表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

95/508

第95話 公安の男

「超機動伝説ダイナギガ」が今年(2023年)なんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。

『おにいちゃん、ひかりです。

 今日は教習所でクリスマスパーティーがありました。とってもとっても楽しかったです!』

 いつものように、ひかりは自室で兄への手紙を書いていた。

 そろそろ年末が近いこの時期、東京は例年より寒く厳しい冬を迎えている。大きめの窓ガラスを通して、鋭く尖った冷気がこの部屋にも入り込んで来ていた。

「奈々ちゃん、今夜も寒いね。エアコンの温度設定上げてもいいよ」

「ありがと」

 奈々はリモコンで、エアコンの温度設定を一度だけ上げた。

「一度でいいの?」

「私は大丈夫。あんまり上げると、ひかりが暑くなっちゃうでしょ?」

 ひかりが笑顔になる。

「奈々ちゃん、私のこと心配してくれるんだぁ、ありがとう!」

「し、親友だからよ」

 ひかりがよりいっそうの笑顔になった。

 奈々はいつものようにほんのり頬が赤い。

『特に、クリスマスのプレゼント交換がとっても盛り上がりました!

 私はウサちゃんのぬいぐるみをもらいました。マリエちゃんの故郷の動物さんらしいです。まりえちゃんの故郷は……』

「なんだっけ?奈々ちゃん」

「ベルギーとオランダよ」

「そうだった!」

『マリエちゃんには故郷がふたつもあるんです!すごいな〜。

 ベルギーチョコレート、誰んだ? です』

 奈々が軽く吹き出した。

「紅茶吹くとこだったじゃない。お手紙でボケたりしなくてもいいんじゃないの?」

 キョトンとするひかり。

 奈々の言ったことがよく分からなかったのか、そのまま手紙に向き直り、続きを書き始める。

『ジョニーがもらったプレゼントは、久慈教官が彫った、熊しゃんの置物でした。持って帰るのが重くて大変そうでしたが、今は自分のお部屋に飾ってあるそうです。お正月は里帰りするって言ってたけど、あれアメリカまで運ぶのかなぁ?』

 そこまで書いて、ひかりはパッと奈々の方に顔を向けた。

「そうだ奈々ちゃん!」

「どうしたの?」

「奈々ちゃんの手作りクッキー、とっても甘くてすっごくおいしかった!」

「ありがとう」

 奈々も笑顔になる。

「だから……」

 ひかりは奈々に、子犬のようにうるうるとした視線を向けた。

「いいわよ。お正月に実家に帰ったら、いっぱい焼いてきてあげるね」

「やった〜!」

 子供のように両手を上げて、ひかりがはしゃぐ。

「そうだ、私もひかりにお願いしたいことがあるの」

「なぁに?」

 奈々はちょっと照れて、ひかりを見つめる。

「ひかりにもらったポエムノートなんだけど……」

「うん」

「ひかりの声で読んで欲しいな……なんて」

 ひかりの笑顔が弾けた。

「いいよ!でも、お兄ちゃんへのお手紙、最後の一行書いてからね!」

『お正月には実家に帰ります。ひかり』

「これでよし!」

 そしてこの後、ひかりの朗読大会が始まった。


 警視庁機動隊のロボット部隊、キドロ部の会議室にその主要メンバーが集まっていた。

 白谷雄三トクボ部長、キドロパイロットの泉崎夕梨花、沢村泰三、門脇進、田中美紀技術主任、酒井弘行理事官、板東保則捜査主任、そして通称ゴッドこと後藤茂文である。

 議題は、新型軍用ロボットヒトガタ暴走の事案報告会議だ。

 ひと通りの報告が終わった今、会議室にホッとした空気が流れている。

 事案発生当時は、ここにいる全員がヒトガタの脅威に息を呑んだのだ。全員無事に戻れてよかった。そんな雰囲気に包まれていた。

「報告も一段落したので、ここでみんなに紹介したいヤツがいるんだ」

 白谷が全員を見渡す。

「入ってくれ」

 会議室のドアが開き、一人の男が入ってきた。

 四十代後半、白谷と同じぐらいの年格好である。

「私の友人だ。今日は特別に来てもらった」

「花巻春人です」

 男がゆっくりと頭を下げた。

「所属は、公安外事四課です」

「ほう」

 と、後藤が鋭い目で男を見た。

 夕梨花たちトクボ部の面々は、話だけなら以前白谷から聞いている。

 なるほど、この人があの時言っていた友人なのか。公安外事四課であり、情報収集の統括を担当するゼロに所属しているという。

「外事四課と言えば、国際テロを日本で起こさせないように捜査するところだろ?どうして暴走事案の報告会議に顔を出すんだぁ?」

「暴走ロボットとテロリスト。あなたにも心当たりがあるんじゃないですか?後藤さん、いえゴッドさん」

「なるほど。俺のことは、すっかりお見通しってわけかよ」

 後藤がひゅ〜っと口笛を吹いた。

「すっかり、というわけではありませんよ」

 花巻がニヤリと後藤を見る。

「謙遜するねぇ」

「私は白谷さんに頼まれた情報を持ってきただけです」

「聞かせてくれるか?」

 白谷にうながされ、花巻が話し始めた。

「まずは、ゴッドさんのことをお知らせしておきましょう。彼は確かに、後藤茂文本人に間違いありません」

「なぜ分かる?」

「埋立地であなたが操縦したヒトガタから、DNAを採取させていただきました」

「ふーん……汗、かな?」

「そんなところです」

 花巻も後藤に似て、ひょうひょうとしていて掴みどころがない。

「後藤茂文、現在42歳。約15年ほど前、JICAジャイカの海外協力隊でダスク共和国にボランティアとして派遣、そこで行方不明となっています。戸籍上はすでに死亡扱いです」

「ふん、こうして生きてるけどよぉ」

「ダスクで何があったのか。どうして傭兵になったのか。その辺のことは、ここでお話することでは無いでしょう」

「別に隠す気もないんだけどなぁ」

「私どもは、ゴッドさんと接触した内調の男をつきとめました」

 後藤の目が大きく見開かれた。

「やっぱり内調だったか」

 内調とは、内閣情報調査室、内閣の情報機関だ。日本のCIAといえば、その活動がなんとなく想像できるかもしれない。

「はい。国際テロ情報集約室室長の右腕と言われています」

 後藤がいぶかしげな表情になる。

「あの男がか?もう60歳を越えているだろ?」

「いいえ。彼の名は佐々木涼介。まだ38歳です」

「どういうことだ?!」

 後藤の驚愕の声が会議室に響いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