすというのは大変都合がいい。

 なにしろミリアモールが身につけたメテオインパクトに代表されるように、実力を持った魔法少女ほどリスナー受けする派手な必殺技を持ちがちだ。

 であるならば必然、その一撃は建物や周りへの被害が出ない、空中に向けて放ったほうがいいだろう。


 付け加えると、空中で派手に締める、というのはリスナー目線でも価値がある流れだ。

 視覚的なインパクトを感じさせられるほか、浮かせる流れ自体を"様式美"とすることで期待という魔力の高まりも狙える。


 重要な場面で一体感を持って魔力をスムーズに送れれば、普段以上の力を発揮できる。

 力を発揮できれば、それを見たリスナーからの、魔法少女に対する応援の熱も入る。

 そして応援の熱が入るようになれば当然、さらに強く派手になっていく……そんな好循環を狙うのも、現実的な話のはずだ。


 そういうわけで、自分は特に今回のような『苦戦気味の魔法少女とのコラボ』企画において、可能な限りこの浮世を使い、トドメというハイライトを任すことにしている。

 もちろん予期せぬ抵抗を警戒し、今回のクマ型虚獣の腕のように、危険な部位はあらかじめ潰しておいて、だ。


 そして。


「来たっ……! 予定通りやってみよう、シズクちゃん!」

「は、はぃ! ま、マジカルティア!」


 そう言いながらコラボ相手の彼女は、突き出した杖の先端に青白く輝く魔力を灯らせ、収束させる。

 魔力を光に変えてそのまま打ち出すという、言うなれば"クラシック"なスタイルの彼女が放とうとするそれは。

 手負いとはいえ、クマ型虚獣へのトドメとしては現状、一歩足りないのが現実だろう。


 ……だが。


「ありがとう、これならっ……!

────共鳴して、打ち上げるっ! レゾナンスインパクトォ!」


 強く打ち出すのではなく、静かに杖から離れたマギシズクの魔力光。

 それに向け、ミリアモールが振りかぶったハンマーが勢いよく打ち付けられる。


 今回もまた精密かつ絶妙な魔力の調整により、上空へと打たれた魔力光は散らされる……どころか、ミリアモールの魔力も合わさり、その輝きをさらに増し────。


 パァァァンッ、と。

 クマ型虚獣に命中すると同時、軽快な音を立て爆発した。


「────────ッッッ!!!」


<おおおおおおお>

<おーきれいだいいねえ>

<ごらんなさい綺麗な花火ですよ>

<さっすがミリアモール>

<マギシズクもよう頑張った>


(ふぅ……よしよし)


 爆発の直後にはまるで涙のように、キラキラと青い雫が空から降り注ぎ、脳に響く声も盛り上がりを見せる。

 どうやら今回のコラボも、その役割を果たすことは出来たようだ。


「────おつかれさまです、天使様っ! おかげで上手くいきました!」

「ぁ、あ……! あの、あり、ありがと、ございますっ……! あ、あんな強い虚獣たおせ、たのはじ、はじめて、でっ!」


 そう、嬉しそうに駆け寄ってきては喜色を表す二人。

 特に、以前までのミリアモールのように苦戦が続いていた少女は頬を紅潮させ、こちらが心配になるぐらいに息を荒げながら声を上げた。


「とんでもない、こちらこそありがとうございます。

お二人と、そのリスナーの方々のおかげで自分も伸び伸びと戦えました。

もちろん、トドメの一撃も素晴らしかったです」


 自分がかけたその言葉に、さらに恐縮しながらペコペコと頭を下げるマギシズク。

 そんな彼女をなだめながらの振り返りも済むと、最後は挨拶とともにコラボ配信は無事終了した。



「ふぅ……お疲れ様です、ミリアモールさん、今日もお力を貸していただき、ありがとうございます」


 マギシズクが去ったあと、自分は今回も頼ってしまった少女に、若干のお詫びを込めた感謝を送る。


「とんでもないです、天使様っ! こんな私でよかったら本当に、全然! いつでも頼ってください!」


 それに対し返されたのは、ずずいっと身を乗り出しながらの力強い言葉。

 思わず気圧されながら、は、はい、と弱々しく返してしまった。


 ……これは完全に余談だが、ここしばらく会うたびに、彼女がチラチラと覗かせる目線の先が。

 何故か自分の右胸元あたりに向くことが多くなっている気がしてならない。

 理由は全くわからないが、触れてはならない深淵に覗かれるような気がした自分は、気付かないふりを続けている。



 そうして、輝かんばかりの笑顔で手を振る彼女を少し力ない笑顔で見送ると、その場は解散となったのだった。



 ……今でも、一度助けるという形となった少女にこちらが頼る、ということに。

 大人としての若干の抵抗感はまだ、拭いきれない。

 だが、そんな自分に対しコンジキ様が言い放った言葉が、こうだ。


「それは違う、断じて違うぞ白羽殿。

少なくともミリアモール殿やフローヴェール殿は、一方的に助けられたままを良しとするような子らではない。

むしろ、ぬしが頼るということ自体が彼女たちにとっての大いなる救いとなるはずじゃ、間違いない」


 相方の、相変わらず妙な自信に溢れた「間違いない」だったが。

 頼るのが彼女たちのため、と言われれば意地を張るのも違う話だ。

 

 特に、こういうコラボ活動をするにあたって、ミリアモールという存在がもたらす影響は……大きい。


 そもそもこのコラボは、現状なかなか人気が伸びていなかったり、戦いに苦戦しているという少女を必要に応じて助力するというのが目的だ。

 しかし、特に最近はそういう少女が自分に対し、変な遠慮というか……畏れのようなものを感じているように思えてきている。


 初配信からミリアモールとのやりとり、そしてフローヴェールの……まあ、アレな事件などもあって。

 現実的に大きな人気を得ている、と言っていい魔法少女。

 おまけに中身が大人の男性ともなれば、そういう一歩引いたような感覚になるのも仕方のないことなのかもしれない。


 そんな状況にあった自分に対し手を挙げてくれたのが、ミリアモールだ。

 なにしろ、彼女はこういう活動の対象となる魔法少女たちと同じ……いや、それ以上に大変な境遇を耐えていた少女。

 当然、誰よりも少女たちの気持ちや畏れにも等身大で寄り添うことが出来る。


 彼女自身が持つ親しみやすい、王道魔法少女というべきな人柄も手伝い。

 自分と、魔法少女たちの橋渡しのような役を買って出てくれ、それに甘え活動をしていた。


(本当に……望外な話だ。おかげで、この活動は上手く行っている……)



 それが、ここしばらくの自分の。


 極めて順調といっていい、活動の流れだった。



(だけど……このままでは、多分……だめだ)



 ……胸に、一抹の焦燥感を抱えながら。


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