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第十三話 背伸び少女が求めたモノ

都合により平時の二倍ほどのボリュームでお送りします


◆◆◆


 ────────ピッ。


<あ>

<ん>

<お>

<今日二回目?>

<え>

<え、虚獣いるじゃないですか>

<コラボ今日? ルナシルヴァもいる?>

<どういう状況ですか?>


 ────大丈夫。配信、つけてしまいましょう。

 落雷のような一撃を受けて、なお平気そうな顔で起き上がった目玉虚獣を見たシラハエルは、フローヴェールに落ち着いた声色で伝えた。


 その言葉を、不思議なほど簡単に信じられたフローヴェールが、配信をONにして数秒、続々と集まった困惑の声が脳裏に響く。


 つけたものの、本当に大丈夫なのか。

 だって、ルナシルヴァはまだ────そう不安にかられかけた彼女を背に、自身も配信をつけたシラハエルは口を開いた。


「魔法少女シラハエルです、状況を説明します。

明日の虚獣討伐コラボを前に現地の下見をしていたところ、対象虚獣と遭遇しました。

フローヴェールさん、ルナシルヴァさんが駆けつけてくれましたが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

予定が繰り上がり申し訳ないですが、この場で討伐を目指したいと思います」


 え……、と困惑するフローヴェールをよそに。

 特に彼女たちとリスナーの方々に申し訳ないですが、ご協力をお願いします、と。

 シラハエルは淡々と説明を終えた。


<あーなるほどね>

<は?シラハエルなにしてんの>

<おk>

<了解しました>

<かばったなら仕方ないな……>

<そういう感じ了解>

<フローヴェールがんばれー!>


(あ…………そっか)


 自身のリスナーの反応を受けて、フローヴェールはシラハエルがした、事実と全く異なる説明の意図を理解した。


 ……状況を知らないリスナーにとって、これが本当かどうかなんて、どうでもいい。

 たとえ薄々シラハエルに過失がないとわかっていても『配信者が言うならそう』という空気……もっと言うならルナシルヴァを叩けない流れを、真っ先に作ることが大事なのだ。


 人が他人に悪意をぶつける理由の大半は、嫌いだからでも許せないからでもなく、"叩いていいと認識した相手だから"である。

 フローヴェールのリスナーも、ほとんどがそういう空気で無いことを察して、合わせることを選択した。


(すごい……こんな……こんな簡単なことでっ……)


 言われてみれば単純に見える、一言で済むヘイト対処。

 かといって、フローヴェールが同じことをしてもこう上手くはいかなかっただろう。

 "魔法少女のための魔法少女"シラハエルのキャラクターあっての解決だ、とフローヴェールは感じた。


「────っ、そういうことよ! 全く仕方ないわね!

ルナシルヴァ(このおバカ)は抑えといてあげるから、あんたは責任取ってそのキモ目玉潰しちゃいなさい!」

「はい、業務、承知しました。そちらはよろしくお願いします」


 ありがとう、ありがとう、ありがとう。


 何度となえても足りないほどの感謝を内心で連呼しながら、フローヴェールはシラハエルの台本に乗り。


(────っ、あれ、何っ……この、感覚)


 それと同時、ずぐんっと胸を刺すような不思議な……だけど、全く不快にならない感覚を、彼に覚えていた。

 思えば、この感覚は先程助けられた時や、もっと前から。

 うっすらと無意識に感じていたような、そんな気もする。


(……いや、今は集中っ!)


 いったいこの感覚は、感情はなんなんだろう、と気になるが、今はそれを探るべき場合ではない。

 すぐに気を取り直したフローヴェールは、ルナシルヴァを抑えることに意識を注ぐのだった。



------------



「────はっ! この私様を前にずいぶんお優しいわね、ルナ!

技を一度も使わないなんて、舐めてるのかしら!?」



 向き合った相手と数合打ち合ったあと、よく通る大声をあげたのはフローヴェールだ。

 これは、リスナーを盛り上げるためのセリフでもあり、操られたルナシルヴァがどう出るかの牽制でもあり。


(聞こえましたよねっシラハエルさん?

ルナシルヴァはまだ魔法を使ってきません、そっちに集中して大丈夫です!)


