10.目をそらしてきたこと 100階
左のエレベーターは今のところ一度も止まることなく上昇していた。
こんなにもスムーズに進むと逆に不安になってくる。
だけどやはりなにも起らないまま、ついに100階に到着した。
チンッ
古びた音を立てて、扉が開く。
扉の向こうに広がるのは、意外にも今までと同じホテルの内装だった。
「とうとう最上階かぁ。なにがあると思う? 楽しみだな~!」
「いつも通り過ぎてちょっと怖いよ」
「怖がる由亞ちゃん、かわいい。蓮、死ね」
3人でいつも通り、思い思いの感想を述べる。が、誰一人動こうとしない。
私も恵も、意外なことに蓮すらも、エレベーターから降りようとしなかった。
「行け」
「え! ひどい! 俺を生け贄にする気だな!」
着実に経過していく時間に焦りを覚えたとき、恵が蓮の背中を押した。ぐいぐいとと外へ押し出そうとする。
ぴえんと蓮が子犬のように瞳を潤ませるが恵にはなにも響かない。
「ちょ、ちょっと恵っ」
「大丈夫、由亞ちゃんを危険な目には遭わせない」
「俺だって危険な目に遭わせちゃダメだろ!」
「お前はいい。そもそも自分から危険に飛び込む」
「えー! まあ否定はしない!」
「うざ」
蓮は高身長で体格がいいから、恵は少しずつしか体を動かせない。それでもその体は着実に扉の向こう側へと押し出され始めていた。
私は慌てて恵の腕を引っ張る。
「恵、やめて。蓮がかわいそうだよ」
「…由亞ちゃん」
蓮が助けを求める子犬の目で私を見てきたのもあるけれど、嫌がる人を無理矢理外に押し出すなんていけないと思うから、恵を止めた。
「えーん。由亞、ありがとう」
「はいはい。別に3人一緒に、せーので出ればいいでしょ」
誰か一人に様子見させようとするからこんなにも時間がかかっているのだ。
感動のハグ! と両手を広げる蓮をいなしながら提案すれば、蓮と恵の両方から首を横に振られた。
「恵はともかく、どうして蓮が却下するの」
「なんか負けた気がするから!」
「はあ?」
「だからじゃんけんで決めよう! 出さなきゃ負けよ…」
「え、え!?」
「チッ」
こうして唐突に始められたじゃんけんによって、まず恵がエレベーターを降りることになった。
順番を決めたところですぐに2人目3人目と降りるのだから特に意味はない気がするけど、決まったものは仕方がない。
「由亞ちゃん、気をつけて」
「どちらかといえば、それは恵の方じゃない?」
心配そうに私を見つめながら恵はエレベーターを降りた。
瞬間、バタンッと扉が閉る。
「め、恵! 無事っ!?」
「由亞ちゃん、大丈夫!?」
慌てて扉を叩けば、同じタイミングで恵も扉を叩いていた。
恵が生きている。そのことにひとまず安堵する。が、状況は何一つ変わらない。
私達は分断された。私と蓮はエレベーターに閉じ込められているし、恵は一人だ。
サァーと血の気が引く。今までこんなことなかったのに。
「どうしよう…」
「あれれー、こんなところに張り紙があるなぁ」
「え?」
蓮のわざとらしい声に振り返れば、彼が笑顔で白画用紙を差し出してきた。
もう二度と見たくない、右エレベーターで出くわした恐怖の紙である。
「ひっ」
「あはは。由亞ってば画用紙恐怖症になってる」
「おい、蓮! 由亞ちゃんに何した、殺すぞ」
「声でかー。恵、うるさいよ。由亞は右エレベーターにあったのと同じ画用紙見て固まっちゃっただけ」
「チッ。だから魔法で攻撃しても扉が壊れないのか…」
扉越しに聞こえた恵の言葉にハッとした。
慌てて蓮に縋り付く。
「こっちからも攻撃したら、扉壊せるんじゃ…」
「あー無理だと思うよ。100階のどこかに隠された鍵じゃないと扉は開かないみたい」
蓮はペラペラと白画用紙を揺らしながら笑った。
「見る?」
「……う」
もう白画用紙なんて見たくないし、触りたくもない。
だけどこのままエレベーターに居続けることの方が怖くて、私は蓮から紙を受け取った。
《 左エレベーターは100階まで直行です。
そのかわりに宝探しゲームに参加してもらいます。
代表者1人は、フロアに隠された鍵を見つけてください。
その鍵でなければ、エレベーターの扉もゴールへの扉も開きません。
魔法で扉は壊せません。
このフロアに魔物はいません。感謝してください。 》
全て読み終えて、重いため息をついた。
「恵、聞こえてただろ? 鍵探し頑張って~」
「由亞ちゃん、本当?」
扉越しに恵の絶望に染まった声が聞こえる。
「残念ながら、本当。ごめん、恵。鍵を探して。その鍵じゃないとゴールへの扉も開かないみたい」
「わかった。すぐ見つけて戻ってくる」
「このフロアには魔物はいないって書いてあるけど、恵も気をつけて。無理しないでね!」
「うん」
扉の向こうで恵が走り去っていく音が聞こえた。
