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第96話 お兄ちゃんのカレー

「超機動伝説ダイナギガ」が今年(2023年)なんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。

「お母さん、私ね親友さんができたんだよ」

 ひかりは母の遺影に手を合わせている。

 世間は正月休みの真っ最中。ひかりもロボット免許の合宿から帰宅していた。

 ここは一戸建てのこじんまりした家のリビングダイニング。フローリングの床に食事用のテーブルと椅子が四脚置かれている。リビング側は低めのガラステーブルとソファーだ。

 壁際には木目が美しいチェスト。その上で、ひかりの母、遠野あかりが写真立ての中から優しく微笑んでいる。写真の前には小さな花瓶があり、濃いピンク色の花が美しく咲いていた。

「お父さん、これ何のお花さん?」

「シクラメンだ。お母さんの好きな花のひとつだよ」

「そうだっけ?」

「ひかりはまだ小さかったからよく覚えてないかもしれないが、お父さんがプレゼントしたらいつも喜んでくれていたよ」

 ひかりの父、光太郎は城南大学文学部歴史遺産学科の教授だ。今日はひかりと同様に、正月休み中である。

「あ、これってのろけって言うんでしょ!」

「そうなるのかな」

 光太郎は優しい笑顔を見せた。

「まあ、お母さんは花の名前にはあまり興味がなくて、全く覚えていなかったけどね」

 少し苦笑気味ではある。

「このシクラメンは冬桜という種類なんだが、駅前の花屋で見かけてね。切り花にしてもらったんだよ」

「とってもきれい!」

 ひかりの目がキラキラしていた。

「カレーできたぞ。ひかりも運んでくれ」

 カウンター越しにキッチンから声がする。

 ひかりの五つ上の兄、拓也だ。東郷大学の大学院生で、袴田教授の助手である。袴田研究室も、現在正月休みなのだ。

「やったー!私、お兄ちゃんのカレー大好き!」

 笑顔のひかりは、父の分と自分のカレーを持ってダイニングテーブルへと運んだ。

「いただきま〜す!」

 ぱくっ!

 カレーをスプーンでひとくち、口に入れるとひかりの笑顔がパッと弾けた。

「やっぱりおいし〜!お兄ちゃんのカレー、最高!」

「そうだろ?日夜研究に励んでいるからな」

 拓也のガッツポーズ。

「日夜って、毎日お昼と夜にカレー食べてるの?」

「まあね」

 ひかりがキョトンとする。

 テーブルにはカレーが三皿。この家では、ひかりの母、あかりの分の陰膳をすることはない。ひかりが小学三年生、兄の拓也が中学二年生の頃、母のあかりが乗った国連宇宙軍の調査船ハーフムーンは消息を絶った。写真や花を飾ってはいるが、三人にとって母はあくまでも行方不明のままなのである。

 実際、現在に至るまでハーフムーンの残骸等は発見されていない。明確な確証が得られないのなら行方不明のままにしておこう。特にそう話し合ったわけではないが、いつの間にかこの家の不文律となっていた。

「教習所の方はどんな感じだい?」

 光太郎の問いに、ひかりが゜困ったような顔をする。

「なんか色々あったから、カリキュラムの半分も進んでないんだぁ。このままだと冬休みは全部合宿になっちゃいそう」

 最近の日本は異常気象とも言える状態が普通になっていた。夏はとことん暑く、冬はとんでもなく寒い。春と秋はほとんど感じられず、日本の四季はすでに二季と言ってもいいほどの異常さだ。そのため、夏だけでなく冬休みも長期化され、約一ヶ月となっている。正月はそのちょうど中間点とも言えた。

「ねぇお兄ちゃん、ぬか漬けのお兄さん覚えてる?」

 ひかりがカレーを食べ続けながら拓也に言う。

「なんだそれ?」

「よく一緒に、お母さんのラボに見学に行ったでしょ?」

「ああ。懐かしいな」

「その時に何度か会った、お母さんの助手のお兄さん」

「田中さん?」

「そう!いつもお弁当をぬか漬けで食べてた」

「それは覚えてないなぁ」

「私ぬか漬け大好きでしょ?だからよく覚えてるの」

 今ひかりが食べているカレーの皿には福神漬ではなく、ぬか漬けがそえられている。それをパクっと口に入れ、ポリポリと音を立てるひかり。

「この前、ぬか漬けのお兄さんの妹さんに会ったの」

「どこで?って、最近はずっと教習所か」

「自衛隊のでっかいロボットが暴走した時、機動隊のロボットさんたちが来てくれたって言ったでしょ?その中にいたの。えーと、なんて言ってたかなぁ?」

 スプーンを口にくわえたまま、小首をかしげる。

「奈々ちゃんのお姉ちゃんの同僚で……何かの主任なんだって。とにかく、警察の偉い人みたい」

 拓也が何かに気付いたようにひかりを見た。

「田中……なるほど、田中技術主任か!」

「そう、その人!お兄ちゃん知ってるの?」

「ああ。研究室でよくお世話になってるんだ。暴走ロボットの部品サンプルを届けてくれたり」

「すごい偶然!」

「うん、驚いたよ」

「お母さんが会わせてくれたのかな?」

 ひかりが母の写真に目をやる。

 そこには、いつでもひかりを癒やしてくれるステキな笑顔があった。

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