10年前の私から手紙が届いた
初投稿です。
至らぬ点があるかと思いますが、よろしくお願いいたします。
10歳の私から手紙が届いた。ある晴れた夏の日の出来事である。
社会人2年目を迎える私は、仕事を終え高校卒業を機に1人暮らしを始めた明かりのともらない暗い家に帰宅し、部屋の電気をつけながら職場のことを思い出していた。
自分から積極的に人と関わることが苦手な私は、職場の人間関係で悩みを抱えていた。仕事中はまだ集中していれば良いから何とかなるが問題は休憩中だ。会話の糸口がつかめずただ黙々と昼食をとるばかりだ。こんな自分は嫌いだ。かと言って良く話す人はいる。だけどその多くは男性社員である。
理由は単純だ。共働きの両親のもとに生まれた私には少し年の離れた兄がいて、小さい頃兄が面倒を見てくれることの多かった私は、兄にとてもなついた。その上兄の友人と公園で遊ぶこともあったため、男性のほうが関わりも多く話しやすい傾向にあったからだ。
本音は女子社員と仲良くなりたい。男性とばかり話す私のことを良く思っていない人もいることは分かっている。少し寂しさを感じながらため息をつき一杯の水を飲むところだった。
静かな部屋に突然携帯電話の着信音が響き、誰だろうとカバンに入れたままの携帯電話を取り出し画面に表示されている名前を見ると、実家で暮らす母からの電話だった。滅多に電話のやり取りをすることがない母からの電話に、何かあったのだろうかと少し驚きつつ通話ボタンを押した。
「はい! もしもし」
数コール目の途中で電話に出ると、携帯電話のスピーカー越しから母の声が聞こえてきた
「もしもし、さな? 中々電話に出ないからどうしたのかと思ったわよ」
携帯電話と言えど、常に肌身離さず持ち歩いているわけではないので、そこら辺は大目に見てほしいところである。
「うん、ごめん。今家に帰ってきたばかりだから手元に携帯電話がなかったんだ。それでどうしたの?」
「あらそうだったの。実はね、さな宛てに手紙が届いているから電話したのよ」
私には手紙をやり取りするような相手なんていたのだろうか。ましてや学生時代の友人とは疎遠になりつつあるし、このご時世メールで要件を済ませてしまう時代である。
「手紙? 誰から?」
全く見当がつかず私が訪ねると、母は予想外のことを口にした。
「それがね……さなの名前なのよ。つたない字で小森さなと書いてあるわ。もしかしたら小学生のときに授業か何かで書いたんじゃないの?」
私はそんなはずはないと思った。授業の一環として自分宛てに手紙を書いた記憶がないのだ。記憶違いをしているのだろうか。
「えっでも……。確かに授業で手紙を書いた覚えはあるけど、そのとき先生は友達や家族に宛てて書いてみましょうと言っていたはずだよ」
私はそう答えつつ思い出していた。それは友達や家族にと言われて誰に書いたら良いか悩んだことだ。悩んだ結果、従姉妹のお姉ちゃんに書くことにしたのだ。母方の従姉だったので、母に住所を聞いた気がするんだけどな。
それにしても私に届いた手紙は本当に私が書いたものなのだろうか。実際に確認してみないと何とも言えない
「あら、そうだったかしら。それよりも不思議なんだけど、この手紙に切手は貼ってあるんだけど消印がついてないのよ。そうなると直接ポストに投函したことになるのよね」
母は差出人のことなんてまるでどうでも良いように話を続けた。しかも今度は消印がないと言い出す。そんなことあり得るのだろうか。それに貼られている切手も今より古いものらしい。
いくつか疑問は残るもののとりあえず今度の休みに手紙を取りに行くことにして、この日は電話を切った。
母より電話があった日から2週間ほど時間がたった。相変わらずの職場環境だったけれど、その間母から聞いた私宛の手紙のことが頭から離れず、気になって仕方なかった。
けれど今日から始まる連休で、ようやく実家に手紙を取りに行くことができる。手紙にはどんなことが書かれているのだろうか。果たして本当に私が書いたものなのか知れる日が来たのである。
実家は自宅から5駅ほど離れた場所にあるので割と距離が近い。そのおかげで移動もあまり苦にはならない。
お昼過ぎに到着した私は、一戸建て住宅である実家のインターホンを鳴らしてから家の中に入ると、母が出迎えてくれた。
「ただいま――」
「おかえり」
久しぶりの実家は何だか落ち着く気がする。1人暮らしが長くなってきたので誰かにお帰りと言ってもらえることは良いなと思う。
