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第62話 本当の四章最終話:殴りに行く歌、シスターエレナの身の上話

すいません、やっぱりこの話を四章の最終話にさせて下さい。

「うーん、どうしたものかな……」


 ガイウスと話し合ってから三日。

 俺はグジグジと考え込んでいた。


 ――ソフィーを戦わせるか否か?


 これが自分自身のことなら決められると思う。

 だが、子供のこととなるといろいろ考え心配してしまう。

 自分がこれほど決断力の無い人間だとは思わなかった。

 それとも、これが親になるということなのだろうか?


 心ここにあらずの状態で、精霊の宿を掃除していると優しい声が掛かった。


「リョージさん。どうしたんですか?」


 シスターエレナだ。

 いつも優しい笑顔で俺を気遣ってくれるオアシス的な存在である。


「ここ数日元気がなくて心配しています。何か悩んでいるのですか? ちょっとお休みして、お話をしませんか?」


 俺はシスターエレナに誘われて、一休みすることにした。

 精霊の宿の中庭、いつものガーデンチェアに座ってお茶である。

 シスターエレナが、紅茶を入れてくれた。


 俺はふと思った。

 シスターエレナに相談してみるのは良いかもしれない。


 この世界で俺が信頼している人の一人だ。


 シスターメアリーに相談しても『魔物との戦闘は良いですよ! 戦闘で心も体も鍛えられますよ!』と、脳筋な回答をしそうだ。

 あまり相談に適した人物ではない。


 ご相談(物理)。

 悩み相談(物理)。

 問題解決(物理)。

 つまり物理ソリューション・コンサルタントなのだ。


 だが、優しいシスターエレナなら、何と答えるだろうか?


「リョージさん。何かあったのですか?」


 シスターエレナに促されて、俺はポツポツと話し始めた。


 領主ルーク・コーエン子爵から魔の森の暴走――スタンピードが発生する可能性が高いと聞いたこと。

 ガイウスから、戦闘経験の必要性――俺とソフィーがダンジョンに入った方が良いと聞いたこと。

 ソフィーが心配でたまらないこと。


 話し終えると、シスターエレナはコロコロと笑った。


「まあ! リョージさんとソフィーちゃんは仲良しですね。私は父と疎遠でしたから、うらやましいです」


「えっ!? シスターエレナが!? お父様と疎遠!?」


 俺は驚き、マジマジとシスターエレナを見てしまう。

 シスターエレナは、優しく上品で影を感じさせない人物だ。

 父親と疎遠だとは思わなかった。


「はい。私の母は、ある男爵の妾だったのです。妾は日陰の存在ですから、父親とは数回しか会ったことがありません」


「それは……大変な人生ですね……」


「いいえ。ちっとも大変ではありません。父は男爵ですが裕福だったので、母も私も生活に困りませんでした。父の援助で教育も受けられましたし、精霊教の学校にも進学できました。父には感謝しています。ただ、お父さんと呼べる人が、そばにいて欲しかったと思うことはあります」


「子供としては父親とふれ合う時間が欲しかったと……」


「ええ。でも、私は本当に恵まれているのです。貴族の中には、女性に手を出して責任を取らない自分勝手な方もいらっしゃるので」


「なるほど。お父様はちゃんと責任を果たす方だったのですね。私のいた国に貴族がいなかったので、どうも感覚が違ってしまって……。シスターエレナも大変だったんですね……」


 シスターエレナとしては自分の立場や人生を受け入れて最善の選択をして来たのだろう。

 暗さが全くない。

 逆に俺の方が気を使ってしまった。


 俺はちょっと気不味いので、話の方向性を変えた。


「精霊教の学校では、戦闘訓練もあるそうですね?」


「ええ。教会は辺境にもありますので、魔物との戦闘訓練は必須です」


「では、シスターエレナも魔物との戦闘経験があるのですよね? どうでした?」


「最初は恐ろしかったです。私は王都の町中で母と二人で暮らしていましたので、魔物を初めて見た時は足がすくみました。戦うどころではありませんでした」


「そうですよね。私もゴブリンを見た時は、とても驚きましたよ」


「だからこそ魔物との戦闘を経験するのは大切なのです」


「あっ……そうか!」


 シスターエレナは、ニコリと笑った。


「リョージさんは迷い人だから、なかなか私たちの感覚に馴染めないのだと思います。魔物との戦闘は、それほど特別なことではないのです。いつものリョージさんのように楽しく歌でも歌いながら魔物と戦うと良いと思います」


「えっ!? 楽しくですか!? 歌いながら!?」


「はい。一緒に開拓村を回っていた時は、よく車の中で一緒に歌いました。私も楽しかったです。シスターメアリーなど戦闘が大好きですから、『これからフィリップと魔物を殴り倒しに行くわ!』なんて張り切ってましたよ! ウフフ」


 シスターメアリーが腕をブンブン振り回しながら魔物を殴り倒す姿が、俺の脳裏に浮かんだ。

 そして、日本の男性デュオが歌っていた『殴りに行く歌』が頭の中に響いた。


「そうですね! 楽しくやれば良いんですね!」


「そうですよ。一緒に魔物を殴りに行きましょう!」


 郷に入っては郷に従え。

 異世界に行っては異世界に従えだ。


 ふと視線を上げると、建物の陰からソフィーが心配そうにこちらを見ている。

 俺は笑顔でソフィーを呼んだ。


「ソフィー!」


 俺が元気を出したとわかったのだろう。

 ソフィーが嬉しそうに笑って駆けてきた。


「おとーさん! 元気になった?」


 抱きついてきたソフィーを俺は高く持ち上げた。


「ああ! 元気になったよ! 一緒にダンジョンへ行って魔物をボコボコにしよう!」


「ぼこぼこ! ぼこぼこ!」


「ハハハ! そうだ! ボッコボコだ!」


「キャハハ! ぼっこぼっこ!」


 俺とソフィーが戯れる様子を、シスターエレナが暖かく見守ってくれていた。


 俺は魔物を殴り倒すことを心に誓った。

 ソフィーやシスターエレナには、指一本触れさせないぞ!

―― 第四章 完 ――


五章に続きます!

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― 新着の感想 ―
メアリーさんが完全な脳筋に……
[気になる点] 田舎を移動する販売車なら、スーパーの備品として刺股や熊スプレーとか取り寄せないかなぁ~?シランケド
[良い点] 魔物になって、ソフィーたんに「ボコボコ!ボコボコ!」と笑顔で倒されたい人生だったまである(´;ω;`)
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