表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/10

2日目(3)


薬を飲んだ後、その日はベッドの上で身を起こして食事も取れた。

アマンダの作ったらしいスープは正直、味は微妙だが栄養がありそうだったのでちゃんと飲む。

アマンダは同じスープを美味そうに飲んでいる。何でだ?


「滋味が染みますねえ」

ほう、と息を吐きながら味わうアマンダ。


そこで俺の中で大きな疑問が湧く。

このベッド、誰のだ?と。

森の中の小屋らしいこの場所には、アマンダが普段は1人で暮らしているのだ。そんな場所に客用のベッドなんてある訳がないのでは?


「アマンダ、このベッドは君のか?」

「そうですよ」

あっさり認めるアマンダ。


「なっ、待て!君は昨日、どこで寝た?」

「ダイニングの床で、何なら、一昨日もですよ」

「何だと?!今日から俺が床で寝る。君はベッドを使うんだ」

「いや、ジル、立ち上がれもしないくせに何紳士ぶってるんですか」

「立ち上がれなくても、女を床で寝させる訳にはいかない。しかも、寄りによって君を」

「寄りによって、とは?」

小首を傾げるうさ耳付きのアマンダ。

だから、可愛いすぎるだろう。


「あー、えーと、ほら、君は伯爵令嬢だったし」

くそ、ちょっと気になっている女だからなんて、言えるか。


「平気ですう、実家でも離れの栽培室の床でよく寝てました。それに、そんな事言うなら、ジルこそ、床で寝る人じゃないですよね?」

「ん?」

「惚けないで下さい。あなたの愛馬のラオ、とても毛づやが良くて惚れ惚れする名馬です。そこらへんの坊っちゃんクラスが買える馬じゃないです。服も質素っぽくしてるけど生地が良いです。靴も剣もやたら良いものです。相当、やんごとない人ですよね?………………まさか、王子とかじゃないですよね?」


「…………え?」

俺はドキリとする。

もしかして、王子の婚約者だったから、王子に鼻が利くのか?


「うーん、ま、王子は1人で森には来ないか。かなり力のある貴族か、大富豪の子息あたりですよね?」

「あー、えーと、うーむ、うん?」

口ごもる俺だ。

念のため断っておくが、普段なら身元を突っ込まれて、こんなにまずい対応はしない。

お忍びの単独行は慣れている。

突っ込まれた時の説明もきちんと用意してあるし、偽の身分証も持っている。

ただ、俺はアマンダに堂々と嘘をつく気になれなかった。


「まあ、ジル、なんて家名なしで名乗ってるんですし、あなたにも何か事情があるのでしょう。突っ込みませんけどね、高い身分の方と関わるのはもうこりごりですし」

「えっ、高い身分嫌なのか?」


「私の先程の身の上話聞いてました?いーやーでーすう」

「貴族や王族にも、いろいろ居るぞ

、そんな身分だけで差別するのはよくない」

「身分に拘りますね……さては、相当爵位が高いですね?」


「ぐっ……それはさておき、正体不明の男を家に上げて、寝室に寝かすなんて無用心過ぎないか?」

「ええー、寝てる本人が言います?」

「俺は、紳士だから問題なかったが、こういう場合は、どうしてもなら手足を縛って軒先で介抱するべきだ」

「危険そうなら放っておきましたよう、あんな素敵な馬が必死に引き摺ってきたので、害はないかな、と判断しました。どうせ、2、3日は麻痺で抵抗なんて出来ないし、不気味なウサギが親切にするなんて、怖さしかないだろうから、動けるようになったら夜中に這ってでも逃げるかな、と」


「不気味なウサギ」

「ええ」

アマンダはうさ耳を指差してニコニコする。


うさ耳付きの、少し痛い、可愛い女にしか見えない。

危なすぎる。

少し痛い所が、危なさを加速させている。

俺は絶対にアマンダを手許に置こうと密かに決意する。こんな危なっかしいのをこんな森の中に置いておけるか。

回復したら、何とか騙くらかして、違う、説得して絶対に囲おう。


「とにかく、今日から床で寝る」

そう宣言した。



俺の宣言をアマンダは聞く気はなかったようだ、その日夕方に飲んだ薬には睡眠薬も混ぜられていて、俺はあっさりと、アマンダのベッドでぐっすり朝まで眠った。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