9.問題解決のために起きた様々なこと
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9話目です。よろしくお願いいたします。
電話をかけると、水野先輩はすぐに出てくれた。
「もしもーし」
「あっお疲れ様です。小森です」
まるで仕事中のような感じになってしまった。
「うん。お疲れー。あっ電話はまずいな。でも良いのか? おれから連絡したわけじゃないし」
水野先輩はよくわからないことを口走っていた。
「あのう……どうかされましたか」
「うんん。こっちの話し。ところで何かあった?」
私は本題を切り出す前に、凉子さんのことを聞いてみることにした。
「えっと、凉子さんとはどうなったのかなって気になって……それにちょっと」
話の途中で遮られてしまった。
「あーやっぱり青野のこと気になるよね――」
「はい! 水野先輩は凉子さんのことが好きだから、本当は悪く言うつもりはないんですけど、私も自分の命がかかっているので……それに水野先輩には幸せになって欲しいんです」
出来れば凉子さん以外の人とと言うのが本音だが、その言葉が出かかって飲み込んだ。
「命がかかってるって大袈裟じゃない? なんかそれってさ、まるで見聞きしてきたような言い方だよね」
「あっいやえっと……」
失言をしてしまったな。
「ごめん。困らせるつもりはないんだ。何かさ先輩も変だし、さなちゃんや佑真の言動見てると明らかにおかしいなって単純に思うよ! だけど人に言えないことって誰にでもあるしまぁ聞かないでおく」
何も事情を聞かれなかったことに心底ホッとした。しかし水野先輩はとんでもない発言をした。
「でもさ、本当に想定外のことが起きるよな。前世で何か悪いことでもしたのかな。ねぇおれの幸せを願うなら、さなちゃんが幸せにしてくれても良いんだよ! あーぁおれさなちゃんを好きになれば良かったな」
「それは……ごめんなさい」
思わず謝った。佑真さんが好きだし気持ちには応えられないから。
「冗談だよ! さなちゃんに横恋慕なんてしたらあとが怖いから、するつもりないよ」
冗談で良かった。
それから凉子さんと話した内容を教えてくれた。とりあえず自分の気持ちを伝えたそうだ。しかし話しているうちに段々と気持ちが覚めてしまい付き合うのは無理だと判断した。とんでもない勘違いと思い込みで、話が通じず埒が明かなかったと。これが付き合ってからも続くのかと思うとキツイなと思った。
私から聞いた話はすべて事実で、頭が痛くなったがこれが付き合う前に分かって良かったと話してくれた。
結局凉子さんについての話を聞くばかりで、水野先輩には佑真さんのことを相談出来なかった。それもその筈、電話している途中で部屋に佑真さんが訪ねてきたため、これ以上電話をしていることが出来なくなったからだ。
私が水野先輩と電話していたことを知るや否や、佑真さんはすぐに水野先輩に電話をかけた。どうやらあまり心配の種は作りたくないから、私との連絡は取るなと言っていたようだ。そうとは知らず電話をかけてしまったせいで、水野先輩に悪いことをした。もちろん私から連絡したことは伝えて、悪く言われないようにフォローした。
それから数日後、赤井さんからメールが来た。『青野さんのことで社長に呼び出し受けて、トラブルの件とか色々聞かれたんだけど』と。
社長がすぐに動いてくれて、直接話が出来て良かったと思いつつ、理由を説明した。赤井さんの他にも課長とか呼び出しを受けていたらしい。そしたら『さすが王子だね』と褒めていた。私はこの流れで佑真さんのことを相談しようと思った。
せっかく連絡くれたのだから、チャンスだと。そうしたら、ひと言『普通じゃない』だった。最初はのろけか! とからかわれたが、それだけ愛されてるってことだよと言われた。何となく気づいていたが、やはり普通じゃなかった。嫌ではないし、むしろ喜んでいる。時々佑真さんの唇を見つめては『この唇が私のおでこに……』と思い返しては恥ずかしくなり、1人で顔を手で覆い身もだえているところを裕之さんに見られて、いたたまれなくなったことは1度や2度ではない。
佑真さん本人に見られていないことがせめてもの救いだった。私も問題が解決するまで先に進む気にはなれなかったので、そう思うと少し罪悪感はある。ある意味1つ屋根の下で生活している身なのでもしかしたら色々我慢させてしまっているのかもと思うからだ。
