ヒト、モノ、カネ
素人は戦術を説き、プロは兵站を語る。
兵站講座第三回。今回のお題は『物資』『消費』『戦力』
兵站とは戦闘力、その訳。
「一回目は『食料』『輸送』『維持』。
二回目は『人材』『代替品』『補給』がテーマ。
三回目のお題は『物資』『消費』『戦力』となります」
「今回の説明で『馬鹿でもわかる兵站』は、
キリが良いので一旦区切りにさせていただきます」
「何故なら組織運営、ひいては兵站の基本
『ヒト』『モノ』『カネ』が一通り説明出来たからです。
んなもん説明してねーじゃねーかと思ったそこのあなた、
お題の言葉を額面通り受け取らずに
頭の中で少し弄ってみて下さい」
『食料』『輸送』『維持』・・・「飯、給料の保障が無いと人は働かねえよ。
仕事先の交通費くれよ」
『人材』『代替品』『補給』・・「人が居ないのに仕事なんて出来るかよ」
『物資』『消費』『戦力』・・・「電話もないのに仕事なんて無理」
「長々と説明したそれぞれのお題ですが、
言いたいことはこの程度だったりします。
科学の証明問題を解くために長々と公式を書くのと同じように、
単純なものの説明をするのは意外と面倒なのです」
『ヒト』『モノ』『カネ』と聞いてビジネス用語じゃないか!と考えた方。
大正解です。
商売も軍事も効率性を求める組織であり、実態は非常に似通っています。
また、どれが掛けても軍は成り立ちません。
軍隊は非営利組織だ、生産性皆無だ!
商売みたいに金なんて求めない!とよく言われます。
軍隊の求めるものは抑止と平和、商売は金や利権、
と全く別物で一見間違いのように思えます。
目指すものこそ違うかもしれませんが、
組織である以上そこには金、物、人が動きます。
「『兵站の目標』が『よりよい円滑な組織運営』であるからには、
軍事と商売の通じる箇所は多々あります」
それでも軍は非営利組織と言うのなら考えてみて下さい。
自衛隊員だって給料を貰います。飯も喰います。休みも取ります。
給料減ったら嫌になります。美味いもの食べたいです。休みも欲しいです。
非営利でもそこに働いているのは人間です。
機械ではありません。常によりよい職場環境を求めています。
兵士達によりよく効率的に働いてもらう仕事環境を整える仕事こそが兵站です。
「第一回では戦場へ来るための足について、
第二回は戦場へ並ぶ兵士達についてでした。
第三回は兵士達の武器についての説明となります」
前回は、
「教育法とシステムの発達によって、人材の質は上がり、平均化し、
大規模戦術化によって些細な戦術の違いが、大勢に影響を与えることが少なくなった」
という言葉で締め括りました。
「では、敵味方の兵士の質と戦術の違いが影響を与えなくなると、
何が大勢を決めるのでしょうか?」
『彼我の物量と戦場に並ぶ数』が結果を反映します。
並ぶ数と方法については第一回で書いたので省きます。
なので彼我の物量について説明します。
昔から戦争には金が掛かります。
弓、矢、剣、鎧、馬、食糧………extext
戦争を支えるために多くの物資が用意され、消費されます。
戦場で物資を使うためには戦場へ運ばなければいけません。
よって、兵士と必要な物資を戦場へ並べることとなります。
『兵員を含めた物量』の多い側が戦闘を有利に運ぶことが出来ます。
「物と人を集中すれば勝てる。当たり前だ。お前は何を言っているんだ?
