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第107話 前線の押し上げ

 ババさんが長い手を振り下ろした。

 同時におびただしい数の魔法と矢がオーク軍団へ向かって放たれた。


「うおりゃ!」


 俺も右手に握った小石を全力投球!

 これだけオークがいれば、コントロールもへったくれもない。

 威力重視の力任せだ。


 俺が放った石は、俺の謎パワーがのり凶悪な散弾となった。


「ブヒッ!」

「ブー!」

「ブブッ!」

「プギー!」

「ブホッ!」


 城壁のそばにいたオーク五匹が俺の投石を受けて倒れた。


 城壁の近くのオークには、射程の短い魔法や矢が次々と着弾し、オークがハリネズミのようになって倒れる。


 城壁から離れた場所は、もっと大変なことになっている。

 範囲魔法の嵐が吹き荒れているのだ。


 炎が、風刃が、岩が、水流が、オーク軍団に襲いかかる。

 広範囲でオークが倒れ、オークで充満していた空間にぽっかりと穴が空く。


 シスターエレナの声が響いた。


「ソフィーちゃん! あそこです!」


 シスターエレナは、遠くを指さしている。

 シスターエレナの指さす先を見ると、金属鎧を着た大柄なオークがいた。

 オークジェネラルだ!


 シスターエレナは、『指揮官クラスを狙い撃ちしろ』とソフィーに指示を出したのだ。


 ソフィーはキラキラした目と天真爛漫な笑顔をして、手をスッと振り下ろした。


「どーん!」


 凄まじい稲光!

 続いて轟音!


「「「「「うおー!」」」」」


 城壁上の冒険者や町の人から驚愕の声が上がる。


 ボール遊びをするように楽しげに放たれた魔法は凶悪だった。

 オークジェネラルと周囲にいたオークにとって災厄であっただろう。


 光と轟音が去った後、俺は目を細めてオークジェネラルがいた場所を見た。

 存在しているのは黒焦げのオブジェだけである。

 周囲は半径二十メートルほどが、えぐられるようにポッカリスペースが空いていて、よく見れば大量のオークが倒れていた。


「わーい! やったー! ぷれみあむ・ろーすと・おーくが沢山!」


 舌っ足らずで口調はかわいいが、やったことは恐ろしい。

 敵のオークだけでなく、味方の冒険者もソフィーを見て恐れおののいている。


 聖サラマンダー騎士団団長のフレイルさんが高らかに笑った。


「ハハハハハ! 諸君見たか! オークなど恐れるに足らんよ! 次は我らの番だ!」


 フレイルさんの声に、ガイウスが呼応する。


「おう! もう腹ぺこだぜ! 肉を食わせろや!」


 ガイウスの一吠えに、剣や槍を手にした冒険者たちの表情が肉食獣に変わる。


 ババさんが、さっと手を振り下ろした。


「突撃!」


「「「「「おおお!」」」」」


 ババさんの号令で、今度は近接戦のエキスパートたちが城壁から飛び降りた。

 みんな常人では考えられない力の持ち主だ。

 城壁から飛び降りてもびくともしない。


 西門前の開けたスペースに次々と着地し、オークの海へ飛び込んでいく。


 ガイウスがバスターソードでオークを両断し、フレイル団長が剣を振るいオークを三枚に下ろす。

 ババさんがチョップを振り下ろすとオークの頭が胴体にめり込んだ。

 銀翼の乙女のクロエさんも素早い動きでオークを切り裂いている。


 主力級が最前線に出て、戦線を押し上げるべく奮闘する。


 主力級が前線を押し上げると、中堅や若手の冒険者が間を埋めて取りこぼしたオークを複数人で仕留める。


(オークの軍団が溶けていく……)


 西門前のスペースが広がっていく光景は、圧巻の一言だ。


 俺も思い切って城壁から飛び降りた。


「うおおおおお!」


 ズンと着地した衝撃が足の裏に伝わるが、謎強化された俺の体は何ともない。


 ウエストポーチ型のマジックバッグから、いつもの棍棒を取り出す。


「硬化!」


 すぐに付与魔法で棍棒をカッチカッチに強化する。

 これで準備万端と思っていると、俺の後ろに誰か飛び降りてきた。


「リョージさん。私もご一緒しますよ」


 聞き慣れた声だ……まさか……!?

 振り向くとシスターメアリーが笑顔で立っていた。

 両手にはゴツイ金属製のナックルを身につけている。


「えっと……シスターメアリー!? 戦うのですか!?」


「もちろんよぉ~!」


 話し方は、いつもの優しいシスターメアリーなのだ。

 笑顔も、いつもの優しいシスターメアリーなのだ。


 だが、両の拳に鈍く光るナックルはなんだ?


「あの……シスターメアリー……。その手にはめてらっしゃるのは、まさか……」


「これはサラマンダー・ナックルよ!」


 シスターメアリーが両拳をガチンと叩き合わせると、サラマンダー・ナックルが炎を帯びた。


「えっと……大丈夫なのでしょうか?」


「あら! 失礼してしまうわ! ねえ、フィリップ?」


 いつの間にかフィリップさんも下りてきていた。

 フィリップさんは王都から来た神官のリーダーで、シスターメアリーの元パーティーメンバーだ。


 フィリップさんは長い錫杖を手にして、いつもの笑顔だ。


「ハハハ、リョージさん。メアリーがどうしても出ると言ってきかないんだ。まあ、足を引っ張ることはないから、一緒に戦いましょう」


「は、はあ……」


 フィリップさんも、良いお年だと思うけど……。

 二人とも最前線に出る気だよ!


 俺の心配をよそにフィリップさんが続ける。


「シスターエレナは、城壁に残してきたよ。戦闘指揮を頼んできた」


「さ、左様ですか……」


 逆なんじゃないだろうか?

 若いシスターエレナが最前線に出て、フィリップさんやシスターメアリーが城壁上に残って指揮をとるのでは?


 だが、俺の疑問など差し挟む余地はない。

 周りはオークだらけで、戦闘は進行中だ。


(議論している場合じゃない! 俺も働かないと!)


 俺は城壁上のシスターエレナを見上げた。

 シスターエレナとソフィーが手を振る。

 シスターエレナは右斜め前をスッと指さした。


「右斜め前方にオークジェネラルです! 二匹います! 倒してきてくださーい!」


「了解!」

「わかったわ!」

「承知した!」


 俺、シスターメアリー、フィリップさんは、オークの海へ踏み出した。

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― 新着の感想 ―
こんばんは。 昔の日本でも『撤退してる側のやたらクソ強い殿が奮闘したせいて、勝ち戦気分で追撃してた側が逆に撤退した』なんて戦があったらしいですし、やっぱり戦意と勢いって大切なんですね。
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