その音が聞こえなくなったところで、私はへなへなとその場に座り込む。
「あはは。恵、こういうの苦手だから時間がかかるだろうなぁ」
「笑い事じゃないよ」
本当に笑い事ではない。恵は子供の頃、失せ物探しが大の苦手だった。机の上にあるクレヨンを3時間泣きながら探していたこともある。
成長してそれが改善されてるならいいのだが、そうでないとしたら…明らかに人選ミスだ。
エレベーターから降りる前に、この画用紙の存在に気づけたらよかったのに。
恨めしい気持ちで紙を眺めた。そこで気づく。
画用紙には、くっきりと折り目がついていた。折り目に合わせて折っていくと、それは制服のポケットにちょうど入るくらいの大きさになる。
脳裏に浮かんだのは先程までの蓮の行動。
いつも笑顔で敵に突撃していた蓮が、今回は珍しくエレベーターから降りようとしなかった。
3人同時に降りようと提案したら、急にじゃんけんを始めた。
まさかと思い、振り返る。
蓮はいつもと同じように笑っていた。
いつも通りの笑顔を、今日は何度も怖いと思った。
だけど今が、一番怖い。
「…蓮は最初から画用紙の存在に気づいてたの?」
恐る恐る問えば、彼はパチンとウインクをした。
「正解。乗ってすぐ気づいたんだけどさ~。隠しちゃった」
「どうして…」
「俺も恵みたいに、じ~っくり由亞とお話ししたかったからね~」
蓮は言いながら、エレベーターの床に座り込みあぐらをかく。
「だからさ、おしゃべりしよ?」
人懐こい笑顔を浮かべ、こっちにおいでと手招きする。が、私は首を横に振った。
「足痺れたから、立つ…」
「あはは。かわいそ~」
蓮の隣に座るのが怖かった。
声は震えてしまったし、顔は青ざめている。
そのことに気づいているはずなのに、蓮はいつもと変わらない笑顔で私を見る。そういうところが、怖い。
「人間って、昔の記憶を美化してることが多いよね~」
「え、美化?」
しかし唐突に振られた話題は、怯えていた自分が馬鹿らしく思えるほど平凡なものだった。
意味がわからなくて、怪訝に顔を歪めてしまう。
やれやれといったふうに蓮は肩を下げた。
「まあ全ての人がそうとは限らないけど、由亞はそういうタイプだ」
「…え」
そんなことは、ないと思う。
昔の記憶を思い出してみるが、蓮や恵と一緒に過ごした楽しい記憶の他にも、私の中にはちゃんと悲しい記憶があった。
それはクラスの男子に意地悪されたことだったり、友達と喧嘩したこと、両親に怒られたことなど様々だ。
「私は記憶を美化しないと思う」
蓮がそう思った理由がわからなくて眉を寄せて彼を見れば、信じられない!という風に目を見開かれた。少しわざとらしいのが腹立つ。
「は~い、由亞は嘘つきで~す」
「嘘はついてないよ」
「じゃあ忘れちゃったってことでいいよ」
蓮の瞳が楽しそうに細められた。
ゾワッと背筋に悪寒が走る。
「ね、思い出して?」
蓮が立ち上がる。
「俺、寂しかったんだよ。中学に上がった頃かな? ちょっと話さないうちに、由亞は俺との思い出はまともなものしか覚えていなかったから」
「な、なに言ってるの?」
一歩、思わず後ずされば、その隙間を埋めるように蓮が近づいた。
「恵の本性を由亞はやっぱり受け入れた。あいつ昔みたいに由亞に甘えちゃってさぁ。いいな~って、俺も昔に戻りたくなった。だから思い出して」
もう一歩後ずされば、蓮が同じく一歩近づく。
「あーでも、覚えてないって言ってるけど、普通に覚えてるか。お前はそういう子だから。ただ、目をそらしているだけ」
「目をそらすって…なに? 知らないよ!」
どれだけ後退しても、空いた距離の分だけ蓮が詰めてくる。
そうしてとうとう壁に背中がついたとき、その距離はなくなった。
「っ!」
息が止まりそうだった。
目の前に蓮の端正な顔がある。
左手首から肘までを壁につけ、わざわざ身をかがめて、私の顔を覗き込んでいるからだ。
壁ドンよりも近い距離に、照れるよりも恐怖を抱いた。
体が震え始め、この場から逃げ出したいと心が叫ぶ。
だから彼の肩を必死に押し返すのに、まるでびくともしない。
そんな私を蓮は楽しそうに見下ろしていた。
「あはは。猫がじゃれてるみたいだ」
「じゃ、じゃれてない!」
「はいはい。あとで遊んであげるから…今はちゃんと俺を見て」
「ひっ!」
蓮の右手の人差し指が、私の首筋を撫で上げる。下から上へ一本の線を引くように。それは何度も続き、そのたびに私は大げさに揺れてしまう。
ようやくそれが止んだと思ったら、今度は五本の指をばらばらに動かし、私のうなじから喉までの間を行ったり来たりする。…もう、耐えられなかった。
「んっふふ、ははっ」
声を上げて笑ってしまう。
だって、こんなの、耐えられないっ。こそばゆいがすぎる!