と読んだ方はお思いかもしれません。
軍事という要素においては特別『輸送力は重要である』と強調したかったからです」
古来から物資量と戦闘力の上昇は密接な関係があり、
『変革ごとに多量の物資』を必要としてきました。
『増える物量』
弓と槍で戦うだけだったのが、
● 装備:弓、槍、食糧2,3日分
装備重量:3kg
鎧を付け
● 装備:弓、槍、鎧、食糧2,3日分
装備重量:6kg
やがて馬を使い、『大量の飼葉が必要になった』
● 装備:弓、槍、食糧7,8日分
装備重量:8kg
○ 馬
移動距離が伸びることで遠征が可能になり、陣地構築の必要も出てきた
『スコップなどの陣地用道具』『食糧とテントなど生活用品』『野外炊具』
● 装備:弓、槍、食糧7,8日分
装備重量:8kg
○ 馬
銃を使い始め『弾を消費するため装備重量が増した』
● 装備:銃、弾薬、食糧7,8日分
装備重量:10kg
○ 馬
やがて機関銃が登場し、『弾薬費が10倍』になり
*多量に弾をばら撒ける機関銃の登場によって消費量が跳ね上がった
● 装備:機関銃、弾薬のみで
装備重量:120kg
砲兵が登場し、『更に消費弾薬が増大』
通信機や観測機器も必要になり『通信機や暗視装置など』
戦車を動かさなければいけなくなり、『戦車の重量』『修理と、燃料激増』
トラック『燃料と修理』
科学防護『防毒マスクや汚染除去車』
戦闘機『遥かに戦車を上回る消費』
ヘリ『燃費が最悪』
重機の使用『ブルドーザーなど』
と、戦争で消費される物資は変革が行われる度に増加しています。
これが兵站、つまりは輸送が重要視される理由であります。
今後も無人機使用や近接戦闘の機会増加による重装甲化を鑑みて、
消費物資の増大は止まらず、兵站にはますます負担が掛かるものと予想されます。
昔は弓と矢と食糧だけ持っていれば良かったのが、
今や機械化されていない兵士でも一日に6.7キログラムの補給物資を必要とし、
現代の近代化された装備を持つ陸軍兵士は一日に約45キログラムの補給物資、
海軍部隊の水兵は180から270キログラム、
空軍部隊の航空兵は450キログラムもの補給物資を要するとされています。
*陸は自動車、海は船、空は飛行機を使用するために物資を必要とする。
陸海空の順に燃費と保守に金が掛かる。
たった1500名からなる陸軍部隊が一日に所用する補給物資でも67500キログラム、67.5トン。
この数値には装甲車、迫撃砲とその弾薬、防空火器とその弾薬、通信機などの装備は入っていない。
実態はこの数値よりも増えます。
軍事上、きりのいい数字である陸軍一個師団単位にすると、約1万5千人、一日675トン。
戦時編成になると師団の人数が増えるので2万人近くになると予想され、
まだ増えます。
海空師団は更に更に手間が掛かります。
まだまだ増えます。
「物資」 ざわ・・・
「物資」
「物資」 ざわ・・・
「物資」
「物資」
「物資」 おざわ・・・
「物資」
●<ククク…!圧倒的勝利…!
◎<勝ちの布石をまた一つ積んだつもりがすでに積みすぎ…!倒壊寸前…!
具体的な量を推測するのに移りましょう。
近代の地上戦闘では、1日ごとに1-5%程度の人的損耗を受け、
戦闘車両はその5-10倍程度の損失が発生するという見積もりがあります。
この計算では機械化されていない歩兵部隊は兵士1名に対して1日に7.65-13.5kg程の補給が求められ、
現代の機械化された戦闘部隊では90-100kg程度の補給が必要とされます。
これに基づいて概算すれば、戦闘状態にある15,000人規模の1個師団には、
毎日1,500t程の補給物資が必要となります。
*機械化とは装甲化されたトラックなどを使用し、
戦車の移動に追従できるようになった部隊の総称である。
●<完全機械化兵の《高速戦闘モード》は【肉体】【感覚】判定で成功したダイスを振りなおし、再
○<うるさい黙れ
*間違ってもサイボーグではない。
第二次世界大戦前後から呼ばれ始めた言葉で、
装甲化されていないトラックなどが主力の場合は自動化部隊とも呼ぶ。
複雑なものを使うには物資も必要なので消費量が跳ね上がる。
余談だが、トラックの配備が進みつつある昨今、
自動化、機械化という呼び方はあまりメジャーではなくなりつつある。
今や戦場は巨大な物流システムが支配している。
物量のぶつかり合い、『紅白力押し合戦』な戦争では
個々の戦術など微々たるものでしかない。
兵站とは戦闘力である。
いかがでしたでしょうか。
「素人は戦術を説き、プロは兵站を語る」
全てを解説出来たわけではありませんが、
彼らが兵站にこだわる理由の一端でも感じていただければ幸いです。
書き忘れたことがいくつかあるので
番外編『戦いはこの一戦で終わりではないのだよ』に続きます。