 そして、背中を合わせ戦うシラハエルへの状況報告も兼ねた、フローヴェールのバランス感覚がもたらす立ち回りだった。


 ────現状、戦況はシラハエルたちが優位に進めていた。

 特にフローヴェールが対するルナシルヴァは、魔力で身体能力を上げて杖で打撃する程度の単調な攻めに終始し、それは全てフローヴェールのレイピアの前に弾かれていた。

 そして、シラハエルの方も、虚獣は変形しての打撃や光線など複数のパターンで攻めてきているが、彼はそれを捌き、すでに何度も痛烈な打撃で返している。


 ……ただ。


(シラハエルさん、実際に見るとやっぱりすごいっ……! でも、あんなすごい攻撃なのに、虚獣は平気そう……?)


 思えば、虚獣の魔力光にフローヴェールの魔力を乗せて返した天 の 返 礼(リバーサルヘヴン)でも、ほとんどダメージらしいダメージは負っていなかった。

 ちらりと様子を伺えば今もまた、シラハエルの突き刺すような前蹴りが腹部に命中して弾かれたが。

 虚獣は該当箇所からカラフルな霧を漏らしながらも、すぐに再動する。


「っ、2秒……3秒」

「…………?」


 ボソリ、と小さくシラハエルが何事か……実際のところは、虚獣が回復にかかっている時間を測る呟きを耳にするが。

 彼女がその内容を気にするよりも前に、さらにシラハエルのかかと落としが虚獣に炸裂し、右腕を切り落とした。


「────ぐ、ぐぶ、ぐぶ、イタイ、イタイ、タイヘン、タイヘン。こ、いうとき、オクスリ、オクスリ?」


 それを受けて後退すると目玉虚獣は、自身の腹にあたる部分に異様に大きな口をつくり、たどたどしく喋りだした。

 人の口に似せたそれは不気味にうごめき、フローヴェールに本能的な恐怖を呼び起こす。


 その、直後。


「ぅ……ぐぅっ………」

「え……?」


 意識を飛ばされ、操られているルナシルヴァがわずか、苦しそうに身をよじる。

 見るとルナシルヴァの身体からも、先程から虚獣の傷口に漂っていたカラフルな霧が出ていて……その霧は、離れた位置の虚獣の口に吸い込まれ始める。


 虚獣の傷口から霧が漏れている、と最初にフローヴェールが感じたのは逆で、その実虚獣は魔力の霧を吸い込んでいた。

 そうして数秒後、切断されていたはずの右腕は修復され、虚獣は新しいおもちゃを手にしたようにその右腕を振り回した。


「っ……!」

「あ、あんたっルナシルヴァの魔力をっ……! ふ、ふざっけんじゃっ……!!」


 魔法少女にとって魔力は、常人の体力と感覚的にはそう変わらない。

 元々持った魔力や、応援による魔力もある程度溜め込める彼女たちは、普通に戦う分には枯渇することなどそうそう無い、が。

 もし外的な要因で限界を超えて失うようなことがあれば、場合によっては命にも関わりかねない。


 友人を操るだけじゃ飽き足らず、外付けの魔力炉として好きに使われる────

 あまりの悪辣さにフローヴェールは、怒りで思わず目玉虚獣の顔を真っ直ぐ……そう、嫌な予感がして避けていた目の方に視線を向けてしまった。


「アハ、ミタ、ミタ、ミテ、ミテェッッ!!」


「っっがぁっ!?」

「っ、ぐっ……!」


 敵の想定外の習性にフローヴェールとシラハエルが思わず注目した瞬間、それを待っていた虚獣の目玉がカァッ! と光った。

 血の色のような赤の光をモロに目に入れてしまったフローヴェールはぐわんっ、と頭が揺れ。

 寸前で目を逸らしたシラハエルも、影響を受け頭を手で抑えた。


(く、くそ……っ! あの虚じゅう、一たい何を……! わ、わからない、けど身体だいじょうぶだしえっと、このまま……?)


