おまけ2 大好きな由亞ちゃん(恵視点)
僕は自分のお顔が嫌い。大嫌い。
ひよこ組のみんなは僕の顔を見て笑う。男なのに女みたい。男女だって言う。本当に男かよって服を脱がせようとしてくる。やめてって言うのにやめてくれなくて、泣いちゃったらにやにや笑う。
かわいいねーってにこにこ褒めてくるお姉さんやお兄さん、おじさん、おばさんはみんな目が怖い。気づいたら隣にいる。僕のことをべたべた触る。怖くて泣いちゃったら、ごめんね~って言うのに目が笑ってる。
みんな怖い。全部怖い。
どうして僕が、怖い怖いしなくちゃいけないの?
僕のお顔がみんなと違うから?
僕が悪いの?
怖くないのはお父さんとお母さんと、由亞ちゃんだけ。
お父さんとお母さんと由亞ちゃんは大好き。…あ、ポチも好き。お庭のお花もお野菜も好き!
でも一番大好きなのは、由亞ちゃん。
由亞ちゃんは僕を守ってくれるヒーローで、僕の大切な女の子だから。
…お父さんとお母さんも大好き。
だけど、大好きと同じくらい…ごめんなさいって思っちゃうから、一番じゃないの。ごめんなさい。
僕、知ってるの。
お父さんもお母さんも、僕のせいでいっぱい泣いちゃう。
お姉さんに車に乗りなさいって言われたとき。
いっつも挨拶してくれるおじさんに突然ぎゅってされたとき。
…他にもたくさん。
お姉さんも、おじさんも、他の人も。おまわりさんと一緒にパトカーにのる。
お父さんとお母さんは僕をぎゅ~ってしてくれる。
「無事で良かった」「ごめんね」「怖かっただろう」って、優しい声で言ってくれるの。
泣きながら…言うの。
怖かった。
いっぱい泣いた。
でも僕、お父さんとお母さんには泣いて欲しくない。
僕はびっくりしちゃうと涙が出る。
心がズキズキしても涙が出るし、助けてって思うとたくさん涙が出ちゃう。
お父さんとお母さんは、涙がぽろぽろ。全然止まらない。
僕知ってるよ。びっくりしちゃって、心がズキズキして、助けてって思ってるんだよね。
…僕がそう思わせてるの。
ごめんなさい。
ひよこ組のみんなはいつも言う。僕が悪いんだって。
お姉さんもお兄さんも、おじさんもおばさんも言う。僕のせいだって。
僕がいけないの。
僕のお顔が、みんなと違うから…
「恵はなんにも悪くない!」
由亞ちゃんにだけは、僕の気持ちを全部お話しできる。
僕がいじわるされると、ひよこ組のみんなをやっつけてくれるから。
「おかしいのは、みんなだよ!」
怖いお姉さん、お兄さん、おじさん、おばさんに噛みついて、大きなお声で助けてーって言ってくれるから。
「どうして…恵がごめんなさいって思わなくちゃいけないの?みんなが悪いのにっ。みんなが間違ってるのにっ!」
僕と一緒にわんわん泣いて、ぎゅうって抱きしめてくれるって知ってるから。
由亞ちゃんの涙も僕のせいなのに、うれしいって思うから。
「絶対、ぜ~ったい、恵のせいなんかじゃ、ないんだから…う、うぅぁぁあああん」
由亞ちゃんが一緒にいてくれるから、僕は明日も幼稚園に行こうって思えるの。お外に出られるの。
由亞ちゃんは僕を守ってくれる。
だから僕は由亞ちゃんを絶対に守るんだ。
由亞ちゃんを泣かせるやつは、許せない、ユルサナイ。
だから芋虫さんを殺しちゃった。
痛いことしちゃった。
ぐちゃぐちゃに、なっちゃった。
死んじゃった。
僕が殺した。
絵本に書いてあった。
ひどいことしたら地獄に落ちるって。
蟻さんを踏んじゃったことは何度もある。
僕は泣いて、そしたらお父さんが言ってくれるの。
わざとじゃないから、蟻さんも許してくれるよって。
それでも僕は、ごめんなさいって思った。痛いことしちゃったから。
でも僕が芋虫さんを殺したのは、わざとなの。
心の中が、真っ黒になって、死んじゃえって思って。
気づいたら、ぐちゃぐちゃになってた。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
芋虫さん、ごめんなさい。
僕、由亞ちゃんを守りたかったの。ただ、それだけだったのに。
由亞ちゃんは真っ青な顔で僕のことを見ていた。
怖いって思ってる。
嫌われた。
お願い、嫌いにならないで。
「恵は私を守ろうとしてくれたんだよね。私のせいだよ。ごめんね、ごめんなさい」
由亞ちゃんは僕を嫌わなかった。
自分のせいだって、ごめんなさいを半分こしようって言ってくれた。
もう虫さんを殺さない。
由亞ちゃんと約束した。
それなのに…僕は、やっぱり殺しちゃうの。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
どうしてこんな、ひどいこと…僕はしちゃうの?
ユルセナイ、カラ。
「恵が私のためにしたことなら、私も悪いんだよ」
それでも由亞ちゃんは、僕のそばにいてくれる。
どんな僕でも受け入れてくれるの。
由亞ちゃんが好き。大好き。
由亞ちゃんがいれば、どんなことにだって耐えられる。
どんなことだってデキル。
「ねえ、由亞ちゃん。僕とずっと一緒にいてくれる?大人になったら結婚してくれる?」
「うん!いいよ!」
「じゃあ、指切りしよう?嘘ついたら針千本…のんでくれる?」
「うん!」
由亞ちゃん、好き。大好き。
ずっとず~っと一緒だよ。
死んで地獄に落ちても、一緒にいようね。