小説や漫画の世界では、若い男女が共に生活していれば何かが起こるというのは定番である。例外はあるがごくまれの展開であると私の知識が言っているのだ。
唇同士が触れ合う口づけに憧れがないわけではない。いつかはしてみたいと思っている。それに普通にデートもしたい。しかし考えたところで、もし未来が変わらずに殺される運命なのだとしたら、問題が解決するまでなんて悠長なことは言ってられない。それに運命を回避できたとしても、もしかしたら佑真さんは手紙に私の好意が書いてあるから、義務感で私を守るために恋人になろうとしたのかもと、時々不安になるのだ。
そこでふと思い出した。あんなに過去の自分と向き合うことで、前向きな気持ちになれたのではないかと。あのとき思ったことは、今後選択すべき場面に出会った場合、選んだ未来と選ばなかった未来の想像をすることが出来ること。まさに今がその場面ではないかと。なぜ人は時間が経つと、そのとき思った感情や決意を忘れてしまうのだろうか。
仕事もそうだ。慣れてくるとケアレスミスが起きやすくなる。
いざとなると行動するのが怖かったり誰かが何とかしてくれないかなとか、楽な方に考えがちだ。だってその方が気楽だから。
人の心は話してみないと分からないことも多い。勝手に相手の心を想像をすることは得策とは言えない。だから私は勇気を出して、今の気持ちを佑真さんに聞いてもらおうと思う。しかし気持ちとは裏腹に中々言い出せずに数日が過ぎた。
この日は裕之さんが午後から講義のようで、朝から一緒に過ごしていた。私は携帯を眺めながら深いため息をついていた。その様子に裕之さんは何かを察したのだろう声をかけてきた。
「さーなちゃん! 何か悩みごと?」
「あっいやえーと……」
私が言い淀んでいると、裕之さんは目ざとく言い当てた。
「兄さんとのことでしょ」
絶句してしまった。どうして分かるのかと。
「だってささなちゃん、何か言いたげに兄さんのこと見てるし、最近ため息多いし」
自覚はなかったので、本当に驚いた。
「噓!」
「あっやっぱりー僕で良ければ話聞くよ」
私は裕之さんには相談できないし、そんな資格ない。
「もしかして遠慮してる? 僕がさなちゃんのこと良いなぁと思ってたこと気にしてるのかな。だから相談しずらいのかな」
心の中を読まれたみたいで何だか嫌だった。
「どうしてそれが……」
裕之さんは笑いながら『だってさなちゃんすごくわかりやすく顔に書いてあるから』なんて言うもんだから、信じられなくて顔を触っていたら益々笑われてしまった。そこで裕之さんの『今まで兄さんに心配をかけてた分、兄さんには幸せになって欲しいから、僕のことは気にしないで』と言う言葉に甘えて佑真さんのことを相談することにした。
もし運命が変わらなかったらという不安と、こんな状況でも普通に恋人として過ごしたいと思っているが、中々伝えられないことそして、それ以上に自分は佑真さんとつり合わないのではないかと不安にも思っていると相談した。
「そっかぁそうだよねー! 恋愛って色々考えすぎて不安になるよね」
「それなら良い考えがあるよ。僕がさなちゃんの気持ち代弁してあげる。だからさなちゃんは僕に寄りかかって寝たふりしてるだけ! 簡単でしょ? ただし兄さんとの話が終わるまでは絶対起きないことが条件」
そうして始まった裕之さんの熱演? に複雑な心境になった。
「ただいま」
「お帰り」
「寝てるのか」
「うん。そうだねって。兄さんそんな怖い顔しないでよ! 不可抗力! 泣きつかれて眠っちゃったみたいで」
「は? なきつ……」
表情は見えないが、佑真さんが驚いているのが伝わってきた。
「ねぇ兄さん――さなちゃんはさぁ兄さんの恋人でしょ! さなちゃんが殺される運命だと知ったうえで、手紙に兄さんの名前が書いてあったから、兄さんはさなちゃんに好きだと伝えたわけでしょ」
「あぁそうだな」
「なんかそれってズルいよね」
「お前何言ってんだ」
「だってさ、僕の方が先にさなちゃんと仲良くなったのに、僕だってさなちゃんのこと好きだったんだよ! あんな手紙がなければ僕にもさなちゃんに好きになってもらえるチャンスはあったはずでしょ」
裕之さんの思わぬ告白に信じられなくて起きようとした。しかし裕之さんのぎゅっと握りしめる手に起きられなかった。これは起きないでと言う合図なのだろうと思った。
「さなちゃんのことずっと見てたから、兄さんに惹かれてるって分かったときの僕の気持ちなんて分かりっこないだろうけど」
