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手紙の返事と新たな出会い

よろしくお願いいたします。

 

 まず初めに手紙が無事に届いたことと白いポストの話はこの手紙で思い出したことを書いた。


 それから引っ越しの際にぬいぐるみはほとんど捨てたが、ルルちゃん人形はおばあちゃんからもらったものなので今でも大切にとってあり実家にあること、そしていまだに結婚もせず恋人もいないこと、ビールは苦くて飲めないので味見程度ならしてみても良いなど手紙に答えるように書いていた。


 それらの事柄を書き終わると、意を決して忘れられない出来事のことを書き記していく。


 当時女子の間で好きな人を言い合うことが流行っていた。もちろん誰にも話さないことが条件で友達の好きな人をクラスの女子に教えてしまったことがある。思い返せば最低なことだけど、誰が誰を好きか知りたくて仕方がなかったのだ。


 しかしクラスの中で友達の好きな人と同じ人が好きだという子がいたのだ。そのクラスの子は好きな人を取られないように、○○さんが××君のこと好きらしいと本人に教えてしまい、そのうえ友達のあることないことを言いふらした。それがきっかけで好きな人に迷惑そうにされた友達は告白もせずに振られる事態が起こったのだ。


 そしてその原因はすべて私にあると友達は認識して、それ以来口も利かなくなってしまった。確かにクラスの子に教えてしまったのは事実だが、それ以外友達を貶めるようなことは一切していない。誰にも言わない約束だったはずだから、誰かに話すなんて思いもよらなかった。


 弁明する機会すら与えられずただ『ごめん』と言うことしかできずに、今は何をしているのか分からない。そもそももしあの時私が友達の好きな人を誰にも話さなければ、仲違いはせずに今でも友達のままでいたかもしれないと思う。


 その後風の噂で友達の現状を知ることになるのだがそれは何とも信じられない内容だった。その友達はいわゆる悪女と呼ばれる類になったようで、友達の彼氏に手を出しては略奪愛を繰り返すようになったそうだ。なんでも高校時代の話しらしい。


 現状を知った私は今でも友達のままでいたら、その子のことを止めることが出来たかもしれないし、悪女になる未来など起こらなかった可能性を考えた。それらの内容を手紙に書き記し過去へ送れるのかも分らない手紙を書き終えた。


 手紙を書き終えてから、ある感情が浮かんだ。確かに過去の私に伝えたいことは沢山ある。しかしそれはつまり自らパンドラの箱を開けることになるということだ。果たして耐えきれるのだろうか? でもきっと必要なことだと思う。


 それから昼食を済ませて、近くの神社にお参りに行くことにした。困ったときの神頼みである。これから行く神社は私にとっての氏神様であり、その名前を白山はくさん神社という。近くと言えども、徒歩20分以上かかる距離にある。


 無事に白山神社へたどり着き階段を上がり鳥居をくぐり抜けるとようやく境内の前に着いた。そしてお参りを始める。


 その時手紙のことで頭が一杯だった私は、木の陰からこちらの様子をじっと見ている先客がいることに気づきもしなかった。


(小森さなと申します。いつもお守りいただきありがとうございます。無事にここへたどり着くことが出来ました。

 田舎に住んでいたおじいちゃんから白いポストの話を聞いた10歳の私が、20歳の私に書いた手紙が届きました。

 返事を書いたのですが田舎である桔根町の照須野神社が土砂災害で立ち入り禁止になっています。

 どうか、白いポストを見つけに照須野神社へ行けるようになりますように。そして手紙を出すことができますように。今は参拝できなくてもせめて近くでも構いません。

 そして一緒に行ってくれる人も見つかりますように。どうぞよろしくお願いします)


