第十話 おとなのじあん
「────つかさぁ! あんたら前の配信の魔力足りなすぎっ!
あんな雑っ魚い虚獣に時間かけさせられたのありえないんですけど!
やる気でないなら私様の配信中、ずっとスクワットでもしながら観てたらどう?」
<すみません……すみません……>
<フローヴェール様の苦戦は観たくないよぉ>
<今スクワットはじめました>
<おまえらしっかりしてくれ視聴者は数だけ集めても意味ないんだ>
(むむむ……なるほど)
今自分が眺める画面越しに彼女、魔法少女フローヴェールが体現しているその姿は、俗に言う"メスガキ"と呼ばれる属性なのだろう。
『メスガキは"わからせ"という二段オチのフラグとして認識されることが多いはず』とはコンジキ様の戯言だが。
彼女は現実世界での実力が伴っていることもあり、ストレートに傍若無人なキャラクターとしてリスナーに受け入れられているようだ。
<すみません前回は話題のTS魔法少女の配信みてました……叱ってください……>
と、そんな中にあって流れた一人のコメント。
この一文を認識した魔法少女フローヴェールの反応は……劇的なものだった。
「ッッッッそれさぁ!!」
<あ>
<まずい>
<マジ余計なこというな>
「あのシラハエル? っていうの? マジなに? なんなの?
男が魔法少女になる? とかは別に勝手にしたらいいけどさあ!
────ッ被ってんだよなあこっちとよぉ! 色とか属性がさぁ!!」
<すみません思いました……>
<金髪で飛行能力持つ魔法少女ですもんね……今までの専売特許……>
<好きでそうなったわけじゃないにしても、こっちとしてはちょっと、とは思う>
<草>
そう、フローヴェールは華麗に宙を舞い、敵を刺す騎士という非常に見栄えのいい配信スタイルが、その人気を支える一要素となっていた魔法少女だ。
それが突然、元男という特異な属性を持ち、同じ金髪で空を飛ぶ魔法少女が湧いて出ては話題をさらった、なんてことになったなら。
彼女の困惑、あるいは怒りも当然と、リスナーたちは(大体)同意を示す。
「あーもうっ! あんたらがだらしないからあんなぽっと出の新人が話題取ってんだよ!
つか言っとくけどぉー、向こうの配信に凸とかすんなよまじで?
黙ってあんたらは私様の配信張り付いてヘコヘコ魔力出してりゃいーの! わかった?」
<hai!!!>
<これからもフローヴェール様一筋です!!>
<魔力炉ならまかせろー>
<またルナシルヴァちゃんとのコラボも待ってる>
<夜空の空中散歩配信またしませんか? あれ好きだったので待ってます>
ひとしきり怒りをぶちまけた彼女は、シラハエルの話題を締めくくると。
「…………っ、……で、あとなんか? 質問あった、ルナシルヴァのこと?
あの子はまだ休んでるだけよ。近いうちにはまたコラボさせるわ。
まったく、私様にいらない苦労させるなんて────」
次いで、彼女とコラボ経験のある魔法少女の話題を拾ったあと、そのまま配信を終了したのだった。
(…………なるほどな)
前回のミリアモールと違って、ある程度以上の人気をすでに持つフローヴェール。
そんな彼女に自分が注目しているのは、コンジキ様からの頼みによるものだ。
コンジキ様は、黒い豚のようなフォルムをした彼女のマスコット「アントン」と知り合いということで、相談を受けているとのこと。
いわく、今自分が改めてチェックした魔法少女フローヴェールは、とある問題を抱えている、と。
その一端を担うのが、自分という存在が現れたことによる魔力供給のゆらぎだったりもするのだが……
ともあれ、魔法少女として日々戦う彼女も助けを必要としているのなら、自分がその一助となることに、異論などあるはずもない。
そんなわけで昨日、彼女へのコラボレーションを打診してみていいか、というコンジキ様の問いかけに自分はYesと返したのだった。
「さて……今回も力になれるだろうか」
そう、メガネを指で押し上げながら自分は、昨日……
つまり、こちらからコラボの仮打診をしたその日のうちに返ってきた、"魔法少女フローヴェールからのメッセージ"を、改めて読み返した。
『1/3
魔法少女シラハエル様 コンジキ様
はじめまして、お声がけいただきありがとうございます!
魔法少女フローヴェールと申します!
パートナーマスコットアントンより伺いました、コラボのお誘い、大変光栄です✨️
こちらからもぜひお願いしたいです!
企画はご提案いただいた通り、"例の虚獣"をコラボで撃退という形でお願いしたいと考えています!
つきましてはご都合のいいお日にちなどをお伝えいただきましたらと思います!
(友人ルナシルヴァの問題解決のため、可能な限り早めだと嬉しいです、すみません……)
また、お声がけいただいたということでご承知かとは思いますが
普段の配信キャラクターの都合上、生意気な口の利き方をしたり
ちょっと対立するっぽい流れで配信することになりそうです……
もちろん、実際の
2/3
討伐の足を引っ張ったりはしないようがんばりますが
これが現状私の配信で、最もリスナーの反響=魔力がもらえる形となるため、何卒ご了承いただきたいです(すみません……)
また、コラボ配信へのストーリー性の補強……というと大げさですが
明日の私の雑談枠で、軽くシラハエルさんの話題に触れて、
ちょっと私が怒ってみるみたいなフリを入れようと思っていますが、大丈夫でしょうか?
(コラボの話題や匂わせはもちろん無しです!)
だいたい「属性被ってるんだよ!」とか「被ってる先輩に挨拶しろよ!」とか、
そういうノリでいかせてもらおうかと……
もしNGな文言や話題などありましたら、教────』
……以下、配信の段取りやNG事項共有といったメッセージがずらっと続く。
なお結びの言葉は、このメッセージは絶対絶対、何があってもよそに貼り付けたり教えたりしないで、という切実な念のこもった一文だった。
「…………苦労してそうだな…………」
『この若さで、すっげービジネスメスガキ』と、コンジキ様からも讃えられた魔法少女。
何度も何度も推敲したあとからうかがえる、生来の真面目さと。
相反する"求められる姿"を演じ続ける、彼女からの長文に、自分は呟いたのだった。