少し外が暑かったので、疲れたなと思いながら実家暮らしのときに使っていた2階にある自室に荷物を置いてからリビングにある椅子に座り、母にお茶をもらって飲みつつ実家に来た目的でもある本題を切り出した。
「ところで私に届いた手紙ってどれなの?」
「あぁ今持ってくるからちょっと待ってて」
母はそう言うと戸棚の引き出しの中から例の手紙を取り出していた。
「はい、これなんだけど見覚えはある?」
手紙を受け取って確認してみると、母の言っていた通り宛名も差出人も小森さなと書いてある。切手も古く消印もついていない。
「ありがとう。お母さんの言った通りだね。多分私の字であってると思うから後で読んでみるよ」
直ぐに読みたい衝動にかられたが、せっかく実家に帰ってきたのでもう少しゆっくり過ごそうと思った。
その後テレビを観たり、夕飯を食べたりしながら過ごした。兄は地方に住んでいるため年末にしか帰ってこないので父と母と私の三人で食卓を囲んだ。1人で取る食事よりずっと美味しく感じられた。
母が私の好物であるきんぴらごぼうを用意してくれていたので、より美味しく感じられたのかもしれない。
我が家のきんぴらごぼうには、鶏もも肉が入っていてメインになるおかずの役割がある。1人暮らしを始めてから何度か作ったことはあるが、どうしても母の味にならず少しがっかりすることもあり食べたいと思っていたので、久しぶりの味に私の心はホッとした。
食事を終え食器の片づけを手伝った私は、数刻前に受け取った私宛の手紙を読むために2階にある自室へ向かった。
封筒にハサミを入れて開封すると、中からかわいらしい便箋が出てきた。
「えぇと……。10年後20さいをむかえるわたしへ」
そして私は手紙を読み始めた。
『おじいちゃんから白いポストの話を聞いて手紙を書いています。白いポストの話覚えていますか?おじいちゃんがまだわたしくらいのころ、神社で白いポストを見た話です。
その白いポストに友達のおじいちゃんが、なくなった自分のお母さんに手紙を出したところ返事が来たという話です。
だからもしわたしも白いポストを見つけたら、未来にはとどくのかなと思って書いてみました。
おじいちゃんからみんなにはないしょの話だと教えてくれました。
20さいのわたしはどんなおとなな女せいになっていますか。
いなかは森がたくさんあって夜は静かで風がきもちいいです。
この前おばあちゃんに着せかえにんぎょうのルルちゃんにんぎょうを買ってもらいました。
まいにちのように着せかえを楽しんでいます。でも、セーラーちゃん人形の方がかわいかったかもとちょっとだけこうかいしてます。
ルルちゃんにんぎょうはまだ持っていますか?部屋にぬいぐるみも沢山あって、今はいっしょにねてるけれど、さすがにすてられちゃってるかな?
こいびとはいますか?もうけっこんしていますか?
早くお酒飲んでみたいです。みんなビールをおいしそうに飲んでいます。どんな味がするのか気になります。
20さいのわたしはもう飲みましたか?おいしかったですか?早くおとなになりたいです。
10さいのわたしより』
手紙を読み終えた私は非常に戸惑っていた。白いポストの話はこの手紙を読むまで正直忘れていたが、言われてみれば今は亡きおじいちゃんが生前に誰も信じてくれない話だとか言っていたような気がする。
私はその話を素直に信じて手紙を書いたんだと思う。この手紙が届いたことから考えるに白いポストを見つけたということだ。にわかには信じがたい。
今の私がこの話を聞いたとしたら、素直に信じられるのだろうか。
でも確かなことは10年前の私が白いポストを通して、10年後の私に手紙を届けたということだ。この手紙にあるように、おじいちゃんの友達のおじいちゃんは過去に手紙を出して返事が来ている。
そして私には10年前に私自身が書いた手紙が届いた。つまり白いポストを通して、過去にも未来にも手紙が送れるということだ。おじいちゃんは誰も信じてくれない話だと言っていた。ということはこの白いポストの目撃情報は少ないということだろう。
誰もが見つけられるわけではないということだ。となると白いポストを見つけられる条件は一体何なのだろうか……。考えていても仕方ないのでとりあえず返事を書いてみようと思う。もし本当に過去に手紙が届くのであれば、過去の私へ伝えたいことが沢山あるからだ。
明日の朝母に田舎に行きたいと伝えてみよう。1人では少し不安なので一緒に来てくれるようにお願いしてみようと思いながら、その日は眠りについた。
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