 神様に願いが届くように祈りながらいつの間にか私の目には涙があふれ自然とこぼれ落ちていった。まるで神様が願いを聞き入れてくれることを喜んでいるような感覚だった。


 参拝を終え神社の境内から立ち去ろうと階段に向かって歩いていると、目の前が光でさえぎられた。太陽の光が木々の隙間から差し込んだのだろうか。少し目がくらんで顔をしかめているとふとそばにある木に人の気配がした。そちらに目をやると、突然人が姿を表した。


 その人物はミディアムロングに金髪という見た目で少し怖そうな印象の男性だった。誰もいないと思っていたのでドキッとした。しかも一瞬目が合うと何故だかこちらに向かって来る。突然の出来事に顔もこわばり本能的に早く逃げなきゃと思ったのだが、驚いて足を滑らせて膝をついてしまう。


「……いっ」


「あっ! お姉さん大丈夫ですか? ごめんね僕のせいだね怪我してないですか」


 慌てて駆け寄ってきた男性から、思いのほか少し高めの優しい声がした。その怖そうな見た目で優しいとか色々と想定外である。内心そう思いながらも痛みと恥ずかしさで顔を上げることが出来ずなんとか声を発する。


「だっ大丈夫です」


 本当は手のひらと膝が痛くて大丈夫ではなかったけれど、相手に心配させまいと強がってしまうがその男性はすぐに私を助け起こしてくれた。そっと膝を確認してみると、不運にもスカートをはいていたたため血が出ていた。


「わっやっぱり怪我してる!!」


 その様子を近くで見ていた男性に、膝の怪我が見つかってしまったのだ。


「あっあの本当に大丈夫ですので」


 申し訳なさそうな顔をする男性を尻目に私は一刻も早くその場を立ち去ろうと足を一歩踏み出したのだが、少し足をひねっていたようでよろけそうになり男性に支えられてしまった。


「っと――危ない。これは早く手当した方が良さそうですね。僕の家車ですぐなので、ちょっと失礼します」


 そう言いながら、私のことを抱きかかえ白山神社の鳥居を潜り抜け階段を降りると車の元へ移動した。その間私は突然のできごとに驚き、終始硬直していた。それから車の後部座席に乗せられて走ること数分。特に会話はなかったけれど、運転席の男性をバックミラー越しにこっそり見ると、表情は焦っているように見えるが真剣に車を運転している様子がうかがえる。


 先程はとっさの出来事で気がつかなかったが、この男性はたれ目がちの優し気な目元で顔は割と整っていていわゆるイケメンだ。金髪は怖いというイメージに固執しすぎているのかもしれない。


 今起きている状況に頭が追いつかず、何度かバックミラーに映る男性を見てしまう。盗み見ていることがバレやしないかと内心ハラハラドキドキしていた。そんな願いは叶わず一瞬目が合ってしまった。人の視線は敏感に感じ取るもので、気まずいことこのうえなくうつむくという構図の出来あがりである。


「すいません。もうすぐ着きますので」


 男性に謝られてしまい、逆に申し訳ない気持ちになった。私はチラチラと男性を見すぎてしまったのだろうか。それで、早く手当てしてくれと催促されているように感じ取ったのかもしれない。単なる思い込みだと良いのだけれど。


「こっこっこっこちらこそすいません」


 緊張で上手く言葉を紡ぐことができなかった私は今顔が真っ赤になっていることだろう。まるで『ニワトリかよ!』と突っ込みたくもなる。そうこうしているうちに、男性の住むマンションに到着したようだ。車を駐車場に止め私を後部座席から降ろし抱きかかえると、そのまま玄関ホールまで向かった。視線をどこに向けて良いか分からず四方八方にさまよわせていると、いつの間にか到着していたようだ。


 一度私を地面に降ろし、ポケットからキーチェーンを取り出すと鍵を開けて中に入る。すると中から少し低めの男性の声がした。どうやら鍵の開錠音で玄関口まで顔を出しに来たようだ。その男性は黒髪に短髪の少し切れ長の目をしたこれまた顔の整ったイケメンだ。