ひーひー笑う私を見て、蓮も上機嫌に笑う。
「由亞はココが弱いよねぇ。昔から変わらない」
そうして彼は手を動かしたまま、はむと私の耳たぶに噛みついた。
「ひぃっ!」
「あははっ。ひっくり返った蛙みたいな悲鳴も変わらないねぇ」
ようやく手の動きが止まり、私は肩で息をしながら非難を込めて蓮を睨んだ。
緩やかに弧を描く瞳が私を見下ろしている。
「俺もね、昔から変わらないんだよ。自分が生きやすいように「普通」に擬態している。世界が変われば「普通」も変わる。俺はその時々に順応して生きている。それが、俺。だからお前は俺のことをこう思っている。「いつも通りの蓮」当たってるだろ?」
お前は俺のことを理解している。
暗にそう言われている気がして、首を横に振る。
違う。知らない。わからないよ。
脳裏に浮かんだのは、2つの記憶。
バスケの試合。投げたボールがゴールに入ったのを見て、飛び跳ねて喜ぶ蓮の姿。
塔に入って初めての戦闘。魔物を倒して血の雨が降る中、飛び跳ねて喜ぶ蓮の姿。
喜ぶ蓮は、いつも通りで。
そこに恐怖は感じたけれど。
本当にいつも通りだったから、そう思っただけ。
ただそれだけのことだと言おうとして、なにかが頭をかすめる。
『死体に謝っても、無意味だと思うけどね~』
恵がみんなを殺した犯人で、だけどそれは私のせいだったと知ったとき。
お墓を作ってみんなに謝った後に聞こえた、小さな声。
……私は、ずっと昔に。これと似たような言葉を聞いたことがあった。
そう。それはまだ、私達が3人で遊んでいた頃。
小学校に入学してから初めての夏休みで、私達は上級生がいないときを見計らって遊具がたくさんある大きな公園で遊んでいた。
そんなとき、私を守る為に、いつものように、恵が虫を殺した。
ぐちゃぐちゃに潰れて死んだ虫に、私と恵は「ごめんなさい、ごめんなさい」と泣きながら謝っていた。
蓮は虫を殺す恵を初めて見たのか、驚いたように口を開けていたけれど、ふいに不思議そうに首をかしげたのだ。
「もう死んでるのに、どうして謝るの? 無意味じゃない?」
だから私は怒った。
無意味なんかじゃないと。
死んだ虫の魂は今ならまだここにいるから、心の底から謝罪すれば気持ちが伝わる。許してくれるんだ。そう言った。
鼻息を荒くして怒る私を見て、蓮は眉を下げた。
「それ想像の話でしょ? 由亞、幽霊見えないじゃん。理解できないよ。「いいよ、許してあげる」って言ってくれる相手はいないのに、それって由亞と恵が罪悪感から逃げたいだけの自己満足でしょ。時間の無駄だから早く遊ぼうよ」
蓮の言うことは難しくて、半分も理解できなかったけど、私の言葉が通じていないことはわかった。それが悲しくて、私は諦めずに蓮に説明するけど、蓮は楽しそうに私を見るだけで結局なにも伝わらなかった。
そんなことが何度か、……いや、幼い頃は頻繁にあった。
そのたびに私は怒って、泣いて…
「思い出してくれたみたいだね」
蓮は変わらない。
動くことがない死体に、意思を伝える術を持たないものに、意味などない。謝罪しても時間の無駄。昔から変わらずそう思っている。現実的な思考の持ち主だ。
だけど、それでも、そんな現実を上回るのが感情だと思う。意味は無くても言葉が出てしまう、ぐちゃぐちゃで身動きの取れない感情に振り回される。
…蓮にはそれが、ないの?
「やっぱり由亞は変わらないなぁ」
蓮を見上げる私はひどく怯えた顔をしているに違いない。
だというのに、彼はうれしそうに幸せそうに目を細める。
「俺に怒っても、怯えても、俺のせいで泣いても、絶対に俺を受け入れる。目を逸らさない」
どろどろに煮詰めて、むしろ苦く感じるくらいに甘い瞳が私を見下ろす。
「そんなお前が俺は好きだよ。だぁいすき。愛してる。結婚してお前を俺に縛り付けたいと願うくらいには好きだ。まあ願うっていうか、決定事項なんだけどね」
蓮の瞳を直視できなくて、俯く。
恵に続いて、蓮まで。なぜ、私を?
