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5日目


アマンダの世話になりだして5日目。

回復し出すと早いもので、この日、俺はスタスタと歩けるようになっていた。


「この調子だと、明後日くらいには、ラオにも乗れるでしょう。良かったですね、帰れますよ」

笑顔のアマンダ。

曇りなき笑顔だ、寂しいとかは全く無さそうだ。

「随分、嬉しそうだな」

「患者の回復を見るのは嬉しいものですよう」

「寂しくないのか?」

「え?」

「あっ、いや、ほら、こんな森に1人なんて、話す相手も居ないだろ?寂しくないのか?」

つい俺との別れについて聞いてしまった後、俺は慌てて一般論にすり替えた。


「そうですねえ……確かに、ジルが来てからは何だか楽しかったので、帰っちゃうと少し寂しいかもです」

せっかく一般論で聞いたのに、何だその俺限定の答えは。期待するだろうが。


「なら、俺と一緒に行かないか?」

「???どこへ?」

「えーと、街?都?スプリング国は初めてなんだろう?首都はなかなか大きいぞ。アマンダが行きたいなら、連れて行ってやる」

何なら、そのまま囲おう。


「ダメですよう、私、犯罪者なんですってば」

「だから、それは、冤罪だとなってる」

「そうなんですか?」

「俺の話、聞いてたか?いくら君がリンド王太子に毒を盛ったつもりでも、オータム国は薬による治療だったと正式に発表した、行方不明の君の身を案じて、大規模な捜索も何度かされてる」

「ええ!!」

「王家も王太子も、公式に君に謝罪している」

「えええ!!」

「伯爵家からの除籍も白紙に戻されている」

「ええー」

「なんで、そこは嫌そうなんだ」

「ラースラ家の伝説の薬師はもういいです。寄ってくるのは、私の薬目当ての人ばっかりです、ありがたい事なんですけどね。でも、父も継母も私の薬目当てでしたし、あそこはもういいです」

伏し目がちにアマンダが言う。

先妻の子供だ、と言っていたし、実家ではあまりいい思いをしてなかったんだろうか。今回の逃亡劇を1人で計画したようだし、愛されてなかったとかか?


「そうか……とにかく、アマンダ、君は今はもう犯罪者じゃない。堂々とどこへでも行ける」

そこで俺は一旦、言葉を切る。


しばらく迷った後、結局、俺は切り出した。


「もし、オータム国に帰りたいなら、帰る事も出来る。その実家じゃなくても」

帰って欲しくはない、と思う自分に、もう驚きもしない俺だ。

帰って欲しくない。俺の側に居て欲しい。


「うーん」


「リンド王太子に未練はないのか?」

聞きながら、俺の心臓が軋む。

もし、未練があると、今でも好きだ、と言われたら?

俺なら、アマンダをオータム国へきちんと帰す事が出来る。オータム国王家はアマンダに正式に謝罪しているのだ、連絡を取って、実家以外の保護を受けられる場所を要求するのは不可能ではない。

俺は彼女を、帰す事が出来るだろうか?


「え? 未練?」


「毒を盛った、と言ったが、そこに副作用である治療の作用を現さないようにする事も君なら可能だった筈だ。君は苦労して、わざわざリンド王太子の病を治すような毒を作ったんだろう?好きだったんじゃないのか?」


「そうですね……好きかと言われると、もちろん好きでしたよ」


覚悟はしていたが、アタンダの答えに俺は身がすくむ。


「そうか……」

何とか打った相槌は、自分の声じゃないみたいに、掠れていた。


「リンドは昔から優しかったんですよう」

ぽつりとアマンダは続けた。


「薬の事になると、食べるのも寝るのも忘れる私は変人扱いで、でもリンドは優しかった。デートもいつも私に合わせて、植物園、昆虫館、鉱石館、に併設の研究室でした。鳥の糞の採取に付き合わせた事もあります」

「鳥の糞の採取…………」

付き合えるかな、俺。

付き合えたら、好きになってくれるかな。


「7コも年上だったし、私に取っては、完全無欠のお兄ちゃんでした」

「ん?」

お兄ちゃん、だと?


「たぶんだけど、リンドも私の事は妹として愛してくれてたんじゃないかな、なんて」

「お、おう!」


「だから、聖女が現れて、お互い恋に落ちたのに私のせいで焦れる2人を見て、寂しかったけど、それ以上に何とか幸せになって欲しいと思ったの。だから未練はないですう」

「そ、そうか!」


「でも、今思えば、リンドも私の薬師としての才能を愛してくれてたんだろうな、と思いますし、私がお兄ちゃんと思ってたのとは、隔たりがあるかも」

ここで、アマンダは悲しい顔になった。


「そんな事は、」

ない、と言おうとして俺は口をつぐむ。


リンド王太子は、アマンダの断罪に最後まで反対していたらしいし、アマンダが行方不明になり、その冤罪(本人は冤罪でなないと言うだろうが)が分かった時には泣いて詫びたと聞く。

そしてオータム国は今もアマンダの捜索を諦めてはいない。

アマンダが兄と慕っていたように、王太子もアマンダを妹として愛していたのではないか、と思うが、真偽は分からないし、それは俺が言うべき事ではない。


そして、俺は自問する。

俺はどうだろうか?

と。

アマンダを好ましく思っているのは、アマンダが伝説の薬師で、俺を救い、兄を救ってくれるかもしれないからだろうか?


もちろん、薬師の才能はアマンダの一部で、彼女の魅力の1つだ。

だが、俺が惹かれたのは可愛く揺れるうさ耳だ。

うん?待てよ、まるでうさ耳さえ付いてる女なら誰でもいいみたじゃないか。

違う、うさ耳付きの女が好きとかではない。

うさ耳はきっかけで、別にうさ耳は付いてなくてもアマンダは可愛いかった。


訳の分からない主張をする、変な女を俺は可愛いと思った。

初日から惹かれていたのだと、今なら分かる。

俺はきっと、変な趣味なのだ。


すぐに「俺は違う」と言いたかった。

しかし、その後に何と続けるんだ?

「君の事が好きだ、薬師としての君だけじゃなく、ただの変な君が好きだ」とでも続けるのか?


薬師としてのアマンダに散々世話になって、おまけに兄の治療薬も頼もうとしているのに?


絶対にダメだ。アマンダはまた、薬師としての自分が求められていると感じるだろう。


結局俺は何も言えないまま、アマンダの頭を撫でた。


「へへ、このナデナデ、ジルにされると照れますね」

アマンダは少し頬を赤らめた。






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