「そうだよな、悪かった……」
2人の会話を聞きながら、裕之さんは演技なんだよね? そう考えながら聞けば聞くほどこれは単なる兄弟の会話だ。そう思った瞬間罪悪感が込み上げてきた。鈍感……この言葉がぴったりだと思った。
「それって何に対する謝罪なの! さなちゃん言ってたよ兄さんと恋人になれたけど、デートしたことないから、これで付き合ってるって言えるのかなって不安がってた。デートなんて仕事終わりに時間作ればいくらでも出来るよね! それに1番側にいてほしいときに連絡取れないとかマジであり得ないし、死なない未来が来るとは限らないって怯えてるんだよ。死なずに済んだとしても、兄さんとの関係がこれで終わるかもって不安にも思ってる。それで、最近は夜眠れないって……僕の肩借りて泣くくらい辛かったんだよ」
裕之さんは少し話を盛っているように感じた。デートしたいとは言ったが付き合ってるって言えるのかななんてひと言も言ってはいない。私は起きたいのをぐっとこらえた。
「こんなにさなちゃんのこと不安にさせるんだったら、僕がさなちゃんのこと奪っちゃうから」
「それはダメだ! 確かにあの手紙で俺のこと好きになる可能性があるなら、俺が守りたいって思ったしチャンスだと思ったのは事実だ。だがな俺はさなさんが好きなことは噓偽りはない」
「なら、ちゃんとしてよ! そうじゃなきゃ僕だって諦めつかない」
『諦めつかない』そう話す裕之さんの言葉に動揺した。やはり演技ではなく自然に出た言葉だと感じた。気にしないでと言う言葉は噓で、私のことが今も好きで……なのに、裕之さんは佑真さんとのことに協力してくれたと思うと苦しくなった。
気にしないでという言葉を額面通り受け取ってしまったが、その言葉の裏には隠れた本音が隠されていることを知った。
佑真さんの本音を聞けたことは嬉しいが、裕之さんの告白に頭が真っ白になった。私はなんてことをしてしまったのだろう……。
「分かった――少し裕之に遠慮していた部分はあったんだ。さなさんと裕之は同い年だから話も合うだろうし、仲の良さを見せつけられていたからな。それで強引な手段を取った自覚はある。だが裕之に譲る気はない。これからはきちんとさなさんと話し合う」
少し沈黙のすえ裕之さんから声が聞こえた。
「……だってさ、さなちゃん! 良かったね」
思いがけないネタ晴らしに慌てて起き上がってしまった。
「えっ?」
「と言うことで、さなちゃんあとは頑張ってね」
そう言いながら裕之さんがその場を立ち去ろうとしたので、すかさず引きとめた。
「まっ待って裕之さん! ねぇどういうことなの」
「あ~これは僕のためでもあるんだ。さっき言ったことは全て本音だよ。騙したみたいになってごめんね! 僕がさなちゃんのこと諦めるための儀式みたいなもん。だってさ、好きな子には笑っててほしいんだ。兄さんもさなちゃんもどっちも大事だから、2人には幸せになって欲しいのは、事実だから」
そうやって笑う裕之さんは少し悲しげな表情をしているように見えた。
それから佑真さんと今後について沢山の話をした。それで少しは不安を取り除くことが出来た。
翌日になり会社から1本の電話が来た。相手は上司である課長だった。私に謹慎処分を言い渡した張本人だ。どうやら謹慎処分が解除されたので、明日から出社してほしいということだった。まさに青天の霹靂である。まさかこんなに早く謹慎処分が解除されるとは思ってもみなかった。これは早急に社長が動いてくれたと言うことだと想像がつく。
早速佑真さんに謹慎処分が解除されたことをメールで送った。帰ったら話があると言われて、佑真さんが帰って来るのが待ち遠しかった。凉子さんがどうなったのか聞きたかったからだ。
佑真さんが帰って来た瞬間、思わず抱きついてしまった。昨日話したことで心の距離が縮まった気がして、私からも行動を起こしてみたいと思ったからだった。
しかしどうしようもなく恥ずかしくなってすぐに離れようとしたが、佑真さんは一向に離してくれる気配がなかった『熱烈な出迎えだな』などとからかわれてしまったが、まんざらでもない表情をしていたので良しとしよう。
それから佑真さんは今日会社であったことを話してくれた。なんと! 凉子さんが取引先とのトラブルを起こした際の関係者であり、当時営業部に所属していた人間を、可能な限り社長が1人ずつ呼び出して事情を聞いたそうだ。