「絶対に俺を受け入れる。目を逸らさない」彼はそう言ったけど、現に私は今、蓮から目を逸らしているのに。
「由亞の考えてることわかるよ。お前は今、俺から目を逸らしているね。でもちゃんと俺のことを考えてる。小さな頭でぐるぐると、どれだけ考えたところで答えは見つからないのに。馬鹿だねぇ。かわいいね~。お前はいつでもまっすぐ俺を見ているんだ。物理的な意味じゃなくてね。あははっ」
愉快そうに蓮が笑う。
蓮は子供の頃から優等生で、人懐こくて、大人から同級生までみんなから愛されていた。だけど幼なじみ3人だけ…特に私の前では、人の神経を逆なでするようなことばかり言っていた気がする。
「あはっ。それそれ、じと~って俺を睨むその顔。懐かしいな、かわいいねぇ由亞」
にこにこと上機嫌な彼に頭を撫でられる。
その手を払いのけようとすれば、逆に手を掴まれた。すりすりと蓮の親指が私の手首の契約印を撫でる。
「俺はね、子供の頃からちょっとズレてるんだ。他人の感情がわからない」
「…今、私が怒っていることは理解しているようだけど」
「お前は授業でわからない問題があったとき、放置するの? 教科書読んだり、誰かに聞いたりして学ぶだろ。俺も学んだんだよ」
「……ごめんなさい」
感情がわからないという話は真実だろう。
幼少期から今日までの彼とのやり取りを思い出せば納得ができる。
そのことで苦労したこともあっただろうに、否定するようなことを言ってしまった。…相手の気持ちを勝手に決めつける自分が嫌いだ。
だから私は蓮が言うところの自己満足の謝罪をしたのに、彼は幸せそうな顔をして私の顎をくすぐる。
「ふふっ…やめ、んっはは」
「他人の感情がわからないのは、俺が感情のないロボットだから!ってわけじゃなくて、俺が抱く感想と周囲の人間が抱く感想が違うから、結果的に理解できないんだよな~」
顎をくすぐる手をなんとか引き剥がし、相変わらず近い距離にある蓮の瞳をじっと見つめる。
「でも蓮は、部活の大会で優勝したとき、みんなと一緒に喜んでた。子供の時から動物系の映画に弱くて、いつもエンドロールのときに泣いてた。そういうところは、みんなと同じって言えるんじゃない?」
もし私が蓮の立場だったら、すごく孤独で苦しんでいたと思う。私が楽しいと思ったことを他の人は怖がっていたとしたら、そのことで異物のような目で見られたとしたら、私は辛くて泣いてしまう。
だから蓮を元気づけたくて、安心させたくて。私が知っている蓮とみんなとの共通点を挙げたのだけど、彼はにこっと笑って否定した。
「それ、周りに合わせてただけだよ?」
「え…」
楽しそうにいつもと変わらない様子で蓮は笑う。
「普通の人は、部活で優勝したら喜ぶ。努力した分だけ喜びは増すみたいだよね。だから泣いて、ガッツポーズをして、仲間に抱きついて、今日まで頑張ってきて良かったって笑い泣き。その方が仲間は喜ぶし、対戦相手も敗北を受け入れ易い。負けたのは悔しいけど、あいつらも自分たちと同じように努力してきたんだ。良い試合だった。ってね。俺の近くにはそういう人が多かったんだけど…合ってるでしょ?」
胸を張って自慢するわけでも、これが正解?と不安そうな顔をするわけでもなく、ただの分析結果を淡々と報告する。
口の中がカラカラと乾いていく。
「…中3のバスケの大会で優勝したとき、蓮はなにを思ってたの?」
「なにをって言われると…説明が難しいけど。当然の結果かなーみたいな、水平な気持ちって言ったらわかる?」
「っ!」
私は覚えてる。
あのとき蓮たちバスケ部は、毎日夜遅くまで練習していた。学校では練習できる時間が限られているから近所の公園で練習して、その姿を私は塾の帰りに何度も見た。意見が衝突して、殴り合いの喧嘩をしたことも噂で聞いた。蓮はお母さんから部活を止めて、受験に専念するように言われていたけど、頑張って説得して大会に出たのを知っている。
「当然の結果なわけがない! たくさん努力したから、その成果が実って優勝できたんだよ!? 自分が頑張ってきたことを、水平な気持ちだなんて言わないで!」
感情が高ぶって、肩で息をしながら、真っ赤な顔で蓮を見る。
だけど蓮はそんな私に驚きもせず、困りもせず、ふんわりと口角を上げて私の頬に指を滑らせる。
そうして満足げに言うのだ。
「これが俺だって知ってるのに。懲りずにお前は俺に怒りをぶつけるよね」
そのことに絶望する。
