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第106話 ソフィーは空気なんて読まない!

 俺たちは、リックとマルテを救出し無事にサイドクリークの町へ帰還した。

 俺もソフィーも疲れていて、夕食を食べながらウツラウツラ……。

 食事を終えたらバタンキューと眠りについた。


 よほど疲れていたのだろう。

 翌朝、寝坊してしまった。

 ベッドで目が覚めると窓の外は明るくなっていてソフィーはいない。

 ソフィーは先に起きたのだろう。


 腕時計を見ると朝九時だ。

 この世界は陽が昇ると活動をする。

 朝の九時はかなりゆっくりだ。


 不思議なことに教会には誰もいない。

 俺は身支度を整えると、移動販売車のサンドイッチと缶コーヒーで朝メシを済ませる。


(みんなどこにいるのだろう?)


 俺は移動販売車に乗り込みサイドクリークの町へ出た。

 町の中はシンと静まりかえっている。

 通りには誰もいない。


(あっ……! そういえば……スタンピードはどうなったんだ?)


 俺はダンジョンに近い西門へ向け移動販売車を走らせた。

 西門に近づくと人が増えてきた。

 だんだん騒がしくなる。


 西門は閉まっていた。

 門の内側に太い丸太や土嚢が積み重ねられ、門が外から開けられないようにしてある。


 俺は西門のそばで移動販売車を降りると、城壁に上った。

 城壁の上には沢山の人がいた。

 冒険者だけでなく、兵士、町の住民もいる。

 全員顔面蒼白だ。


「うおっ!」


 俺は城門から外を見て驚き圧倒された。


 町の外はオークで溢れていた。

 オークの数は数えられない。

 万は超えていると思う。

 オークの海の中にサイドクリークの町がポツンと浮いているようだ。


 俺は改めて周囲を見回す。

 すると領主のルーク・コーエン子爵、執事さん、冒険者ギルド長のババさん、聖サラマンダー騎士団団長のフレイルさんがひとかたまりになっていた。

 偉いさんたちが集まっているのだ。


「コーエン子爵!」


 俺は城壁上の人をかき分けて、ルーク・コーエン子爵に近づいた。

 コーエン子爵は俺に気が付いたが眉根を寄せ無言だ。

 元々表情の変化に乏しい人だが、コーエン子爵が苦悩しているのが伝わってきた。


 俺は何を話して良いのか分からず、周囲にいる誰ともなく話してみた。


「凄い量のオークですね……」


 俺の言葉にババさんが返事をしてくれた。


「ふう……。オークのスタンピードか……。なかなか厄介だ。数が多い」


「町は囲まれていますよね?」


「ああ、逃げ場はないよ」


 それっきりババさんは黙ってしまった。

 真剣な顔でオークの海を見ている。

 だが、細い目が開かれギョロギョロと動いているので、オーク集団を観察しているのがわかった。


 物凄いオークの数だが、ババさんはあきらめていないとわかり、俺は胸をなで下ろした。


 続いて聖サラマンダー騎士団のフレイル団長が前を向いたまま言葉を発した。


「問題はボスだ」


「ボスですか?」


「ああ。スタンピードは魔物が大量発生をするのだが、その中でも一際強力な魔物が発生するのだ」


「それがボスですか?」


「そうだ。我々はボスと呼んでいる。スタンピードで発生した魔物の数を減らし、ボスを討ち取れば、残った魔物は四散する」


 なるほど……。スタンピードにもボスがいるというわけだ。

 ダンジョンのボスと似ているなと俺は思った。


 スタンピードで無限に魔物が湧き続けるなら勝ち目はないが、攻略法があるなら勝機はある。


「それで、ボスはどこに?」


「探しているのだが見えない」


「隠れているのでしょうか?」


「かもしれない」


 ふむ。ボス魔物は、狡猾なのか?

 それとも慎重な性格なのか?

 いやいや! ひょっとしたらザコは配下に任せて、自分は後から……なんてことを考えているかもしれない。


 俺も腕を組んで前方を凝視した。


 オークはブヒブヒ言いながら押し合いへし合いしている。

 よく見るとオーク同士でケンカをしている。

 ひょっとしたら、あまり統制がとれていないのかもしれない。


 さらに、事前に準備した丸太の柵は健在で、西門の前には柵によってスペースが出来ている。


(打って出るなら、門の前のスペースが使えるな!)