その話を踏まえて、凉子さんには懲戒解雇か自主退職かを選ばせたそうだ。凉子さんは事の次第を重く受け止め、自主退職を選択した。そして有給も残っていたためそのまま退職扱いで、明日から出社しないようだ。私に無意味な自宅謹慎をさせるわけにはいかないと、謹慎処分が解除されたと言うことだった。
上に報告の義務を怠った役職者は減給処分が下された。そして赤井さんは営業部へ移動することになるだろうと言うことだ。
赤井さんに関してはまだ辞令が下されていないため、佑真さんだけに口外しないようにとの先ぶれがあった。私には話して良いのだろうか。まぁ誰にも言うつもりはないけど。
それから社内報にてとある文書が公開された。営業部において、重大な過失が認められたため罰則として過失を行った当事者には自主退職と、その関係者においては減給処分を下す旨の通知がなされた。
名前や内容は伏せられてはいたが、おそらく勘の良い者は誰だか特定するだろうし、営業部では凉子さんが一身上の都合で自主退職をすることは営業部長から伝えられたので、口には出さなかったが社内報と相まって凉子さんが当事者だと察した者が多いだろうと言うことだ。
私のことも虚偽の噂で不当な謹慎処分が行われたことが認められたため、1ヶ月の謹慎期間を終えることなく解除される旨が伝えられた。だから、安心して出社して良いようだ。とりあえずは心の憂いが取り除かれて安心した。
翌日裕之さんは、大学の友達と旅行に行くと言ってしばらく家を空けるという。裕之さんが落ち込んでるだろうと、気を利かせた友達が誘ってくれたそうだ。
きっと私のせいだ。何だか負い目を感じてしまう。そして裕之さんはそのまま少しの間実家で寝泊まりすると言っていた。これは完全に私たちと過ごしたくないんだろう。それか気を使っているのだろうか。緊張するから2人きりにしないでほしいというのが本音だが、言えるわけない。だって裕之さんを傷つけてしまったのだから。勝利の数だけ敗れた者たちがいることを忘れてはいけない。おごってもいけないし、あぐらをかいてもいけないのだ。
そして私は久しぶりに会社へ出勤した。何か言われるかもと思っていたが、特に変わった様子はなくみんな普通に挨拶をしてくれた。ほっと胸をなでおろすと、デスクに座った。そしたらすかさず赤井さんと黒田さんに話しかけられた。
「小森さん。誤解が解けて良かったね」
「そうそう! 社内報見たときは驚いたけど、青野さんもいなくなったしこれで仕事しやすくなると良いね!」
「あっはい。私も2人があのとき話しかけてくれて本当に良かったです」
「まぁでも私は直接本人と関わってたから、青野さんのこと少しは分かってたからね。それよりも王子が『小森さんを気にかけてくれてありがとう』なんて言ってきたことが衝撃的だったわ」
「あっ私も言われた。まさかお礼言われるとは思ってなかったから、王子に話しかけられたーって少し舞い上がった」
佑真さんは女性に話しかけないはずなのに、少し意外だった。特別仲良くなって欲しくない。そんなことを考えていたからだろうか複雑な表情になっていたようだ。
「あっごめん……他意はないんだけど、イケメンに話しかけられるなんてめったにないからさ」
「確かにそうだね。それに単なる目の保養! うちら水野君に推し変したから、小森さんの邪魔はしないから安心して」
少しほっとした。まぁ何というか、前々から思っていたが、元気な人たちだな。
水野先輩とも久しぶりに会った。2人きりではなく佑真さんと連れ立ってだったが、水野先輩は愛と友情を一気に失くして、気分は最悪だと落ち込んでいるように見えた。
そんな水野先輩に『失恋には新しい恋ですよ! 案外近くにいるもんです』と小説や漫画の請け売りのような言葉を告げたが、果たして失恋と言って良いのかどうか言ったあとで疑問だった。
私はこれでようやく、平和になったと安心しきっていた――。
お読みいただきありがとうございました。
様々な要素が合わさっていたので、エピソードタイトルに悩みました。
毎回悩むんですけど、おかしかったらごめんなさい。
今回は裕之の本音が出てきましたが、書きながら切なくなってしまいました。相手の幸せを願えるのは、愛だなと思います。でも失恋は辛いですね……裕之には幸せになってほしいです。もちろん水野先輩も。
そして明日も投稿予定ですが、最終話を迎えます。最後の一文を見ると、何かが起こります!




