第99話 実食! プレミアム・ロースト・オークジェネラル
冒険者ギルド長のババさんが呼びかけると、バリケード作りに参加していた人がワラワラと集まってきた。
俺たちはマジックバッグから次々とオークを放り出す。
放り出されたオークは、解体に手慣れた冒険者がすぐに解体してくれる。
いつの間にか石で組んだ竈が沢山出来上がり、子供たちが木切れを薪として積み上げる。
火魔法を使える者が竈に火を入れて、すぐにバーベキューが始まった。
「何だか妙に連携が良いな!?」
「みんなお肉が大好きなんだよ~♪」
俺の驚きにソフィーがストレートな回答を寄せた。
そうか! そういうものか!
何であれ町の一体感が高まるのなら俺としてはオーケーだ。
「オーイ! リョージ! 肉を焼くんだって?」
ガイウスもやって来た。
「木を切りに森に入ってたんだが、バーベキューが始まると聞いてな!」
誰かがガイウスたちを呼びに走ったらしい。
いや、まあ、構わないが、連携良すぎだろう!
「じゃあ、ガイウスは解体を手伝ってくれ。とっておきがあるんだ」
「とっておき!? 何だ!?」
「これだ!」
「うお!?」
俺はマジックバッグからオークジェネラルを取り出した。
「オークジェネラルか! しかし、真っ黒焦げだな……。食えねえだろ?」
ガイウスはガッカリしている。
だが、この黒焦げこそが美味しさの秘訣だ。
俺とソフィーは顔を見合わせてニンマリと笑った。
ガイウスは俺とソフィーを見ていぶかる。
「おい! 何だよ? 二人してニンマリしやがって!」
「ふふん♪ ガイウスのおじちゃんはわかってないな~♪」
「ガイウス。この黒焦げの中に美味しい部分が残っているのさ」
ガイウスは興味が湧いたらしく、黒焦げのオークジェネラルを叩きだした。
「本当か? 黒焦げにしか見えねえぞ?」
「プレミアム・ロースト・オークを知ってるだろ?」
「ああ、一回食わせてもらった。まさか!?」
「そう! この黒焦げ状態から切り出すんだ!」
ガイウスが雷に打たれたように、ハッとして声を発した。
「つまり、プレミアム・ロースト・オークジェネラルってことか!?」
「正解! まあ、そんなわけで、旨いものが食えるから手伝えよ」
「任せとけ!」
早速、オークジェネラルの解体に入る。
俺とガイウス、怪力二人組でオークジェネラルを動かして鎧を脱がせた。
鎧の下も黒焦げである。
「リョージ。そこに寝かせて」
「洗うのは私が水魔法でやります」
アシュリーさんとマリンさんが解体用のナイフを手にして、俺に指示する。
この二人もいつの間にか、解体に参加したな。
プレミアム・ロースト・オークジェネラルを食い逃さない算段だろう。
俺とガイウスは、アシュリーさんの指示でオークジェネラルを地面に寝かせ、切り出しやすいようにオークジェネラルの体を抑える。
「どれ、私も手伝おう」
聖サラマンダー騎士団団長のフレイルさんである。
さらっと解体に入って来た。
絶対にプレミアム・ロースト・オークジェネラルを食い逃さないつもりだ。
みんな食い意地が張っている。
「これ以上、人が増えると一人が食べる分が減る! 急ぐぞ!」
「「「「「はい!」」」」」
フレイルさんの掛け声でオークジェネラルの解体が進んだ。
オークジェネラルは普通のオークより大きいので、可食部分も多い。
ローストビーフ状になった肉を切り出すと、通常のプレミアム・ロースト・オークの二倍あった。
「おお! これは食べ応えがありそうだな!」
「おとーさん! 美味しそうだよぉ!」
ソフィーはプレミアム・ロースト・オークジェネラルを見て、ヨダレをたらさんばかりだ。
料理法はシンプルに串焼きにした。
切り分けたプレミアム・ロースト・オークの肉を鉄串に刺して焼き、塩でいただくことにした。
「「「「「いただきます!」」」」」
プレミアム・ロースト・オークジェネラルを一口。
柔らかい……。
口の中でホロホロと赤身肉が崩れ、シッカリとした肉の旨味。
続いて脂の甘味が口の中に広がる。
「これは旨い!」
「すごいおいしい!」
ソフィーも目を大きく開いて、肉の旨さに驚いている。
俺もソフィーも平凡な言葉しか出て来ない。
あまりの美味しさに、言葉が浮かんでこないのだ。
ガイウスも一口食べて驚いている。
「マジかよ! こんな旨い肉は生まれて初めてだぜ!」
シスターエレナ、マリンさん、アシュリーさんも、プレミアム・ロースト・オークジェネラルの串焼きを手に、ほうっと息を吐いている。
旨さに蕩けているな。
凄いのは聖サラマンダー騎士団団長のフレイルさんだ。
「大精霊と精霊のお導きに感謝を……」
何か祈りを捧げているぞ!
プレミアム・ロースト・オークジェネラルは、笑顔を通り越して感動を俺たちに与えた。
そしてフレイルさんには、感動を通り越して信仰を与えたらしい。
「ねえ! おとーさん! 今度、ラーメンに入れてみようよ!」
「おっ! そうだな! 薄く切って入れたら、美味しそうだな!」
これだけ美味しい肉なのだ。
肉に負けない美味しいスープのラーメンを発注端末で発注しよう。
醤油……、味噌……、タンメンのような塩も良い……。
ソフィーに何味のラーメンを食べさせるか考えるのは楽しい。
周囲でも思い思いにバーベキューを楽しんでいる。
新たにここサイドクリークの町に来た冒険者も、町の人たちとバーベキューをすることで交流が持てている。
オークを提供して良かった!
食事を進めていると、俺たちから少し離れたところでスマートフォンの着信音が聞こえた。
誰のスマートフォンだろうと見回すと、冒険者ギルド長のババさんがスマートフォンを二本の指でつまみ上げた。
「ババです。どうした? えっ!? ダンジョンが!? うん……うん……」
ババさんが誰かと話している。ただ事ではない雰囲気だ。
俺たちは顔を見合わせうなずくと、ババさんのそばに移動した。
「わかった! すぐ応援を送る!」
ババさんは、通話を終えると、緊迫した表情で周りに告げた。
「ダンジョンで魔物が大発生して上階に向かっている。ダンジョン内は撤退戦の最中だ。応援を出すぞ!」




