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第87話 そして学食へ

「超機動伝説ダイナギガ」が今年(2023年)なんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。

「ヒトガタを一機失ってしまい、本当に申しわけない」

 雄物川所長は、陸自の佐山三等陸佐に頭を下げた。

 ここは都営第6ロボット教習所の地下に設置された、対袴田素粒子防衛線中央指揮所だ。その広いフロアでは、多くの所員たちが忙しそうに動いている。たった今戦闘が終わったばかりの暴走ヒトガタ事案の分析を、すでに開始しているのである。

「いえ、どうか頭をお上げ下さい」

 佐山はちょっとあわてたように、雄物川をうながした。

「そんなにお気になさらず、こちらとしても予想外の収穫がありましたので」

 彼は陸上自衛隊東部方面隊機甲科人形ひとがた機甲装備部隊所属の三等陸佐である。

 今回の事案で、実戦投入前の新型軍用ロボット25式人形機甲装備、通称ヒトガタの実戦テストデータが得られている。しかも、この教習所の教官・陸奥、そして機動隊所属の後藤と言う凄腕パイロットのデータも入手できていた。

「それに、生徒さんの中にも、非常に有望なパイロット候補が見つかりましたから」

 その佐山の言葉に、雄物川はニッコリと笑う。

「陸自にお渡しはしませんよ」

 佐山も笑顔で返す。

「ええ、分かっていますとも、ここが非常に重要だと言うことは。でも、いざという時に、お借りできる可能性がある人材を見つけられたのは、とても有意義なことです」

 ふむ、と雄物川がうなづいた。

「なるほど。その件はこちらも考慮しましょう」

「心強いお言葉、ありがとうございます」

「ただ、」

「ただ?」

「あくまでも本人次第ということです」

「もちろんです」

 これからの時代、ヒトガタのように強力なロボットを自在に操縦するパイロットの需要が増していくだろう。世界を巻き込むほどの、大きな戦争が始まる可能性は低い。テロリズムや紛争も、少しずつではあるが減少しつつある。だが、今回の事案のように、ロボットの暴走は増加の一途をたどっている。しかも、最近の研究で明らかになりつつあるのは、その暴走は侵略の可能性が高いということだ。それに対抗するには、より強力なロボットとそのパイロットが必須なのである。

 雄物川は二人の後ろに立っている久慈教官に顔を向けた。

「ところで陸奥くんはどうしている?」

「事案報告会議の時間まで、少し休憩がほしいとのことです」

「あの活躍だ、疲れるのは当たり前だな。自室で仮眠でも?」

「いえ、小腹がすいたので学食で何か食べてくる、だそうです」

 久慈が苦笑交じりにそう答えた。


「A定食、今日もとってもおいしいですぅ〜」

 愛理はそう言うと、学食名物日替わりA定食の、じゃがいもホクホクたっぷりビーフの特製コロッケ、を半分に切りポイっとその口に放り込んだ。ふわふわのポテトの中に、旨みたっぷりの牛ひき肉のソテー、そしてそれを包んでいる衣はサクサクだ。まさに極上の味わいである。

 ひかり達はいつものように教習所内の学生食堂、学食で遅めのランチを食べている。あの事件で、今日は全員昼食を取っていなかったのだ。。

『あんな事件に巻き込まれたんや。今日一日は休日にしたるから、ゆっくり休むんやで』

 しかし今回の南郷の言葉は、それだけではなかった。

『でもなぁ、明日は所長室に全員集合や。なんで俺の言うこと聞いて避難せーへんかったんか、たっぷりとしごかれると思うで〜』

 そう言った南郷の顔は、ちょっと意地悪そうな笑顔だった。

「南郷センセ、俺らが怒られるの、楽しみにしてるんちゃうか?」

「呼び出しは楽しくないですわ」

「そうですぅ」

「ところで愛理ちゃん」

「何ですかぁ?」

「どうして今日も学食名物日替わりA定食にしたのですか?」

「コロッケ、おいしいからですぅ!」

 愛理の笑顔がパッとはじけた。

「でも、それではまた泉崎さんのあ〜んは無しですわよ?」

「あ、しまったですぅ」

 愛理が急にシュンとする。

「奈々ちゃん、私もじゃがいもゴクゴクたっぷりビールの特製コロッケ食べたいな。ひと切れほしいな」

 ひかりが隣に座る奈々に、子犬のようにうるうるとした視線を向けている。

「じゃがいもはゴクゴク飲めないわ。それにたっぶりビールじゃ酔っ払っちゃうでしょ」

 そう言いながらも奈々は箸でコロッケを少し切り、ひかりの口に持っていく。

「はい、あーんして」

「あーん」

 パクリ。ひかりの顔がいつものようにパッと明るくなった。

「じゃあ私ももらおうかな、あーん」

 一同、その声がした方へ顔を向ける。

「お姉ちゃん!」

 奈々の姉、泉崎夕梨花が学食の入り口に立っていた。

 陸奥教官と後藤も一緒である。

 奈々が駆け寄った。ほんの少し背の高い夕梨花を見上げる。

 その目は心なしか、うるんでいるようにも見える。

「お姉ちゃん……」

「どうしたの?そんな顔して」

「心配したんだから」

 そう言ってうつむいた奈々の頭を、夕梨花はよしよしと撫でる。

「私は大丈夫よ。奈々のお姉ちゃんは無敵なんだから」

 温かい笑顔を奈々に向ける。

「私も心配したよ。あんまり無茶なこと、しないでね」

 無事で良かった。

 お互いにそう思い、安堵の息をつく泉崎姉妹であった。

「泉崎さん、やっぱりツンデレですわ」

「可愛いですぅ」

 生徒たちが学食入り口に集まってくる。

「キドロの操縦すごかった!さすがのマイトガイも舌を巻いちまったぜ!」

「ヒトガタ初搭乗であの戦闘はめっちゃすごかったです!」

「ムダのない経済的な動きに感動いたしましたわ」

「コスパですぅ!」

「奈々ちゃん、紹介して!お姉ちゃんに紹介して!」

 一気に学食が騒がしくなった。

「みんな一旦落ち着け!」

 陸奥の声が轟く。

「俺たち腹が減ってるんだぁ、何か食わせてくれるとうれしいんだがよぉ」

 そんな後藤に生徒たちが注目した。

「このおじさん、誰ですかぁ?」

 後藤がズッこける。

「まぁなんでもいいからカレーでも食わせてくれや」

「日替わりA定食がオススメです!じゃがいもゴクゴクたっぷりビールの特製コロッケ!」

 いや、俺今カレーって言ったんだけど。

 だがそんな思いも、ひかりの輝く笑顔に押し切られる。

 後藤は日替わりA定食の食券を買っていた。

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