私は怒ってない。悲しかっただけ。頑張っている姿を見てたから、蓮は理解できなくても私はそれがどれだけ大変なことかわかるから、その結果である優勝を、当然だと言われて悲しくて、そんなことないと伝えたかっただけだ。
「蓮…」
視界がにじむ。だけどやっぱり蓮は笑っている。
頬を撫でていた指は耳の後ろに回り、髪をかき分け、後頭部をぽんぽんと叩く。
親指だけが私の頬を撫でる中、蓮は幸せそうに目を細めた。
「俺の目を見て、俺は異常だと非難する。…そんな由亞が大好きだよ」
ガッと大きな手が私の後頭部を掴んだ。
顔を持ち上げられ、すぐ目の前に蓮の静かな瞳がある。
…唇には、少しかさついたやわらかい何かが触れていた。
「っ!」
「いだっ。あはは、噛まれちゃった。ごめん、ごめん。次からは予告してからするから」
血がにじむ自分の唇を撫でながら蓮がウインクをする。
口の中には鉄の味が広がっていた。
蓮に対して恋愛感情はない。だけど、キスされたことを嫌だとは思っていなくて、そんな自分が気持ち悪い。
「次も噛む」
「それは楽しみだな~。あぁ、さっきの話だけど。俺はやっぱり当然の結果だと思うよ。たくさん努力した…って由亞は言うけど、その努力をするように、努力が実るようにみんなを誘導したのは俺だ。このチームなら勝てるってわかってたし。まあ全国大会は初戦敗退だと思ってたけど」
実際その通りになったし。と蓮は笑う。
「ようするに俺は、その場に適した行動を取れる模範的な優等生なわけだ。けど、こういうのは経験が物を言うからね。子供の頃は、判断材料や人の行動パターンについての知識が乏しかったから苦労したよ。小学校に上がる前に引っ越したのも、俺のこの性格が原因だったし」
蓮が今の家に引っ越してきた理由を私は知らない。
蓮はそのことについて話さなかったし、蓮の両親は引っ越す前の話に触れると過剰に怯えると母さんから聞いていたから。あえて聞いたりしなかった。
「だから由亞には感謝してるんだ。俺は由亞からたくさんの「普通」を学ばせて貰ったからさ」
ありがとうと蓮はうれしそうに笑う。
「引っ越す前の友達も、家族も、最初は人と違う俺を笑って受け入れてくれるんだけど、次第に怖がって、泣いて、怒って、俺と関わることを止めてしまう。対話がなければ俺は学べないのに。怯えた姿ばかり見せられて、本当に無意味な時間を過ごしたよ」
その当時にかなりの不満を抱いていたのか、ぷんぷくと蓮の頬が膨らむ。
かわいらしく怒っているけれど、その瞳はどこか悲しげに見えた。
…拒絶されて、平気な人なんているわけがない。
これは彼の演技かもしれないと警鐘を鳴らす自分もいる。だけどもし、本当に悲しんでいるのだとしたら、ほっとけなくて。辛かったねと頭を撫でて労りたくて、手を伸ばせば…
「だけど、由亞は違った」
「わ!」
私の手は掴まれ、そのままぐんっと引き寄せられた。
蓮の胸に思い切り顔をぶつけた。鼻が痛い。
文句を言おうと顔を上げれば、彼はご機嫌な様子で私の手に自分の頬を擦り付けていた。
体がざわついて、落ち着かない。
「由亞も俺が異常だって気づいてた。それなのに絶対に逃げなかった。いつだって俺を正面から見ていた。うれしかったよ。まあ由亞は恵のおかげで異常者への耐性があったのかもしれないけど。そんなことどうでもいいか。結果が全てだし」
私の掌に唇を押し当てる蓮を見ていられなくて、俯く。
「あはっ。ちょっと耳赤くない?」
「…め、恵は異常者じゃない」
つんつんと耳を突いてくる手を払い落とせば、「え。」と驚きに固まる声がする。
顔を上げれば蓮は心配そうな顔で私を見ていた。
「盗聴器しかけられて出かけるたびに後つけられて、由亞のためなら人も殺せる、だけど罪の意識に耐えられなくて由亞に泣きついて重荷を背負わせる。由亞の彼氏だと思い込んでる話がまるで通じないあの恵が、異常者じゃない!? あはっ。本気で言ってる?」
「……。」
今までの恵の行動が頭の中を巡る。
元の世界に帰るまで考えないように蓋をしていたのに。
「…………子供の頃は、違った」
ズキズキと痛む頭を押さえながら否定すれば、蓮は腹を抱えて笑いはじめた。
「いやいや、恵はなにも変わってないよ。ちゃんと思い出して。せっかくだからあれでいこうか? 子供の頃、俺が死体に謝っても無意味だって言ったときのこと。そもそもどうして虫は死んだの?」
「…それは、私、虫が苦手だから。いつもみたく恵が私を守る為に、虫を殺して…」
