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白いポスト秘密

よろしくお願いいたします。

 翌朝私たちは総支配人から聞いた住所を頼りに、先代の女将が暮らす家へと向かった。私たちが訪ねると優しそうなお婆さんが出迎えてくれたが、その方が先代の女将さんだった。総支配人から話は聞いていたようで、すんなりと家にあげてくれた。少し談笑しながら私たちがこちらに来ることになった経緯を改めて話した。


「それではお嬢さんは白いポストの話をお祖父様から聞いていて実際に手紙のやり取りがあったのかい」


 お婆さんの問いかけに私は頷いた。


「それで金髪のお兄さんは、火の玉のような白い光の謎を追いかけていると」


「はい」


 私たちは各々返事をしながら、お婆さんの話を緊張した面持ちで聞いていた。そこで、思いがけない事実を知ることになった。


「実のところお嬢さんが言う白いポストも金髪のお兄さんが言う白い光もどちらも白い狐なのよ」


「えっどういうことですか」


 私はお婆さんの言葉に一瞬理解が追いつかず思わず問いかけてしまった。


「そうねぇ、おそらく起因は怪我した白い狐を助けたことかしら。当時書かれた日記が金庫に残っているからそれを保管してある場所まで着いて来てくださるかしら」


 お婆さんは立ち上がるととある部屋に案内してくれた。その部屋のすみには年代物の金庫があった。お婆さんは金庫の前に行き鍵を開けとある1冊の本のようなものを取り出した。おそらく先程言っていた日記だろう。


「これはね、当時の女将の妹の日記なのだけれど、そこにあなたたちの知りたいことが書いてあると思いますよ」


 そしてお婆さんは誰にも言わないことを条件に日記だという冊子を渡してくれた。日記を受け取ると私たちは早速読み始めた。2人が両サイドから除き込む形になり少し距離が近い気がして、何だか良い匂いもするし別の意味でドキドキした。


 その日記には、照須野神社で助けた白い狐とその家族との交流が書かれていた。家族には娘がいて、白い狐の手当てが終わったら照須野神社の裏山へ帰すことが決まっていたが、思いの外その娘が狐になついてしまったのだ。一緒に暮らせるとばかり思っていた娘は狐に白坊(はくぼう)と名付け可愛がり、いよいよ狐を帰す日が訪れたとき狐を帰す意味がわからずただ泣いて嫌がっていたが、照須野神社に行けば会えるからと何とか説得したそうだ。


 流石に毎日は照須野神社へ行くことは叶わなかったが、何度か交流を続けていたのちに父親の転勤が決まったが白坊に会いたがる娘のために父親だけ単身赴任することを決めたのだ。それからは2人で白坊に会いに行くことになったが、白坊は父親がいないことに不思議そうにしていたり、父親宛の手紙をポストに入れるところをじっと見ていたそうだ。白坊にポストに手紙を入れると返事が来ることを説明したら、理解した素振りを見せたこともあったらしい。


 そして私はとある1文のところに来て女将さんの言った言葉が理解できた。


 ○月×日

 白坊が手紙を加えて走って行った。イタズラするなと追いかけて怒ろうと思ったら、突然ポストに姿を変えた。驚いて腰を抜かしているうちに、白坊は手紙と共にいなくなってしまった。一体どこへ行ってしまったのだろうか。


 ○月×日

 照須野神社へ行くと白坊が手紙を加えて待っていた。もうイタズラしたらダメだよと怒りながら手紙を受けとると、父ちゃんからの返事だった。慌てて中身を読むと白坊が手紙を届けてくれたと書いてあった。とても信じられなかった。


「これって……と言うよりこの白い狐の白坊は賢すぎません?」


 私は思わず口にする。


「あぁそうだな」


 返事をしてくれた佑真さんの低めの声がダイレクトに聞こえて耳がぞわりとした。声が出なかったことは褒めてもらいたいものだ。


 そうなのだ。この白い狐はまるでポストに手紙を入れたら相手に手紙が届くことを理解していて、それを実践しているように見える。実際に日記にもそのように書かれていた。しかし白い光の謎はまだ分からなかったが、もう少し読み進めていくとその答えが分かった。


 私は日記に書かれているある1文を指さしながら裕之さんに問いかけた。


「あっねぇこれって……」


「マジか……」


 それから裕之さんは黙ってしまった。


 ○月×日

 白坊がポストに変わる姿なんて見たくないと思ってしまったからかな。それ以来白坊が見えなくなった。娘にはちゃんと姿が見えているのに私には白い光がキラキラと輝いて見えるだけだ。そんなこと思わなければ良かった。もう一度姿を見せてくれないかな。


 何故このようなことが書かれているのかというと、何でも旦那さんが単身赴任先で不幸にも亡くなってしまった。手紙の橋渡しをしてくれていた白坊を見るとどうしても旦那さんを思い出してしまい辛かったようだ。ひと時の感情で、白坊の姿なんて見たくないと思ってしまったことを悔やんだと書かれていた。これ以上読んでも仕方がないと、なんとなく切なくなりながら日記をとじたらその日記に挟まれていたのだろうか、封筒が ヒラリと落ちた。


