第41話 誘拐事件
執事が持ってきた伝言『孤児院の子供がさらわれた』は、俺に衝撃を与えた。
(子供がさらわれた!? 誘拐!? ソ……ソフィー……? ソフィーは……?)
頭の中がソフィーで一杯になった。
クリームパンを食べて満足するソフィー。
アイスクリームを食べて美味しさのあまり目の中が星だらけになるソフィー。
魔法が使えなくてションボリするソフィー。
氷魔法を覚えて飛び上がって喜ぶソフィー。
ちょっと生意気に俺にアドバイスをするソフィー。
移動販売車で歌を歌うソフィー。
「リョージ君! 落ち着いて!」
領主ルーク・コーエン子爵の声で俺は我に返った。
俺はいつの間にか立ち上がって拳を握っていた。
「す、すいません! ご無礼を!」
俺は慌ててソファーに座り、強く握っていた手を開く。
あまりにも強く握りすぎたせいだろう、爪の中で内出血が起っていた。
コーエン子爵が執事さんに命じて、教会からの使いが案内された。
教会を警備している若い冒険者だ。
若い冒険者はキョロキョロと落ち着かない様子だ。
貴族の屋敷に慣れていないのだろう。
若い冒険者はコーエン子爵を見てギョッとした。
すかさずコーエン子爵が声をかける。
「僕のことは気にしないで良いから。シスターメアリーとリョージ君に話をしてね」
「あっ……はい……えーと……」
若い冒険者は、しどろもどろになりながら説明をしてくれた。
商業ギルド長ヤーコフが雇っているチンピラが教会にやって来て、『孤児院の子供を商業ギルドで預かっている。無事に返して欲しければ、商業ギルドに金を払え』と言い放ったそうだ。
さらわれた子供はソフィーを含め五人。
町で小遣い稼ぎのお手伝いをしている時に、さらわれたのだろう。
教会ではシスターエレナが飛び出そうとして、冒険者のガイウスたちがシスターエレナを押しとどめた。
この若い冒険者はガイウスに命じられて駆けてきたそうだ。
モロに営利誘拐じゃないか!
ヤーコフが貴族とはいえ許されるのか?
常識や価値観の違う世界で起きたことに、俺は戸惑う。
だが同時にソフィーを助けるためならば何だってすると強い決意がわき上がってくる。
とりあえず教会へ! と俺が腰を浮かせると執事さんが急いだ様子で入って来た。
「失礼致します! 旦那様! 商業ギルド本部の管理官様とゴルガゼ伯爵がいらっしゃいました!」
「すぐにお通ししなさい!」
俺とシスターメアリーは、どうしようかと目を合わせる。
商業ギルド本部の管理官なら当事者の一人といえる。
だが、ゴルガゼ伯爵という人は知らない。
おいとました方が良いのだろうか?
俺とシスターメアリーが迷っていると、コーエン子爵が落ち着いた声で俺たちを止めた。
「シスターメアリー、リョージ君。急ぎたい気持ちはわかるけど、ちょっと待ってね。管理官とゴルガゼ伯爵も一緒の方が都合が良いからさ」
「あの……ゴルガゼ伯爵というのは?」
「ヤーコフのお父さん。伯爵家の当主だよ。手紙を出しておいたんだ」