「随分帰ってくるの早かっ――はっ?」


 私の姿を認めた黒髪の男性は、物凄く驚いた様子で動きが止まり眉間にしわを寄せて何やらブツブツと呟いていた。


「2人は知り合いだったのか?」


 何だかとても威圧感を感じてしまい少し恐怖を感じた。


「ただいま――兄さん」


 金髪である男性はバツの悪そうな表情をしながら返事をしていた。この2人は兄弟だったのか。そのまま私は部屋の中に通されて、ダイニングテーブルを指差し椅子に腰かけるよう金髪である男性に勧められた。


「どうぞここ座ってください」


 困惑しながらも椅子に腰かけると、少し動きの止まっていた兄さんと呼ばれた人がハッと我に返ったように疑問を口にした。


「お前は白山神社に行くと言っていなかったか」


 推論ではあるが、もしかしたら私と同じように昼食後に白山神社へ行くと出かけて行ったはずの弟が、女性を連れて早々に帰宅したことで本当は神社になど行っていなかったと思われてる?


「いや――白山神社には行ったんだけど、そこで怪我させちゃって血も出てるし歩きにくそうだったから手当しなきゃと思って、ほら家車ですぐだったから連れて来ちゃった」


 兄さんと呼ばれた人はその言葉に呆れたようにため息をつきこめかみをもんでいた。


「はぁ……連れてきちゃったじゃないだろう。しかも怪我させるとか」


「とにかく救急箱持ってくるから、話は後でとりあえず待ってて」


 逃げるように金髪である男性はこの場からいなくなってしまい、目の前に兄さんと呼ばれた人が座ったので私は気まずいことこのうえない。何か話した方が良いのだろうか。でも何を話したら良いか全然分からないし、はたから見たら物凄く挙動不審なんだろうなと思う。知らない人の家でどうしてろと言うのだろうか。


「弟が申し訳ないことをした」


 そうしたら目の前から声がした。


「ダイジョウブデス」


 そして数秒沈黙したのち、再び兄さんと呼ばれた人が言葉を発した。


「君は裕之と」


 どうやら先程の金髪である男性は名前を裕之さんというようだ。


(えっ!? もっもしかして、俺の可愛い弟に近づくなって言いたいのかな。ここはハッキリと否定しないと)


「知り合いだったのか?」

「あっ安心してください。赤の他人なんです」


兄さんと呼ばれたその人の言葉にかぶせるような形で私は言葉を口にしてしまった。


「はっ?」

「えっ?」


 同時に話してしまって兄さんと呼ばれた人がい言った言葉が聞き取れなかった。しかも私が口にした赤の他人なんですの言葉だけが、こだました。


 ふと目の前にいる兄さんと呼ばれた人に目を向けると、眉間に深いしわが寄っていた。あれっよく見るとこの人どこかで?


「赤の他人……。知り合いじゃないのか?」


 何やらボソッと呟いたかと思ったら。更に眉間のしわが深くなった。


(私変なこと言っちゃったのかな。兄さんと呼ばれた人の言葉も聞き取れなかったし、もしかして赤の他人って言い方良くなかったのかな。間違っていないよねさっき白山神社で会ったばかりだし。でも普通に考えて初対面ですの方が良かった!?)


 口にしてしまったことは取り消せないしとしばし俯きながら考えていると、先程救急箱を取りに行っていた裕之さんという人が救急箱片手に戻って来た。


「お待たせ――ってあれどうしたの2人とも難しい顔して」


 少し顔を上げると救急箱をテーブルに置きながらすまなそうな顔をした、裕之さんと言う人が私とその目の前にいる兄さんと呼ばれた人を交互に見ていた。すると裕之さんと言う人と一瞬目が合った私はとっさに目をそらしうつむいた。


 人と目を合わせるのがそこまで得意でない私は、緊張して上手く顔が見れない。特に初対面の人に対してはその傾向が強い。不快な思いをさせてしまっただろうかと思うと、いたたまれないがそのうちに2人は何やら話し始めてしまった。


