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第97話 泉崎家の年末

「超機動伝説ダイナギガ」が今年(2023年)なんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。

 赤く巨大なちょうちんに「雷門」の文字。東京の下町を代表するその門は、言わずと知れた浅草のシンボルである。

 正式名称は「風雷神門」。その名は、風神と雷神の像を門の左右に安置していることに由来する。雷門は創建以来、幾度も焼失と再建を繰り返してきた。現在の門は、昭和35年(1960年)に松下電器産業(現パナソニック)の社長だった松下幸之助氏の寄進によって再建されたものである。

 そんな雷門をくぐって先へ進むと、そこは仲見世通り。浅草寺へと続く参道の両脇に100以上もの店舗が並ぶ、日本最古の商店街のひとつだ。

 年末だということもあり、今日も通りには人があふれてとてもにぎやかである。外国人観光客、地方から来た東京見物の人々、もちろん近所に住む人達も訪れているだろう。

 そして今日12月27日は、浅草仲見世記念日だ。

 明治18年(1885年)のこの日、仲見世が新装開業した時に定められた記念日。そのおかげもあり、今日はいつも以上ににぎやかな仲見世である。

 この通りを最後まで進むと、東京都内最古の寺院「浅草寺」だ。正式には金龍山浅草寺と言い、聖観世音菩薩を本尊としている。

 仲見世通りの途中、ちょうどその真ん中あたりを東方向へ曲がると、様々な店舗の先に昔ながらの日本家屋がいくつか見えてくる。昭和20年(1945年)3月10日未明に、下町地区を対象に行われた東京大空襲にも無事だった貴重な家々だ。

 泉崎奈々の自宅もその中のひとつである。

「お母さん、お姉ちゃん何時頃帰ってくるの?」

 コタツに入ってぬくぬくしている奈々が、台所にいる母に声をかけた。

「そろそろだと思いますよ。忙しくて何日も帰れなかったから、今日は急いで帰るって電話で言ってましたから」

 奈々の母、紀美子は女性警察官だ。浅草警察署の生活安全課に勤務しているが、今日は非番で朝から自宅にいた。

「あいつもよく働くよなぁ」

 奈々の父、宗平である。

「何言ってるんですか、お父さんも働きすぎですよ」

 紀美子がそう釘を刺す。

 宗平も警察官だ。雷門のすぐ横にある浅草警察署雷門交番に勤務する警部補であり、ハコ長と呼ばれる交番の責任者でもある。

 つまり、泉崎家は警察一家なのだ。

「お父さんとお母さんも、年末年始は忙しいんでしょ?」

「そうだな」

「いつものことですよ」

「そうよね」

 奈々がちょっと寂しそうに言った。

 年末年始の浅草警察署は大忙しだ。浅草寺の初詣に伴う交通規制や警備で、普段の何倍もの仕事をこなさねばならない。そのため宗平も紀美子も、毎年この時期に三日間の非番の日をもらえることになっている。

 奈々にとっての年末年始は、のんびりと正月休みを過ごすイメージでは無い。テレビドラマなどでよく見る正月の家族の風景は、彼女にとってファンタジーのような、経験したことのない世界だ。奈々はそんな生活に、小さな頃から少しだけ憧れていたと言ってもいいのかもしれない。

「お湯が湧いたわ。お茶いれましょうね」

「私も手伝う」

 そう言うと奈々は、コタツから出て土間へと降りる。

 昭和初期に建てられたこの日本家屋には、今となっては珍しい土間があった。畳敷きの居間から小上がりに続き、台所は土間なのだ。

 土間とは、屋内に床を張らずに作られた土足で歩く場所だ。そのため、小上がりの下には何足かのサンダルが用意されている。奈々はそれを履き、紀美子の横へと移動した。

 紀美子が沸かしたお湯を、これも昔ながらの魔法瓶に入れる。

 お盆に急須と四つの湯呑みを用意して、それを受け取る奈々。

 泉崎家は、まるで昭和のような日本の生活がとても似合っていた。

「あのね、お父さんとお母さんに言わなくちゃって思ってることがあるの」

 コタツに四つのお茶を用意しながら、奈々がそう言った。

「なにかね?」

「大事なことなの?」

「ううん、大したことじゃないけど」

 湯呑みを父と母、そして自分の定位置に置くと、奈々はちょっとだけ居住まいを正す。

「私ね……親友ができたの」

 明るい笑顔でそう言った。頬が少し紅潮している。

「そう。良かったわね」

「うむ、いいことだ」

 落ち着いてそう言った宗平と紀美子だったが、内心では大きな喜びに包まれていた。小さな頃から奈々にはなかなか友達ができなかった。両親にとっては、それが一番の心配事だったのだ。

 その時、玄関の扉が開く音が聞こえた。

「ただいま〜!」

 夕梨花の声である。

「あ、お姉ちゃんだ!」

 奈々は笑顔のまま、玄関へと向かった。

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