 ……虚獣が放った光は、受けたものの理性、思考力を削ぎ、感情の赴くままな行動を誘う効果を持っていた。

 今のフローヴェールたちは知る由もないが、これは単純な弱体化のほか、魔法少女が最も恐れる実戦での醜態……

 つまり、配信の炎上を狙うという、虚獣の新機軸の攻撃方法だ。


(そ、そうだ……あのきょ獣っ! 許せない……ルナシルヴァにあんなことっ……! で、でもどうすれば……)


 本来は、むき出しの感情のまま雑に攻めさせることを第一の目的として放たれた、虚獣の攻撃。

 しかし、元々魔法少女として磨いていたフローヴェールの思考力は、削がれてもなお、踏みとどまるだけの理性を彼女に残していた。

 ただ単純に虚獣に攻撃しても回復され、ルナシルヴァが苦しむだけだ、と。


<フローヴェール様?>

<虚獣むかつくなあいつ>

<どうかした? 倒さない?>


 とはいえ、このままマゴついているならば、それはそれで虚獣にとって好都合。

 今まで彼女が一貫して見せていた、迷いのない姿との違いにリスナーが困惑すれば、魔力の供給が減りさらに虚獣への有効打が放てなくなるからだ。


(う、ぐっ……く、そぉっ……!)


 許せない、という気持ちがあるのに、それを実行するところまで思考がまとまらない。

 そのどうにもならないもどかしさに、歯を軋らせたフローヴェールは。


「…………なるほど」


 小さく、だけど耳に残るほど力強く。

 この場で唯一頼れる大人……魔法少女シラハエルが呟いたのが、耳に入った。


「魔法少女をただ倒すのではなく、操って単純な戦力とするほか、力の供給役に。

動揺した相手には何かしらの精神干渉が刺さり、視聴者との連携も弱まる。

さらに、半端な攻撃では力を供給させられた魔法少女にも影響が出ると、人質のような効果も兼ねている。

……よく練られている。侮れませんね」


(…………っ)


 そう、冷静な……冷徹なまでの分析が耳に入ったフローヴェールは。

 こんな状況でも動揺していない大人の姿を頼もしく思う、とともに。


(……そう、だよね。大人だもん、まずはてきのこと、ちゃんと考えないとだよね……) 


 その冷徹さに、自分たちの心配は……

 なんて、身勝手な失望感に近いものを一瞬、ほんのわずかだが覚えてしまっていた。 


「……そう、よく……悪辣に考えられている。

勇気を出して、身体を張って戦った少女を利用して。

真摯に応援する視聴者たちとも切り離し、彼女たちの未来をずたずたにしようとしている、か……

なるほど────」


 が、その考えは、直後。

 震える指を額に当てながら放たれたシラハエルの静かな怒気に、すぐさま覆される。

 


「ただで済むと思うなよ……!!」


「────っ!」


 ほんの僅かしか受けていない精神干渉でもなお、ここまで強く表に出た激情。

 もとより少女たちが直面する、理不尽への憤りから魔法少女となった彼が、この場面で怒りを感じないはずなど、なかった。


(ぁ……あ…………っ!)