原型がわからないほど潰れてしまった虫に、恵はわんわんと泣きながら謝っていた。その姿を思い出すと今でも胸が痛くなる。
「ごめんなさい、ごめんなさいって泣いて謝るのに、恵は何度だって虫を殺すんだから、おもしろいよね~」
「そんなこと…」
そんなことない。おもしろくない。
そう言おうとして、言葉が続かなかった。
疑問に思ったからだ。
なぜ恵は毎回虫を殺してしまうのだろう。
恵は命の重みを知っている。
恵が幼稚園児の頃、家族だった老犬が死んでしまったとき、彼は干からびるくらいずっと泣いていた。散歩の最中に蟻を踏み殺してしまったときも、ごめんなさいと泣いていた。
だから恵が初めて私を虫から守ってくれたとき、私はとても驚いた。
そのときは芋虫だった。
家族ぐるみでピクニックに行って、私と恵が公園で遊んでいたとき。いつのまにか私の服の上を黄緑色の芋虫が這っていたのだ。泣きじゃくる私に慌てて恵が駆け寄ってきたのを覚えてる。
「ど、どうしたの、由亞ちゃん」
「む、むぅむ、うぅ…むしぃ!」
「…あ」
芋虫は服から私の腕へと移動していた。
そこからの恵の行動は早かった。
冷たい目で芋虫を払い落とし、草の上でひっくり返るその子にめがけて手を振り下ろしたのだ。ぐちゃと粘つく音が聞こえた。
…私は、恵に怖い何かが取り憑いてしまったのではないかと怯えた。だっていつもの恵ならあり得ない行動を彼はとっていたから。
だけどすぐに恵が自分のしたことに気づき、いつものように青ざめて泣いて謝ったから、私は心の奥底で安堵したことを覚えている。
「俺が見たのは一回だけど、記憶力良いから覚えてるんだよね~。「僕、虫さんを死なせちゃった。ごめんね、ごめんなさい」って泣きじゃくる恵に対して由亞が「恵は私を守ろうとしてくれたんだよね。私のせいだよ。ごめん、ごめんなさい」って一緒に死骸に泣いて謝って、それを見た恵が「由亞ちゃんは悪くないよ。僕だけが悪い。どうして、こんなことしちゃったんだろう」で由亞が、「そんなことない。恵が私のためにしたことなら、私も悪いんだよ。ごめんなさいを半分こしよう?」そんな無駄なやり取りを繰り返して、最終的にもう虫は殺さない。で、締めくくられるんだ」
蓮の言うとおりだ。
だけど恵は、何度だって虫を殺してしまう。あの冷たい瞳で。
…そういえば恵が虫を殺すのを止めたのは、蓮に「どうして死体に謝るの?」と聞かれた後からだった。
「恵はどうして何度も虫を殺しちゃったの? なんで殺さなくなったの?」
蓮ならなにか知っている気がして縋り付けば、彼は楽しそうに笑った。
「あはは。それ俺に聞く? 俺、価値観が人とズレてんだよ。わかるわけないじゃん。それとも異常者同士、思考が同じだとでも思ってる?」
いつも通りの笑顔だけど蓮にしては珍しくトゲのある物言いだった。彼を傷つけてしまったかもしれないと真っ青になる。
「そんなこと思ってないよ!…蓮は蓮だし、恵は恵だよ。ごめんね」
2人の思考と私の思考が全く異なるのと同じように、蓮と恵だって違う思考を持っている。そんなの当たり前だ。一括りにするつもりはない。
私は自分が思っている以上にきっとプライドが高いから、もし誰かに自分の考えを決めつけられたら、すごく傷つく。
だから蓮が私のせいでそんな思いをしてしまったのだとしたら、本当に申し訳ない。
「そういうところがさぁ…あはは」
「ちょ、ちょっと…」
蓮はにまにまと笑いながら私の唇を指の腹で撫でる。
人が真剣に謝っているのにふざけた態度を取る蓮は、やはりいつも通りの彼だ。
いつも通りだから、居心地が悪い。
「そんなことより、今の昔話でなにか思い出したりしない?」
「なにか?」
この期に及んでまだなにか思い出すことがあるのか。
正直、これまで思い出したことは全て知りたくなかったことなので、もうこれ以上はなにも求めていないのだが、それを許さないとばかりに蓮は言葉を続ける。
「既視感を感じない? 今回死んだのは、虫じゃなくて人間だけど」
「…犯人は恵で、恵は罪悪感に苦しんでいる。それで終わりでいいじゃない」
「それじゃあつまらないよ。だって由亞は、最初から恵が犯人だって気づいてたんだから」
にたぁと蓮が口角を上げる。
「……え?」
「ま、気づいてたっていっても無意識だろうから、その反応でもおかしくないかぁ」
頭のてっぺんから足先まで一気に血の気が下がる。
私は最初から知っていた? 恵が犯人だと?