「裕之、2人はどんな関係なんだ」


「関係も何もさっき白山神社で初めて会った人だよ」


「はっ? どういうことだ、ちゃんと説明しろ」


 静観して2人のやり取りを聞いていたところに兄さんと呼ばれた人の凄みを帯びた少し低めの声がして体がビクッとした。


「あの、私やっぱり帰ります」


 ここにいるべきでないとカバンを持ち出て行こうとするも、裕之さんと言う人に引き止められてしまった。


「ちょっと待ってください。まだ帰らないで? 怪我もしてるし、聞きたいことがあるんです」


 そんな風に言われてしまうと帰るに帰れずしぶしぶとその場に座りなおした。


「あっ驚かせてしまったようでごめんね――兄さんが急に大きな声出すから」


「そりゃあ声も大きくなるだろ。初めて会った人を家に連れて来るなんてどうかしてるぞ」


 兄さんと呼ばれた人の意見はごもっともである。


「あははっところで自己紹介がまだですね僕の名前は栗原裕之。そしてこっちが兄の佑真です」


 苦笑いをしつつ自己紹介をしてくれた。


「えっと、栗原さん。小森さなですよろしくお願いします」


 お互い名前を名乗りあったところで、()()()という名前に聞き覚えがあるように感じた。気のせいだろうか。


「よろしくお願いします。僕のことは裕之で良いですよ。ちなみに兄さんのことも佑真で良いですよ」


「ひっ裕之さんに、ゆっ佑真さん」


「はぁ…… 勝手に決めるなよ」


 詰まりながら名前を言うとお兄さんは下の名前を呼ばれたくなさそうだったのでかなり戸惑った。


「えぇ~大体僕ら2人とも栗原じゃん」


 などと兄弟2人で喧嘩が始まりそうで焦った。しかし2人の前でだけならと下の名前で呼んでも良いことになった。そもそもここでしか会うことはないだろうにと少し疑問に思った。


「ところで、さなって可愛い名前だね」


 ホッとして気を抜いていたところ裕之さんに突然下の名前を呼び捨てにされた。戸惑いつつ不覚にもドキッとした。


「へっ!? ありがとうございます?」


 ただ裕之さんが名前を誉めるために下の名前を口にしただけなのに、私は普段苗字で呼ばれることの方が多いからだろうか心臓に悪い。


「ふっ何で疑問形なの? 面白いですね。さなちゃんって呼んでも良いですか」


 全く面白い要素がないのだけれど、こういう時どんな反応を返して良いのか分からない。


「はい」


 ドキドキが増すばかりでただ返事をすることしか出来なかった。


「承諾してもらえたところでさなちゃん。膝の消毒をしたいので、スカートを少し上げてもらって良いですか」


 そう言いながらかがんだところで、裕之さん勢い良く立ち上がった。うん? と疑問に思い顔を上げると、うつむき加減で額に手を当てていた。うっすらと耳が赤いようにも感じる。


「ごめんさなちゃん。ソファーに移動してもらって良いですか。目線がその……」


 そう言われて先程裕之さんが消毒してくれようとした膝に目をやり、このままかがむとスカートの中身が見えてしまう可能性があることに気づいた。ソファーなら多少お尻が沈むので、見えてしまうようなことはない。


「ごめんなさい、気がつかなかくて」


 スカートの裾を抑えながら恥ずかしさのあまりうつむいた。そうしたらそばでクックッという声が聞こえてきた。


 声のする方に目をやると、肩を震わせて笑いをこらえている佑真さんの姿が目についた。


「ちょっ兄さん!  笑うことないだろ」


「クッ悪い、裕之らしからぬ反応だったから」


 呆気にとられたように2人の様子を見ていると、その視線に気づいた裕之さんが咳払いをした。


「んんん……。さなちゃん消毒始めようか」

お読みいただきありがとうございます。


本日もう1話夜に投稿する予定です。

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