 俺はポジティブな要因を見つけて、ちょっと前向きな気持ちになった。


 ルーク・コーエン子爵がため息交じりに話しかけてきた。


「は~、リョージ君……」


「何でしょう?」


「チョコレートくれないかな……」


「えっ?」


 俺はルーク・コーエン子爵のそばに立つ執事さんをチラリと見た。

 執事さんは首を横に振っている。


 コーエン子爵の脳が糖分を欲しがっている。

 この状況では仕方がないが、執事さんがダメというならダメだ。

 俺はちょっとコーエン子爵がかわいそうになった。


「このスタンピードが終ったら、とびきり美味しいのを差し上げますよ」


「ふふ。そうか。それじゃあ、がんばらないとね。隣の領主に早馬を出したし、王都にもスマートフォンで連絡をしたよ。だから最悪籠城していれば援軍が来るよ」


「なるほど。それは心強いですね!」


「でもね。町のみんなが不安になってしまってね。援軍が来るまで町の士気がもつかどうか……」


 ルーク・コーエン子爵がぼやく。

 俺はピシャリと言い返した。


「住民の士気を上げるのは、領主であるコーエン子爵の仕事ですよ」


「うーん、それは分かるんだけどさ。僕って、そういうタイプじゃないでしょう?」


「まあ、それは確かに……」


 コーエン子爵はカリスマタイプじゃない。

 大声を出し、目立ってみんなを引っ張って行くタイプじゃない。

 調整型の領主だ。


 今、求められているのは、住民の士気をガツンと上げるアジテーターだろう。

 しかし、冒険者ギルド長のババさんは違う。包容力、面倒見の良いタイプのリーダーだ。


 聖サラマンダー騎士団のフレイルさんはカリスマがあるのでダメではないが、町の住人からすれば余所者だ。

 フレイルさんの言葉が住民の心に届くかどうか……。


 俺が考え込んでいると、ガイウスが近づいて来た。


「オイ! リョージ! オマエ演説か何か出来ねえか? 冒険者の中にもブルっちまったヤツがいる。誰かが盛り上げねえと、戦えるモンも戦えなくなっちまう!」


「ガイウス。俺はそういうの苦手だよ。ガイウスがやれよ。冒険者に信頼されているだろう?」


「俺は肉体派だ!」


「違いない」


 ダメか!

 ガイウスが脳筋であることは間違いないが、冒険者たちからの支持はある。

 一吠えしてくれれば違うと思うのだが、本人がその気でないなら無理だ。


 俺たちが困っていると、甲高い女の子の声が響いた。


「すごーい! お肉がいっぱーい!」


 女の子の声は喜びに溢れていて、緊迫した場では不適切に感じるほどだった。

 声がした方にみんなの視線が移る。


 ソフィーだ!


 ソフィーは少し離れた城壁の上に立って、ピョンピョン飛び跳ねてはしゃいでいる。


「お肉♪ お肉♪ ヤッホー♪」


「ソフィーちゃん。危ないですよ。飛び跳ねてはいけませんよ」


 そばにシスターエレナがいて、ソフィーが落ちないように服の裾をガッツリつかんでいる。


 あまりにも場違いなソフィーの行動に、俺はポカンとした。


「えっと……。ソフィー……?」


 ソフィーが俺に気が付いた。

 満面の笑顔で俺に両手を振る。


「お父さーん! やったー! 今夜は焼き肉だよ! 大盛りだよ! お肉が食べ放題だよ~!」


 ソフィーの一切空気を読まない大胆発言に俺の周りは衝撃を受けた。


「なっ――!?」


「な、なに!? 焼き肉!?」


「ひょっとして……、オークを食肉扱いしているの!?」


 ババさん、フレイル団長、コーエン子爵が、激しく動揺している。

 ちょっと面白い。


 ガイウスが静かに、腹の底から笑い出した。


「クククク……。やってくれるぜ! さすがソフィーちゃんだ! 見ろよ!」


 ガイウスが指さす先を見ると、冒険者たちがポカンとした顔をしていた。

 ポカンとした顔だが、先ほどと違って顔に血の気が戻っている。

 ソフィーが発した予想外の言葉で、オークに圧倒されていた気持ちが和らいだのだ。


 ガイウスがニヤリと笑いながら俺を肘で小突く。


「ほれ! 父親として何か言えや!」


「ふっ……、そうだな」


 俺は大きく息を吸ってから、町中に響くような大きな声を出した。


「そうだ! ソフィー! 肉祭り! 焼き肉祭りだ! 食べ放題だぞ! お父さん、がんばっちゃうぞ~! 沢山倒せるか競争だ!」


「わーい! ソフィーもがんばる!」


 ソフィーがピョンピョン跳ねる。


 俺とソフィーのやり取りを見ていた冒険者や兵士が笑い出した。


「聞いたかよ?」


「まったくイカレてやがるぜ……」


「けど、まあ……。考えようによっちゃあ、あのオークどもは肉の山か……」


「へっ! 違いねえ!」


 空気が変わった。

 下を向いていた住人たちも前を向き。

 冒険者たちは不敵に笑い。

 兵士たちは、手にした槍を強く握った。


 ガイウスが吠えた。


「よーし! おめえら! やるぞ! オークを肉に変えてやれ!」


「「「「おお!」」」」


 冒険者がガイウスの呼びかけに答えた。


 フレイル団長が力強く命令を発する。


「聖サラマンダー騎士団! 遠隔攻撃用意! 近接戦闘部隊は突撃に備えよ!」


「「「「「はっ!」」」」」


 聖サラマンダー騎士団の白い制服が揺れ、魔法使いは杖を構え、弓使いは弓を構えた。

 大剣やハルバートを持った騎士がヘルムをかぶった。


 ルーク・コーエン子爵が、珍しく大きな声を出す。


「コーエン家騎士団! 突撃用意! 住民は怪我人の手当に備えよ! 戦うぞ!」


「「「「「うおおお!」」」」」


 コーエン子爵の気合いの入った声に、住民と町の騎士団が答えた。

 城壁を揺るがすような大きな声が響く。


 城外のオークたちも何事かと動揺している。


 冒険者ギルド長のババさんが大きな手を上げた。


「魔法攻撃用意! 弓隊攻撃用意! 目標! 西門正面のオーク軍団!」


 ババさんの指示で、魔法使いが集中を始めた。

 ソフィーも意識を集中している。

 マリンさん、アシュリーさんの姿も見える。


 俺は投石の準備をする。俺の投石なら散弾銃のようにオークを仕留められる。俺はマジックバッグに手を突っ込んで、子供たちに集めてもらった石を右手に握り込んだ。


 しばらくの静寂。

 そしてババさんの手が振り下ろされた。


「撃て!」

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― 新着の感想 ―
とかげ族じゃなくてリザードマンですよ!?www
オークディザイアだったかゲル℃がオークを引き連れて、リムるに戦いを挑んで居た所ですよ (#゜Д゜)y-~~ブゥ~~
オークの扱い方が雑でぇ~!!草 大草原 orz orz  展開的に転スラと同じになると思ったのに、ソフィーちゃんたら (((*≧艸≦)ププッ
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