3日目
アマンダに世話になりだして3日目の朝。
「あんな事をするなら、もう意地でも薬は飲まない」
起きてすぐに、俺の様子を見に来たアマンダに俺は言う。
あんな事とはもちろん、昨日の夕方の薬に睡眠薬を混ぜていた事だ。
「んー?飲まないと困るのはジルですよ?」
「いーや、君も困るだろう、回復するまでずっと俺が居座るんだぞ」
「まあ、確かに、自然に毒が抜けるのを待つとなると、1ヶ月くらいかかりますもんね。1ヶ月は嫌かなあ」
「そうだろう、そうだろう」
勝ち誇りながらも、“1ヶ月は嫌かな”に傷つく繊細な俺だ。
「でも、薬師として、患者を床で寝かせる訳にはいかないんですよう」
「俺だって、男としてアマンダを床で寝かせる訳にはいかない」
「ふうむ…………なら、こうしましょう。ジルが普通に立って歩けるようになったら、ベッドをどいてもらいます」
「分かった、なら、今日から可能だ」
俺はよろよろとベッドから立ち上がった。
昨日より目眩は格段にマシだ。
よし!行ける!
そう思って一歩踏み出した途端に、アマンダにつん!とつつかれた。
不甲斐なくベッドに倒れる俺。
「……つつくなんて、聞いてないぞ」
アマンダは、けたけた笑っている。
「無理したら回復が遅れます。早くても歩けるのは明日ですよう、睡眠薬は盛らないので、諦めて大人しくベッドを使ってください」
そうして、その日も俺は微妙な味のスープを飲み、ひどい臭いの薬を飲む。
「ジル、今は、体内の毒を分解、中和、排出する大事な時期です。動き回りませんよう」
アマンダはそう言い、俺がベッドから立ち上がる事を禁じた。
「それに眠いでしょう、昨日もほとんど寝てましたもんね。今日もしっかり寝てください」
アマンダは俺を簡単に押し倒すと、布団の上から子供をあやすようにポンポンしてくる。
「それ、止めないか?」
どうにも恥ずかしくて抗議すると、「心臓の鼓動と同じリズムでこうすると、落ち着くらしいです、さ、落ち着いて眠りましょう」と言い返してきて、ポンポンは止めない。
くそう……と思いながらも、頭はとろとろしてくる。
「恥ずかしいんだが………………ぐう」
俺は寝た。
朝寝をし、昼寝もして、夜はそのままアマンダのベッドで休む事となる。
夜半。
アマンダを床で寝かせている罪悪感からか、朝寝も昼寝もしたからか、中々寝付けなくて俺は身を起こす。
ベッドから立ち上がってみると、今朝より大分地に足が着いている。
順調に回復しているようだ。
俺は、床で寝ているというアマンダが眠れているのか心配になって、そろりと歩き、ダイニングを覗く。
アマンダは本当に床に毛布を敷いてぐっすり寝ていた。
さすがに眠っている時はうさ耳は外されていて、ただの可憐な乙女だ。
寝顔は健やかで、確かに床で寝てても問題はないようだが、それでも床は床だ。
出来たらここは、アマンダを優しく抱きかかえてベッドに移動させ、明日の朝、アマンダは驚いてベッドで目を覚ます、なんてカッコいい事をしたいが、残念ながら出来る気はしない。
抱きかかえても、立ち上がれる気がしないし、何なら、アマンダを落としてしまう気もする。
小柄な彼女を抱き上げるのは、普段ならなんて事ないだろうが、今は無理だ。
アマンダの言う通り、回復に専念しよう。
明日には、つつかれても倒れない筈だ。
俺は、決意を胸にベッドに戻り、何とか眠りについた。