「うん? これは……」


 はっと気がつき驚いた表情をしながら裕之さんが封筒を拾う。


「あぁそれはね、当時の女将の妹の旦那さんが残した最期の手紙なのよね」


 読んでも良いと言うことで読ませてもらったが、なんとも不思議で切ない内容だった。大人になった娘さんから手紙が届き自分が死ぬことを知ったそうだ。その娘さんはあまり父親のことを覚えていなく、どんな人だったのか知りたいと思い父親を良く知る人物を探すことにしたようだ。


 父親が亡くなってから母は泣いてばかりいて、父親のことを母に聞くことができないまま月日がたち、そのうちに母親も亡くなってしまったことも書かれていた。命日が書かれていたり、そこで知り得たであろう家族が知らないような具体的な内容も書かれていたが、悪いイタズラだと思ったので 犯人探しでもしようと思ってると書かれていた。


 この旦那さんは、自分は元気だし確かに最近疲れやすくはあるがそんなことはあり得ないと信じなかった。しかしもし娘を名乗る人物の話が本当だとしたら、この手紙が届く頃にはこの世にいないことになる。だから万が一に備えて大人になった娘さんが父親のことを知るために訪ねた人物……つまるところこの旦那さんの昔馴染みでもある同僚を頼ってほしいと。


 妹さんは女手ひとつで娘さんを育てて、苦労したそうだ。娘さんはずっと父親が恋しかったようで、2度と父親と会えないと理解したとき周りの友達が父親との思い出話をするたびに、ひどく苦しくて寂しかったと。2人には幸せになってほしいから念のための話だよ。と締めくくられていた。


 この手紙だけでは旦那さんがどんな人物だったのか分からないが、自分が死ぬことを信じていない人がこんな手紙を残すだろうか。少なくとも誰かを頼れなどとは言わない。幸せにするのは他の誰でもない旦那さん本人なのだから……。知るすべはないけれどきっと何かを感じ取っていたのだろう。


「この手紙を受け取った妹さんはどう思ったのかな……」


 私は手紙を読み終わりふとそんな言葉を口にしていた。少しばかり虚しさを覚えながら、お婆さんに手紙と日記を返す。私の口に出した言葉に対して誰からも反応はなかった。


「あの! ありがとうございました」


 その後の母子2人が気になったけれど、手紙を読み終わってからの裕之さんと佑真さんは難しい表情で考え込んでいるようで聞ける雰囲気ではなかった。


「いえいえ。お役にたてましたかねぇ」


「あっはい大丈夫です。でも白い光が白坊だったのなら母が住んでいた頃は、白い光しか見えなかったと聞いているのでそれが不思議です」


 私が口にした言葉に対してお婆さんは捕捉とばかりに話してくれた。


「まぁそうだったんですの! そうねぇ白い狐がポストに変わるなんて普通に考えたらおかしな話でしょう?」


「はい」


(わたくし)どもの家系ではほとんどの人が白いポストが見えていたんですのよ。でもおかしいことだと分かっていたから、誰にも話さない決まりになっていたんですよ」


 私は母から聞いた白いポストは存在しないお前の親は嘘つき事件を思い出していた。おそらくこの家の人たちはそうなることを予見していたのだろう。


「誰にも信じてもらえなくて、頭のおかしい人だと思われることが目に見えていましたからねぇ。だから見えない人たちからしたら白いポストの話は嘘だと言ってしまう事件が起こってしまったんでしょうね」


「そうですよね。私も祖父から白いポストの話を聞かされてなければ信じたかどうか分かりませんし、私の母を含め白いポストを見たことのある家の子供たちは信じてたようですけど」


 不確かなことは懐疑心が生まれやすい。母が住んでいた頃に1度でも白いポストを見た人がいたら、あんな事件起きなかったかもしれないと思うといたたまれない気持ちになる。


 でも、世の中には様々な考えを持つ人がいる。自分のこの目で見たことしか信じない人もいれば、噂を鵜呑みにしてそれが真実だと思い込む人もいる。ただ見えていることだけが真実とは限らないことがあるので、難しい問題でもあるが結局は自分次第である。


「えぇそのようですね。私も昔から聞かされていて実際に見たものですから信じたようなものです。しかし日記にも書かれていたと思いますが私もいつの間にか見えなくなってしまいましたが」


「そうなんですか」


「私も何故突然見えなくなるのか疑問に思いましてね訊ねたことがあるんですのよ。そうしたらあるときを境に皆が見えなくなると言うんですの。これは何かあると思いますでしょう」


「あっはい!」


 私はうなずきながら静かにお婆さんの話を聞いていた。


「ただ人によって見えなくなる時期が異なっていましてねおおよそ思春期だったり、自立心が芽生えるいわゆる中間反抗期と呼ばれる時期だったんですの」


 要は大人へと成長する過程で様々なことを学び、疑うことを覚え純粋な心を置き忘れていくことで見えなくなるのだと考えられる。


「そこである仮説ができましたの」


「仮説ですか」


「えぇあなたのお母様が過ごした頃には白いポストが現れなかった。と言うことはその間誰も信じなかったことになるのよね。そうなると疑いを持たないことが見える条件だと推察できるでしょう」