「そんな、嘘だよ」
「由亞は俺が犯人じゃないって確信してた。それは恵が犯人だとわかっていたからだ。俺には返り血浴びた経緯とかしっかり聞いてきたのに、恵には一切なにも聞かなかっただろ?」
思い出してみなよと蓮は軽い調子で私の肩を叩く。
「それは、恵は…ずっと、私の隣にいたから。聞く必要が無いと思って……」
「でもお前は寝てた。そしてその間に恵はみんなを殺した。…ねぇ、由亞。恵の行動パターンはいつだって同じなんだ。気づいてるだろ?」
「っ!」
子供の頃。
恵は私のために虫を殺した後、我に返ると、いつも青ざめた顔で自分が殺してしまった虫の亡骸をじっと見ていた。
体が震え始めて、目に水の膜が張って。
だから私は彼の頭に手をのせる。大丈夫。一人じゃないよ。私がいる。
彼は涙に潤んだ瞳で私の名前を呼ぶ。
「…由亞ちゃん」
「由亞ちゃん。僕が殺した。僕が悪い。ごめ、ごめんなさい。虫さん、ごめんなさいっ」
恵ははらはらと泣き出す。
恵は悪くない。私のためなんだよね。私のせいだよ。そう言って私も泣いて謝る。虫さんのお墓をつくって、ごめんなさいをする。
そのときの記憶が、重なる。
目覚めたとき、恵は青ざめた顔でみんなの亡骸を見ていた。あのときから……私は、彼が犯人だと気づいていた。
だから恵が自分の罪を告白したときも、受け入れてしまえたし。私のためだから私も一緒に罪を背負うと言えた。みんなのお墓をつくった。それが、当たり前だったから。
「ね? 子供の頃から恵は異常だし、由亞はそんな異常者を受け入れる。俺たち3人、子供の頃からなぁんにも変わらないよね~」
ぐるぐるとたくさんの情報がめまぐるしく行き交う脳内だけど、蓮の言葉はなぜかまっすぐ私の頭に届く。こんなこと、気づきたくなかった。
「…頭が、おかしくなりそう。蓮は私のことが嫌いなの? 私のことを、壊したいの?」
「まさか」
目を細めた蓮が私に手を伸ばす。
大きな手が愛しむように髪を優しく梳く。
「俺は由亞のことが大好きだよ。大好きだから、ぜんぶ知って欲しいんだ。俺のことも恵のことも、自分のことも。…安心しなよ、俺はお前が壊れないって知ってる。そんなお前に俺は惚れたんだから」
「……安心、したくない」
笑顔の蓮と目をそらす私。
蓮がまたいつかのように、ガッと後頭部を掴んできたから慌てて自分の口を手で覆ったとき、
ゴゴゴゴゴッ
重たい音を立てて扉が持ち上がり始めた。
真ん中から左右に別れるように開いていた扉なのに、今は下から上へとゆっくり上がっている。
どういう原理だと横目で見ていた目を正面に戻せば、にこにこ笑顔で私の手の甲に唇を押し当てている蓮と目が合った。
「壁越しにキス、ならぬ手越にキスだね~」
「ふざけたこと言ってないで離れて」
扉が開き始めたということは恵が鍵を見つけてくれたのだろう。
由亞ちゃんと私の名を呼ぶ声が聞こえる。
私の彼氏だと思い込んでいる恵にこの状況を見られるのは、かなりまずい気がする。
「恵が来たらどうするの。早く離れて」
「もぉ~、由亞は恵のことばっかりだなぁ」
「うひゃあっ。むがっ」
べろりと手の甲を舌で舐められぞっとして手を離せば、その隙にと言わんばかりに蓮が私の唇に噛みついた。僅かな痛みと共に口の中に鉄の味が広がる。
「さっきのお返し」
ぺろりといたずらっ子のように舌を出す蓮の舌先には私の血がついているように見えて…ゾッと鳥肌が立つ。
自分が食われたような錯覚をしてしまった。
蓮ならためらいもなく私を食べそうだから、笑えない。もちろん食肉としてだ。
「由亞ちゃん、無事で良かっ…唇、切れてる」
青ざめていると、恵が扉をくぐってこちらに走ってきていた。
全力で鍵を探してくれたのだろう。肩で息をする恵は私の顔を見ると真っ青になり、すぐに蓮の胸ぐらを掴んだ。
「なにをした」
「ちょっと昔話をしただけだよ~。由亞、助けてぇ」
「め、恵、私は大丈夫。これは…噛んだだけだから、蓮を離して」
つい助け船を出してしまった。
だってもし万が一にも蓮にキスされたことを恵に知られたら……かなり気まずい。
交際はしていないが、恵に好意を向けられていることを私は知っているわけで、それなのに蓮とキスをしたわけで(私の意思ではないが!)、そんな蓮も私のことが好きで…頭がおかしくなりそうだ。