 また、だ。

 先ほどシラハエルに助けてもらったときにも感じた、不思議な……暖かい感覚がフローヴェールを襲う。


 まだこの感情の正体はわからない。

 が、思考力が削がれた、むき出しの本能でも。

 『おこってくれてうれしい』という言葉だけは、強く心に刻まれていた。


 その感覚を思わず反芻(はんすう)していたフローヴェールの前で、シラハエルはふっ、と小さく息を吐きながら、掌底を虚獣に打ち込んだ。

 ルナシルヴァに負担がいく破壊ではなく、弾き飛ばすことを目的とした一撃で時間を作ると、シラハエルはフローヴェールの真横に移動する。


「……失礼しました。フローヴェールさん、体調はいかがですか? 一旦下がりますか?」


 色々と言うべきことはある状況で、先程の光の影響を鑑みて。

 可能な限り簡潔に行われた彼の問いかけ。


「……はっ! だれに、いってんの、よっ! 虚じゅう、やるんでしょっ、さっさといっ緒に、倒すわよ!」

「────っ」


 それに対するフローヴェールはいまだ、キャラクターを崩さない力強い回答で返した。


「…………すごいな」


 シラハエルはわずか目を見開きながら、思わずそう小さく呟かされる。


 彼女が返したのが、ただの強がりとしても十二分に気高いところを、彼女は今。

 惑乱した状態でありながら、この場で必要なのが"二人で協力して虚獣を回復の間も無く倒す"ことだ、と。

 シラハエルと同じ結論にまで至っていたからだ。


「…………っ」


 シラハエルは一瞬、悩む。

 自身も受けたことから、虚獣の光はそれほど深刻な影響を与えるものでは無さそうだが、それでもフローヴェールに負担をかけるのは本意では無い。

 ただ、これまでの関わりで十二分に伝わった彼女の責任感の強さを考えると、ここで下がらせるのは逆効果だ、と改めて判断する。


「……はぁぁッ!!」

「────ッ……!?」


 そして、決まったからにはもはや迷いはしない。

 フローヴェールに最低限の作戦を共有すると、即断即決でシラハエルは虚獣のもとへ飛び、勢いをつけた後ろ回し蹴りで上空へ弾き飛ばした。

 その後は、以前ミリアモールの前で見せたような必殺技を狙う……のではなく、宙に浮いた虚獣をさらに飛行で追撃し、殴り続ける。


 魔力炉として利用しているルナシルヴァの存在がある以上、うかつに攻めには来ない……

 そうたかをくくっていた虚獣は突然の猛攻にわずか動揺を見せるが、すぐにその身体能力を活かし反撃した。


「ぐっ……!」


 うかつに目を見ればまた先程の赤い光を受けることから、視界は著しく限定される。

 おまけに虚獣はどうせ回復するからとほとんど防御を考えず、開けた傷口をそのままに、相打ち上等の反撃をシラハエルにし続けた。

 これまでの戦いではほとんど無かった、虚獣から与えられる痛苦に少し表情を歪ませる。


「────オォォオッッ!」

「ぐぶ、ぎぎ、ミィィイイ!?」


 が、その痛みを忘れさせるぐらいの使命感と……そして、それ以上の怒りを背に戦うシラハエルの攻撃は止まらない。

 肘でかち上げ、膝で蹴り上げ、手のひらで押し上げられた虚獣は、攻防のたびにどんどん天高く浮かされていく。


(と、まずい……飛びすぎたか……!?)