「あぁ! そうかもですね」


 私も手紙が届くまでは忘れていたが信じていたからこそ白いポストを見ることができたんだなと思った。


「そして白坊が訳あってこの地に来られなくて、戻って来たときには白いポストの存在を信じる人がおらず白い光だけが見えていたことになりますわ」


 いつの間にか裕之さんと佑真さんは私たち2人の会話に耳を傾けていた。


「そもそも白坊が現れるのはこの日記に出てくる旦那さんの亡くなる前後あたりなのよ。だから今でも時空をさまよいながら旦那さんを探しているんじゃないかと言われているのよ」


「時空をさまよいながらですか」


「えぇそうでないと、この手紙が届く理由としてつじつまが合わないでしょう。それに手紙の差出人の住所を見れば分かると思いますが、白山神社に白い光が現れるのも以前旦那さんが住んでらした場所から近いですからね」


 私は気がつかなかったが裕之さんが手紙を拾ったときの反応はこの事実が分かったからだったのかと思った。確かにそう考えるのが自然かもしれない。もし本当に時空をさまよっているとしたら私のカバンに入っていた手紙が消えたことは白坊の仕業になる。


 しかし疑いを知らない純粋な子供だけが見えると言うのは少し疑問が残る。何故なら私が聞いた話ではすでに思春期を迎えてるであろう人が白いポストに手紙を投函して返事が来ているのだから。


「あのう……白坊が時空をさまよっているとしても、思春期を迎えて見えなくなっているはずであろう人が白いポストに手紙を投函して返事が返ってきたと言う話を聞いたことがあるんですよ」


 日記に出てきた娘さんが大人になっても見えていた可能性を考えながら、疑問を口にしていた。


「そうですねぇこれも推測にすぎないのだけれど、白坊は時空をさまよって様々な時間軸に行き来できると思うのよ。そこで旦那さんを助けられた未来がある可能性を考えましてねぇ」


 なんとも説得力のある話だなと聞いていた。


「もしかして、旦那さんを助けられる人を探してるってことですかね」


「まぁそれも一理ありますわね」


 私の考えはあながち間違いでないようだ。お婆さんは話を続けた。


「おそらく白坊は人の言葉や感情は理解できても、話すことができないのよね。どこにもそんな話出てこないですから」


「白坊が話せれば良かったですね」


 私は思った。もし白坊と話ができたら、何かしら変わっていたのではと。


「そうですねぇ私もそう思いますわ。だからでしょうか白坊の後悔と人様の後悔が共鳴しあってより強い後悔をしている人物には見えてしまうのかしらと……」


「では、日記に出てくる娘さんはずっと見えていたということなんですね」


 娘さんは父親に死んでほしくないと強く願っていたはずだから、そう考えるのが自然な流れであると思った。


「なんとも言えないですわね。別の次元ではそうだったかも知れませんが、日記に書かれているのを見る限り娘さんは白坊が途中で見えなくなっていますし、何より妹さんは旦那さんの昔馴染みの同僚のかたと再婚しておりますわ」


「再婚されたんですか」


 娘さんはずっと見えていたんだなと思ったのにお婆さんはまさかの回答をした。それに思いがけず知りたかったことが聞けて、とりあえずは私の知る現世では娘さんが父親がいないことで寂しい思いをせずに済んだことは良かったと思う。


「えぇそのようですね。再婚後はそれなりに幸せに暮らしていたようですのよ。子供が寂しかったなどと知ってしまったら、親心としては自分の感情は二の次で子供を優先させたいと思うものですからね」


 私は結婚すらしていないのでそのあたりの感情は完全には理解できないが、親の心子知らず子の心親知らずなどとよく言われるので当然のことなのかもしれない。


「それなら良かったです」


 私が安どの表情を浮かべていると、今まで黙っていた裕之さんが突然口を開いた。


「ところで少し伺いたいのですが後悔していることがあれば、白いポストが見えなくとも手紙を持って神社へ行けば過去に手紙を届けてもらえるものなのでしょうか」


「あら、あなたは何か後悔していることがおありなのですか」


「まぁ程度の差はありますが後悔の1つや2つ誰にでもありますよ」


「そうですわね……。最初に差し出す人はそちらのお嬢さんを含めて白いポストが見えていますから、大人がただ神社に行ったとしても何も起こらないのではと思いますよ」


「そうですか……」


「ごめんなさいね。それにねぇ狐の白坊の話は秘匿とされておりますし、この町にゆかりのある者しかこのような不思議なことは起こらない様ですのよ」


 私たちはひと通り話を聞き終えると、お婆さんにお礼を言いその場を後にした。

お読みいただきありがとうございます。


白いポストは化けた白い狐でした。


明日も投稿します。残り2話で完結になります。

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