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4日目


アマンダに世話になりだして4日目、俺はやっと家の中をゆっくり歩けるまで回復し、堂々とベッドにアマンダを誘った。


派手に間違えた、堂々と、ベッドをアマンダに譲った。


「ジルは回復が早いですねえ」

ダイニングを何となくうろうろする俺を見て、アマンダが感心している。

アマンダの見立てでは、早くて今日の夕方にやっと歩ける、くらいだったらしい。


「普段から鍛えているからな」

歩き回っだけで疲れてしまい、壁に手を付きながらだが、俺は勝ち誇る。

「確かに、体がしっかりしてますね。騎士か何かなんですか」

アマンダが初めて俺に興味を持ってくれた気がする。素直に嬉しい。


「騎士ではないが、騎士団と一緒に鍛練をしている」

「ほほう、騎士団……」

ぽろりと出てしまったフレーズをアマンダが繰り返す。


しまった、騎士団はまずいぞ、今はまだ俺の身分は明かしたくない、明かせばアマンダは絶対に構えるだろう。

王子がトラウマになってるかもしれないし、今はダメだ。

俺は焦って話題を変えた。


「とっ、ところで!ラオは?!ラオは元気だろうか!?」

「ああ、元気ですよ。会ってあげて下さい。昨日あたりからあなたの声が聞こえてるみたいで、ソワソワしてます」

アマンダがうさ耳を揺らして嬉しそうに言い、俺はアマンダと小屋の軒先に繋がれているラオに会いに行った。


小屋の外へと初めて出る。

そこは、森の中の明るく開けた場所だった。開墾の跡があるので、元々少し開けていた場所を人為的に広くしたのだろう。

謎の貴族、とやらになったアマンダが指示したようだ。

近くには古い井戸もある。以前は樵か炭焼きの家でもあった場所なのかもしれない。


アマンダの小屋をぐるりと裏手に回ると、そこにラオが大人しく繋がれていた。


愛馬は陽光を受けて、角度によっては緑色に光って見える艶かな黒い毛並みを輝かせている。

ラオは俺を見ると嬉しそうに、ぶるる、と顔をすり寄せてくれた。


「ラオ、心配かけたな」

いつ見ても、惚れ惚れする素晴らしい馬だ。

俺は顔を寄せられてちょっとふらつきながら、ラオの頬を撫でてやる。


「ほんと格好いいですねえ」

ほう、とアマンダもラオに見惚れる。


「同じ女性として、憧れますねえ」

「そうだな、今のところ、こいつ以上に愛しい女はいない」

「相思相愛ですね」

「まあな、奪ったしな」

「あら、略奪愛でしたか」

「ラオは、子馬の時に俺の妹に贈られた馬だったんだが、牝馬なのに気性も荒いし、あまりにでかくなるから妹が持て余してる所を貰った」

「気性荒いですか?こちらではずっと大人しかったけど……」

そこで、アマンダがはっとする。


「そっか!私がウサギだからか!」

ぽむ!と手を打つアマンダ。

違うと思うぞ。


「俺を助けてくれたと分かっているんじゃないか?賢いからな」

「なるほど、ラオ、賢いねえ」

アマンダが嬉しそうにラオを撫でる。ラオはアマンダにも、ぶるる、と顔を寄せた。


「アマンダ、前にも言ったが、回復したら、ちゃんと君にお礼がしたいんだ」

小屋へと戻りながら俺は言う。


「ああ、そうでしたね、うーん、でも、別にいいですよ。そんなにお金も手間もかかってないし」

「そういう問題じゃない」

「そうですか?でも、私としても、ジルにはお礼を言いたいくらいなんです」

「俺に?」

「はい。私は国を捨て、隣国の森に隠遁し、薬師としての自分は捨てるつもりだったんです。結局、これしか取り柄がなくて、生活費は薬を売って稼いでたんですけどね、だから、ちょっと、やさぐれてたんですう、私」

「お、おう」

やさぐれてた?

あんまり想像出来ないが、それも可愛いだろうな。

うさ耳付けて、やさぐれてる女。

抱き締めたくなるじゃないか。


「そんな時に、ラオがまあまあ瀕死のあなたを連れて来ました。私はまず、助けようと思いました。あなたが危険かどうかなんて、その瞬間は考えてなかった、ドクツルタケの毒なら、私が助けられる、絶対に助けるぞ、と強く思って、それで、ああ、私の生きる道はやっぱり薬師としてなんだな、と分かったんです」


「それで、俺に礼か?」

「はい、ジルは私に私の価値を再確認させてくれました、だから、お礼はいいですよう」

「いいや、ダメだ。薬師としての自分に誇りを持てたのなら、なおさら、対価は受け取るべきだ」

「ええー、せっかくのいい話ですよ?」

「アマンダ、いい話で腹は膨れない。ちゃんと代金は貰おう、な」

「はあ」

「だから、回復したらきちんと礼を渡しに来る。君が予想するように、わりと金はあるんだ」

何なら、ちょっとした権力もある。


「お礼は常識的な額にしてくださいね」

「ああ、そうしよう」


小屋に戻り、俺はアマンダのスープ作りを手伝った。

手伝って分かったが、アマンダは野菜の灰汁取りをしてなかった。

味わってたのは、滋味じゃなくて、灰汁じゃないか。微妙な味がする訳だ。


俺は猛然とアマンダに灰汁取りを教える。

身分を隠して出掛ける事が多いので、簡単な料理は出来るのだ。

スープは見違えるように美味くなった。






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