 シラハエルの狙いは、虚獣に"魔力での回復路を誘導しやすい上空"でダメージを与えることだ。

 これはトドメの一撃に、可能な限り建物や無防備なルナシルヴァを巻き込まないため、という意図もある。


 ただ、悩みを抱える今のフローヴェールの飛行能力では、この高度まで付いてこれないかもしれない……

 余裕の無い攻防のさなか、その可能性に思い至ったシラハエルは、少女の姿を探そうとし────


「……さすが」

「…………!?」


 直後、上空にいる自分たちの、更に上から影が射したことで。

 シラハエルはぐっと拳を握り……反対に、虚獣は恐怖に包まれた。


 なぜなら、晴れ晴れとした表情でシラハエルたちより高く、宙返りのような格好で飛んでいた魔法少女、フローヴェールが持つレイピアには。

 ルナシルヴァから上空の虚獣に向けて、一直線に伸ばされたはずの魔力がぎっちり絡み、バチバチ、と極光(オーロラ)色の輝きを見せていたからだ。


天 の 返 礼(リバーサルヘヴン)・オーバードロップッ……!!」

「────光陰の矢」


「ミ、ミィ、見ィィイイイイテエエエエッッ!!!!」

「───ッ!!」


 それは自身、人気配信者として抱えるリスナー、そしてルナシルヴァからの魔力までもを限界まで乗せた一撃。

 "見"ただけで伝わった桁違いの火力を内包する上空のフローヴェールの切り札と、下に回ったシラハエルの同時攻撃。

 もはや迎撃は不可能と悟った虚獣は、最後の抵抗として上空に赤い光を放つ。

 トドメの一撃に集中していたフローヴェールは、二度目となるその光も目に入ってしまった。


 もし、彼女が内心で恐怖を隠していたり、迷いを持ちながら使命感だけで戦っていたなら。

 この光で吐露させられた感情は、彼女の攻撃を失敗に終わらせていただろう。


「アアアアァァァァッッッ!!」

「ミィィィギャアァァァッッッッ!!?」


 そして、彼女は当然のように。

 何の迷いもなく、掲げたレイピアを叩きつけるように振り切った。


 すでにぼろぼろな状態で、回復にまわるはずだった魔力まで乗せた連携をまともに食らった虚獣は。


 最後にフローヴェールに残った感情が、何だったのかもわからないまま。


 断末魔と共にこの世から消え失せたのだった。



「…………」

「フローヴェールさんっ!」


 虚獣を倒せた安心で、ふぅ、と全身から力を抜き。

 ゆっくりと落下するフローヴェールを、シラハエルが優しく抱きとめる。


(…………ぁ…………)


 いわゆる『お姫様抱っこ』の形で腕に収まった、魔法少女フローヴェール、風見取 衣(かざみどりころも)


 彼女は、全てを出し尽くした疲れと、二度受けた赤い光の影響で朦朧となりながら。

 これまでの記憶にない……だけど、信じられないくらいに落ち着き、"しっくりくる"この体勢になり、ようやく。


(ゃっ……ぱり……そう、だ……)


 シラハエルに対して覚えていた、不思議な感覚の正体を理解した。


 自分を気にかけてもらえるたびに、すごく嬉しかった。

 困っていたところを助けてもらえて、今までで一番ほっとした。

 自分の……自分たちのために怒ってくれて、怖い敵と戦ってくれて、この世の誰よりも頼もしく見えた。


 だから、最後の一撃まで、頑張れた。

 無理して、背伸びしてでも、いいところを見せたかった。


 だって、この人は、きっと────


(あぁ……わかった……このひと、このひとは……わたしの…………)



------------



(ふぅ……なんとかなった。彼女たちも本当によく頑張ってくれた)


 ────フローヴェールを抱きかかえたシラハエルはこのとき、内心でガッツポーズを決めていた。

 パートナーマスコットコンジキを通し、アントンから聞いていたフローヴェールの問題。

 まずそのうちの一つである、この虚獣を無事撃退することは出来た。


 彼女に虚獣の干渉を二度受けさせてしまったのは明確な反省点だが、受けた自身の状態を見る限り一過性のもので、虚獣を倒した今緊急性はない。


 あとは、このコラボを通じて『シラハエルが頼れる相手だ』と、フローヴェールやそのリスナーに認識してもらえたなら完璧だ。

 彼女を悩ます重圧の多くは、徹底したキャラ付けで内心を吐露出来なかったり、いざという時頼れる相手が不足していたことに起因する。

 ならば、ここで彼女に事情を知る同格の友人……あるいは、彼女のキャラ付けを考えるならライバル枠というのもいいだろう。


 ともかく、最終的に自身がそういう枠に収まることが出来れば問題はなくなる、と。

 そう計算していた彼は、その目論見が成功しそうなことに安堵した。


 あとはこのまま、虚獣の精神攻撃で朦朧としている少女を"大人として"フォローし、無事を見届ければ。

 事前の宣言通り、全ての問題は解決────


 そう、思っていた。



「お疲れ様です、フローヴェールさん、まだ少々ぼんやり────」


「────ぁー、ぅー」



 んん? と思わずうなったのは、シラハエル。


 彼は、気づいていなかった。


 フローヴェールが……唯一の肉親である父のためと背伸びし続けた一人の少女が。

 彼の存在を知ってから、うっすら心の奥で意識し、求めていた本当のものに。


 二度、目玉虚獣の精神干渉を受け、虚獣を倒せたことで気も抜けきって。

 感情が……本能だけがより強く表に出る朦朧状態。


 そんな状態で抱えられた少女の眼の前で、ゆらゆらと柔らかく大きなモノが揺れる。

 誰よりも、誰よりも考え続けてここまで来た少女は今、このときだけは────



「────マぁ、マっ♪」

「え」


<あ>

<あ>

<え>

<は>

<ちょ>

<やっ やったッ!!>


 ちうぅっと。


 特に何も考えずに、眼の前のそれ……つまり、シラハエルの左胸を、口に含んだのだった。



◆◆◆



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