「チッ」
私が困っていることに気づいたのか、恵は不満そうな顔をしていたが蓮を解放してくれた。
「ありがと。じゃ、先に進もうか」
「ちょっ」
だというのに、蓮は私の手を取り歩き始める。
わざとだ。私を困らせて、恵を怒らせて、楽しんでいるのだ。
子供の頃も何度かこういうことがあった。蓮を睨めば、彼は目を細めて愉快そうに笑う。
「僕の由亞ちゃんに触るな」
「いだっ」
そんな蓮の背中を恵が思いきり蹴る。
思いのほか痛かったのか、蓮の頬には青筋が浮かんでいた。
「馬鹿力だなぁ。恵は右手を握ればいいだろ」
「今のお前は無性に腹立つ。昔を思い出す」
恵の口から出た「昔」という言葉にびくっと肩が揺れてしまう。
私が昔を覚えているのだから、恵も覚えていて当然だ。だけど彼の口からその言葉がでると、さきほどまで蓮と話していた「昔」を思い出してしまって…青ざめる。
「あはは。顔色悪いよ、由亞。風邪かなぁ? かわいそうにねぇ」
蓮が楽しそうに笑いながらすり寄ってくる。
なにもかもわかっているくせにこういうことを言う彼が腹立たしくて仕方がない。
「風邪!? 由亞ちゃん、大丈夫?」
「だ、大丈夫。元気だよ」
「よかった」
笑顔を顔に貼り付けて見せれば、恵は心底ほっとしたように胸をなで下ろした。
恵は子供の頃から変わらない。素直で優しい。それなのに…
「由亞ちゃん、やっぱり疲れてる」
彼氏だと思い込んでいることや盗聴器、昔のことを思い出して心が暗く沈む。それが顔に出ていたのか、恵が心配そうに私を見下ろしていた。
「そ、そんなことないよ」
「今の由亞ちゃんは、空元気」
今度も上手く笑えていたはずなのに、恵はやさしい瞳で首を横に振った。
「鍵探してるときに『ゴール』って書かれた扉を見つけた。廊下の突き当たりにあった。そこで休もう」
「……うん」
恵は私の手を引いて歩き始めた。
それに合わせて蓮も歩き始めるから、連鎖的に私も歩く。
私と蓮は頭1個分身長差がある。恵は蓮と比べると僅かに差が縮むけど、やはりかなりの身長差がある。
そんな2人と一緒に歩いてるのに、私は今まで一度も早足になったことがない。
それは常に、蓮と恵が私の歩幅に合わせて歩いてくれているからだ。
気が利いて、頼りになる、素敵な幼なじみ。
「特別」な2人。
そんな彼らは異常者で、私のことが好き。
頭の中がぐちゃぐちゃだ。
今日知ったことが多すぎて…蓮に言わせれば私が目をそらしてきたことが多すぎて、そのことを考えるだけで息苦しくなる。涙が出そうになる。
蓮は私のことを「受け入れてくれる」と言ったが、それは勘違いだ。
受け入れるというのは余裕があるからできること。
幼い頃の私は今よりずっと視野が狭くて、何も知らなかった。
自信があって、常に自分は正しいと思っていて、特別だと思ってた。余裕しかなかった。
だからきっと無自覚に、2人を受け入れていた。
だけど、今は違う。
私は自分のことで精一杯で、常に余裕がない。
自分に自信が持てなくて、特別な2人を羨んで、自分と比べて落ち込んで、自己嫌悪して、足を引っ張って、守ってもらって……ずっと2人に頼っている。
蓮と恵に、生かされている。
それなのに私は、自分の常識にない行動をとる2人に何度も恐怖を覚えた。心の中で非難もしたし、気持ち悪いとも思った。
ほら、全然受け入れることができていない。
どうして2人とも、そのことがわからないのだろう。
恵はともかく、蓮は気づいているはずなのに。
これ以上考えても答えは見つかる気がしなくて。
そもそも答えがなにかすら、わからなくて。
私は考えることを止めた。
最優先事項は、ダンジョンを7つクリアして、元の世界に帰ることだから。
今は余計なことを考えてはいけない。元の世界に帰ったらちゃんと考えるからと。
もっともな理由をつけて、自分を納得させる。
こうやって私は逃げるのだ。
2人を傷つけたくないと思うと同時に、2人を理解できないと思うから。
問題を先延ばしにして、今はただの幼なじみとして接する。
私がそれを望んでいるから。
自分のことしか考えていない、自分勝手な人間。
それが普通で、だから私は……「特別」になれない。